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二人の王女とダンジョンチャレンジ5
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第5階層で幻視に取り込まれていたリリス。
チャーリーに助けられたものの、魔装を発動していたのに取り込まれた事がどうしても腑に落ちない。
「それは君が望んだからや。」
「望んでなんかいないわよ。」
「それって本当か? 懐かしいなあとか、このまま思い出に浸っていたいとか思わんかったか?」
そう言われるとリリスも反論の余地が無い。
「君の思いが呼び込んだんや。それはスキルでどうこう出来るものやない。まあ相手が巧妙と言えば巧妙やけどね。」
う~ん。
手玉に取られたと思うと腹立たしいわね。
「そう言えばチャーリーはどうしてここに?」
「それはリリスを助けに来たんや・・・・・と言えば格好良いんやけどね。」
チャーリーはへへへと照れ笑いをした。
「僕がここに来たのは大精霊の気配を感じたからや。」
「ああ、さっき突然現れた火の大精霊の事ね。」
「そうや。大精霊は滅多にこの世界には顕現しない。何か突発的に大事件でも起きたんかと思ってね。」
ふうん。そうなんだ。
リリスは第4階層でのサラマンダーとの戦闘をチャーリーに説明した。
「なるほど。その肩で眠らされている芋虫の召喚主が鍵やね。」
チャーリーが指差したのでリリスは両肩の芋虫が眠っている事に気が付いた。どうやら召喚主ごと眠らされてしまったらしい。
チャーリーがパチンと指を鳴らすと、二匹の芋虫がリリスの両肩でむくむくと起き上がった。
「あっ! チャーリーだ。」
メリンダ王女の声が薄暗い空間に響き渡る。
「リリス。このおじさんはどなたなの?」
エミリア王女が問い掛けてきたので、リリスは土の亜神のかけらとして紹介した。
「ほうっ! 君は聖霊の加護を受けているね。それにしても加護の親和性が高いなあ。まるで精霊の加護が肉体化したようなレベルやで。」
そうなの?
リリスはエミリア王女にチャーリーがここに来た理由を教えた。
「火の大精霊ですよね。私も初めて見ました。でも私の周りにいた精霊達が教えてくれたんです。」
「そう言えばリリスの腕で光ったミサンガって何だったの? あのミサンガが私の思いを増幅して、一瞬空間を切り開いたのが見えたのよ。」
う~ん。
そう言われても私にも分からないわ。
「あれは新入生から貰ったものなのよ。その子の父親が助けたダークエルフの精霊使いから貰った物だと聞いているわ。」
リリスの言葉にチャーリーが首を傾げた。
「ダークエルフで精霊使い? それってごく稀な人物やな。しかも老婆となると思いつくのは・・・賢者イザベラ・ジルかな。」
「チャーリーはその賢者に面識があるの?」
「一度だけ、ダンジョンの深淵部でね。」
そう言いながらチャーリーは少し考え込んだ。
暫くしてチャーリーは考えがまとまった様子で、
「その精霊の加護を受けた子と、精霊使いの賢者の作った魔道具のミサンガが連動して、大精霊を呼び出したとしか思えんなあ。」
結局謎だと言う事ね。
でも助かったんだから良かったわ。
「とりあえず君達は元の場所に戻してあげるよ。あの男を連れてね。」
そう言ってチャーリーが指差す先には、薄暗い空間の壁際でしゃがみ込んでガタガタ震えているロイドの姿があった。
「どうせ恐ろしい幻視でも見せられてるんやろな。」
ああ。
ロイド先生ったら、ますますここの第5階層がトラウマになっちゃうわね。
チャーリーがパンと手を叩くと、一瞬にしてリリス達は魔法学院の学舎の地下の訓練場の隅にあるポータルの前に立っていた。
ロイドは・・・茫然として立ったまま動こうとしない。
ハッと気が付いてロイドは呟いた。
「う~ん。ブラックウルフまでは思い出せるんだが、その後が記憶にない。」
ロイドはポンポンと頭を叩いた。
「リリス君。第4階層から何があったんだ?」
チャーリーが気を利かせて記憶を奪ったのね。
「第4階層に入った途端に眠らされて、ここへ転送されちゃったんですよ。」
「そうなのか? う~ん。よく覚えていない。」
そう言いながらロイドはリリスの両肩の芋虫に目を向けた。
「お二人の王女様が無事なら問題は無いのだがね。お二人共満足していただけましたか?」
ロイドの問い掛けに二人共ハイと答えた。
これでこの日のダンジョンチャレンジは終了となった。
その後、両肩に使い魔の芋虫を生やしたまま学生寮の自室に戻ると、賑やかな声が聞こえてきた。ドアを開けるとソファの上で、赤い衣装のピクシーとブルーの衣装のピクシー、そしてノームと小人が談笑していた。
またこいつらのたまり場になっているわね。
「「「「お帰り!」」」」
使い魔達がこちらを見て一斉に声を掛けた。
好い気なものよねえ。
呆れるリリスの肩越しから、
「あらっ! 兄上も来られていたのですね。」
エミリア王女が小人に話し掛けた。
「ああ、エミリア。お帰り。初めてのダンジョンはどうだった?」
「それがもう、驚きの連続でしたよ!」
「そうかい。それは良かった。」
何が良かったよ。こっちは生きた心地がしなかったんだからね。
不満を抱きつつリリスは、使い魔達を押しのけてソファに座った。
「リリス。一言言っておくけど、サラマンダーの出現は私の指示じゃないからね。アゾレスの独断だから。」
ブルーの衣装のピクシーが弁解をしている。
「そのアゾレスの管理者はユリアでしょ? あんな戦闘狂を初心者用のダンジョンのダンジョンマスターにしないでよね。」
「ああ、それならもう心配ないわよ。あいつったらサラマンダーの背後で高みの見物をしていて、サラマンダーもろともに火の大精霊に飲み込まれちゃったからね。」
そうなの?
「私が戻ってきたから、どっちみち不用品になるところだったけどね。」
赤い衣装のピクシーが息巻いた。
「タミア!元気になったの?」
「何よ、私の存在に今気が付いたの? しばらく会わなかったからって随分冷たいじゃないの。」
「それで・・・ユリアとは仲直り出来たの?」
リリスの言葉に赤い衣装のピクシーがニヤッと笑った。
「借りが一つ出来ただけよ。いずれお返ししてあげるわ。」
そう言ってブルーの衣装のピクシーを軽く睨んだ。
「別に無理に返してくれなくても良いわよ。それに返して来たらまたお土産を付ける事になるし・・・」
亜神同士の応酬だ。
あまり関わらない方が良さそうね。
その空気を読んでノームが口を開いた。
「ほらっ! ユリア。あの子やで。精霊の加護を持つ王女様や。」
ノームがリリスの肩の芋虫を指差した。
話を振られたブルーの衣装のピクシーは、ノームの指さす芋虫をじっと見つめ、
「ふうん。こんな事ってあるのね。精霊の加護を受けているってレベルじゃないわよ。精霊の加護が肉体化しているって言った方が良いかもね。」
「そうなんですか?」
ユリアの言葉に小人が身を乗り出してきた。妹の事だから心配なのだろう。
「この子は魔法学院を卒業後はどうするの?」
「神殿に入ります。」
「そう。それが良いわね。間違っても精霊使いを目指さないようにね。」
精霊使い?
「ユリア。それってどうしてなの?」
「精霊の加護を持つ者は神殿に入る者が大半だけど、稀に精霊使いを目指す者が居るのよ。選択肢としては有り得るのだけれど、この子の場合は加護との親和性があまりにも高いから、恐らく精霊の加護が自律性を持っている筈よ。この子が精霊使いを目指して研鑽を積みある程度のレベルに到達すると、精霊の加護は自律的に判断を下すようになる。」
「どんな判断ですか?」
「もはや肉体は要らないんじゃないかってね。」
うっと小人が呻いた。
「それって人間ではなくなると言う事ですね。」
「そう。自律性を持ち肉体を脱ぎ捨てた精霊の加護は、もはや地上界に居る意味がなくなり、精霊界に入って行くの。」
「そこで暮らすのですか?」
「いいえ。大精霊の身体に吸収されてしまうのよ。」
それって酷いわね。
「食べられちゃうの?」
「違うのよ、リリス。食べられるんじゃなくて、加護が元居た場所、本来の場所に戻ると言った方が良いのかしらね。」
う~ん。
良く分からない。
精霊の加護って大精霊から分け与えられたものなの?
「私は精霊使いなんて目指しませんから大丈夫ですよ、兄上。」
芋虫の言葉に小人も安堵の表情を見せた。
「ねえリリス。」
リリスの肩からメリンダ王女の芋虫が話し掛けてきた。
「リリスの部屋っていつもこんなに賑やかなの?」
「そんな事は無いわよ。」
「それであそこに倒れている子は誰?」
芋虫の視線の先にはサラが倒れていた。
「ちょっと! またサラを邪魔者扱いしたのね! それで無事に起きれるんでしょうね?」
リリスはピクシー達を軽く睨んだ。
「ああ、大丈夫よ。今回は意識を奪っただけだから、朝には自然に起きるわよ。」
本当かしらね?
リリスは倒れているサラを抱えてベッドに運び込んだ。
「さあ、明日の授業もあるからメルとエミリアは部屋に戻ろうか。」
そう言って小人が芋虫に話し掛けた。
召喚が解かれて芋虫はリリスの両肩から消え、小人も同時に消えて行った。
「私も今日の戦闘で疲れているから休ませてよ。」
リリスの言葉にピクシー達もうなづいて消えて行った。だが再びノームが現われた。
「チャーリー、どうしたの?」
「ああ、サラ君の事なんやけど・・・」
ノームはベッドで眠っているサラに視線を向けた。
「召喚術のレベルが上がってるで。それに亜神召喚のスキルもレベルが上がってる。」
「それって、以前にチャーリーがゲルを探す時に、一時的にサラのスキルのレベルを上げたからなの?」
リリスの言葉にチャーリーはうんうんとうなづいた。
「それしか思い当たらんのや。でも一時的に上げただけやから、元に戻ってる筈なんやけどなあ。」
「まあ、今すぐどうなると言う事やないから、多少気にかけてやるだけで良いと思うけどね。」
そう言ってチャーリーは手を振りながら消えて行った。
う~ん。
気に成るわねえ。
リリスは軽くシャワーを浴び、パジャマに着替えてベッドに入った。向かい側のベッドにはサラの寝顔が見える。
リリスは思わず眠むっているサラに向けて鑑定スキルを発動させた。
**************
サラ・クリス・マクロード
種族:人族 レベル12
年齢:14
体力:800
魔力:800
属性:火・水
魔法:ファイヤーボール レベル2
ウォータースプラッシュ レベル2
ウォーターカッター レベル2
スキル:探知 レベル1
召喚術 レベル5(不安定要素有り)
亜神召喚 レベル5(不安定要素有り)
(その他鑑定不明スキル 複数有り 現在発動不可)
**************
相変わらず謎が多いわね。
召喚術と亜神召喚のレベルは5まで上がっている。
でも不安定要素があるって事は、発動が不安定になる事があるのね。
サラの寝顔を見て少し心配になったが、ダンジョンでの疲れもあってリリスはそのまま深い眠りに就いた。
チャーリーに助けられたものの、魔装を発動していたのに取り込まれた事がどうしても腑に落ちない。
「それは君が望んだからや。」
「望んでなんかいないわよ。」
「それって本当か? 懐かしいなあとか、このまま思い出に浸っていたいとか思わんかったか?」
そう言われるとリリスも反論の余地が無い。
「君の思いが呼び込んだんや。それはスキルでどうこう出来るものやない。まあ相手が巧妙と言えば巧妙やけどね。」
う~ん。
手玉に取られたと思うと腹立たしいわね。
「そう言えばチャーリーはどうしてここに?」
「それはリリスを助けに来たんや・・・・・と言えば格好良いんやけどね。」
チャーリーはへへへと照れ笑いをした。
「僕がここに来たのは大精霊の気配を感じたからや。」
「ああ、さっき突然現れた火の大精霊の事ね。」
「そうや。大精霊は滅多にこの世界には顕現しない。何か突発的に大事件でも起きたんかと思ってね。」
ふうん。そうなんだ。
リリスは第4階層でのサラマンダーとの戦闘をチャーリーに説明した。
「なるほど。その肩で眠らされている芋虫の召喚主が鍵やね。」
チャーリーが指差したのでリリスは両肩の芋虫が眠っている事に気が付いた。どうやら召喚主ごと眠らされてしまったらしい。
チャーリーがパチンと指を鳴らすと、二匹の芋虫がリリスの両肩でむくむくと起き上がった。
「あっ! チャーリーだ。」
メリンダ王女の声が薄暗い空間に響き渡る。
「リリス。このおじさんはどなたなの?」
エミリア王女が問い掛けてきたので、リリスは土の亜神のかけらとして紹介した。
「ほうっ! 君は聖霊の加護を受けているね。それにしても加護の親和性が高いなあ。まるで精霊の加護が肉体化したようなレベルやで。」
そうなの?
リリスはエミリア王女にチャーリーがここに来た理由を教えた。
「火の大精霊ですよね。私も初めて見ました。でも私の周りにいた精霊達が教えてくれたんです。」
「そう言えばリリスの腕で光ったミサンガって何だったの? あのミサンガが私の思いを増幅して、一瞬空間を切り開いたのが見えたのよ。」
う~ん。
そう言われても私にも分からないわ。
「あれは新入生から貰ったものなのよ。その子の父親が助けたダークエルフの精霊使いから貰った物だと聞いているわ。」
リリスの言葉にチャーリーが首を傾げた。
「ダークエルフで精霊使い? それってごく稀な人物やな。しかも老婆となると思いつくのは・・・賢者イザベラ・ジルかな。」
「チャーリーはその賢者に面識があるの?」
「一度だけ、ダンジョンの深淵部でね。」
そう言いながらチャーリーは少し考え込んだ。
暫くしてチャーリーは考えがまとまった様子で、
「その精霊の加護を受けた子と、精霊使いの賢者の作った魔道具のミサンガが連動して、大精霊を呼び出したとしか思えんなあ。」
結局謎だと言う事ね。
でも助かったんだから良かったわ。
「とりあえず君達は元の場所に戻してあげるよ。あの男を連れてね。」
そう言ってチャーリーが指差す先には、薄暗い空間の壁際でしゃがみ込んでガタガタ震えているロイドの姿があった。
「どうせ恐ろしい幻視でも見せられてるんやろな。」
ああ。
ロイド先生ったら、ますますここの第5階層がトラウマになっちゃうわね。
チャーリーがパンと手を叩くと、一瞬にしてリリス達は魔法学院の学舎の地下の訓練場の隅にあるポータルの前に立っていた。
ロイドは・・・茫然として立ったまま動こうとしない。
ハッと気が付いてロイドは呟いた。
「う~ん。ブラックウルフまでは思い出せるんだが、その後が記憶にない。」
ロイドはポンポンと頭を叩いた。
「リリス君。第4階層から何があったんだ?」
チャーリーが気を利かせて記憶を奪ったのね。
「第4階層に入った途端に眠らされて、ここへ転送されちゃったんですよ。」
「そうなのか? う~ん。よく覚えていない。」
そう言いながらロイドはリリスの両肩の芋虫に目を向けた。
「お二人の王女様が無事なら問題は無いのだがね。お二人共満足していただけましたか?」
ロイドの問い掛けに二人共ハイと答えた。
これでこの日のダンジョンチャレンジは終了となった。
その後、両肩に使い魔の芋虫を生やしたまま学生寮の自室に戻ると、賑やかな声が聞こえてきた。ドアを開けるとソファの上で、赤い衣装のピクシーとブルーの衣装のピクシー、そしてノームと小人が談笑していた。
またこいつらのたまり場になっているわね。
「「「「お帰り!」」」」
使い魔達がこちらを見て一斉に声を掛けた。
好い気なものよねえ。
呆れるリリスの肩越しから、
「あらっ! 兄上も来られていたのですね。」
エミリア王女が小人に話し掛けた。
「ああ、エミリア。お帰り。初めてのダンジョンはどうだった?」
「それがもう、驚きの連続でしたよ!」
「そうかい。それは良かった。」
何が良かったよ。こっちは生きた心地がしなかったんだからね。
不満を抱きつつリリスは、使い魔達を押しのけてソファに座った。
「リリス。一言言っておくけど、サラマンダーの出現は私の指示じゃないからね。アゾレスの独断だから。」
ブルーの衣装のピクシーが弁解をしている。
「そのアゾレスの管理者はユリアでしょ? あんな戦闘狂を初心者用のダンジョンのダンジョンマスターにしないでよね。」
「ああ、それならもう心配ないわよ。あいつったらサラマンダーの背後で高みの見物をしていて、サラマンダーもろともに火の大精霊に飲み込まれちゃったからね。」
そうなの?
「私が戻ってきたから、どっちみち不用品になるところだったけどね。」
赤い衣装のピクシーが息巻いた。
「タミア!元気になったの?」
「何よ、私の存在に今気が付いたの? しばらく会わなかったからって随分冷たいじゃないの。」
「それで・・・ユリアとは仲直り出来たの?」
リリスの言葉に赤い衣装のピクシーがニヤッと笑った。
「借りが一つ出来ただけよ。いずれお返ししてあげるわ。」
そう言ってブルーの衣装のピクシーを軽く睨んだ。
「別に無理に返してくれなくても良いわよ。それに返して来たらまたお土産を付ける事になるし・・・」
亜神同士の応酬だ。
あまり関わらない方が良さそうね。
その空気を読んでノームが口を開いた。
「ほらっ! ユリア。あの子やで。精霊の加護を持つ王女様や。」
ノームがリリスの肩の芋虫を指差した。
話を振られたブルーの衣装のピクシーは、ノームの指さす芋虫をじっと見つめ、
「ふうん。こんな事ってあるのね。精霊の加護を受けているってレベルじゃないわよ。精霊の加護が肉体化しているって言った方が良いかもね。」
「そうなんですか?」
ユリアの言葉に小人が身を乗り出してきた。妹の事だから心配なのだろう。
「この子は魔法学院を卒業後はどうするの?」
「神殿に入ります。」
「そう。それが良いわね。間違っても精霊使いを目指さないようにね。」
精霊使い?
「ユリア。それってどうしてなの?」
「精霊の加護を持つ者は神殿に入る者が大半だけど、稀に精霊使いを目指す者が居るのよ。選択肢としては有り得るのだけれど、この子の場合は加護との親和性があまりにも高いから、恐らく精霊の加護が自律性を持っている筈よ。この子が精霊使いを目指して研鑽を積みある程度のレベルに到達すると、精霊の加護は自律的に判断を下すようになる。」
「どんな判断ですか?」
「もはや肉体は要らないんじゃないかってね。」
うっと小人が呻いた。
「それって人間ではなくなると言う事ですね。」
「そう。自律性を持ち肉体を脱ぎ捨てた精霊の加護は、もはや地上界に居る意味がなくなり、精霊界に入って行くの。」
「そこで暮らすのですか?」
「いいえ。大精霊の身体に吸収されてしまうのよ。」
それって酷いわね。
「食べられちゃうの?」
「違うのよ、リリス。食べられるんじゃなくて、加護が元居た場所、本来の場所に戻ると言った方が良いのかしらね。」
う~ん。
良く分からない。
精霊の加護って大精霊から分け与えられたものなの?
「私は精霊使いなんて目指しませんから大丈夫ですよ、兄上。」
芋虫の言葉に小人も安堵の表情を見せた。
「ねえリリス。」
リリスの肩からメリンダ王女の芋虫が話し掛けてきた。
「リリスの部屋っていつもこんなに賑やかなの?」
「そんな事は無いわよ。」
「それであそこに倒れている子は誰?」
芋虫の視線の先にはサラが倒れていた。
「ちょっと! またサラを邪魔者扱いしたのね! それで無事に起きれるんでしょうね?」
リリスはピクシー達を軽く睨んだ。
「ああ、大丈夫よ。今回は意識を奪っただけだから、朝には自然に起きるわよ。」
本当かしらね?
リリスは倒れているサラを抱えてベッドに運び込んだ。
「さあ、明日の授業もあるからメルとエミリアは部屋に戻ろうか。」
そう言って小人が芋虫に話し掛けた。
召喚が解かれて芋虫はリリスの両肩から消え、小人も同時に消えて行った。
「私も今日の戦闘で疲れているから休ませてよ。」
リリスの言葉にピクシー達もうなづいて消えて行った。だが再びノームが現われた。
「チャーリー、どうしたの?」
「ああ、サラ君の事なんやけど・・・」
ノームはベッドで眠っているサラに視線を向けた。
「召喚術のレベルが上がってるで。それに亜神召喚のスキルもレベルが上がってる。」
「それって、以前にチャーリーがゲルを探す時に、一時的にサラのスキルのレベルを上げたからなの?」
リリスの言葉にチャーリーはうんうんとうなづいた。
「それしか思い当たらんのや。でも一時的に上げただけやから、元に戻ってる筈なんやけどなあ。」
「まあ、今すぐどうなると言う事やないから、多少気にかけてやるだけで良いと思うけどね。」
そう言ってチャーリーは手を振りながら消えて行った。
う~ん。
気に成るわねえ。
リリスは軽くシャワーを浴び、パジャマに着替えてベッドに入った。向かい側のベッドにはサラの寝顔が見える。
リリスは思わず眠むっているサラに向けて鑑定スキルを発動させた。
**************
サラ・クリス・マクロード
種族:人族 レベル12
年齢:14
体力:800
魔力:800
属性:火・水
魔法:ファイヤーボール レベル2
ウォータースプラッシュ レベル2
ウォーターカッター レベル2
スキル:探知 レベル1
召喚術 レベル5(不安定要素有り)
亜神召喚 レベル5(不安定要素有り)
(その他鑑定不明スキル 複数有り 現在発動不可)
**************
相変わらず謎が多いわね。
召喚術と亜神召喚のレベルは5まで上がっている。
でも不安定要素があるって事は、発動が不安定になる事があるのね。
サラの寝顔を見て少し心配になったが、ダンジョンでの疲れもあってリリスはそのまま深い眠りに就いた。
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