落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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転移者の遺産2

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翌日の午後、昼食を終えたリリスは敷地の外れの薬草園に居た。入学当初からケイト先生に荒れた耕作地の手入れを任されていたので、誰の許可も無く薬草園に入る事が出来る。
勿論荒れ地の手入れは口実で、本当の理由は昨夜再構築したガイダンスとデータの確認作業である。

折に触れて荒れ地を整備し畑を増やしてきたのだが、まだまだ手つかずの荒れた土地が視界の奥の方に広がっている。どれだけの土地が薬草園として用意されているのだろうか? この薬草園や遺跡などを含めた魔法学院の敷地はあまりにも広大だ。

耕作地を荒らすわけにもいかないので、その外れの荒れ地に立ったリリスは、周辺に人の気配が無い事を確認して、ガイダンスを発動させた。

瞬時に目の前の空間、自分の目の高さに小さな老人のホログラムが浮かび上がった。これも古書の時と同じ仕様のようだ。だがその人物はあの賢者様ではなかった。それに服装が明らかにこの世界の物ではない。

この老人の着ているものは・・・・・作務衣かしら? まるで日本の職人の姿ね。

リリスの脳内に念話が届いてきた。

(儂を作動させたのはお嬢ちゃんか? 名は何と言う?)

リリスです。

(リリスか。良い名じゃが本名ではないよな?)

うっ!
それって以前の世界での名前って事ですか?

(そうじゃ。あの仏像に興味を示すからには日本からの転移者か転生者じゃろ?)

紗季です。苗字は忘れました。

(そうか、そうか。)

笑顔でうなづきながら老人は話を続けた。

(儂は戸田周作と言う名前じゃった。この世界に転移し、シューサックと名乗っておった。)

周作でシューサックね。単純と言えば単純な・・・・・。

(単純で悪かったな。)

あっ、気にしないでください。それでこのガイダンスとデータの事ですが・・・。

(ああ、そうじゃったな。)

目の前に浮かぶ10cmほどの大きさの老人は、空中で胡坐をかき顎を撫でた。

(先ず儂の自己紹介じゃが、儂は戦闘職ではない。生産職を極めたと自画自賛しておる。)

ああ、それであの仏像を作ったんですね。

(そうじゃ。あの釈迦三尊像は儂の暇つぶしの木工細工じゃった。)

老人の話は長々と続いた。要約すると生産職を極めたものの後継者がおらず、技術が失われていくのが残念で、友人であった賢者様に相談し、仏像に生産系のスキルをデータとして組み込んで貰ったと言う事だった。

あの社会性の無い賢者様と友人だったのね。
でも、私が受け継ぐの?
生産職は目指していないんだけど・・・。

(お嬢ちゃんでなくても良い。儂のスキルが優性遺伝で受け継がれていくように、賢者ユーフィリアスが組み込んでくれたのじゃ。)

(ステータスとしてお嬢ちゃんが身に着けてくれれば、その子孫に隔世遺伝で出現していく。お嬢ちゃんの孫以降で誰かが生産職を目指してくれれば良いのじゃよ。)

へえ~。そうなの?

(勿論お嬢ちゃんが活用してくれても良いぞ。)

(どうじゃ? 身に着けてくれるか?)

ええ、良いわよ。私もどちらかと言うと手先が器用な方だから。以前の世界でもフィギュアの手直しなんて良くやったもの。

(フィギュアって何じゃ?)

ああ、それを知らない年代の方だったのね。元の世界では何時の生まれだったの?

(儂か? 終戦の年じゃ。東京の焼け野原の防空壕の中で生まれたと母親が言っておった。)

そうかあ。1945年って事ね。でもそれで転移先が500年前なんて・・・・・。

(まあ、異世界への転移は時空を超えているからのう。)

(転移当初は儂も冒険者として生計を立てておったが、生産系に稀有なスキルを幾つも持っていたので、すぐに転職したわい。)

(儂の造る武具は王家にも献上していたからな。巷では聖剣だとか魔剣だとか言われておった。)

そうなんですね。
どうせなら生身でお会いしたかったですねえ。

(そうじゃな。同じ世界から来たものとして、顔を合わせておきたかったものじゃ。)

(おっと。プログラムの稼働時間が少なくなってきたわい。良いか? 作動させるぞ。)

ええ、良いわよ。

リリスの返答と同時に老人の身体が光りを放ち消えてしまった。その数秒後に脳内でデータが展開され始めた。

頭の中で何かがグルグルと動き回っているようだ。その違和感で眩暈がする。リリスは立っていられずその場にしゃがみ込んでしまった。

程なくその違和感も消え、リリスの気分も穏やかになった。

(すべて完了じゃ。ステータスを確認してみるが良い。)

(これで儂のプログラムも役目を終えた。感謝しとるぞ、紗季・・・否、リリスじゃったな。)

どういたしまして。
さようなら、シューサックさん。

(おまけとして魔金属のかけらを付けておいた。魔方陣から取り出して、スキルで弄ってみるのも良いじゃろうな。)

分かったわ。ありがとう。

その場に立ち上がったリリスは自身のステータスを確認してみた。



**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル21

年齢:14

体力:1100
魔力:2700

属性:土・火

魔法:ファイヤーボール  レベル3+

   ファイヤーボルト  レベル5+

   アースウォール   レベル7

   加圧        レベル5+

   アースランス    レベル3

   硬化        レベル3



(秘匿領域)

属性:水・聖・闇(制限付き)

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)

   液状化       レベル15 (制限付き)  

   黒炎        レベル2  (制限付き)

   黒炎錬成      レベル2  (制限付き)

 
スキル:鑑定 レベル3

    投擲 レベル3

    魔力吸引(P・A) レベル3

    魔力誘導 レベル3 (獣性要素による高度補正有り)

    探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒生成 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    解毒  レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    毒耐性 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    調合 レベル2

    魔装(P・A) (妖精化)

    魔金属錬成 レベル1++(高度補正有り)

    属性付与  レベル1++(高度補正有り)

    スキル特性付与 レベル1++(高度補正有り)

    勇者の加護(下位互換)

    解析 

    最適化

**************



魔金属錬成は分かるとして、属性やスキル特性の付与って何なの?

リリスの疑問に解析スキルが反応した。

『造り上げた武器や防具やアクセサリーなどに、属性やスキル特性を付与する為だと思われます。』

ふうん。そうなの?

『おまけを使って試してみれば良いですよ。5分間有効の魔方陣が発動していますから・・・』

えっと思ってリリスが地面を見ると、小さな魔方陣が足元に発動していた。

これってどうするの?

『普通に魔力を注げば良いですよ。』

言われるままに魔力を魔方陣に注ぎ込むと、魔方陣がカッと光り、その中央に金属の塊が3個現れた。直径5cm長さ15cmほどの円柱状の塊だ。
鈍い光沢を放ち、魔力を纏っている。手に取って見るとズシリと重い。握った途端に手のひらから魔力を少し吸われたように感じる。しかも握った手に吸い付くように感じるのは何故だろうか?

それにしてもこれって何処から召喚されてくるの?

『おそらく数百年前から設置されていた亜空間の一時保管庫だと思います。開封する事で消滅するタイプでしょうね。』

そんなものがあるのね。
それでこれって何なの?

そう思ってリリスは手に入れた円柱状の金属を鑑定してみた。


**************

魔金属(合金)

区分 レアアイテム

成分

   オリハルコン50%

   ヒイロカネ 10%

   その他 分析不能

魔力特性

   無属性(全属性魔法を付与可能)

**************


分析不能なの?
それにおまけでもレアアイテム扱いなのね。

とりあえず練習のつもりでリリスは魔金属錬成を発動させた。魔力が両手から魔金属に吸い込まれていく。それに連れて魔金属が鈍い光を放ち始めた。

これってここからどうするの?

『錬成ですから造りたい形をイメージするのでしょうね。』

う~ん。
何を作ろうかしら?
最初に決めておけば良かったわ。

『普通は武器でしょうね。』

武器と言ってもこの分量ならナイフ? 短剣? 矢じり? 槍の穂先?

『お得意の武器があるじゃないですか。スローイングダガーはどうですか?』

うん、そうね。

リリスはスローイングダガーの形をイメージして、魔金属に魔力を大きく流した。魔金属が飴のように形を変えていく。
数分で2個の魔金属から2本のスローイングダガーが出来上がった。
出来上がると重さはそれほど苦にならない。魔力を流すと更に軽く感じられるのは、投擲スキルと連動するからなのだろう。鈍い光沢を放つ灰白色の表面に時折光が流れている。これに属性やスキル特性を付与出来るようだが、とりあえずこのままで試してみたい。

リリスは少し離れた場所にある大きめの岩石に向けてそれを放った。投擲スキルが発動し、魔力を纏ったスローイングダガーはキーンと金切り音をあげて岩石に着弾した。ドーンと激しい衝撃音と土煙が上がり、それが晴れると岩石は跡形もなく吹き飛ばされ、その岩石の下の地面が大きく抉られていた。
その穴の奥底でスローイングダガーが鈍い光を放っている。

凄まじい威力ね。これに更に魔法の効果まで付与出来るなんて・・・。
でも投げてしまうのが勿体ないわね。なくしちゃったらショックだわ。

『投げ落ちた場所は魔力を探知すれば分かりますよ。』

そうね。場所さえわかれば回収出来るわね。



スローイングダガーを回収したリリスは残る1個の魔金属の棒を錬成し、小さなブローチを数個造り上げた。

これに魔法の特性を付与してサラやエリスにあげよう。

それはリリスなりの気配りである。

薬草園の片隅で昼休みの大半を費やしたリリスは、急いで午後の授業に戻って行った。












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