落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

文字の大きさ
84 / 369

開祖の魔剣3

しおりを挟む
開祖エドワード王の魔剣。

その前でガーゴイルとメリンダ王女、リリスが見つめ合っていた。

「ねえ、ゲル。話の趣旨が違うってどう言う事なの?」

リリスの問い掛けにガーゴイルは魔剣を指差し、

「この魔剣に纏わり付いている魔力はエドワードのものなんだよ。この魔剣は特殊な魔金属の合金で出来ていて、所有者と魔力をやり取り出来るんだ。」

うん?  
どこかで聞いたような話ね。

「長年エドワードが愛用する事で、魔剣にはエドワードの魔力が纏わり付いている。それを分離して欲しいために奴は僕を呼び出せと書き残したんだよ。」

「分離してどうするの?」

リリスの問い掛けにガーゴイルはその視線をメリンダ王女に向けた。メリンダ王女も戸惑っている様子だ。

「僕と関りを持つ事が出来た子孫、つまり闇の属性を持つ子孫に吸収され、加護として残りたいと言うエドワードの遺志だと思うよ。」

その言葉を聞いてメリンダ王女は神妙な表情になった。

元々は開祖エドワードとゲルの間で結ばれた理不尽な契約により、彼女の生命は犠牲になるところだった。
それを思えば闇魔法に秀でた子孫に加護を残そうと言う意図が分からない。

その微妙な表情を察してガーゴイルが過去を回想するような視線で口を開いた。

「多分、エドワードは自分が造り上げた軛を抜け出すような、才気のある子孫の出現を待ち望んでいたんじゃないかなあ。」

「そうなのかしら? もしそうだとしたら、闇魔法の属性を持つ子孫を開祖が忌み嫌っていた訳じゃ無さそうなんだけど・・・」

メリンダ王女の表情はどこまでも微妙だ。だがリリスには開祖の想いが何となく分かるような気がした。

「開祖エドワード王も内心では犠牲になる子孫に申し訳ないと思っていたのかもね。」

リリスの言葉にメリンダ王女はう~んと唸りながら考え込んでしまった。

少し間を置いて魔剣の鞘に触れ、

「まあ、リリスにそう言われると・・・多少は納得出来そうだわ。」

気持ちがまだ充分には整理出来ていないように思われる。

だが、メリンダ王女の表情が少し晴れてきたのを確認して、ガーゴイルが魔剣の直ぐ傍に近付いた。

「それじゃあ、修復するよ。先にエドワードの魔力をメルに移してあげよう。」

そう言ってガーゴイルがパチンと指を鳴らすと、魔剣から禍々しい魔力がすっとメリンダ王女の身体に引き込まれた。
うっと呻くメリンダ王女だが、苦しそうな表情は一瞬だった。直ぐに普段通りの表情に戻り、目を瞑って意外にもうっとりとした表情を見せた。

「うん、何となく暖かい。守られている気配が感じられるわ。」

開祖の魔力が残したものは加護で間違いないようだ。その様子にリリスも安堵した。

ガーゴイルは続いて魔剣の刀身をその魔力で修復し、自分の魔力を少しだけ魔剣に纏わらせた。

「この状態だとエドワードの持っていた魔剣のレプリカだけど良いのかな?」

修復された魔剣を摩りながら、メリンダ王女はうんうんとうなづいた。

「ああ、良いのよゲル。ありがとう。」

「闇魔法の魔力を纏った魔剣としての形を維持出来れば良いのよ。開祖の遺志はしっかりと私の心の中に受け継いだから。」

メリンダ王女の満足そうな言葉にリリスも安心してゲルに礼を言った。ついでにサラのスキルで呼び出された際の対処も伝えると、ガーゴイルは苦笑いを浮かべた。

「大丈夫だよ。どのみち今の彼女のレベルでは使い魔しか呼び出せないからね。」

そう言ってガーゴイルはその場から消えて行った。
だがすぐにまた目の前に現れた。何か忘れ物でもしたのか?

「そうそう。メルに教えてあげるのを忘れていたよ。エドワードの魔力の余韻を覚えているかい?」

メリンダ王女は不思議そうな表情だったが、自分で自分の魔力を確認して無言でうなづいた。

「覚えているのなら、手のひらにエドワードの魔力を抽出するような気持で、魔力を集中してみれば良いよ。」

ガーゴイルの言葉に従ってメリンダ王女は手のひらに魔力を集中させた。

「こんな風に?」

そう口走った途端に、手のひらの上に黒い魔力の小さな塊が現われた。

「これって何なの?」

首を傾げるメリンダ王女にガーゴイルが優しく話し掛けた。

「それはエドワードが僕に要件がある時に使っていた方法だよ。その塊に要件を伝えて空中に放てば良い。」

「でも直ぐに駆け付けるとは思わないでくれよ。僕にも事情があるからね。それでもメルが僕に要件がある事だけは伝わるから。」

へえ~と驚きながら、メリンダ王女はその魔力の塊をしげしげと眺めた。その魔力の塊をふっと空中に放ち、

「ありがとう、ゲル。でも私だって無暗に闇の亜神を呼び出そうとは思わないわよ。余程の事でもない限りね。」

「うん、そうしてくれ。要件によっては代償を必要とする事だってあるからね。あの闇の宝玉のように・・・・・」

そう言いながら、ガーゴイルは再度消えて行った。
メリンダ王女の指示で騎士達が修復された魔剣を持ち出していく。
リリスとメリンダ王女もその場を離れ、レオナルド王子とサラの傍に近寄った。

事の成り行きを掻い摘んで説明し、レオナルド王子も満足した様子だ。

「リリス君。この件での褒賞は後日必ず授けるからね。待っていてくれよ。」

褒賞なんて要らないのにとリリスは思った。自分はメリンダ王女とゲルとの仲介をしただけだ。
褒賞をくれると言うのなら、代わりにあのロイヤルガードを何とかして欲しいと願うリリスであった。

リリスとサラに手を振り、護衛の騎士達を引き連れて、レオナルド王子とメリンダ王女はその場から出て行った。
後に残されたのはサラとリリスの二人だ。

「サラ。ごめんね。蚊帳の外に置きっぱなしにしたみたいで、心苦しいわ。」

リリスの言葉にサラは笑顔で首を横に振った。

「良いのよ、リリス。私が首を突っ込むような要件じゃない事は分かったもの。それにしても王族と関りを持つと何かと大変ね。」

「そうなのよ!」

リリスは思わず大声で叫んでしまった。その脳裏に学生寮の最上階でのロイヤルガード達との攻防があった事は確かだ。
リリスの様子を見てサラはぷっと軽く吹き出し、

「私は楽しく殿下とお話しさせて貰ったから充分満足しているのよ。」

そこまで言ってサラは、周りに人が居ないと言うのに小声で囁いた。

「殿下って私の好みのタイプなのよね。お話ししている間中、顔が火照っちゃって・・・」

ええっ!
そうだったの?

驚くリリスにサラはえへへと笑って、

「でもね、身分が違うのは分かっているわよ。別に後を引かないから安心して。」

「びっくりさせないでよ、サラ。」

そう言いながらリリスは肘でツンツンとサラの横腹を軽くつついた。サラもそれに反応してキャッキャッと笑い声をあげる。
お互いに心にわだかまりは無いようだ。

訓練場の設備などに支障のない事を確認し、二人は笑いながらその場を後にした。




学舎の外に出るともう日が傾いている。
二人はそのまま学生寮に戻るつもりだったのだが、学舎の入り口の事務室を通り過ぎようとした時、職員から来客があると聞かされた。
こんな時間に誰だろうと思いながら、リリスはサラと別れて事務室に入った。事務室の奥の飾りっ気のないソファに誰かが座っている。こちらに向かって会釈したその人物を見て、リリスは少なからず驚いてしまった。

昨日、学生寮の最上階で応対したメイドだ。

地味なスーツ姿だったので最初は良く分からなかったのだが、メイド服でないと言う事は今日はオフなのか?
否、それ以前に昨日の最上階での攻防の仕返しに来たのかも知れない。

若干緊張した表情でリリスはそのメイドの対面に座った。年齢は・・・30歳手前だろうか? 色白で知的な雰囲気の美人である。穏やかな眼差しだがその奥には、冷徹な感情を秘めているようにも感じられる。

だが意外にもリリスが座ると、メイドは立ち上がり、深々と頭を下げた。

「昨日は大変失礼しました。どうか、お許しください。」

どうやら謝罪に来たようだ。
メイドはセラと名乗り、学生寮で王族に仕えるメイドのチーフだった。

事務室の職員が運んできた紅茶を飲み、少し間を置いてセラは話し始めたのだった。






しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?! はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?! 火・金・日、投稿予定 投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...