落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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リゾルタでの儀式

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魔法学院の薬草園。

その広大な耕作地の大半はこの一年間、リリスが合間を見ては土魔法で耕してきた耕作地である。ケイト先生から徐々に耕して欲しいと依頼されて、早くも1年が過ぎた。だがその背後にその数倍の広さの荒れ地が広がっている。

そこはリリスのこれからの耕作地であると同時に、秘密裏に魔法を試す格好の場所でもある。

リリスは荒れ地に立ち、竜からコピーしたスキルを試し始めた。

先ずは火力凝縮と火力増幅ね。

リリスは手のひらにファイヤーボルトを出現させた。
単体のファイヤーボルトだが、火魔法のレベルが上がっているので火力も増しているように感じられる。
そのファイヤーボルトに火力凝縮を発動させると、ファイヤーボルトの大きさが僅かに小さくなり、赤く輝いていたファイヤーボルトが青白く輝く始めた。

如何にも高温になっていそうね。

次に火力増幅を発動させると、ファイヤーボルトは更に青白く光りを放ち、その炎熱がリリスにも伝わってきた。だが気が付くとその手や身体に、局所的に亜空間シールドが張られている。疑問を持ったリリスは解析スキルを発動させた。

この亜空間シールドってパッシブでも発動するのね。

『そうですね。火魔法とは連動してパッシブスキルとして発動されます。炎熱を感知する仕様なのでしょう。』

『勿論、アクティブスキルとして、必要に応じて発動する事も可能ですが、シールドの効果範囲は自分の身体だけに限られます。』

うんうん。他人まで面倒見れないって事ね。

リリスはおもむろに青白く光を放つファイヤーボルトを、少し離れた場所に転がっている大きめの岩石に向けて放った。
キーンと言う金切り音を立ててファイヤーボルトは岩石に向かい、着弾とともにその岩石を砕いてしまった。その衝撃音と炎熱がこちらにも伝わってくる。

『かなり破壊力が増していますね。高温の炎熱で岩石を破壊したようです。』

『ですが、火力凝縮はファイヤーボールの方が効果が顕著に現われると思いますよ。』

ファイヤーボールかあ。
今までファイヤーボールはほとんど練習してこなかったんだけどねえ。

そう思いつつリリスは手のひらに、ソフトボールほどの大きさのファイヤーボールを出現させた。
その火球に火力凝縮を掛けると、ファイヤーボールは半分ほどの大きさになり、それと同時に青白く光りを放ち始めた。如何にも高温のようだ。
更にそこに火力増幅を掛けると、ファイヤーボールが眩しいほどに青白い光を放ち、その炎熱で火球の周囲の空間すら歪んでいるように感じられる。

リリスはそのファイヤーボールを先程と同じように、荒れ地に転がっている岩石に向けて放った。

ゴウッと言う音を立ててファイヤーボールが滑空し、ドウンッと大きな衝撃音を立てて炎熱と爆煙を巻き散らした。かなりの威力だ。
爆煙が消えた後の荒れ地には岩石の跡形もなく、地面が大きく抉れていた。
だがそれでもリリスは満足しきっていない。スピードではファイヤーボルトに及ばないからだ。

避けられちゃったら意味無いものね。

『威力はかなりのものですから、移動速度が比較的遅い魔物や避けられない程に大きな魔物相手に使うべきでしょうね。』

うん。
そうするわ。
亜空間シールドは試さなくても分かるけど、気に成るのはこの減圧よね。私も竜のように空を飛べるの?

『それは無理ですね。そもそも空を飛ぶような組成の魔物のスキルですからね。』

それってつまり人族に最適化するとしても限界があるって事なの?

『御明察です。それ故に元々持っている土魔法のスキルとして最適化されました。』

『効果範囲内の物体に掛かる重力を減少させますので、普通に歩いたり走ったり出来ないでしょうね。』

う~ん。
相手を混乱させる用途には使えるって事ね。どちらかと言えば対人用に有効な気がするわね。
それで竜の加護はどう言う効果があるの?

『竜の加護は・・・平常時は火魔法の効果が増幅されます。この加護はむしろ緊急時に大きく効果を現わすようですがその詳細は不明ですね。』

『緊急時にはこの加護が司令塔になって、幾つかのスキルをコントロールする事は分かるのですが・・・』

その時になって見ないと効果が分からないって事ね。
発動するような事態に陥らない事を願うわよ。

最後に火魔法と土魔法の連動を試してみるわね。

リリスは荒れ地に小さめの泥沼を生じさせ、火魔法を連動させた。泥沼の温度が上がり、蒸気がところどころから吹き上がってくる。
その状態で火力凝縮と火力増幅を発動させると、泥沼の温度が急激に上がり、その表面が赤々と光り始めた。
良く見ると表層部だけのようだが、溶岩のように赤くなっている。

これでまた溶岩流に一歩近づいたわね。

リリスはそれなりに満足して新しいスキルの試用を終えた。泥沼を元の状態に戻すとすでに魔力量は半減してしまっている。
その疲労感が決して小さくない。
そのままでは午後の授業に支障が出るので、リリスは魔力吸引をアクティブで発動させ、暫くその場に座り込んだ。
昼の休憩時間は30分しか残っていない。

軽いもので良いから何か食べないといけないわね。

大地から、大気から吸引する魔力で少し楽になると、リリスは急いでその場を離れ、学生食堂へと走って行った。








10日ほど過ぎた週末。

リリスはメリンダ王女やフィリップ王子と共にリゾルタの神殿に居た。綺麗に修復された神殿内部の白亜の壁が目に眩しい。
修復された神殿に水の亜神を迎える儀式が執り行われるのだ。
式典の内容は、以前にフィリップ王子の国、ドルキア王国の神殿で行われた式典と同じ段取りになっている。
それもユリアの指示らしい。

神殿ホールの中央に設けられた祭壇の周りには、ライオネスを中心とする王族達、貴族や有力な商人達が参席し、そのすぐ傍にリゾルタと関りのある他国の王族達が参席している。その中にリリス達も居るのだが、驚いた事にドラゴニュートの王族達も加わっていた。
リゾルタのような商業を中心とする自由都市国家は他種族に対しても開放的で、特にリゾルタはそれが顕著である。
ドラゴニュートは竜族と人族との橋渡しの役割を担っていて、商取引だけでなく安全保障の面でも重要な存在だ。

大勢の来賓が集まる中、儀式は始まった。

ドルキアで行なわれたのと同様に、祭司達が祈りを捧げる中、特大サイズの女神の姿のユリアが祭壇の上に降臨し、用意された宝玉に魔力を注ぐ。
それをライオネスが恭しく授かり、正統なる王位継承者としてアピールして終了だ。

だがリリスの予想に反して、この儀式には続きがあった。

女神姿のユリアがリリスの名を呼んだのだ。

「リリス。こちらに出て来なさい。」

優し気な笑顔を向けながら、ユリアはリリスを手招きした。

何か用なの?

そう言いそうになったリリスだが、王族達が見守るこの状況で、ため口を吐くのはご法度だ。空気を読んでリリスは静かに祭壇の前に出た。
そのリリスにユリアからの念話が届く。

(悪いけど、空気を読んで演技してね。)

(ハイハイ。)

少し面倒臭さそうにリリスは念話を送り返した。

「リリス。あなたは私が宝玉に封じた覇竜の王を10日ほど前に解放しましたね。突然感知したので私も驚きました。」

ああ、その件を知っていたのね。

それでこの儀式に参加するように指示したのかとリリスは理解した。

「解放と言っても宝玉からの呼びかけに応じて割っただけです。それに解放したと言っても、宝玉から出てきたのは小さな魔力の塊でした。寿命を終えようとしている古竜だと言っていましたが・・・・・」

「それはもはや本体を維持出来ない状態になっていたのでしょうね。それでもその咆哮はこの場に居るドラゴニュート達も感知したのでしょう?」

ユリアの言葉に参席していたドラゴニュート達はうんうんと強くうなづいた。

「リリス。あなたの身体から龍の気配を感じます。覇竜の王キングドレイクはあなたの魔力に同化して消えて行ったのですね。」

「はい。その通りです。」

リリスの言葉にドラゴニュート達からざわめきが巻き上がった。

「竜の気配に加えて秘められた力をも感じます。キングドレイクは加護も残していったのではありませんか?」

「はい。加護を残してくれたようです。そのお陰で火魔法が少し強化されました。」

リリスの言葉を聞いてユリアは少し顔を曇らせた。

「リリス。覇竜の王の魔力は人族にとっては影響が強すぎます。それは麻薬のようなもので、時間の経過と共に人か魔物か判別できないような存在になる可能性もあります。」

ええっ?
そうなの?

驚くリリスにユリアは言葉を続けた。

「あなたは覇竜の王と対応出来る素養があるからこそ、宝玉からの呼びかけに応じられたのです。それ故にキングドレイクも死ぬ間際にあなたに会えて感謝していた事でしょう。それであなたの魔力に同化する事を選び、加護まで残してくれたのでしょうね。」

ユリアはそう言うと、あらかじめ準備させていた別の宝玉を祭祀に持ってこさせた。

「あなたの魔力からキングドレイクの魔力を半分ほど抽出して、この宝玉に封じようと思います。そうすればあなたの身体に与える影響もほぼ無くなり、キングドレイクが残した加護も維持出来ますからね。」

「さあ、こちらにいらっしゃい。」

ユリアの呼びかけに応じて、リリスは宝玉の前に進み出た。そのリリスの頭上に女神の姿のユリアが浮かび、リリスからすっと魔力を吸い上げ始めた。

(やだ! サキュバスに魔力を吸われてるみたいだわ。)

神妙な表情を維持しつつも、リリスはユリアに軽口のような念話を送った。

(誰がサキュバスよ! 本当に魔力を全部吸っちゃうわよ。)

怒りの波動を伴った念話がリリスに届く。それでもユリアの表情は優し気で、女神そのものだ。

抽出したキングドレイクの魔力をユリアは宝玉に注いだ。宝玉は透明だったが徐々に赤みを帯び、最終的には深紅に輝く宝玉となった。
ユリアはリリスを元の席に戻らせ、ドラゴニュートの王族を呼び寄せると、その宝玉を大事に保管するように指示した。

恭しくその宝玉を手にしたドラゴニュートがユリアに深々と頭を下げると、ユリアは優しくうなづきながら祭壇の周りを一瞥した。

「これで儀式を終わります。種族を問わず、この地を善く治めなさい。」

そう言いながら女神の姿のユリアはドーム状の天井に消えて行った。

その場に参席していた者達もそれぞれに退席していく。リリスもメリンダ王女と共に退席しようとしていたのだが、何故かドラゴニュート達からの訝し気な視線や巧妙な探知の波動を感じた。

嫌な予感がするわねえ。
また厄介な事に巻き込まれなければ良いのだけど・・・。

リリスはわざとらしい笑顔をドラゴニュート達に送りながら、その場を離れて行ったのだった。







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