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少年の初恋3
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竜達のコロニーでのリンとの話が続く。
「私が覇竜だって、リト君に話しちゃったのね。」
「ええ、誰にも話しちゃ駄目だって約束でね。でも仕方が無かったのよ。」
芋虫の言葉にリンの表情が少し曇る。だがリンの正体を明かした事情は理解しているようだ。
「そうよねえ。高位の竜と人族とではライフサイクルが全く違うものね。」
そう言ってリンはふっとため息をついた。
「でも、それでもリトラスは、もう一度会いたいって言っているの。」
「う~ん。そうだなあ。」
リンはしばらく考え込んだ。その数分が数十分にも感じられる。
「リト君とは話が弾むから会っても良いよ。」
リンの言葉に芋虫が喜びの声を上げた。
「そうして貰えると助かるわあ。リトラスは病弱だからあまり外出できないの。出来れば会いに来て欲しいんだけど・・・」
「う~ん。そうなるとリンだけじゃ行けないなあ。護衛のハドルさんも行く事になっちゃうよ。」
まあ、そうよね。
護衛が付いて来る事になるわよね。
困った顔で考え込むリンの姿を見て、タミアが話に割り込んできた。
「私がリンの周りの竜を説得してあげるわよ。」
そう言いながら赤い衣装のピクシーが半透明の球体の壁から外に抜け出した。そのままリンの肩にちょこんと座ると、リンの耳に近付き内緒話を始めた。
リンはフンフンとうなづくだけだ。
暫くして赤い衣装のピクシーが手を振りながら、
「あんた達はもう帰って良いわよ。こっちで話をつけるからね。」
そう言いながらニヤッと笑う赤い衣装のピクシーに、ブルーの衣装のピクシーが呆れた声で、
「タミア。あまり乱暴な事はしないでよ。」
「分かってるわよ。後でリンの出掛ける日時は連絡するからね。」
「でもそれってリトラスが都合の悪い日時だったら困るわよ。」
「そんなものはリンの事情に合わせなさいよ!」
亜神同志の軽い言葉の応酬だ。
でも、竜を相手に乱暴な事ってどう言う意味なの?
リリスには亜神の思考など想像も出来ない。それでもこの亜神達に任せるしかないような状況ではある。
リンとタミアに別れを告げて、リリス達は学生寮の自室に戻った。ユリアによる瞬時の移動だが、おそらく移動距離は数千kmなのだろう。
「ねえ、ユリア。タミアに任せて大丈夫なの?」
リリスの疑問にブルーの衣装のピクシーはうなづきながら、
「大丈夫よ。あいつ、ああ見えて交渉事は上手いのよ。最終的に話が付きそうにない時は、力づくで解決するだろうけどね。」
赤い衣装のピクシーの言葉に芋虫がう~んと唸り、
「だから、竜相手に力づくって何なのよ?」
メリンダ王女もリリスと同じ疑問を持っていたようだ。
「火力の違いを見せつけるんじゃないの? 竜のブレスなんてあいつには栄養剤みたいなものよ。」
「多分、竜のコロニーを焼き尽くすぞとか言いながら説得するんじゃないのかなあ。」
他人事のように話すユリアの口調が白々しい。
だがそれは竜達にとって災厄だ。
直ぐに話が付くわよと言うユリアの言葉に半信半疑で、リリス達はソファに座って時間を潰した。だが10分も経たぬうちに赤い衣装のピクシーが目の前に現れた。その表情はやけに明るい。
「話が付いたわよ。リリスが居るから安心して良いわよって言ったら、それならと言う事でリンの外出を承諾してくれたからね。」
う~ん。
本当だろうか?
どうも怪しい。
「それでリンちゃんの護衛のハドルさんも来るの?」
「えっと、それはどうかな? 回復すれば来るかも・・・」
ふと漏らしたタミアの言葉にユリアがまゆをひそめ、
「あんた、何をやったのよ?」
追及された赤い衣装のピクシーはばつが悪そうに頭を掻きながら、
「吐いたブレスを十倍にして返してあげただけよ。そのせいで数体の竜を炙っちゃったけどね。」
やはり最終的には力づくなのね。
呆れるリリスに赤い衣装のピクシーは照れ笑いをしながら、
「それで・・・リンの外出の日時なんだけど、明後日の午前中はどうかな?」
「良いわよ!」
即座に芋虫が叫んだ。
「明後日の午前中ね。こっちはそれに合わせるだけよ。グランバート家には都合を合わせるように王家から命令を出すからね。」
芋虫の鼻息が荒い。権力にものを言わせるのもどうかと思うのだが。
その後若干の打ち合わせをしてその場は解散となった。
そして迎えた当日の朝。
リリスはメリンダ王女やフィリップ王子と共にグランバート家の広大な中庭に居た。木々や花々が植えられた庭の中央には巨大な噴水もある。
低木の生垣も綺麗に剪定されていて、庭園としてのデザインも秀逸だ。
色とりどりの花の間を飛び回る蝶に時折目を向けながら、リリスはその中庭の片隅のテラスでお茶を頂いていた。
「リトラスってリンちゃんとしっかりお話しできているかしら?」
同じテーブルで紅茶を飲むメリンダ王女が心配そうに呟いた。
「大丈夫じゃないの? だって二人で手を繋ぎながら笑顔で散歩しているわよ。」
「う~ん。それなら良いんだけどねえ。」
リリスはそう言いながら中庭に造られた遊歩道を歩く二人に目を向けた。
リンの隣で歩いている色白で背の高い少年。リトラスは初見だが如何にも優しそうな少年だった。だが聞いていた通り生気が感じられない。
病弱な身でありながら、リンと会えると言うので無理をしているのだろう。
試しに魔力の波動を探知しても、リトラスの魔力の動きがほとんど感じられない。まるで魔力が停滞してしまっているようだ。
これでは常時、魔力不足と同じような症状を引き起こすだろう。
それにしても原因は何だろうか?
5年ほど前までは元気で活発な子供だったと聞く。
もしかするとアイリス王女のような、巧妙な呪いを掛けられているのかも知れない。
とは言えこの時点でリリスは、リトラスに呪いの気配を感じていなかった。
リリスやメリンダ王女と同じテラスのテーブルで、二人の姿を微笑ましく眺めているのは、このグランバート家の当主の夫人フランソワである。
メリンダ王女の母親の妹に当たる彼女は気品のある顔立ちの女性だ。
王家から伝令が届いた時は彼女も驚いた。だがその要件は長男のリトラスの願いを叶えてくれる内容だったので、特に案ずるような要件ではなかった。
どうやらメリンダ王女からの配慮のようだが、まさかフィリップ王子まで来るとは思わなかった。さらにメリンダ王女の数奇な運命を転換するのに貢献したリリスと言う少女まで同行している。
この少女のおかげで今日のリトラスとリンとのデートが実現しているそうだ。
地方貴族の娘なのにどうして王族と縁を持ったのかしら?
リリスの表情やたたずまいを見ながらフランソワは不思議に思った。フィリップ王子やメリンダ王女との会話で、二人からの信頼の高さを感じさせられる。
更にリリスから感じられる気配の特異性。
フランソワは自分の持つ感知能力の高さに自信を持っていた。その感知能力がリリスの身体から時折、強大な魔物の様な魔力の波動を感じ取ってしまうのが信じられなかった。
だがメリンダ王女からリリスが覇竜の加護を受けたと聞き、それが理由だと判明したのだが、そうなると次なる疑問が湧いてくる。
どうしてこの少女が覇竜の加護を受ける事になったのだろうか?
知れば知るほどに不思議な少女だ。
それと気に成るのがリンと言う名の少女。
メリンダ王女の話では詳細は秘密だが、とある国の王族だと言う。愛嬌のある笑顔の可愛い少女だが、そのたたずまいと気配はこの子の下に大勢の臣下が居る事を感じさせられる。そしてこの子からも時折、強大な魔力を感じさせられる。勿論本人は秘匿しているようだが、フランソワは自分の能力の高さ故に感じ取ってしまうのだ。
秘密のありそうな少女だが、リトラスが会いたいと懇願し、メリンダ王女がリンの身分を保証してくれているので意義を挟む余地は無い。
微妙な心情を抱きつつ、フランソワはリトラスとリンを眺めていた。
一方、リンはリトラスと会って楽しい時間を過ごしていた。仮装ダンスパーティー出会った時よりも体の調子は悪そうだが、自分と会うために無理をして出て来ているのだろう。そう思うと嬉しくなって、つい話も弾む。
だがリンは笑顔を振りまきながらも、リトラスから微妙に感じられる呪いの気配が気に成っていた。それは仮装ダンスパーティーで会った時には気のせいだと思うほどの巧妙なものだったが、リトラスと手を繋いで歩くうちに、リトラスの魔力を探知して感じ取ったものだった。
この呪いは人族では探知出来ないだろうなあ。
そう思うとリンは悲しくなってきた。リトラスのような優しい子に誰が呪いをかけるのだろうか?
人族の様々なしがらみがあるのかも知れない。そうは思いつつも人族の事情には疎いリンだ。リトラスを元気づけてあげたい。そんな殊勝な気持ちでリンは一杯になっていた。
「ねえ、リト君。あそこに座ろう。」
リンはリトラスを誘って、中庭の庭園の中にあるベンチに座った。
「今日は会ってくれてありがとう。」
そう言って笑顔を向けるリトラスに、リンは小声で呟いた。
「リト君。少し目を瞑っていてくれる?」
目を瞑っていろと言われて、リトラスはドキッとした。リンは何をするつもりなのだろう。そう思っていると自分の頬にリンの吐息が感じられる。
淡い期待で胸が膨らむリトラスである。
だがリンはリトラスの耳にふうっと息を吹き込んだ。
「うわあっ! くすぐったいよ、リンちゃん!」
驚いてリンを見つめるリトラスにリンは真顔で、
「リト君が元気になるおまじないだよ。」
そう言ってうふふと含み笑いを見せた。
その様子を遠くから見ていたリリスは、その微笑ましさに胸がきゅんとなってしまった。
若いって良いわよねえ。
リリス自身もまだ14歳なのだが、中身はやはりアラサーの女性である。二人の初々しい姿をおばさんの視線で見てしまったようだ。
結局、リトラスとリンのデートは1時間ほどで終わりとなった。
これはリトラスの体調を気遣っての事だろう。
またいつか会おうねと言葉を交わし、リンは帰途に就く。その場を取り繕うために王家の馬車に乗り込み、リリス達はグランバート家を後にした。
その後王城の近くの公園でリンは迎えに来てくれたハドルと合流し、コロニーへと帰還する事になる。
だが、迎えに来たハドルは何故か、少し恨めしそうな視線をリリスに向けた。
「リリス殿。先日こちらに来た亜神はリリス殿が送り込んできたのですか?」
「とんでもない災厄に見舞われましたよ。」
ハドルの視線が痛い。
「そんな事はしていないですよ!」
リリスは全否定した。だがそう言う事になっているのだろうか? そうだとしたらまた竜達から忌まわしい存在だと思われてしまう。
誤解を解くべく、リリスはタミアが乗り込んでいった経緯を焦る思いで説明したのだった。
「私が覇竜だって、リト君に話しちゃったのね。」
「ええ、誰にも話しちゃ駄目だって約束でね。でも仕方が無かったのよ。」
芋虫の言葉にリンの表情が少し曇る。だがリンの正体を明かした事情は理解しているようだ。
「そうよねえ。高位の竜と人族とではライフサイクルが全く違うものね。」
そう言ってリンはふっとため息をついた。
「でも、それでもリトラスは、もう一度会いたいって言っているの。」
「う~ん。そうだなあ。」
リンはしばらく考え込んだ。その数分が数十分にも感じられる。
「リト君とは話が弾むから会っても良いよ。」
リンの言葉に芋虫が喜びの声を上げた。
「そうして貰えると助かるわあ。リトラスは病弱だからあまり外出できないの。出来れば会いに来て欲しいんだけど・・・」
「う~ん。そうなるとリンだけじゃ行けないなあ。護衛のハドルさんも行く事になっちゃうよ。」
まあ、そうよね。
護衛が付いて来る事になるわよね。
困った顔で考え込むリンの姿を見て、タミアが話に割り込んできた。
「私がリンの周りの竜を説得してあげるわよ。」
そう言いながら赤い衣装のピクシーが半透明の球体の壁から外に抜け出した。そのままリンの肩にちょこんと座ると、リンの耳に近付き内緒話を始めた。
リンはフンフンとうなづくだけだ。
暫くして赤い衣装のピクシーが手を振りながら、
「あんた達はもう帰って良いわよ。こっちで話をつけるからね。」
そう言いながらニヤッと笑う赤い衣装のピクシーに、ブルーの衣装のピクシーが呆れた声で、
「タミア。あまり乱暴な事はしないでよ。」
「分かってるわよ。後でリンの出掛ける日時は連絡するからね。」
「でもそれってリトラスが都合の悪い日時だったら困るわよ。」
「そんなものはリンの事情に合わせなさいよ!」
亜神同志の軽い言葉の応酬だ。
でも、竜を相手に乱暴な事ってどう言う意味なの?
リリスには亜神の思考など想像も出来ない。それでもこの亜神達に任せるしかないような状況ではある。
リンとタミアに別れを告げて、リリス達は学生寮の自室に戻った。ユリアによる瞬時の移動だが、おそらく移動距離は数千kmなのだろう。
「ねえ、ユリア。タミアに任せて大丈夫なの?」
リリスの疑問にブルーの衣装のピクシーはうなづきながら、
「大丈夫よ。あいつ、ああ見えて交渉事は上手いのよ。最終的に話が付きそうにない時は、力づくで解決するだろうけどね。」
赤い衣装のピクシーの言葉に芋虫がう~んと唸り、
「だから、竜相手に力づくって何なのよ?」
メリンダ王女もリリスと同じ疑問を持っていたようだ。
「火力の違いを見せつけるんじゃないの? 竜のブレスなんてあいつには栄養剤みたいなものよ。」
「多分、竜のコロニーを焼き尽くすぞとか言いながら説得するんじゃないのかなあ。」
他人事のように話すユリアの口調が白々しい。
だがそれは竜達にとって災厄だ。
直ぐに話が付くわよと言うユリアの言葉に半信半疑で、リリス達はソファに座って時間を潰した。だが10分も経たぬうちに赤い衣装のピクシーが目の前に現れた。その表情はやけに明るい。
「話が付いたわよ。リリスが居るから安心して良いわよって言ったら、それならと言う事でリンの外出を承諾してくれたからね。」
う~ん。
本当だろうか?
どうも怪しい。
「それでリンちゃんの護衛のハドルさんも来るの?」
「えっと、それはどうかな? 回復すれば来るかも・・・」
ふと漏らしたタミアの言葉にユリアがまゆをひそめ、
「あんた、何をやったのよ?」
追及された赤い衣装のピクシーはばつが悪そうに頭を掻きながら、
「吐いたブレスを十倍にして返してあげただけよ。そのせいで数体の竜を炙っちゃったけどね。」
やはり最終的には力づくなのね。
呆れるリリスに赤い衣装のピクシーは照れ笑いをしながら、
「それで・・・リンの外出の日時なんだけど、明後日の午前中はどうかな?」
「良いわよ!」
即座に芋虫が叫んだ。
「明後日の午前中ね。こっちはそれに合わせるだけよ。グランバート家には都合を合わせるように王家から命令を出すからね。」
芋虫の鼻息が荒い。権力にものを言わせるのもどうかと思うのだが。
その後若干の打ち合わせをしてその場は解散となった。
そして迎えた当日の朝。
リリスはメリンダ王女やフィリップ王子と共にグランバート家の広大な中庭に居た。木々や花々が植えられた庭の中央には巨大な噴水もある。
低木の生垣も綺麗に剪定されていて、庭園としてのデザインも秀逸だ。
色とりどりの花の間を飛び回る蝶に時折目を向けながら、リリスはその中庭の片隅のテラスでお茶を頂いていた。
「リトラスってリンちゃんとしっかりお話しできているかしら?」
同じテーブルで紅茶を飲むメリンダ王女が心配そうに呟いた。
「大丈夫じゃないの? だって二人で手を繋ぎながら笑顔で散歩しているわよ。」
「う~ん。それなら良いんだけどねえ。」
リリスはそう言いながら中庭に造られた遊歩道を歩く二人に目を向けた。
リンの隣で歩いている色白で背の高い少年。リトラスは初見だが如何にも優しそうな少年だった。だが聞いていた通り生気が感じられない。
病弱な身でありながら、リンと会えると言うので無理をしているのだろう。
試しに魔力の波動を探知しても、リトラスの魔力の動きがほとんど感じられない。まるで魔力が停滞してしまっているようだ。
これでは常時、魔力不足と同じような症状を引き起こすだろう。
それにしても原因は何だろうか?
5年ほど前までは元気で活発な子供だったと聞く。
もしかするとアイリス王女のような、巧妙な呪いを掛けられているのかも知れない。
とは言えこの時点でリリスは、リトラスに呪いの気配を感じていなかった。
リリスやメリンダ王女と同じテラスのテーブルで、二人の姿を微笑ましく眺めているのは、このグランバート家の当主の夫人フランソワである。
メリンダ王女の母親の妹に当たる彼女は気品のある顔立ちの女性だ。
王家から伝令が届いた時は彼女も驚いた。だがその要件は長男のリトラスの願いを叶えてくれる内容だったので、特に案ずるような要件ではなかった。
どうやらメリンダ王女からの配慮のようだが、まさかフィリップ王子まで来るとは思わなかった。さらにメリンダ王女の数奇な運命を転換するのに貢献したリリスと言う少女まで同行している。
この少女のおかげで今日のリトラスとリンとのデートが実現しているそうだ。
地方貴族の娘なのにどうして王族と縁を持ったのかしら?
リリスの表情やたたずまいを見ながらフランソワは不思議に思った。フィリップ王子やメリンダ王女との会話で、二人からの信頼の高さを感じさせられる。
更にリリスから感じられる気配の特異性。
フランソワは自分の持つ感知能力の高さに自信を持っていた。その感知能力がリリスの身体から時折、強大な魔物の様な魔力の波動を感じ取ってしまうのが信じられなかった。
だがメリンダ王女からリリスが覇竜の加護を受けたと聞き、それが理由だと判明したのだが、そうなると次なる疑問が湧いてくる。
どうしてこの少女が覇竜の加護を受ける事になったのだろうか?
知れば知るほどに不思議な少女だ。
それと気に成るのがリンと言う名の少女。
メリンダ王女の話では詳細は秘密だが、とある国の王族だと言う。愛嬌のある笑顔の可愛い少女だが、そのたたずまいと気配はこの子の下に大勢の臣下が居る事を感じさせられる。そしてこの子からも時折、強大な魔力を感じさせられる。勿論本人は秘匿しているようだが、フランソワは自分の能力の高さ故に感じ取ってしまうのだ。
秘密のありそうな少女だが、リトラスが会いたいと懇願し、メリンダ王女がリンの身分を保証してくれているので意義を挟む余地は無い。
微妙な心情を抱きつつ、フランソワはリトラスとリンを眺めていた。
一方、リンはリトラスと会って楽しい時間を過ごしていた。仮装ダンスパーティー出会った時よりも体の調子は悪そうだが、自分と会うために無理をして出て来ているのだろう。そう思うと嬉しくなって、つい話も弾む。
だがリンは笑顔を振りまきながらも、リトラスから微妙に感じられる呪いの気配が気に成っていた。それは仮装ダンスパーティーで会った時には気のせいだと思うほどの巧妙なものだったが、リトラスと手を繋いで歩くうちに、リトラスの魔力を探知して感じ取ったものだった。
この呪いは人族では探知出来ないだろうなあ。
そう思うとリンは悲しくなってきた。リトラスのような優しい子に誰が呪いをかけるのだろうか?
人族の様々なしがらみがあるのかも知れない。そうは思いつつも人族の事情には疎いリンだ。リトラスを元気づけてあげたい。そんな殊勝な気持ちでリンは一杯になっていた。
「ねえ、リト君。あそこに座ろう。」
リンはリトラスを誘って、中庭の庭園の中にあるベンチに座った。
「今日は会ってくれてありがとう。」
そう言って笑顔を向けるリトラスに、リンは小声で呟いた。
「リト君。少し目を瞑っていてくれる?」
目を瞑っていろと言われて、リトラスはドキッとした。リンは何をするつもりなのだろう。そう思っていると自分の頬にリンの吐息が感じられる。
淡い期待で胸が膨らむリトラスである。
だがリンはリトラスの耳にふうっと息を吹き込んだ。
「うわあっ! くすぐったいよ、リンちゃん!」
驚いてリンを見つめるリトラスにリンは真顔で、
「リト君が元気になるおまじないだよ。」
そう言ってうふふと含み笑いを見せた。
その様子を遠くから見ていたリリスは、その微笑ましさに胸がきゅんとなってしまった。
若いって良いわよねえ。
リリス自身もまだ14歳なのだが、中身はやはりアラサーの女性である。二人の初々しい姿をおばさんの視線で見てしまったようだ。
結局、リトラスとリンのデートは1時間ほどで終わりとなった。
これはリトラスの体調を気遣っての事だろう。
またいつか会おうねと言葉を交わし、リンは帰途に就く。その場を取り繕うために王家の馬車に乗り込み、リリス達はグランバート家を後にした。
その後王城の近くの公園でリンは迎えに来てくれたハドルと合流し、コロニーへと帰還する事になる。
だが、迎えに来たハドルは何故か、少し恨めしそうな視線をリリスに向けた。
「リリス殿。先日こちらに来た亜神はリリス殿が送り込んできたのですか?」
「とんでもない災厄に見舞われましたよ。」
ハドルの視線が痛い。
「そんな事はしていないですよ!」
リリスは全否定した。だがそう言う事になっているのだろうか? そうだとしたらまた竜達から忌まわしい存在だと思われてしまう。
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