落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

文字の大きさ
113 / 369

少年とダンジョン3

しおりを挟む
閉じ込められたドーム状の空間。その中央にはデュラハンのハーグが高笑いをしている。

攻略の手立てを求め、リリスは解析スキルを発動させた。

聖魔法が効かないの?

『馬の纏っている防具が聖魔法を無効にしていますね。あの防具には特殊な呪詛が組み込まれているようです。』

そうなのね。
それでリト君の聖魔法が効かなかったのね。
それでどうすれば良いの?

『あの馬の防具を破壊するしか道は有りませんね。』

破壊出来るの?

『呪詛を解呪出来れば可能です。』

解呪!
そう言えば破邪の剣を構成していた呪詛って再構築出来るはずよね。あの呪詛って解呪に特化した特殊なものばかりだって言ってたわよね。

『その通りです。』

それなら使ってみる価値はあるわね。でも呪詛を纏わらせる剣と言ってもダガーしかないから、接近戦に持ち込むしかないのかしら?

『破邪の剣の形状だけなら魔力で再現出来ますよ。それに魔力の剣なら長さも自在です。』

でもそんな長剣振り回せないわよ。

『自分の魔力だから力は要りませんよ。ダガーから魔力で伸延して構築するのがお勧めです。』

そうよね。手元に物質感があった方が良いわよね。

リリスは即座にダガーを手に持ち直した。それを前に突き出してグッと魔力を注ぎ、解析スキルが取り込んでいた破邪の剣のデータを基に錬成していく。
ダガーから青白い魔力の光が伸びると、それは長さ1mほどの半透明の刀身となった。
青白く光る半透明の剣だ。

「リリス君! それは何なんだ?」

ジークも驚きの表情で見つめている。

「リト君! この剣に聖魔法の魔力を流して!」

リトラスはリリスの声に反応して即座に聖魔法の魔力を流してきた。魔力の剣はそれに応じて更に輝きを増す。
同時にリリスは呪詛構築のスキルを発動させ、破邪の剣から取り込んでいた解呪の呪詛をすべて再構築し、魔力の剣に纏わらせた。
リリスの手首から金色の紐のような呪詛が伸び出して、魔力の剣に纏わり付いて行く。
その形状は実に異様だ。

「それって・・・何なの?」

芋虫の問い掛けをスルーして、リリスは剣を完成させた。ジークも驚きのあまり声も出ない。
金色の紐状の模様を纏った半透明の青白い刀身は、リトラスの聖魔法も加えて更に伸び、長さが2m近くにもなった。
だがそれでも重さは感じない。リリスの手に感じられるのは、手に持っているダガーの質量のみだ。
これならいくらでも振り回せる。

「リト君! 身体強化を掛けて!」

リリスの声に応じてその意図を理解したリトラスは、身体強化と共にブーストを掛けた。

リリスは瞬時にハーグに駆け寄り、ハーグの剣を躱しながら魔力の剣で馬の防具に切りつけた。

眩い光が放たれ、パアンと言う音と共に馬の防具の横縞が消えて行く。それと同時に禍々しい気配が防具から消えた。呪詛の解呪に成功したようだ。
これでハーグの本体を狙える!

リリスは瞬時に態勢を整え、魔力を蓄えながらハーグから少し距離を取った。

「リト君! スラッシュで止めを刺すわよ!」

そう言いながら駆け出したリリスの声に応じてリトラスが聖魔法の魔力を蓄え、発動のタイミングを探った。リトラスの身体強化のお陰でリリスの身体の動きが速い。リリスを警戒するハーグの振るった剣の動きも緩やかに見えるほどだ。上手く剣を躱すリリスの動きにハーグの首が驚きの表情を見せる。
リリスは更にハーグに駆け寄って距離を詰め、魔力の長剣を斜め上段に振り上げた。

ここだ!

リリスがハーグの剣の動きを躱しながら、一気に袈裟懸けに切り下すそのタイミングで、リトラスはスラッシュを発動させた。

「「スラッシュ!」」

憑依でシンクロした二人の声が同時に放たれた。それはスラッシュの発動のきっかけでもある。
発動されたスラッシュで魔力の長剣は一気にその長さと幅を伸ばし、白く光り輝く巨大な剣となってハーグの身体に襲い掛かる。
聖魔法の魔力で構成された剣がハーグに近付くに連れて更に光を増し、一気にハーグの身体を一閃した。

「ウオオオオオオオッ!」

おぞましい悲鳴を上げるハーグの身体が斜めに分断され、その中から黒い霧が立ち上った。それと同時に馬が消えていく。
程なく両断されたハーグも霧のように消えていった。

「勝ったわ!」

芋虫の歓喜の叫びが聞こえた。
一方ジークはデュラハンを倒すなんて信じられないと言った表情で、リリスの顔を無言で見つめていた。

台座の魔方陣も消えていく。だが台座の中央にぽっと小さな青白い光の球が現われた。
まだ消え去っていないのか?
リリスは再び魔力の剣をかまえて、その光に少しづつ近寄った。

青白い光の球は徐々に形を変えていく。それは次第に人の形となった。半透明だが甲冑を纏った騎士の姿だ。

「よくぞ儂を闇のくびきから解放してくれた。礼を言うぞ。」

端正な顔の騎士がリリスに話し掛けて来た。これはデュラハンになっていたハーグの本来の姿なのだろうか?

「あなたは・・・ハーグさんですか?」

「如何にも。儂は生前はアストレア神聖王国の王族であり聖騎士だったのだが、政争に巻き込まれ、結果として闇に落ちてしまった。その上に敵の策略でデュラハンとなって長く封じられていたのだが、お前のお陰でそのくびきからも解放された。改めて礼を言うぞ。」

そう言いながらハーグは持っていた長剣をリリスの目の前に置いた。半透明であったハーグの長剣が徐々に実体化していく。だが現れた長剣は刀身が半分ほど朽ちていて、柄もボロボロになっていた。

「かなり傷んでしまっているが、これは儂が愛用していた聖剣だ。銘をホーリースタリオンと言う。朽ちてはいるが材料は希少な魔金属だ。お前ならそれを錬成出来るだろう。」

そう言われたリリスは若干戸惑った。

「私が錬成出来ると思うのですか?」

「何を惚けておるのだ。儂の目の前で魔力の剣を錬成したではないか。」

あら、バレちゃってるわ。
意外に良く見てるのね。

「ホーリースタリオンは聖魔法の属性を持つ者が所持してこそ、その真価が現われる。錬成して儂を解放した聖魔法の持ち主に授けるが良い。」

ああ、そう言う事なのね。

ハーグはリリスの肩の使い魔を見つめた。

「そこに憑依している少年、名は何と言うのだ?」

どうやらリトラスの存在を理解しているようだ。

「リトラスです。」

「うむ。そなたの聖魔法の素養は非常に優秀だ。研鑽を積み聖騎士となって世に正義と公正の理を立てよ。」

そう言いながらハーグの身体は次第に薄れていく。

スッと消え去った後、台座の中央から微かな声が聞こえてきた。

「決して・・・儂のように・・・闇に落ちてはならぬぞ。」

「その言葉、心に留め置きます!」

リトラスがそう叫ぶと、朽ちていたホーリースタリオンが一瞬青白い光を放った。ハーグに別れを告げたのかも知れない。

「これで終わったんだね。」

そう言いながらジークがリリスに近付いた。

だがその時リリスの周囲のものがすべて動きを止めた。驚いたリリスが自分の肩に目を向けると、芋虫までその動きが止まっている。
リリスも身体が動かないのだが、首から上は動くようだ。

そのリリスの目の前に黒い霧が現われ、その中から見覚えのあるリッチが姿を現した。

ダンジョンマスターのゲールだ。

ゲールはリリスの目の前まで近づいてきた。

「リリス。大丈夫だったか?」

「大丈夫じゃないわよ!」

思わず声を荒げたリリスにゲールはまあまあと宥めながら、

「ダンジョンコアが暴走してしまったのだよ。落ち着かせるのにかなり手間取ってしまったのだ。」

「どうして暴走しちゃったの?」

リリスの問い掛けにゲールは顔をしかめ、

「お前が原因なのだ。お前がこのダンジョンに入ってきた途端に、巨大な魔物の気配を感じたのだよ。それも明らかに好戦的な波動だった。このダンジョンを全て焼き尽くそうと言う強烈な意志すら感じたのだ。」

「だが何故あれほどまでにダンジョンコアが過敏に反応したのかは、儂にもよく分からないのだ。」

それってもしかして覇竜の加護の影響なの?

話がややこしくなりそうなので、リリスは竜の加護を貰ったとだけゲールに伝えた。

「それでダンジョンコアの暴走でデュラハンが現われたの?」

「そうだ。あれは本来は第40階層に棲み着いていたものだ。だがそれにしても良く倒せたものだな。あのデュラハンは本来は高位の聖騎士や、浄化に特化したビショップを擁したパーティでなければ倒せんはずなのだが・・・」

そう言いながらゲールはリリスの肩で固まっている芋虫を見た。

「そうか。その状態なら3人でパーティを組んでいるようなものだな。」

うんうん、そうよね。
メルやリト君とパーティを組んで闘ったと言えるわね。

「それでゲールさん、この状況は・・・」

リリスの問い掛けにゲールはそうそうと言いながら、

「お前に聞いておこうと思ったのだよ。お前がデュラハンを倒した事は無かった事にしたくないのか?」

ああ、私に気を遣ってくれたのね。

ゲールはおそらく、ジークやメリンダ王女やリトラスの記憶を操作してくれるつもりなのだろう。

「デュラハンとの戦闘の記憶を消してしまうと、リト君が頑張った事まで消えてしまうわ。彼には自信を持って欲しいのよ。だからデュラハンとの戦闘の記憶は消したくないんだけど・・・」

リリスの言葉を聞いてゲールはう~んと考え込んだ。少し間を置いて、

「それならその少年の聖魔法で簡単に倒せた事にしよう。それで良いか?」

「それならありがたいわ。ついでに魔力の剣の錬成や構築した呪詛の事も消しておいてね。」

リリスの言葉にゲールは唖然とした。

「リリス、お前はそんなスキルまで持っているのか? 呆れた奴だな。それならあのデュラハンを倒せたのもうなづけるわい。」

ゲールはそう言うと手を突き出し、周囲に魔力を放った。
その途端にリリスの目の前が暗転し、気が付くと台座の前でジークが転移の魔石を取り出していた。

「あのデュラハンは強そうだったが、難なく倒せたのはリトラス君の聖魔法のお陰だね。それじゃあ帰ろうか。」

そう言う事になっているのね。
まあ、リト君が自信を持ってくれればそれで良いわよ。

そう思って肩の芋虫を見ると実に嬉しそうだ。リトラスが活躍したと言う事になっているのだろう。

転移の魔石が発動して目の前が再び暗転した。
こうしてリリス達は魔法学院の地下の訓練場に無事戻ったのだった。






しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?! はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?! 火・金・日、投稿予定 投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...