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仮装ダンスパーティーの混迷2
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仮装ダンスパーティーで突然意識を失ったリリス。
そのリリスの目を覚まさせたのは若い女性の声だった。
「リリス様! 起きて下さい! 早く起きて!」
朦朧としながら目を開くと、リリスの目の前に白い法衣を着た20歳前後の若い女性が立っていた。
その顔つきが何となくマキに似ている。
女性の背後には街並みが広がり、大勢の人々の叫ぶ声が聞こえてくる。
ここは何処なの?
私って・・・・・仮装ダンスパーティーに居たはずなんだけど・・・・・。
そう言えばあの男は何処へ・・・。
混乱しながらも体を起こすと、リリスはダンジョン探索時に定番のレザーアーマーを着用していた。
確か赤いドレスを着ていたはず・・・。
そう思いながらふと鼻につく匂いが気になった。
血の匂いだ。
風と共に流れてくる血の匂い。
それは大量の流血を類推させる。
「あなたは誰?」
リリスの問い掛けにその女性は軽く会釈した。
「私は神殿の祭司マキナです。ここにリリス様が王宮から転送されてくると、賢者アルバ様からお聞きして駆けつけたのです。」
賢者アルバ?
あのアルバなの?
どうも良く分からない。
様々な思いが浮かんでくるがどれも断片的で、リリスの頭の中を錯綜している。
「ちょっと待ってね、マキナさん。少し頭の中を整理しないと・・・・・」
頭を軽く叩きながら呟いたリリスの言葉に、マキナは真顔になって叫んだ。
「待っている余裕はありません!」
そう言ってリリスの背後を指差すマキナ。
リリスが振り返ると石造りの美しい街並みが遠くまで広がっている。
だがその街並みの奥に黒い絨毯のようなものが見えて来た。
あれは何だろうか?
その黒い絨毯は街並みの一部を包み込むように動き、徐々にこちらに近付いているように見える。
目を凝らして見ると、街並みを飲み込み破壊している様子が分かった。
黒い絨毯のように見えたのは・・・・・大量の魔物だ!
一体どれほどの数が居るのだろうか?
絨毯のように見えるのは、何重にも折り重なりながら動き回っているからなのだろう。
血の匂いの元凶はあれだったのか!
リリスの顔に戦慄が走る。
「あれって・・・・・」
絶句するリリスにマキナは手早く答えた。
「魔王軍が送り込んできた大量の魔物です。」
「一体一体の移動速度はそれほど早くありません。人の速足程度です。でも5000体を超える数の力で街を破壊し、逃げ遅れた住民を食べ尽くしていくのです。」
うっ!
凶悪ね。
「それでどんな魔獣達なの?」
「魔槍を扱う黒いアラクネが半数を占め、残りは小型のケルベロスやキメラなどです。どれも攻撃魔法の質が高く、防御力も高いので王都の軍でも対抗出来ませんでした。それで賢者アルバ様がリリス様を、至急こちらに転送して下さったと聞いています。」
いやいや。
そんな事を言われてもねえ。
私にどうしろと・・・・。
それにこのマキナって女性も気になる。
「それでマキナさんはどうやって闘うって言うの?」
リリスの言葉にマキナはニコッと笑った。
その顔が若干可愛い。
「私は聖女を目指すヒーラーです。リリス様の回復役ですね。それと・・・」
そう言いながらマキナは自分の手を胸に当てた。
「自分の防御は空間魔法の個人用シールドで対処しますので、私の事は案ずる事なく闘って下さい。」
う~ん。
そうは言ってもねえ。
リリスはうねうねと動きながら徐々に近づいてくる黒い魔物の塊を見つめた。
市街戦ってあまり経験が無いのよね。
でもあれだけの数だから個別に駆除するなんて無理だし・・・・・。
少し考え込むリリスの表情を読み取って、マキナはきっぱりと伝えた。
「リリス様。この段階で街の温存なんて考えなくても良いですよ。既に大半の住民は退去しましたので・・・・・」
まあ、それはそうだ。
リリスはマキナの言葉に少し救われたと思った。
この状況で街を破壊せずに、あれだけの大量の魔物を駆除するなんて不可能だ。
それなら対処の仕様はある。
リリスの魔力が枯渇しなければ良いのだが・・・。
そうか!
その為の回復役がマキナなのか!
リリスはその意図を掴んで奮い立った。
その途端に頭の中に色々な戦略が浮かんでくる。
どうしてこんなところで、魔物の駆除をしなければならないのだろうと言う思いが、不思議な事にふっと消えてしまった。
何の疑問も無くリリスの身体が自然に動く。
まるで何かに操られている様に・・・・・。
「リリス様。お任せします!」
マキナの言葉にリリスはうんと頷き、身体中に魔力を漲らせた。
更に魔装を非表示で発動させ、魔力吸引スキルも発動させたリリスは、大量の魔物に向かってマキナと共に走り出した。
街路を走る事5分。
目の前に迫る黒い絨毯の細部が見えて来た。
それは幾重にも重なりながら蠢く蜘蛛の波だ。しかもアラクネなのでその一体一体に無表情な顔が付いていた。
更にその目が全て赤く光り点滅を繰り返している。
ううっ!
気持ち悪~い。
魔物との距離は約200m。
突然リリスの目前に半透明のシールドが現われた。
マキナが張り巡らせたのだろう。
そのシールドにドンドンッとファイヤーボールが激突してきた。そのたびに真っ赤な炎が立ち、ビリビリと振動が伝わってくる。
これはアラクネ達の背後のケルベロスやキメラなどの仕業なのだろう。
リリスは即座に土魔法で広範囲の街並みを土に戻し、そこに巨大な泥沼を出現させた。
その泥沼に強毒を撒くつもりで解析スキルを発動させた。
だが解析スキルの反応が無い。
それでも毒の生成は可能なようで、リリスの意志に合わせて反射的に疑似毒腺が形成され、大量の強毒が生成されていくのが分かる。
それをリリスは水魔法で泥沼に散布し、更にエアバーストで毒霧にして魔物達に向けて一機に送り出した。
これで若干の足止めは出来るだろう。
リリスは更に魔力を集中させ、泥沼に火魔法を連動させた魔力を放ち始めた。
泥沼の温度が徐々に上がっていく。
だが魔力の消耗も激しい。
既に魔力量は半減したかも知れない。
リリスの額に冷汗が滲む。
その様子を見たマキナがリリスの背後から声を掛けた。
「リリス様。魔力の泉を差し上げますね。」
うん?
それって何?
戸惑うリリスの背中に熱い塊りが浸透してきた。
振り返るとマキナがその魔力を片手でリリスの背中に放ち、もう一方の手には金色に光る壺のようなものが出現した。
その金色の壺がマキナの放つ魔力に沿って移動し、リリスの背中に入り込んでいく。
その途端にリリスは身体中に魔力が漲ってくるのを感じた。
魔力が身体中から溢れかえってきて、手や足から噴き出してしまいそうだ。
これなら大丈夫だわ!
リリスは溢れる魔力を存分に投入した。
泥沼の温度が急激に上がり、至る所に蒸気が噴き出し始めた。
だがまだまだ魔力に余裕がある。
リリスは更に魔力を投入し、熱気を帯びた泥沼を拡大させ、その深さも数mに掘り下げた。
それでもまだ身体の中から魔力が溢れてくる。
なんて凄いスキルなの!
元聖女のマキちゃんでもこんなスキルは持っていなかったわよ!
そう思って振り返ると、マキナは魔力を集中させながら荒い息を吐いている。
これだけのスキルを駆使するからには、マキナの身体に負担が無い筈がない。
それを悟ってリリスは再度決意を固めた。
魔力を集中し、幅100mにもなる灼熱の泥沼の両側の地面を大きく隆起させ、更に随所に土壁を造り上げて、魔物達を泥沼に誘い込む状況を造り上げる。その上で両手を突き出し、リリスは大量のファイヤーボルトを魔物達の後方に向けて次々に放った。
それによって魔物達の後方から圧を掛ける為だ。
大量の魔物の軍団の背後に大きな火柱が次々に立ち上がり、爆炎と衝撃で魔物が吹き飛ばされていく。
その威力が凄まじい。
何故か火魔法による火力がかなり上がっている。
これもマキナのスキルによるものだろうかと思いながら、リリスはファイヤーボルトを放ち続けた。
それによって前進せざるを得なくなった魔物達は、その前進の勢いもあって次々に泥沼にはまっていった。
泥沼は既に溶岩と化して、赤々と燃え上がっている。そこにはまり込んでいく魔物の阿鼻叫喚の絶叫が至る所から響き渡った。
それでもアラクネ達は断末魔の悲鳴を上げながらも、最後の力を振り絞って、手に持つ魔槍をリリスに向かって一斉に投げつけてきた。
数百本の魔槍がリリスの目の前のシールドにぶつかり、その衝撃でシールドがパリンと音を立てて破壊されてしまった。
「うっ! 拙い!」
呻くような声をあげてマキナは再びシールドを張り直した。
だが再度襲い掛かって来た数百本の魔槍に再び破壊されてしまう。
それでもマキナはシールドを張り直した。
幾度かの繰り返しの後に、ようやく大量の魔槍の襲来が収まると、既にアラクネの姿は無くなり、その後に続くケルベロスが溶岩の沼の前で立ち止まっていた。
「逃さないわよ!」
リリスは土魔法を発動させ、ケルベロス達の立つ大地をも泥沼にしてしまった。
予期せぬ泥沼の出現にケルベロス達は逃げる間も無く泥沼に沈んでいく。そこに前方の溶岩の沼から溶岩流が怒涛のように流れ込み、すべてが焼き尽くされていった。
大量のケルベロスが悲鳴を上げる間も無く焼き尽くされていく。
その間もリリスは後方に大量のファイヤーボルトを放ち、同時にエアバーストで強毒の霧を大量に撒き散らした。
普段のリリスであれば、既に魔力は完全に枯渇していただろう。
魔力吸引スキルを駆使しても間に合わないほどに、大量の魔力を消耗している。
それを可能にしているのはマキナのスキルのお陰だ。
勿論、マキナの消耗も苛烈なのだが・・・。
一方、魔物の軍団は最初から強毒に晒されてその動きが鈍っていた。勿論毒に対する耐性は当然の事ながら持っている。だがそれを凌駕する強毒が撒き散らされ、泥沼に散布された強毒は熱気で更に拡散し、魔物達の身体を蝕んでいた。
この魔物達に明確な自我は無い。
魔人に操られ、本能のままに闘い、本能のままに敵を食べ尽くす。目の前に危険があったとしても、逃げ惑うような行動はしない。
魔物達はリリスの放った大量のファイヤーボルトで後方から煽られ、嫌でも前進せざるを得ない状況に追い込まれた。
雪崩れ込む様に溶岩の泥沼に突入し、焼き尽くされていくだけだった。
リリスの視界から大量の魔物が消え去った。残っているのは100体ほどのキメラだ。だがそれも今のリリスの敵ではない。
大量に放たれたファイヤーボルトは、火魔法への耐性を持つはずのキメラを焼き尽くし、その衝撃と爆炎によって大地ごと吹き飛ばしてしまう。
どれだけ火魔法が強化されているのだろうかと、自分自身に対して驚きながらも、リリスは攻撃を続けた。
約10分後。
ほぼ全ての魔物は駆除された。
「マキナさん、大丈夫?」
大量の汗を流しながらリリスは振り返り、マキナに声を掛けた。
マキナはハアハアと荒い息を吐き、その場に座り込んでいた。
「・・・私は・・・大丈夫です。」
そう言ってよろよろと起き上がりながら、マキナはリリスの前方を指差した。
同時にリリスの耳にギヤーと言う、悲鳴のような金切り音が聞こえて来た。
振り返ると上空に半透明の幕のようなものが見える。
だがそれは幾重にも重なって飛来してくるレイスの群れだった。
おそらく100体以上は居るだろう。
それはおぞましい死霊の群れだ。
実体のないレイスには魔法攻撃のみならず、物理攻撃も効き目が無い。
だがリリスの目の前には聖魔法を得意とするマキナが居る。
「マキナさん。アイツらを浄化出来る?」
リリスの問い掛けにマキナは少し辛そうに無言で頷いた。
どうやら魔力の泉と言うスキルを常時発動させる事で、魔力をかなり消耗してしまったようだ。
「困った時はお互い様よね。私の魔力をマキナさんに流してあげるわ。元々マキナさんから貰った魔力だから・・・」
リリスは即座にマキナの手を取り、自分の魔力を流し始めた。
その魔力がマキナの身体を仄かに光らせ始めた。
「う~ん。これって・・・特異な魔力ですね。香ばしいと言うか、味わい深いと言うか・・・」
まるで亜神達から聞いた感想のようだ。
「スキルのイメージ化が鮮明に出来ます! これって凄い。まるで魔力と共に知恵を与えられたみたいだわ。」
マキナは嬉々とした表情ですくっと立ち、両手を上空に突き出して魔力を放ち始めた。
それと同時に大量の大きな魔方陣が上空に現われ、天空を埋め尽くすほどに増え広がっていった。
マキナが更に魔力を放つと、上空を埋め尽くす魔方陣から白く眩い光の束が大地に向けて放たれた。
それはまるで大量のスポットライトだ。
浄化の光が魔方陣から一斉に地上に放たれ、そのあまりの眩しさに目が眩んでしまう。
30秒ほど経過し、浄化の光が収まると、そこにはレイスの姿は見当たらなかった。
見事に浄化されてしまったようだ。
ホッとするリリス。
だがマキナはキッと唇を噛み締め、周囲の上空を見回した。
「リリス様。まだ終わっていませんよ。あの大量の魔物を操っていた奴らが残っているはず・・・・」
その言葉の終わらないうちに、溶岩の沼の上空に2個の光球が現われた。
それは次第にその姿を変え、2体の真っ黒な人型になった。
ううっ!
あれは魔人だ!
とうとう魔人まで出てきちゃったのね。
魔人の黒い身体が空中でゆらゆらと揺れている。
その赤い眼が不気味に光り、その大きな口が開いた。
「貴様は何者だ? こんな事の出来る人族が本当に居るのか?」
問い掛けながらもファイヤーボールを放つ。これは魔人のやり口だ。
油断させたつもりなの?
小賢しいわね。
リリスは即座にマキナに指示を出し、シールドを幾重にも重ね掛けさせた。
そのシールドに魔人から放たれた大きな火球が幾つもぶつかり、激しい衝撃と爆炎が立ち上がった。
魔人相手の闘いに躊躇いなど無い。
リリスは2体の魔人を睨みつけ、その攻撃のタイミングを計っていた。
そのリリスの目を覚まさせたのは若い女性の声だった。
「リリス様! 起きて下さい! 早く起きて!」
朦朧としながら目を開くと、リリスの目の前に白い法衣を着た20歳前後の若い女性が立っていた。
その顔つきが何となくマキに似ている。
女性の背後には街並みが広がり、大勢の人々の叫ぶ声が聞こえてくる。
ここは何処なの?
私って・・・・・仮装ダンスパーティーに居たはずなんだけど・・・・・。
そう言えばあの男は何処へ・・・。
混乱しながらも体を起こすと、リリスはダンジョン探索時に定番のレザーアーマーを着用していた。
確か赤いドレスを着ていたはず・・・。
そう思いながらふと鼻につく匂いが気になった。
血の匂いだ。
風と共に流れてくる血の匂い。
それは大量の流血を類推させる。
「あなたは誰?」
リリスの問い掛けにその女性は軽く会釈した。
「私は神殿の祭司マキナです。ここにリリス様が王宮から転送されてくると、賢者アルバ様からお聞きして駆けつけたのです。」
賢者アルバ?
あのアルバなの?
どうも良く分からない。
様々な思いが浮かんでくるがどれも断片的で、リリスの頭の中を錯綜している。
「ちょっと待ってね、マキナさん。少し頭の中を整理しないと・・・・・」
頭を軽く叩きながら呟いたリリスの言葉に、マキナは真顔になって叫んだ。
「待っている余裕はありません!」
そう言ってリリスの背後を指差すマキナ。
リリスが振り返ると石造りの美しい街並みが遠くまで広がっている。
だがその街並みの奥に黒い絨毯のようなものが見えて来た。
あれは何だろうか?
その黒い絨毯は街並みの一部を包み込むように動き、徐々にこちらに近付いているように見える。
目を凝らして見ると、街並みを飲み込み破壊している様子が分かった。
黒い絨毯のように見えたのは・・・・・大量の魔物だ!
一体どれほどの数が居るのだろうか?
絨毯のように見えるのは、何重にも折り重なりながら動き回っているからなのだろう。
血の匂いの元凶はあれだったのか!
リリスの顔に戦慄が走る。
「あれって・・・・・」
絶句するリリスにマキナは手早く答えた。
「魔王軍が送り込んできた大量の魔物です。」
「一体一体の移動速度はそれほど早くありません。人の速足程度です。でも5000体を超える数の力で街を破壊し、逃げ遅れた住民を食べ尽くしていくのです。」
うっ!
凶悪ね。
「それでどんな魔獣達なの?」
「魔槍を扱う黒いアラクネが半数を占め、残りは小型のケルベロスやキメラなどです。どれも攻撃魔法の質が高く、防御力も高いので王都の軍でも対抗出来ませんでした。それで賢者アルバ様がリリス様を、至急こちらに転送して下さったと聞いています。」
いやいや。
そんな事を言われてもねえ。
私にどうしろと・・・・。
それにこのマキナって女性も気になる。
「それでマキナさんはどうやって闘うって言うの?」
リリスの言葉にマキナはニコッと笑った。
その顔が若干可愛い。
「私は聖女を目指すヒーラーです。リリス様の回復役ですね。それと・・・」
そう言いながらマキナは自分の手を胸に当てた。
「自分の防御は空間魔法の個人用シールドで対処しますので、私の事は案ずる事なく闘って下さい。」
う~ん。
そうは言ってもねえ。
リリスはうねうねと動きながら徐々に近づいてくる黒い魔物の塊を見つめた。
市街戦ってあまり経験が無いのよね。
でもあれだけの数だから個別に駆除するなんて無理だし・・・・・。
少し考え込むリリスの表情を読み取って、マキナはきっぱりと伝えた。
「リリス様。この段階で街の温存なんて考えなくても良いですよ。既に大半の住民は退去しましたので・・・・・」
まあ、それはそうだ。
リリスはマキナの言葉に少し救われたと思った。
この状況で街を破壊せずに、あれだけの大量の魔物を駆除するなんて不可能だ。
それなら対処の仕様はある。
リリスの魔力が枯渇しなければ良いのだが・・・。
そうか!
その為の回復役がマキナなのか!
リリスはその意図を掴んで奮い立った。
その途端に頭の中に色々な戦略が浮かんでくる。
どうしてこんなところで、魔物の駆除をしなければならないのだろうと言う思いが、不思議な事にふっと消えてしまった。
何の疑問も無くリリスの身体が自然に動く。
まるで何かに操られている様に・・・・・。
「リリス様。お任せします!」
マキナの言葉にリリスはうんと頷き、身体中に魔力を漲らせた。
更に魔装を非表示で発動させ、魔力吸引スキルも発動させたリリスは、大量の魔物に向かってマキナと共に走り出した。
街路を走る事5分。
目の前に迫る黒い絨毯の細部が見えて来た。
それは幾重にも重なりながら蠢く蜘蛛の波だ。しかもアラクネなのでその一体一体に無表情な顔が付いていた。
更にその目が全て赤く光り点滅を繰り返している。
ううっ!
気持ち悪~い。
魔物との距離は約200m。
突然リリスの目前に半透明のシールドが現われた。
マキナが張り巡らせたのだろう。
そのシールドにドンドンッとファイヤーボールが激突してきた。そのたびに真っ赤な炎が立ち、ビリビリと振動が伝わってくる。
これはアラクネ達の背後のケルベロスやキメラなどの仕業なのだろう。
リリスは即座に土魔法で広範囲の街並みを土に戻し、そこに巨大な泥沼を出現させた。
その泥沼に強毒を撒くつもりで解析スキルを発動させた。
だが解析スキルの反応が無い。
それでも毒の生成は可能なようで、リリスの意志に合わせて反射的に疑似毒腺が形成され、大量の強毒が生成されていくのが分かる。
それをリリスは水魔法で泥沼に散布し、更にエアバーストで毒霧にして魔物達に向けて一機に送り出した。
これで若干の足止めは出来るだろう。
リリスは更に魔力を集中させ、泥沼に火魔法を連動させた魔力を放ち始めた。
泥沼の温度が徐々に上がっていく。
だが魔力の消耗も激しい。
既に魔力量は半減したかも知れない。
リリスの額に冷汗が滲む。
その様子を見たマキナがリリスの背後から声を掛けた。
「リリス様。魔力の泉を差し上げますね。」
うん?
それって何?
戸惑うリリスの背中に熱い塊りが浸透してきた。
振り返るとマキナがその魔力を片手でリリスの背中に放ち、もう一方の手には金色に光る壺のようなものが出現した。
その金色の壺がマキナの放つ魔力に沿って移動し、リリスの背中に入り込んでいく。
その途端にリリスは身体中に魔力が漲ってくるのを感じた。
魔力が身体中から溢れかえってきて、手や足から噴き出してしまいそうだ。
これなら大丈夫だわ!
リリスは溢れる魔力を存分に投入した。
泥沼の温度が急激に上がり、至る所に蒸気が噴き出し始めた。
だがまだまだ魔力に余裕がある。
リリスは更に魔力を投入し、熱気を帯びた泥沼を拡大させ、その深さも数mに掘り下げた。
それでもまだ身体の中から魔力が溢れてくる。
なんて凄いスキルなの!
元聖女のマキちゃんでもこんなスキルは持っていなかったわよ!
そう思って振り返ると、マキナは魔力を集中させながら荒い息を吐いている。
これだけのスキルを駆使するからには、マキナの身体に負担が無い筈がない。
それを悟ってリリスは再度決意を固めた。
魔力を集中し、幅100mにもなる灼熱の泥沼の両側の地面を大きく隆起させ、更に随所に土壁を造り上げて、魔物達を泥沼に誘い込む状況を造り上げる。その上で両手を突き出し、リリスは大量のファイヤーボルトを魔物達の後方に向けて次々に放った。
それによって魔物達の後方から圧を掛ける為だ。
大量の魔物の軍団の背後に大きな火柱が次々に立ち上がり、爆炎と衝撃で魔物が吹き飛ばされていく。
その威力が凄まじい。
何故か火魔法による火力がかなり上がっている。
これもマキナのスキルによるものだろうかと思いながら、リリスはファイヤーボルトを放ち続けた。
それによって前進せざるを得なくなった魔物達は、その前進の勢いもあって次々に泥沼にはまっていった。
泥沼は既に溶岩と化して、赤々と燃え上がっている。そこにはまり込んでいく魔物の阿鼻叫喚の絶叫が至る所から響き渡った。
それでもアラクネ達は断末魔の悲鳴を上げながらも、最後の力を振り絞って、手に持つ魔槍をリリスに向かって一斉に投げつけてきた。
数百本の魔槍がリリスの目の前のシールドにぶつかり、その衝撃でシールドがパリンと音を立てて破壊されてしまった。
「うっ! 拙い!」
呻くような声をあげてマキナは再びシールドを張り直した。
だが再度襲い掛かって来た数百本の魔槍に再び破壊されてしまう。
それでもマキナはシールドを張り直した。
幾度かの繰り返しの後に、ようやく大量の魔槍の襲来が収まると、既にアラクネの姿は無くなり、その後に続くケルベロスが溶岩の沼の前で立ち止まっていた。
「逃さないわよ!」
リリスは土魔法を発動させ、ケルベロス達の立つ大地をも泥沼にしてしまった。
予期せぬ泥沼の出現にケルベロス達は逃げる間も無く泥沼に沈んでいく。そこに前方の溶岩の沼から溶岩流が怒涛のように流れ込み、すべてが焼き尽くされていった。
大量のケルベロスが悲鳴を上げる間も無く焼き尽くされていく。
その間もリリスは後方に大量のファイヤーボルトを放ち、同時にエアバーストで強毒の霧を大量に撒き散らした。
普段のリリスであれば、既に魔力は完全に枯渇していただろう。
魔力吸引スキルを駆使しても間に合わないほどに、大量の魔力を消耗している。
それを可能にしているのはマキナのスキルのお陰だ。
勿論、マキナの消耗も苛烈なのだが・・・。
一方、魔物の軍団は最初から強毒に晒されてその動きが鈍っていた。勿論毒に対する耐性は当然の事ながら持っている。だがそれを凌駕する強毒が撒き散らされ、泥沼に散布された強毒は熱気で更に拡散し、魔物達の身体を蝕んでいた。
この魔物達に明確な自我は無い。
魔人に操られ、本能のままに闘い、本能のままに敵を食べ尽くす。目の前に危険があったとしても、逃げ惑うような行動はしない。
魔物達はリリスの放った大量のファイヤーボルトで後方から煽られ、嫌でも前進せざるを得ない状況に追い込まれた。
雪崩れ込む様に溶岩の泥沼に突入し、焼き尽くされていくだけだった。
リリスの視界から大量の魔物が消え去った。残っているのは100体ほどのキメラだ。だがそれも今のリリスの敵ではない。
大量に放たれたファイヤーボルトは、火魔法への耐性を持つはずのキメラを焼き尽くし、その衝撃と爆炎によって大地ごと吹き飛ばしてしまう。
どれだけ火魔法が強化されているのだろうかと、自分自身に対して驚きながらも、リリスは攻撃を続けた。
約10分後。
ほぼ全ての魔物は駆除された。
「マキナさん、大丈夫?」
大量の汗を流しながらリリスは振り返り、マキナに声を掛けた。
マキナはハアハアと荒い息を吐き、その場に座り込んでいた。
「・・・私は・・・大丈夫です。」
そう言ってよろよろと起き上がりながら、マキナはリリスの前方を指差した。
同時にリリスの耳にギヤーと言う、悲鳴のような金切り音が聞こえて来た。
振り返ると上空に半透明の幕のようなものが見える。
だがそれは幾重にも重なって飛来してくるレイスの群れだった。
おそらく100体以上は居るだろう。
それはおぞましい死霊の群れだ。
実体のないレイスには魔法攻撃のみならず、物理攻撃も効き目が無い。
だがリリスの目の前には聖魔法を得意とするマキナが居る。
「マキナさん。アイツらを浄化出来る?」
リリスの問い掛けにマキナは少し辛そうに無言で頷いた。
どうやら魔力の泉と言うスキルを常時発動させる事で、魔力をかなり消耗してしまったようだ。
「困った時はお互い様よね。私の魔力をマキナさんに流してあげるわ。元々マキナさんから貰った魔力だから・・・」
リリスは即座にマキナの手を取り、自分の魔力を流し始めた。
その魔力がマキナの身体を仄かに光らせ始めた。
「う~ん。これって・・・特異な魔力ですね。香ばしいと言うか、味わい深いと言うか・・・」
まるで亜神達から聞いた感想のようだ。
「スキルのイメージ化が鮮明に出来ます! これって凄い。まるで魔力と共に知恵を与えられたみたいだわ。」
マキナは嬉々とした表情ですくっと立ち、両手を上空に突き出して魔力を放ち始めた。
それと同時に大量の大きな魔方陣が上空に現われ、天空を埋め尽くすほどに増え広がっていった。
マキナが更に魔力を放つと、上空を埋め尽くす魔方陣から白く眩い光の束が大地に向けて放たれた。
それはまるで大量のスポットライトだ。
浄化の光が魔方陣から一斉に地上に放たれ、そのあまりの眩しさに目が眩んでしまう。
30秒ほど経過し、浄化の光が収まると、そこにはレイスの姿は見当たらなかった。
見事に浄化されてしまったようだ。
ホッとするリリス。
だがマキナはキッと唇を噛み締め、周囲の上空を見回した。
「リリス様。まだ終わっていませんよ。あの大量の魔物を操っていた奴らが残っているはず・・・・」
その言葉の終わらないうちに、溶岩の沼の上空に2個の光球が現われた。
それは次第にその姿を変え、2体の真っ黒な人型になった。
ううっ!
あれは魔人だ!
とうとう魔人まで出てきちゃったのね。
魔人の黒い身体が空中でゆらゆらと揺れている。
その赤い眼が不気味に光り、その大きな口が開いた。
「貴様は何者だ? こんな事の出来る人族が本当に居るのか?」
問い掛けながらもファイヤーボールを放つ。これは魔人のやり口だ。
油断させたつもりなの?
小賢しいわね。
リリスは即座にマキナに指示を出し、シールドを幾重にも重ね掛けさせた。
そのシールドに魔人から放たれた大きな火球が幾つもぶつかり、激しい衝撃と爆炎が立ち上がった。
魔人相手の闘いに躊躇いなど無い。
リリスは2体の魔人を睨みつけ、その攻撃のタイミングを計っていた。
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しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。
記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。
偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。
彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。
「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」
強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。
「菌?感染症?何の話だ?」
滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級!
しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。
規格外の弟子と、人外の師匠。
二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。
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