落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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仮装ダンスパーティーの混迷3

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リリスの目の前に浮かぶ2体の魔人。

リリスはマキナが空間魔法を使える事を聞いていたので、即座にマキナに指示を出した。

「マキナさん。空間魔法であの2体の魔人を隔離出来る?」

問い掛けられたマキナは戸惑った。

「私の空間魔法って・・・そこまでのレベルではないんです。」

言い淀むマキナ。だがリリスは諦めない。

「大まかに空間を区切れば良いのよ。その後で徐々に小さくしていけば良いから。」

リリスの言葉にマキナはう~んと唸って考え込んでしまった。

「深く考えなくても良いわよ。取り急ぎ、イメージを伝えてあげるから。」

そう言ってリリスは監獄のようなイメージを魔力に添えて、マキナの手を通して送り込んだ。
う~んと言う声をあげてマキナは目を瞑り、魔力を味わう様に吸収した。
その直後にマキナの表情が変わって来た。

「何となくイメージが湧いてきました。うん! これなら出来るかも!」

マキナは魔力をグッと集中させ、両手を広げて大きく魔力を放った。空間魔法が発動され、魔人を含む広範囲に亜空間が造成された。
更にその広範囲の亜空間が徐々に小さく収縮していく。

程なく一辺が10mほどの亜空間に魔人達は閉じ込められた。

亜空間の縁が折り重なるように畳み込まれ、収縮し、まるで半透明の分厚い壁で区切られたように見える。
それはまるでリンディが発動させた時限監獄のような見た目となった。

「何だ、こんなもの!」

魔人は笑い飛ばしながらその亜空間の周辺部にファイヤーボールを放った。だが爆炎は上がるものの亜空間はびくともしない。
魔人はそれをフンと鼻で笑いながら、闇魔法の黒炎や風魔法のエクスプロージョンを放った。
だがそれでも亜空間はそのままだ。

「さあ、ここからは私のターンだからね。」

リリスは魔力の触手を可能な限り出現させた。
リリスの身体の周辺から、直径10cmほどの触手が数十本出現し、リリスの身体の周りを埋め尽くしている。
うねうねと蠢く様相は実に不気味だ。

「うん。やはり全てのスキルや属性魔法が桁違いに強化されているわ。」

そう言ってリリスはニヤッと笑った。

それはこの状況に置かれた当初から、リリスの感じていた事だ。
あらゆるスキルや属性魔法が強化されている。
ファイヤーボルトを大量に放った際に、あまりの火力に驚愕し、リリスはその事を実感していたのだった。

「吸い尽くしてやるわよ!」

リリスは叫びながら魔力の触手を一斉に伸ばし、亜空間にリンクさせた。
亜空間の壁から数十本の魔力の触手が内部に侵入し、魔人達の身体の巻き付いて拘束し、その身体の至る所から内部に突き刺さっていく。

「グエエエエエッ!」

身体中を魔力の触手で串刺しにされた魔人達はぴくぴくと痙攣を起こしている。
その様子を見ながらリリスは一気に魔力を吸い上げ始めた。

魔人の身体から魔力が瞬時に奪われていく。

だがその魔力は勿論邪悪な魔力だ。リリスは頭痛や悪寒を感じながらも魔力を吸引し続け、マキナが別途に造り上げた小さな亜空間にその魔力を吐き出した。
小さな亜空間は魔人の邪悪な魔力で充満し、黒い渦を巻きながら蠢いている。

これは後でマキナに浄化して貰えば良い。

リリスに魔力を吸引された魔人達は悲鳴を上げる事も出来ず、徐々に小さくなって干からびていった。
魔人の魔力を吸い切ると、リリスはその亜空間の解除をマキナに指示し、その気配を探知した。

魔人の気配は全く無い。周辺の1km四方を探知しても、魔人の反応は得られなかった。
どうやら完全に消滅したようだ。

リリスは魔人達を閉じ込めていた亜空間を解除させ、魔人達の邪悪な魔力の詰まった小さな亜空間を見つめた。

「マキナさん。あの小さな亜空間を丸ごと浄化してください。あんな邪悪な魔力を放置すると、正常な魔物まで凶悪になりそうだわ。」

リリスの依頼にマキナは無言でうんと頷いた。
魔力を集中させて両手をその亜空間の縁に付け、浄化を発動させると、その亜空間は見る見るうちに透明度を増していった。

これなら大丈夫だろう。

リリスはホッと胸を撫で下ろし、透明度を増していく小さな亜空間を眺めていた。
その時、リリスはその亜空間の向こう側から小さな光りが、こちらに向かって来る事に気付いた。

ええっ!
また新たな敵なの?

その小さな光はリリスの目の前までやって来た。ぐるぐるとその場で回ると、揺れ動きながら徐々に人の形になっていく。

程なくリリスの目の前にローブを纏った初老の男性が現われた。

「アルバ様!」

リリスの背後からマキナが叫んだ。
それはリリスがギースのダンジョンの第3階層の最奥部で出会った時の、あのアルバの姿でもあった。

「良くやってくれた!」

アルバは笑顔を振り撒きながらマキナに声を掛け、ふっとリリスの方に顔を向けた。

「うん? 君は誰だ?」

えっ?

突然の言葉にリリスも言葉を詰まらせた。

「誰って・・・私は私、リリスですよ。アルバ様。」

リリスの返答にアルバは再び首を傾げた。

「君はどう見ても人族だろ? 儂の知っているリリス、つまり殲滅の魔導士と呼ばれるリリスはダークエルフなのだが・・・・・」

そう言いながらアルバは、まだ赤々と燃えたぎる溶岩の沼を見渡しながらう~んと唸り声をあげた。

「人族でこれほどの力を持つ者が居たとは驚きだな。君は何処かの国で召喚された勇者なのか?」

アルバの言葉にリリスは頭が混乱して真っ白になってしまった。



・・・・・・・・・・・・・



一方、魔法学院のダンスホールでも騒動が起きていた。

初老の男性とダンスを踊り始めたリリスが突然光りに包まれ、次の瞬間には男性が消えていた。
残されたリリスはその場で立ち尽くし、自分の着ている真っ赤なドレスを触りながらブツブツと呟いている。

どうしたのかと思い周囲に居た生徒が駆け寄ると、そこにはリリスとは似ても似つかない人物が立っていた。
真っ赤なドレスを着てはいるが、その肌は褐色で耳が尖っている。
背丈もリリスよりはかなり高い。

「・・・・・エルダの街を襲った魔物は何処に居るんだ?」

「ここは何処なんだ?」

「それに私はどうしてドレスを着ているんだ? レザーアーマーを装着していたはずなのに・・・・・」

呟き戸惑っているその女性に、警備員姿のチャーリーが近付いた。
その傍らには黒いドレスを纏ったウィンディも居た。

「ウィンディ。これってどうなってるんや? 時空が捻じれてしまったように思えるけど・・・・・」

チャーリーの言葉にウィンディは神妙な表情で頷いた。

「これはもはや空間魔法が簡単に関与出来る領域ではないわね。どれだけ無理な事をしたらこんな現象が起きてしまうのかしら・・・」

ウィンディはそう言うとふうっと深いため息をついた。

「いずれにしても私達亜神ですら接触出来ない領域を、無理矢理捻じ曲げてしまったように思えるわ。」

「それで修復は出来るんか?」

チャーリーの言葉にウィンディはう~んと唸り、少し考え込んだ。

「リリスの航跡を遡る事は出来そうね。でも私達の存在そのものがどうなるか・・・・・分からないわよ。」

ウィンディの言葉にチャーリーもう~んと唸って考え込んだ。
だがその背後から、二人の女性が声を掛けて来た。

「とりあえず追ってみるしかないわよ。」

タミアとユリアだ。

二人の言葉にチャーリーも顔を上げた。

「そうやな。追ってみるか。」

「ウィンディ。頼むよ。」

その言葉にウィンディは無言で頷き、パチンと指を鳴らした。
それと同時にチャーリー達の姿もその場から消えてしまった。




・・・・・・・・・・・・・・・・




アルバの前で言葉も無く固まっていたリリス。

そのリリスの身体が突然何かに共鳴して細かく振動し始めた。

何か、とてつもなく大きな魔力が接近してくる!

それを感じたのはその場にいた賢者アルバも同じであった。

「これは何の気配だ! 魔王軍が魔王諸共に全精力を繰り出してきたのか?」

そう言って周囲を見渡すアルバの視界に4個の光の球が映った。
それは激しい光を放ちながらリリス達の上空を周回し、徐々に地上に近付いて来た。
その圧倒的な魔力の大きさにアルバもマキナも顔面が蒼白になり、身体が小刻みに震えている。

だがリリスはその光の球が何者であるかがようやく分かった。

この気配は亜神達だ!

「リリス。こんなところに居たのね。」

この声はウィンディだろうか?

「ここでは実体化出来んようや。僕らはこの姿でお邪魔するよ。」

これはチャーリーの声だ。

「ねえチャーリー。ここは何処なの? それに私ってどうなったの?」

リリスの問い掛けにウィンディが答えた。

「ここは恐らく異世界。それもリリスが召喚される前に居た世界だと思う。」

「何を言ってるのよ! 私が居た元の世界には魔法なんて無かったわよ。その代わりに科学技術が発展していたけど・・・」

リリスはそう言ってこぶしを握りしめ、アルバに顔を向けた。

「アルバ様。これは一体どう言う事なんですか?」

話を振られたアルバも、儂には分からんと言いながら首を横に振るだけだ。
リリスは再び亜神達に顔を向けた。

「それで・・・魔法学院に帰れるの?」

「そうね。ルートを遡れば戻れると思うわよ。戻る途中で不測の事態が起きる可能性もあるけどね。」

ウィンディらしき光球の声にリリスは少しほっとした。
とりあえず戻れるのなら良い。
亜神達に関わる過程でのアクシデントは何時もの事だ。

だがここでタミアが待ったをかけた。

「直ぐに戻るのも面白くないわね。」

光球がスッと移動し、アルバの前に浮かび上がった。

「この世界には魔王や魔王軍が居るんでしょ? 困っているのなら私が退治してあげるわよ。」

「ちょっと、タミア! こんなところまできて暴れまわるつもりなの?」

ユリアの声にタミアはうふふと笑い、

「旅の恥は掻き捨てって言うじゃないの。少し暴れてくるだけよ。」

その言葉と共に光球が一つ消えてしまった。

「また勝手な事をするんだから。」

ユリアの呆れた声が聞こえてくる。
その直後に大地がドドドドドッと大きく揺れ、遠方に巨大なキノコ雲が幾つも出現した。

「仕事が早いなあ。」

「チャーリー! 呑気な事を言ってる場合じゃないわよ。タミアったら大陸ごと焼き払っちゃったみたいよ。」

「まあ、飽きたら戻ってくるよ。」

亜神達のやり取りに呆れていると、ふっとアルバの姿が消えてしまった。同時にマキナの姿も消えていく。
何事だろうかと思っていると、リリスの目の前に黒い人影が現われて、徐々に実体化した。

その姿はタキシードを纏ったアルバだった。

「おうおう。ラスボスの登場やね。」

チャーリーの言葉にアルバはふふふと笑った。

「ラスボスではないが、その呼ばれ方は嫌じゃないね。」

そう言うとアルバはリリスに向かって口を開いた。

「ようこそ、地球へ。」

リリスには何の事か分からない。

「ここは私の知っている地球じゃないわよ。」

「そうだね。でも君の生まれ育った文明から200万年前は、こんな世界だったんだよ。」

「ちなみに、先ほどまで君の目の前に居た賢者アルバは、儂がまだ人族だった頃の姿だ。」

そう言い放ったアルバに、チャーリーが問い掛けた。

「君は何者や?」

「うすうす気づいているだろう?」

アルバの挑戦的な言葉にチャーリーはう~んと唸り声をあげた。

「・・・・・超越者か? この世界の管理者の手先?」

「まあ、そんなところだね。」

そう答えたアルバにリリスは再度問い掛けた。

「この世界は仮想世界なの?」

アルバは首を横に振り、

「いやいや。仮想世界ではないよ。現実だ。時間軸をかなり遡っているけどね。」

「かつてはこの世界は魔素や魔力に基づいた世界だったんだよ。だがある時点で管理者がこの世界の構成を切り替えたんだ。」

「それ故に君の生きていた時代には魔法も存在しなかった。否、発動出来ない様になっているんだよ。」

リリスはその話を聞きながらも首を捻った。

「でも・・・どうして?」

「それは儂にも分からん。管理者の意図は不明のままだ。」

そこまでの話を聞いていたユリアがふと問い掛けた。

「それでどうしてこんな事をしたの? 時間軸を遡ってまでして・・・。過去を変えちゃったら元の時空に戻れないんじゃないの?」

アルバはうんうんと頷き、口を開いた。

「儂もまさか君達がここまで来るとは思っていなかったよ。」

「これは管理者の一つの試みなんだ。幾つかの歴史の転換点で選択肢を変えればどうなるのか、それを知りたかったのだろう。」

「ユリアと言ったね。君の疑問の通り、過去を変えると元の世界には戻れない。だが並行世界を辿りながらも最終的には元の時空に戻っていく。」

「この世界では、並行世界は長い年月をかけて主軸の世界に戻っていくんだ。並行世界のままでは永続出来ないように、最初から設定されているんだよ。」

アルバの言葉にチャーリーはう~んと唸った。

「やたらに恣意的やね。その意図は良く分からんがねえ。」

「まあ、儂にも詳細までは分からんよ。」

そう言ってアルバはハハハと笑った。

「そうそう。君達の仲間が魔王と魔王軍を消滅させてくれたので、また違った要素が創生されたようだ。」

「これは瓢箪から駒と言ったところだね。」

再びアハハと笑うアルバにリリスはおずおずと問い掛けた。

「それで私は魔法学院に帰れるの?」

「そんなの私がやってあげるわよ。」

そう答えたウィンディにアルバはダメ出しをした。

「それは止めた方が良い。時空が捻じれたままになっているので、時間軸が異常に進むかも知れん。儂が送ってあげるとしよう。」

そう言ってアルバがパチンと指を鳴らすと、巨大な光の輪が出現し、亜神達やリリスを包み込んだ。

「極力時間軸を変えないようにしてあげよう。だが多少の誤差は生じてしまう。それは勘弁してくれ。」

誤差って何よ!
亜神達はどうって事ないわよ、肉体的な寿命が無いんだから。
私はどうなるのよ!
また2年も老けるのは嫌だからね!

リリスの思いをスルーして、アルバはリリス達を送り出した。

リリスの視界が暗転していく。
あれっ?
タミアはどうしたの?
そんな疑問がリリスの脳裏をかすめたのだが・・・。


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