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思わぬ騒動1
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亜神の使い魔達が去った後。
部屋に残った不審な気配をリリスは警戒していた。
「そこに居るんでしょ? どうして隠れているのよ。」
そう叫んだリリスの視線の先に、ふっと霧が生じて1体の小さな青い蝶が現われた。
その気配は間違いなくウィンディだ。
「どうしてわかるのよ。僅かな風の流れに偽装していたのに・・・」
「私の目は隠せないわよ! それに他の亜神達の喧騒の中でじっと静かにしていたから、余計に違和感を感じていたのよね。」
リリスはそう言って一呼吸間を置いた。
「それでまだ何か用事があるの?」
「バレてちゃあ仕方が無いわね。」
そう言いながら青い蝶がリリスに擦り寄って来た。
「実は私、世界樹に興味があって、私も意識のレベルで接触出来ないかと思ったのよ。」
「冗談じゃないわよ。異世界でまで暴れるつもりなの?」
「そんな事が出来るわけ無いわよ、意識だけがお邪魔するんだから。」
ウィンディの言葉にリリスはう~んと唸った。
どうしたものか・・・。
躊躇っているリリスに青い蝶は更に擦り寄り、その二の腕の黒点をその触覚で軽く突いた。
それと同時にウィンディの魔力がさっと流れ込み、一瞬にしてリリスの意識もそこに吸い込まれていく。
ちょっと待ってよ!
そう叫ぶ間も無く、リリスの意識とウィンディの意識は異世界の青い空を飛んでいた。
ウィンディの姿は使い魔ではなく、例のゴスロリの衣装だ。
「勝手な事をしないでよ!」
「まあそう怒らないでよ、リリス。それで世界樹ってあそこに見える巨大な樹木なの?」
ウィンディの視線の先に世界樹が見えている。
リリスがそうだと伝えると、ウィンディは嬉しそうな表情でその方向に急速度で飛び立っていった。
何を急いでいるのよ。
そんなに興味があったのかしら?
少し微笑ましい気持ちになってリリスもその方向に移動した。
抜けるような青い空を飛んでいるだけで気持ちが癒される。
更に世界樹からの癒しの波動が心地良い。
しばらく空を飛んで、リリスは世界樹の傍に辿り着いた。
世界樹から歓迎の波動が伝わってくる。
その波動に応えながらリリスはウィンディの姿を探した。
だがウィンディの姿が何処にも見当たらない。
入念に探知を掛け、巨大な樹木の枝葉の間をこまめに探すと、生い茂った葉をハンモックのようにして眠っているウィンディの姿を枝葉の奥の方に見つけた。
そんなに居心地が良いの?
そう思っているとウィンディの姿が次第に薄れ、そのまま消えていった。
あら!
ウィンディったら寝落ちして、意識が元の世界に戻ったのかしら?
その様子に微笑ましい思いを抱きながら、リリスはしばらく世界樹の傍で飛び回っていたのだった。
その翌日。
リリスは何時ものように放課後、生徒会の部屋に足を運んだ。
そこには珍しく生徒会長のロナルドと書記のルイーズがテーブルについていた。
まあ、珍しいわね。
この二人が同席しているなんて。
そう思いながらリリスはアンソニーに会釈をし、エリスの横の席に座った。
生徒会のメンバーが揃ったところで、ロナルドが話を切り出した。
「今日、集まって貰ったのは来年度の生徒会の事だ。」
「まもなく年度が替わり、僕は卒業する事になる。それで来年度の生徒会の役員の事なんだが・・・・・」
ロナルドは含みを持たせるように、一呼吸間を置いた。
「来年度の生徒会の会長はルイーズ、副会長はリリス、そして書記をエリスにやって貰おうと思う。まあ、順当な役職だと思うんだが、それで構わないかな?」
ロナルドの話に全員がうんうんと頷いた。
「採決など採る必要も無さそうだな。それじゃあ、その体制で新年度の生徒会をお願いするよ。」
そう言うとロナルドは席を立ち、意気揚々と部屋を出て行った。
後に残ったルイーズが改めてその場に立ち、挨拶を始めた。
「そう言う事で、来年度は私が生徒会の会長となります。リリスとエリスも新しい役職で私を支えてね。」
「「勿論ですよ。」」
声を合わせて答えたリリスとエリスである。
だがリリスは副会長の職は継続なので、それほどに新味を感じていないのも事実だ。
「それで、来年度の新入生に向けての生徒会のパンフレットは完成したの?」
ルイーズの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
「もう出来上がっていますよ。」
あんたがここに顔を出さないうちに出来たわよ。
そう言いたかったリリスだが、ロナルドとの確執があって形だけの生徒会の役員であったルイーズにそれを言ってもきりがない。
大人の対応で気持ちを切り替えたリリスである。
「ヘルプに入ってくれた先輩や同級生も居ましたから、意外に早く出来たんですよね。」
そう言って笑うエリスの脳裏にはニーナやリンディの顔が浮かんでいた。
まあ、結果オーライってところね。
そう思ったリリスの思いはエリスにもアンソニーにも伝わっているようだった。
まあ、ルイーズなら会長職も無難にこなすだろう。
ロナルドのように無茶な行事の提案などもしないだろう。
そう考えると来年度も希望が持てる。
リリスはささやかな高揚感を持ちつつ、ルイーズ達と談笑していた。
だがその高揚感も夜までは続かなかった。
学生寮に戻り、自室のドアの前に立ったリリスは、部屋の中に異様な気配を感じた。
偽装はしているが、膨大な魔力の塊を感じる。
だがそれは亜神達のそれではない。
そうするとこれは何だろうか?
危険なものではないと思うのだが・・・。
恐る恐るリリスはドアを開いた。
「お帰り。」
部屋の中からそう声を掛けて来たのは、ソファに座る小さな龍だった。
ドラゴンではない。
あくまでも東洋的な龍である。
えっ!
まさか・・・・・。
「勝手にお邪魔して悪かったね。」
それは超越者のロキだった。
それにしてもこの使い魔のフォルムは何処で手に入れたのかしら?
どう見ても元の世界にあったイメージだわ。
リリスはカバンを机の上に置いて、ソファの対面に静かに座った。
「どうしたんですか? こんなところに来るなんて。」
リリスの言葉に龍はその顔をグイッとリリスの方に向けた。
「まあ、余程の事でもないと、儂も人の前には現われないのだがな。」
「・・・・・と言うと、余程の事があったって事ですか?」
リリスの問い掛けに龍はうんうんと頷いた。
「そうなのだよ。実はウィンディが消えてしまったのだ。それで亜神達も大騒ぎをしているところだよ。」
「ええっ!」
リリスは驚きのあまり、その場で立ち上がった。
その驚き様に龍も苦笑した。
「まあ、座りなさい。消えたと言っても使い魔の状態で消えたので、身体はある場所に残っている。だが意識が消えてしまっているのだ。」
「それでお前が何か知らないかと思ってここに来たのだよ。」
ううっ!
そんな事ってあるの?
リリスは前日のウィンディとのやり取りを、ロキに簡略に説明した。
それを聞き、ソファの上で龍が大きくため息をついた。
「そうだったのか。意識レベルで世界樹の元に行ったのか。そうすると取り込まれてしまった可能性が高いな。」
「取り込むって・・・世界樹にですか?」
リリスの問い掛けに龍が再度頷いた。
「そうだ。この世界には世界樹が無いので儂もそれほどに詳しくはないが、世界樹のその存在価値から考えると、あらゆるものを包摂する特性がある筈だ。養分として吸収し、周囲のあらゆる存在に再配分していくのだろう。」
「目に見えるものだけでなく、目に見えないものまでもな。」
リリスの脳裏にあの時のウィンディの姿が浮かび上がった。
気持ち良さそうに眠っていたとばかり思っていたのだ。
そのまま消えていったのは、寝落ちして本体に意識が戻ったのだとばかり思っていたのに・・・・・。
「でも意識まで吸収しちゃうんですか?」
「うむ。そもそも亜神とは意識を持つ膨大な魔力の塊だ。その意識も魔力によって形造られているのだよ。普通に考えればそれを取り込まれるなんて有り得ないのだが、相手が異世界の未知の存在となると、こちらの常識も通用しなくなる。」
「そうすると、ウィンディは・・・・・消滅したって事ですか?」
おずおずと問い掛けたリリスの言葉に、龍はハハハと笑った。
「消滅はしないだろう。それにウィンディは風の亜神の本体のかけらだ。本体降臨の為の七つのキーの一つに過ぎない。だがそれでもいなくなるとタイムスケジュールが大幅に狂ってしまう。それでお前に回収して欲しいのだよ。」
「回収ってウィンディの意識を・・・・ですか?」
「そうだ。だが全てでなくても良い。既にある程度は回収不能だろうからな。だが意識の核になる部分が吸収されずに残されている筈だ。それをさえ回収出来れば復活の余地はある。」
ロキの言葉にリリスはう~んと唸った。
そんな事が出来るのだろうか?
世界樹の元に何の支障もなく行けるのは自分だけだとしても・・・。
「そう言えばどうして私の意識は向こうの世界でも無事なんですか?」
「それはお前が世界樹にとって特別な存在だからだろう。あの世界樹はお前が目覚めさせ、お前が育てたようなものではないか。」
まあ、それは成り行きでそうなっちゃったんだけどねえ。
「でもどうやって回収するんですか?」
「それは意識レベルで世界樹と交渉するしかないだろうな。お前の言う事なら聞いてくれるのではないか?」
まあ!
随分人任せだわね!
リリスの思いを読み取って、龍は軽く頭を下げた。
「世界樹の取り扱いに関して、現状ではお前に頼むしかないのだよ。」
「儂や亜神などが意識レベルで向こうの世界に行ったとしても、どんな現象が起きるのか想像も出来んのだ。」
まあそうねえ。
今のところ、私の意識の訪問には、世界樹も歓迎してくれているからね。
「分かりました。とりあえず世界樹を訪ねてみましょう。」
「そうか。よろしく頼むぞ。」
龍はそう言うとその場から消えていった。
用件が済んだので帰ってしまったようだ。
その一方的な態度に呆れてしまう。
仕方が無いわねえ。
ウィンディったら余計な事をするんだから!
若干苛立つ気持ちを整理しながら、リリスはソファの上で二の腕の三つの小さな黒点に触れ、そこに軽く魔力を流した。
その途端にスッと意識が消え、目の前が暗転していく。
気が付くとリリスは青空に浮かんでいた。
勿論リリスの意識だけである。
抜けるような青空を飛び、遠くに見える世界樹を目指して移動する事5分。
5分と言っても体感なので、実際にはどれほどの時間を要しているのか分からない。
世界樹からは相変わらず歓迎の波動が伝わってくる。
それはそれでありがたいのだが、ウィンディの意識の核を探さなければならない。
本当に残っていれば良いのだけど・・・・・。
リリスは意を決して世界樹に向き合うのだった。
部屋に残った不審な気配をリリスは警戒していた。
「そこに居るんでしょ? どうして隠れているのよ。」
そう叫んだリリスの視線の先に、ふっと霧が生じて1体の小さな青い蝶が現われた。
その気配は間違いなくウィンディだ。
「どうしてわかるのよ。僅かな風の流れに偽装していたのに・・・」
「私の目は隠せないわよ! それに他の亜神達の喧騒の中でじっと静かにしていたから、余計に違和感を感じていたのよね。」
リリスはそう言って一呼吸間を置いた。
「それでまだ何か用事があるの?」
「バレてちゃあ仕方が無いわね。」
そう言いながら青い蝶がリリスに擦り寄って来た。
「実は私、世界樹に興味があって、私も意識のレベルで接触出来ないかと思ったのよ。」
「冗談じゃないわよ。異世界でまで暴れるつもりなの?」
「そんな事が出来るわけ無いわよ、意識だけがお邪魔するんだから。」
ウィンディの言葉にリリスはう~んと唸った。
どうしたものか・・・。
躊躇っているリリスに青い蝶は更に擦り寄り、その二の腕の黒点をその触覚で軽く突いた。
それと同時にウィンディの魔力がさっと流れ込み、一瞬にしてリリスの意識もそこに吸い込まれていく。
ちょっと待ってよ!
そう叫ぶ間も無く、リリスの意識とウィンディの意識は異世界の青い空を飛んでいた。
ウィンディの姿は使い魔ではなく、例のゴスロリの衣装だ。
「勝手な事をしないでよ!」
「まあそう怒らないでよ、リリス。それで世界樹ってあそこに見える巨大な樹木なの?」
ウィンディの視線の先に世界樹が見えている。
リリスがそうだと伝えると、ウィンディは嬉しそうな表情でその方向に急速度で飛び立っていった。
何を急いでいるのよ。
そんなに興味があったのかしら?
少し微笑ましい気持ちになってリリスもその方向に移動した。
抜けるような青い空を飛んでいるだけで気持ちが癒される。
更に世界樹からの癒しの波動が心地良い。
しばらく空を飛んで、リリスは世界樹の傍に辿り着いた。
世界樹から歓迎の波動が伝わってくる。
その波動に応えながらリリスはウィンディの姿を探した。
だがウィンディの姿が何処にも見当たらない。
入念に探知を掛け、巨大な樹木の枝葉の間をこまめに探すと、生い茂った葉をハンモックのようにして眠っているウィンディの姿を枝葉の奥の方に見つけた。
そんなに居心地が良いの?
そう思っているとウィンディの姿が次第に薄れ、そのまま消えていった。
あら!
ウィンディったら寝落ちして、意識が元の世界に戻ったのかしら?
その様子に微笑ましい思いを抱きながら、リリスはしばらく世界樹の傍で飛び回っていたのだった。
その翌日。
リリスは何時ものように放課後、生徒会の部屋に足を運んだ。
そこには珍しく生徒会長のロナルドと書記のルイーズがテーブルについていた。
まあ、珍しいわね。
この二人が同席しているなんて。
そう思いながらリリスはアンソニーに会釈をし、エリスの横の席に座った。
生徒会のメンバーが揃ったところで、ロナルドが話を切り出した。
「今日、集まって貰ったのは来年度の生徒会の事だ。」
「まもなく年度が替わり、僕は卒業する事になる。それで来年度の生徒会の役員の事なんだが・・・・・」
ロナルドは含みを持たせるように、一呼吸間を置いた。
「来年度の生徒会の会長はルイーズ、副会長はリリス、そして書記をエリスにやって貰おうと思う。まあ、順当な役職だと思うんだが、それで構わないかな?」
ロナルドの話に全員がうんうんと頷いた。
「採決など採る必要も無さそうだな。それじゃあ、その体制で新年度の生徒会をお願いするよ。」
そう言うとロナルドは席を立ち、意気揚々と部屋を出て行った。
後に残ったルイーズが改めてその場に立ち、挨拶を始めた。
「そう言う事で、来年度は私が生徒会の会長となります。リリスとエリスも新しい役職で私を支えてね。」
「「勿論ですよ。」」
声を合わせて答えたリリスとエリスである。
だがリリスは副会長の職は継続なので、それほどに新味を感じていないのも事実だ。
「それで、来年度の新入生に向けての生徒会のパンフレットは完成したの?」
ルイーズの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
「もう出来上がっていますよ。」
あんたがここに顔を出さないうちに出来たわよ。
そう言いたかったリリスだが、ロナルドとの確執があって形だけの生徒会の役員であったルイーズにそれを言ってもきりがない。
大人の対応で気持ちを切り替えたリリスである。
「ヘルプに入ってくれた先輩や同級生も居ましたから、意外に早く出来たんですよね。」
そう言って笑うエリスの脳裏にはニーナやリンディの顔が浮かんでいた。
まあ、結果オーライってところね。
そう思ったリリスの思いはエリスにもアンソニーにも伝わっているようだった。
まあ、ルイーズなら会長職も無難にこなすだろう。
ロナルドのように無茶な行事の提案などもしないだろう。
そう考えると来年度も希望が持てる。
リリスはささやかな高揚感を持ちつつ、ルイーズ達と談笑していた。
だがその高揚感も夜までは続かなかった。
学生寮に戻り、自室のドアの前に立ったリリスは、部屋の中に異様な気配を感じた。
偽装はしているが、膨大な魔力の塊を感じる。
だがそれは亜神達のそれではない。
そうするとこれは何だろうか?
危険なものではないと思うのだが・・・。
恐る恐るリリスはドアを開いた。
「お帰り。」
部屋の中からそう声を掛けて来たのは、ソファに座る小さな龍だった。
ドラゴンではない。
あくまでも東洋的な龍である。
えっ!
まさか・・・・・。
「勝手にお邪魔して悪かったね。」
それは超越者のロキだった。
それにしてもこの使い魔のフォルムは何処で手に入れたのかしら?
どう見ても元の世界にあったイメージだわ。
リリスはカバンを机の上に置いて、ソファの対面に静かに座った。
「どうしたんですか? こんなところに来るなんて。」
リリスの言葉に龍はその顔をグイッとリリスの方に向けた。
「まあ、余程の事でもないと、儂も人の前には現われないのだがな。」
「・・・・・と言うと、余程の事があったって事ですか?」
リリスの問い掛けに龍はうんうんと頷いた。
「そうなのだよ。実はウィンディが消えてしまったのだ。それで亜神達も大騒ぎをしているところだよ。」
「ええっ!」
リリスは驚きのあまり、その場で立ち上がった。
その驚き様に龍も苦笑した。
「まあ、座りなさい。消えたと言っても使い魔の状態で消えたので、身体はある場所に残っている。だが意識が消えてしまっているのだ。」
「それでお前が何か知らないかと思ってここに来たのだよ。」
ううっ!
そんな事ってあるの?
リリスは前日のウィンディとのやり取りを、ロキに簡略に説明した。
それを聞き、ソファの上で龍が大きくため息をついた。
「そうだったのか。意識レベルで世界樹の元に行ったのか。そうすると取り込まれてしまった可能性が高いな。」
「取り込むって・・・世界樹にですか?」
リリスの問い掛けに龍が再度頷いた。
「そうだ。この世界には世界樹が無いので儂もそれほどに詳しくはないが、世界樹のその存在価値から考えると、あらゆるものを包摂する特性がある筈だ。養分として吸収し、周囲のあらゆる存在に再配分していくのだろう。」
「目に見えるものだけでなく、目に見えないものまでもな。」
リリスの脳裏にあの時のウィンディの姿が浮かび上がった。
気持ち良さそうに眠っていたとばかり思っていたのだ。
そのまま消えていったのは、寝落ちして本体に意識が戻ったのだとばかり思っていたのに・・・・・。
「でも意識まで吸収しちゃうんですか?」
「うむ。そもそも亜神とは意識を持つ膨大な魔力の塊だ。その意識も魔力によって形造られているのだよ。普通に考えればそれを取り込まれるなんて有り得ないのだが、相手が異世界の未知の存在となると、こちらの常識も通用しなくなる。」
「そうすると、ウィンディは・・・・・消滅したって事ですか?」
おずおずと問い掛けたリリスの言葉に、龍はハハハと笑った。
「消滅はしないだろう。それにウィンディは風の亜神の本体のかけらだ。本体降臨の為の七つのキーの一つに過ぎない。だがそれでもいなくなるとタイムスケジュールが大幅に狂ってしまう。それでお前に回収して欲しいのだよ。」
「回収ってウィンディの意識を・・・・ですか?」
「そうだ。だが全てでなくても良い。既にある程度は回収不能だろうからな。だが意識の核になる部分が吸収されずに残されている筈だ。それをさえ回収出来れば復活の余地はある。」
ロキの言葉にリリスはう~んと唸った。
そんな事が出来るのだろうか?
世界樹の元に何の支障もなく行けるのは自分だけだとしても・・・。
「そう言えばどうして私の意識は向こうの世界でも無事なんですか?」
「それはお前が世界樹にとって特別な存在だからだろう。あの世界樹はお前が目覚めさせ、お前が育てたようなものではないか。」
まあ、それは成り行きでそうなっちゃったんだけどねえ。
「でもどうやって回収するんですか?」
「それは意識レベルで世界樹と交渉するしかないだろうな。お前の言う事なら聞いてくれるのではないか?」
まあ!
随分人任せだわね!
リリスの思いを読み取って、龍は軽く頭を下げた。
「世界樹の取り扱いに関して、現状ではお前に頼むしかないのだよ。」
「儂や亜神などが意識レベルで向こうの世界に行ったとしても、どんな現象が起きるのか想像も出来んのだ。」
まあそうねえ。
今のところ、私の意識の訪問には、世界樹も歓迎してくれているからね。
「分かりました。とりあえず世界樹を訪ねてみましょう。」
「そうか。よろしく頼むぞ。」
龍はそう言うとその場から消えていった。
用件が済んだので帰ってしまったようだ。
その一方的な態度に呆れてしまう。
仕方が無いわねえ。
ウィンディったら余計な事をするんだから!
若干苛立つ気持ちを整理しながら、リリスはソファの上で二の腕の三つの小さな黒点に触れ、そこに軽く魔力を流した。
その途端にスッと意識が消え、目の前が暗転していく。
気が付くとリリスは青空に浮かんでいた。
勿論リリスの意識だけである。
抜けるような青空を飛び、遠くに見える世界樹を目指して移動する事5分。
5分と言っても体感なので、実際にはどれほどの時間を要しているのか分からない。
世界樹からは相変わらず歓迎の波動が伝わってくる。
それはそれでありがたいのだが、ウィンディの意識の核を探さなければならない。
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リリスは意を決して世界樹に向き合うのだった。
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