落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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思わぬ騒動2

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異世界の世界樹を目の前にしたリリス。

世界樹は相変わらず歓迎の波動を送ってくれているのだが、リリスにはウィンディの意識の核を探す使命がある。

こんな大事になるなんて、思いもしなかったわ。

そう思いながらリリスは世界樹の周辺に探知を掛けた。
ウィンディの気配が僅かに感じられる。

この前、私が連れて来た亜神の意識を探しているんだけど・・・・・。

とりとめのない思いを魔力に載せて世界樹に放ってみる。
世界樹からは困惑の波動が流れて来た。

ロキの言う様に、世界樹にはあらゆるものを包摂する特性があるのだろうか?

そう思いながら再度探知を掛けると、やはり世界樹の内部からウィンディの気配が僅かに感じられる。

この気配の持ち主を探しているんだけど・・・・・。

そんな思いを波動にして送ると、再び困惑の波動が返って来た。

自分ではどうする事も出来ないのかしら?

そう思った途端に同意の波動が伝わってくる。

う~ん。
困ったわねえ。

どうしたものかと考えていると、世界樹の生い茂った枝葉の真ん中に黒い球体が現われた。
それは直径が5mほどの球体で、その中に小さな光が幾つも点滅している。

周りの枝葉がその球体を取り込む様に動き、まるでその中に入るように誘われているようだ。

ここに来いって言うのね。

リリスは若干警戒しながらも、その球体の中に入っていった。
球体の内部は意外にも明るく、広い空間になっていた。

その中に小さな少女が立っている。
その姿はドライアドだ。

世界樹を世話しているドライアドなのかしら?

そう思って近づくと、そのドライアドは笑顔を見せた。
だが言葉を発しない。
しかも世界樹と同じ波動が伝わってくる。

これは世界樹の造り上げたイメージだ。

そう直感したリリスは、そのドライアドに話し掛けた。

「私と視覚的なコンタクトを取るためにイメージを造り上げたのね?」

ドライアドはうんうんと頷いた。
リリスの直感は正しかったようだ。

「それで・・・・・ウィンディの意識を吸収しちゃったの?」

ドライアドは悲しそうな表情で頷いた。

「怒っていないから、そんなに悲しそうな顔をしないで。」

リリスの言葉にドライアドは神妙な表情を浮かべた。

「ウィンディの意識を吸収して養分にしちゃったの?」

ドライアドはうんうんと頷いた。

「でも吸収していない意識の核が残っている筈よね? それを回収したいんだけど・・・」

リリスの言葉にドライアドは首を傾げ、思いを巡らすような仕草をした。

探索中と言う事なのかしら?
それにしても仕草が可愛いわね。

しばらくしてドライアドは神妙な表情になり、指を立ててリリスの真横を指差した。
その位置に小さな光の球が出現し、それは徐々に形を変えて女性の姿になった。
白いローブを纏った妖艶な女性だ。

その女性はリリスを見ると、あらっ!と声をあげて驚いた。

「あんたってこんなところまで来ていたの? 意識レベルとは言え器用な娘ね。」

馴れ馴れしい言葉遣いだがリリスは面識がない。
誰だろうと思っていると、その表情を察して女性が口を開いた。

「私よ、シーナよ。以前に小鳥の使い魔の姿で会ったでしょ? この世界樹がまだ苗の状態だった時に・・・・・」

「ああっ! シーナさんでしたか。お久し振りです。」

軽い気持ちで言った言葉にシーナはニヤッと笑った。

「そうね、久し振りよね。あれからこちらの時間では1000年も経ったからねえ。」

ええっ!

驚いて言葉の無いリリスにシーナは失笑した。

「あの苗木がここまで成長するのには、本来は1000年でも覚束ないのよ。でもあんたの魔力で育てて貰ったのが良かったのね。意外にも早く育ってくれたわ。そう言う意味ではあんたに感謝しないとね。」

そうなんだ。

リリスは異世界との時空のズレを改めて痛感した。
確かにあの小さな苗がこれほどの巨木に成長するのには、途方もない時間が掛かるのだろう。
ましてや普通の樹木ではなく世界樹だ。
自分の持つ常識で判断するのは間違いだろう。

「それであんたの用事は何? 世界樹から呼び出されたからには、余程大事な用件でしょうね?」

若干高圧的に問い掛けて来たシーナである。
リリスはその波動を軽くスルーして、ここに来た用件を簡略に説明した。
その話を聞きながら、シーナは目を見開いて驚いた。

「そんな事ってあるのね。確かにこのところ、世界樹から拡散される波動が高純度で格段に質が上がっていたわ。」

「でもそれを全部返せって言うの? そんなの今更回収不可能なんだけどね。」

シーナの言葉にリリスは首を横に振った。

「そんな事は要求していませんよ。ウィンディの意識の核だけ回収したいんです。吸収されずに残っている筈なので。」

「要するに未消化部分を返せって事ね。」

「まあ、そう言う事ですよ。その表現は少し引っ掛かりますけどね。」

リリスの不満げな表情を見て、シーナはニヤッと笑った。

「良いわよ。手伝ってあげるわ。あんたの名前はリリスだっけ?」

シーナの問い掛けにリリスはうんと頷いた。

「私の事はシーナと呼び捨てにして良いわよ。」

「それでリリス。早速だけど私の手のひらほどの大きさになってくれないかしら? 移動しやすくする為にね。」

手のひらサイズ?

リリスは何の事だか分からなかった。

「意識だけでここに来ているんだから、サイズなんて自由自在の筈よ。」

「でもどうやれば・・・・・」

「小さくなる意識を持つだけよ。固定概念があるから自分の肉体のサイズに留まっているのよね。」

そうなのか?

そう言われても良く分からないが、言われるままにリリスは縮小化する意識を持ち続けた。
それと共にその身体も徐々に小さくなっていく。

程なくシーナの手のひらサイズになってしまったリリス。
それを大事そうにシーナは両手で包み込み、そのままドライアドの傍に近付いた。
リリスを携えたシーナの身体がドライアドの身体に重なっていく。

ドライアドの身体の中に入ったと思われる瞬間、リリスは身体に強い摩擦を感じた。

「それは世界樹の根幹部分の魔力の隔壁を超えたからよ。」

シーナの言葉にリリスは驚きながらも、その周囲に無限の空間が広がっている事を知った。
真っ白な空間が果てしなく広がっている。

「さあ、ここからはリリス次第よ。探知して行くべき方向を教えて頂戴。」

シーナの指示に従ってリリスは広範囲に探知を掛けた。
ウィンディの気配が斜め前方に僅かに感じられる。
その方向を教えると、シーナはリリスを抱えたまま高速で飛び出した。

しばらく飛ぶと目的とする方向が若干ずれてくる。
それを修正して貰いながら、シーナとリリスは更に進んだ。
その作業を繰り返す事、数回。

リリスはウィンディの気配を間近に感じられるところまで辿り着いた。

「リリス。ここで良いの? 確かに不思議な気配を感じるけどね。」

「ええ、この辺りよ、シーナ。前方に見える靄のようなものがそれだと思う。」

シーナはリリスの示す範囲に魔力を放ち、その反応を見た。
靄が晴れて小さな光の球が見える。
薄いブルーの光球だ。

だが近付いてみると、それは単なる光球ではなく、金色の帯が幾つも絡んだ球体だった。
金色の帯は常にゆらゆらと動き、その全てが光球を取り巻くように回転している。
その金色の帯に時折文字のようなものが現われ、直ぐに消えていく。

「あの文字の様なものが点滅している帯は何なの? まるで呪詛のように見えるけど・・・・・」

リリスの問い掛けにシーナはしばらく精査した。
程なくシーナは無言で頷きながらリリスの顔を見た。

「あれは呪詛では無いわ。一言で言えば、定理と法則、そしてそれらを纏める定義ね。」

シーナの言葉にリリスは首を傾げた。
何の事だかさっぱり分からない。
その様子を見てシーナはニヤッと笑った。

「亜神って膨大な魔力で形造られているのよね? そうだとしたらその魔力の塊を亜神として存在させるための定義が必要になるわ。そしてその亜神が存在するための定理や法則も必要よね。それらすべてがあの帯のように見えるものの中に定められているのよ。」

「勿論私ですらそんな事は出来ないけどね。それこそリリスの居る世界の管理者の成せる業よ。」

そうなんだ。

リリスは感心してその光球を眺めていた。
これがウィンディをウィンディとして存在させるための核の部分なのだろう。

「さあ、回収しなさい。」

「でもどうやれば・・・・・」

躊躇うリリスにシーナは優しく答えた。

「リリスの魔力の中に取り込めば良いのよ。世界樹にすら吸収出来ない物だから、取り込むと言っても、あんたの魔力と混ざってしまう事は全く有り得ないわ。安心して。」

そう言われて躊躇う要因も無くなったリリスは、そのままその光球を自分の魔力の中に取り込んだ。
程なく胸の辺りに強い違和感が感じられるようになった。
これはウィンディの魔力の核がその存在を主張しているのだろう。
リリスはそう思いながら胸を軽く撫でた。
その手の動きに反応して、胸の辺りが仄かに光りを放つ。
それがまた存在をアピールしているようにも思える。

「回収終了ね。それじゃあ、戻るわよ。」

シーナはそう言うと再びリリスを包み込み、一気に空間を駆け抜けた。
しばらく飛び、再度世界樹の根幹部分の魔力の障壁を超え、シーナとリリスはドライアドの目の前に戻ってきた。

リリスが元の姿に戻ると、ドライアドはリリスに深々と頭を下げた。

「あんたが謝る事は無いのよ。頭を上げて。勝手にこっちの世界に紛れ込んだ奴が悪いんだからね。」

そう言いながらリリスはドライアドの頭を軽く撫でた。
それに応じてドライアドが目を細め、嬉しそうに微笑んだ。

リリスはドライアドとシーナに再度礼を言い、世界樹の元から飛び立ち、異世界の大空を駆け抜けていった。




意識が元の世界に戻ったリリスは、自室のソファから立ち上がり、魔力操作で自分の身体の中に流れる魔力の中から、ウィンディの魔力の核を取り出した。
それを両手に持ち、ロキに呼び掛けるように強い念を放つと、それは瞬時に応答を見せた。
リリスの目の前に小さな球体が生じて、徐々に形を変え、ロキの使い魔である龍の姿になった。

ロキはリリスが手にしている光球をじっと見つめ、うんうんと無言で頷いた。

「リリス。ご苦労様。よくぞ回収してくれた。礼を言うぞ。」

龍はウィンディの魔力の核を撫で回すように擦り寄った。

「かなり損耗しておるようだ。再生には少し時間が掛かりそうだな。」

「リリス。申し訳ないがもう少し付き合ってくれ。」

そう言うとロキはフッと魔力を放った。それと共にリリスの視界が暗転する。

何処に連れて行くつもりなのよ?

そう思う間もなく視界が変わり、リリスとロキは真っ暗な洞窟の中に居た。
その洞窟の中に光が見える。

ロキに促されその傍に近付くと、クリスタルの様な素材のカプセルの中に、ゴスロリ姿の女性が眠っていた。
ウィンディの本体だ。
気配もなく死んだように眠っている。

「さあ、その中に核を入れてくれ。」

ロキの指示で手にしていた光球をカプセルに押し付けると、まるで吸い込まれるように光球は内部に入っていった。
更にウィンディの本体に入り込み、身体全体が仄かに光りを放った。

「う~む。かなり弱っておるな。リリス、申し訳ないが、お前の魔力をこのカプセルの中に放ってくれ。お前の魔力量の20%ほどで良いから。」

20%って、相当な分量じゃないの!
仕方が無いわねえ。

乗り掛かった舟と言う心境で、リリスは自分の魔力をカプセルの中にしばらく放ち続けた。
カプセルの中のウィンディの本体は光を放ち、その顔は生き生きとした表情になってきている。
それに連れてリリスの額には冷や汗が滲む。

「もう良いだろう。リリス、重ねて感謝するぞ。」

ロキはそう言うと再び魔力を放ち、リリスを自室に戻してくれた。

リリスの肩にどっと疲れがのしかかる。

疲れた・・・・・。

リリスはその疲労のあまり、そのままベッドの上に倒れ込んでしまったのだった。



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