落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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闇の神殿2

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闇のオーブを目の前にして、愕然とするリリス達。

べリアは闇のオーブの中に吸い込まれてしまった。

これって、どうしたら良いの?

そう思いながらふと肩に生えている芋虫に目を向けると、芋虫がうーんと唸りながら念を放っていた。

「メル、どうしたの?」

リリスの問い掛けにメリンダ王女はへへへと笑った。

「闇のオーブだから、アイツが何かを知っているかもしれないと思って、無作為に念話を放っているのよ。私の今までの経験からだと、何とか呼び出せそうな気がするのよね。」

良く意味が分からない。
そう思ったリリスだが、次の瞬間にメリンダ王女が何をしようとしているのか気が付いた。

そのリリスの予想通り、闇のオーブの傍に突然巨大な魔力の塊が出現した。
その禍々しい魔力にデルフィもチラも緊張し、固まってしまった様子で言葉も出ない。

黒い魔力の塊が徐々に人の形に変わっていく。

そこに現れたのはリリスの旧知の存在だ。

「ゲル! 来てくれたのね。」

芋虫が嬉しそうに叫ぶと、ゲルは忌々しそうな表情で芋虫を睨んだ。

「あまりに五月蠅いから何かと思えば、闇のオーブじゃないか。これはまだ世の中に出現させてはならない筈だが・・・・・」

そう言いながらゲルはその視線を芋虫からリリスに向けた。

「また君の仕業か。またタイムスケジュールが狂ったじゃないか。」

ゲルは吐き捨てるように言葉を放ち、闇のオーブの傍に近付いた。

「ゲル。私の仕業って何の事? 私は何もしていないわよ。」

リリスの言葉にゲルはふんっと鼻で笑った。

「全ての元凶は君の魔力だよ。その自覚が君に無いから厄介なんだよね。」

ゲルはリリスから視線を闇のオーブに移し、ポリポリと頭を掻いた。

「そもそも君が覚醒させてしまった『闇の門番』のスキルは、本来はあと10年後に覚醒するはずだったんだ。それなのにこんなに早くに覚醒させてしまうなんて・・・」

ゲルがその視線をふとデルフィとチラに向けた。
その途端に二人はハッとして、不審者を見るような表情に変わった。

「リリス。この男は何者だ? 普通の人間でない事は推測出来るが・・・」

デルフィの言葉にリリスは戸惑った。
ゲルの事を話して良いものか?

だがリリスの思案を他所に、芋虫が直ぐに口を開いた。

「彼の名はゲル。闇の亜神の本体の一部よ。私の闇魔法の師匠の様な存在なのよね。」

「「闇の亜神!!」」

デルフィとチラは同時に声をあげた。
驚くのも無理はない。
そんな存在がミラ王国の王女の知り合いだとは、思いもよらなかったからだ。

あちゃー!
メルったら言っちゃったわね。

そう思ったリリスだが、冷静に考えるとそんな思案をしている場合ではない。
現状ではべリアと闇のオーブの扱いに解答を与えてくれるのは、ゲル以外に考えられないからだ。

「闇の亜神と言っても本体の一部だよ。闇の亜神の本体が降臨するのは5000年後だからね。」

意外にも軽い口調で説明しながら、ゲルは闇のオーブをジッと見つめた。

「ゲル。べリアさんは大丈夫なの? 彼女ったらオーブの中に取り込まれちゃったのよね。」

メリンダ王女の言葉にゲルはニヤッと笑った。

「その女性なら確かに闇のオーブの中にいるよ。一旦闇のオーブに取り込まれる事で『闇の門番』のスキルは完成するんだ。闇のオーブの本来の持ち主との絆を創り、このスキルは強力な加護となって彼女を守ってくれる。」

そうなのね。
でも分かったようで分からない説明ね。

「ゲル。闇のオーブの本来の持ち主って誰なの? あなたじゃないの?」

リリスの問い掛けにゲルは首を横に振った。

「この闇のオーブの本来の持ち主は僕じゃない。君もメリンダ王女も会った事がある女性だよ。」

ゲルはそう言うとパチンと指を鳴らした。
その途端にゲルの傍に小柄な女性が出現した。
黒いワンピースを着た幼女。
その肌は褐色でダークエルフのようにも見える。

「あなたって・・・ジニアさんでしたっけ?」

リリスの問い掛けにその幼女はコクリと頷いた。
その様子を見てリリスは記憶を想起した。

闇の亜神の本体のかけら。
闇の亜神本体の降臨の為の二番目のキーだ。
だがまだ本格的な覚醒までには10年掛かると聞いたのだが。

ジニアはまだ目が開いていない。
だが感覚的に分かるようで、闇のオーブの傍に近付いた。

「ゲル。『闇の門番』のスキルの持ち主が覚醒したの?」

「そうなんだよ。べリアと言う名の女性だ。覚醒自体は少し早いけどね。」

そう言いながらゲルはリリスを軽く睨んだ。

私のせいじゃないからね!

心の中で叫ぶリリスである。

「闇のオーブの中からべリアを出してあげて。」

ジニアの言葉にゲルは頷き、パチンと指を鳴らした。
その途端に闇のオーブの傍にべリアが現われた。
べリアはリリス達の方にふらふらと歩き、脱力してその場に座り込んでしまった。

「べリア!」

チラが叫びながらべリアの傍に駆け寄り、その上半身を起こして健康状態を精査し始めた。

「ああ、良かったわ。疲れているだけのようね。」

チラは携帯用のポーチからポーションを幾つも取り出し、べリアに飲ませて様子を見ていた。

その間に、ジニアは闇のオーブの傍に近付き、その小さな手を闇のオーブの中に突っ込んだ。
その途端に闇のオーブがブルブルと震え、オーブとジニアは黒い闇に包まれてしまった。

「何が起きているんだ?」

デルフィの言葉にリリスも首を傾げた。
ゲルはその様子を見てニヤリと笑い、しばらくして口を開いた。

「闇のオーブは本来の持ち主のものとなったんだよ。ジニアに吸収されてしまったと言った方が正確かな?」

そうなの?

疑問を感じていたリリスや芋虫の目の前で、ゲルはジニアを取り巻く黒い闇の中に入っていった。
しばらくして黒い闇が消えると、ゲルの姿も無く、黒いワンピースを着た女性が立っていた。
だが幼女ではない。
長身のスリムな女性だ。
褐色の肌にロングの黒髪で、大きな目が印象的な美人である。

「ジニアさん・・・・・なの?」

リリスの問い掛けに低いハスキーな声が返って来た。

「そうよ。私の名はジニア。闇の亜神の本体の降臨の為の二番目のキーとして、正常に覚醒出来たわ。でも少し早いけどね。」

ジニアはそう言うと、チラに介抱されているべリアの傍に近付いた。

「あなたがべリアね。『闇の門番』のスキルを持つあなたとは、これから長い付き合いになるわね。」

そう問い掛けられたべリアは意味が分からずキョトンとしている。

「まあ、追々分かってくるわよ。闇の門番は私とこの世界とを取り次ぐ立場なの。私があなたを呼び出す事もあれば、その逆もある。でも私達亜神は気紛れだから、呼び出しても直ぐに駆け付くとは限らないけどね。」

「日が経つにつれて、そのスキルが徐々にべリアの闇魔法を底上げしてくれるのを実感出来るわよ。楽しみにしていてね。」

そう言いながらジニアは立ち上がり、パチンと指を鳴らした。

「この空間の設定を変更したから、何時でもこの神殿のホールに転移出来るわよ。」

ジニアはその場でくるりとターンし、リリスの傍に音もなく近付いた。
その雰囲気に気圧されそうになってしまう。

ジニアはリリスの肩に生えている芋虫をジッと見つめた。

「その使い魔の召喚主はメリンダ王女だったわね。あなたとも今後長い付き合いになりそうだわ。」

笑顔で話すジニアにメリンダ王女は問い掛けた。

「ねえ、ジニアさん。ゲルは何処へ行ったの?」

それはリリスも聞きたい事であった。

「ゲルは私と同化したのよ。闇の亜神は7体のキーの融合によって降臨出来るようになるの。」

「ええっ! ゲルが居なくなっちゃったの?」

芋虫が激しく身体を震わせながら叫んだ。

「居なくなったんじゃないわよ。降臨の為の各キーは闇の亜神本体の持つ色々な側面の表象だからね。でも融合されたキーは使い魔の形でなら出現出来るわよ。」

そう言うと、ジニアは手を前に突き出した。
その手のひらに小さな黒いガーゴイルがパタパタと羽ばたいている。
大きさは10cmにも満たない小さなガーゴイルだ。

ガーゴイルはふっと宙に舞い上がり、芋虫の傍に近付いた。

「僕が消えたわけじゃないからね。何か用事があったら、この形で出て来るよ。」

そう言いながら芋虫の周りを飛び回ったガーゴイルは、そのままスッと消えていった。

「そうなのね。それなら安心だわ。」

芋虫がそう呟いた。

何が安心なのよ?
何時からゲルと師弟関係になったのよ?

突っ込みたい気持ち満載のリリスであったが、それを口には出さなかった。

ジニアは『それじゃあ、またね。』と言いながら、霧のようにその場から消えていった。
その様子を見ながら、デルフィは自分の頬をパンパンと叩いた。

「儂は夢でも見ていたのか? それにしてもあんな存在がリリスやメリンダ王女様の身近にいるなんて・・・」

デルフィは呆れたような表情でリリスを見つめた。

「身近と言っても基本的に気紛れな存在ですからね。こちらが振り回されているだけですよ。」

そう言ってリリスはべリアとチラに視線を向けた。

「さあ、地上に戻りましょう。ジニアが何時でも、神殿のホールに転移出来ると言っていましたからね。」

リリスの言葉にデルフィはうんうんと頷き、懐から転移の魔石を取り出した。
それに魔力を流してみると、明らかに反応している。

「うむ。確かに転移出来そうだな。」

デルフィはそう呟くと、べリアとチラを自分の傍に呼び寄せ、リリスと共に神殿の1階のホールに転移した。



視界が暗転し、リリス達は闇の神殿の遺跡の1階に戻っていた。

神殿中央のホールだ。

だがリリス達の目に入って来たのは、倒れている数名の兵士達の姿だった。

この人達って神殿の入り口で警備していた兵士だったわよね?
リリスの抱いた疑問はデルフィも同様だった。

「どうした? 何事だ?」

デルフィの声に反応するように、ホールの端から黒い闇がカーペットのように無音で一気に広がって来た。

「これは・・・この闇は・・・スーラ叔母様!」

べリアがか細い声で叫んだ。

次の瞬間、闇の奥から黒い人影が出現し、スッと無音で近付いて来た。
その人影はリリス達も目の前で実体化し、黒い法衣を纏った中年の女性の姿になった。
更にその女性の周囲に幾つもの人影が出現し、次々に兵士の姿になっていく。
その数は20名を超える。
彼等はこの女性に付き従う兵士達で、各々に甲冑を装着し魔剣や弓矢で武装していた。

「べリア。抜け駆けは許さないわよ。闇のオーブを私によこしなさい!」

「叔母様! どうしてここまで来たの?」

べリアの問い掛けにスーラはふふんと鼻で笑い、べリアに嘲笑の視線を向けた。

「あなたの動向は逐一把握しているのよ。やはりあなたが宝物庫の鍵を持っていたのね。」

「違うのよ、叔母様! 私の持つスキルはそんなものじゃ無かったのよ。」

べリアはそう言ったものの、説明の仕様も無く言葉に詰まった。
確かに簡潔に説明出来る内容ではない。
スーラはべリアの様子を見ながらも無視して強く言い放った。

「とにかく闇のオーブをここに出しなさい! それとも私と闇魔法で勝負するつもりなの?」

「私と闇魔法で勝負して勝てるつもりなの?」

兵士達が武器をこちらに向けて威嚇する中、スーラは恫喝しながらべリアににじり寄って来たのだった。





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