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リリアのストレス発散2
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アブリル王国での魔物の駆除。
ミラ王国に帰ろうとしていたリリス達だったが、事態は急変し始めた。
突然ゴゴゴゴゴッと地響きが鳴り渡り、スケルトンの現われたワームホールの両脇の地面から、赤々と光る2本の火の帯が飛び出した。
それらは上空で蛇のような形に成り、程なくその姿を明瞭に現わした。
「サラマンダーだ!」
ジークの叫びにリリス達にも緊張が走る。
全長20mほどの2体のサラマンダーが円を描くように回転をし始めた。双方の尻尾を口で噛み、大きな円形を形造るとワームホールの入り口を囲む様に位置し、その場でゆっくりと回転している。
こちらには向かってこないのか?
そう思っていると、サラマンダーに囲まれたワームホールの入り口からぞろぞろと、赤く光る大量の魔物があふれ出て来た。
「ゴーレムだ! だがあいつらはもしかして火の塊で構成されているのか?」
ジークの言葉にリリス達も目を疑った。
だが確かにゴーレムの身体は赤々と燃え、火で構成されているように見える。
そのゴーレムから一斉に大量のファイヤーボールが放たれ、こちらに向かってきた。
「拙い!」
慌ててジークが幾重にもシールドを展開し、防御に魔力を投入し始めた。
そのシールドに10発ほどのファイヤーボールが着弾し、ドドドドドッと爆炎と衝撃音を上げた。
かなりの威力だ。
ゴーレムは身長が2m程で、移動速度はそれほどに早くない。
だが明らかに火魔法に対する耐性を持っているように見える。
マーティンが応戦して、幾つものファイヤーボールを放った。
高温で高速度のファイヤーボールがキーンと金切り音を上げて滑空し、ゴーレムの軍団の中に着弾した。
ドドーンと爆炎を上げ、ゴーレム達はその爆風で吹き飛ばされた。
だが吹き飛ばされたゴーレムは再び立ち上がり、何事も無かったかのようにこちらに向かってきた。
「くそっ! 火魔法が通じないのか?」
吐き捨てるように言い放ったマーティンを横目にしながら、パメラはファイヤートルネードを幾つも放った。
火の竜巻がゴウッと音を立てながらゴーレムの軍団に向かう。
100体以上のゴーレムが竜巻に吹き飛ばされてしまった。
だがそれでもゴーレム達は立ち上がり、こちらに向かって攻撃を始める。
どう見ても火魔法によるダメージを受けていないのは明白だ。
それどころか物理的なダメージすら全く受けていない。
パメラは悔しそうに唇を噛みしめ、ゴーレム達を睨みつけた。
属性から考えると高位の水魔法で対処すべきなのだろう。
リリスはそう考えながらも、次の手を考えていた。
腐食性の毒なら有効かしら?
そう思って解析スキルを発動させたその時、地響きと共にゴーレムが湧き出ているワームホールのある山から、少し離れた山にもう一つのワームホールが現われた。
更にその両脇の地面から、赤々と光る2本の火の帯が飛び出し、これも2体のサラマンダーとなってワームホールの入り口を回転し始めた。
そのワームホールからぞろぞろと飛び出してきたのは、大量のブラックウルフだった。
ブラックウルフはどの個体もワームホールの入り口から飛び出した途端に、回転しているサラマンダーから真っ赤な光を浴び、その頭部が仄かに光っている。
「拙いぞ! ブラックウルフは足が速い。リリス君! 土魔法を駆使して足止めをしてくれ!」
ジークの指示を受け、リリスは前方に駆け出しながら魔力を集中させ、自分達の前方に土魔法で巨大な円弧状の泥沼を造り上げた。
その深さは2mだが左右に50mほどもあり、幅は5mほどに設定されている。
更にその向こう側に幾つもの土壁を入れ子にして三重に造り上げた。
その手際の良さにマーティンもパメラもほうっ!と声をあげた。
リリスの額に汗が滲む。
この作業でリリスは魔力量の20%ほどを消費してしまった。
だがその疲れを他所に、リリスの意識はワームホールの入り口で回転しているサラマンダーに向けられていた。
解析スキルを発動したままだったので、リリスはおもむろに問い掛けた。
あのサラマンダーは何をしているの?
『おそらく火魔法に対する高度な耐性を、各個の魔物に付与しているのでしょう。』
そうするとあのサラマンダーを倒さないと駄目って事ね?
『それ以前に既に耐性を与えられた魔物を駆除しなければなりませんね。』
『当初の予定通り、泥沼に強毒を散布しますか?』
私の考えはお見通しなのね。とりあえず熱耐性があって腐食性の高い強毒を準備して。
『了解しました。直ぐに準備に掛かります。』
解析スキルの返答の直後、リリスの身体の中で疑似毒腺が活性化され、大量の強毒が生成されていく。
その散布の準備に取り掛かろうとしたリリスだが、それを遮るようにうふふふふと言う低い笑い声が背後から聞こえて来た。
誰?
リリスが振り返るとリリアが笑っていた。
だがその表情が普段のリリアと若干違う。
その違和感にリリスは強い疑念を感じた。
顔つきがシャープになっていて、目つきが鋭くなっている。
ほんわかとした普段のリリアのイメージと正反対な表情だ。
その表情を見てマーティンもパメラも違和感を感じ、お互いの顔を見合っていた。
まさかと思うけど、闇落ちの兆しなの?
『いえ、闇落ちの気配は有りませんね。』
それならリリアは今、どう言う状態なの?
『恐らく加護が自律性を持ち始めているのでしょう。それがために疑似人格が生じ、それとリリア本人の人格とが融合している様に感じます。』
それってリリアの精神が加護に乗っ取られてしまわないの?
『そこは微妙ですね。得体の知れない加護ではありますが、あくまでもリリアを主体として存在しようとしているようです。』
う~ん。
良く分からないわね。
首を傾げるリリスに向けて、リリアは口を開いた。
「リリス先輩。その物騒なものを散布する前に、私の本来の火力を試させてくださいね。」
うっ!
毒を散布しようとしているのが何故分かるの?
驚くリリスの目の前で、リリアはすうっと深く息を吸い込んだ。
その動作が少し滑稽だったので、リリス達も油断していた。
瞬時にリリアは周囲から強引に魔力を吸収し、更に大地や大気からまでも魔力を吸引していく。
ジークと周りに居た兵士達は突発的に魔力を吸い上げられてその場に倒れ、マーティンもパメラもうっと呻いてその場に突っ伏した。
恐らく魔力量の半分ほども吸い上げられてしまったのだろう。
リリスは解析スキルが発動されていたおかげで、瞬間的に防御され、魔力量の10%ほどを吸い上げられただけで留まった。
リリアの頭の上に赤い龍が浮かび上がり、その場でぐるぐると回転し始めた。
それと同時にリリアの身体がすっと浮かび上がり、10mほどの高さで停止した。
リリアの身体から大量の触手が周囲に伸び出し、そのすべてが前方に向けられている。
触手の長さは3mほどで、その先端には既に火球が生じていた。
直径30cmほどの小さな火球だが、高温で青白く輝き、その炎熱が地上にまで伝わってくる。
魔力を吸い上げられ、その場に突っ伏していたパメラは、頭を抱えながらなんとか立ち上がった。
そのまま背後に目を向けると、リリアの異様な姿に言葉を失い、立ち尽くしてしまった。
マーティンはふらふらと歩き、リリスの傍に近付くと、心配そうに声を掛けた。
「リリアは・・・リリアは闇落ちしてしまっているのか?」
マーティンの心配は痛いほど良く分かる。
リリスは反射的に首を横に振った。
「いいえ。闇落ちの気配は見られません。どうやら『業火の化身』の疑似人格と融合しているようです。」
「そんな事って・・・・・あるのか?」
そう問われてもリリスには返答の仕様も無い。
リリアは前方の魔物の大群を睨み、大量の青白い火球を一斉に放った。
その数は50以上あるだろう。
大量の青白い火球はゴウッと爆音を立てて滑空し、1秒でその直径が10倍に膨れ上がった。
更に滑空しながらその大きさを拡大していく。
それ故に火球同士が融合してしまい、ゴーレムの近くに到達した時点では、炎の絨毯のようになって着弾した。
まだ青白く輝く分厚い炎の絨毯が、地上を隙間なく埋め尽くす。
ドドドドドッという激しい地響きが鳴り渡った。
その炎熱と爆風で目の前が真っ白になり、リリス達の身体を爆風が駆け抜けていく。
身を屈めてそれを過ぎ越し、リリアを見ると、既にリリアは次の火球をリロードしていた。
再びそれを全弾放つ。
その一連の攻撃を2回繰り返すと、ゴーレムの集団は跡形もなく消え去っていた。
更にリロードして、今度はブラックウルフの群れに向けて放った。
これも広範囲に2回繰り返すと、ゴーレムもブラックウルフも跡形もなく消え去ってしまっていた。
火力で押し切ってしまったのだ。
だがそれでも、二つのワームホールの傍に居た計4体のサラマンダーは生き残っていた。
それらは各々が上空に飛び上がり、お互いの身体を巻き付け融合して、全長30mほどにもなる巨体になってしまった。
そのままサラマンダーがゆっくりとこちらに向かって来る。
これってどうするのよ?
そう案じたリリスの脳裏に解析スキルの言葉が浮かび上がった。
『リリアから、否、業火の化身から依頼が来ています。濃厚な魔力をもう少し分けて欲しいそうです。』
濃厚って言われてもねえ。
力を出し尽くせないの?
『加護自体の機能制限の解除を5分ほど、50%まで引き上げたいそうです。』
5分って事は、5分で片を付けると言う事ね。
良いわよ、少しならあげるわ。
リリスの返答に応じて、リリアは上空からリリスの魔力を吸引した。
即座にリリスは頭痛に襲われた。
ううっ!
少しって言ったじゃないの。
私の魔力の残量の半分も持っていくなんて・・・。
何をするつもりなのかと思いながらリリアを見上げると、リリアの頭上の赤い龍が前方の上空に放たれ、徐々に大きくなりながらサラマンダーに向かって行った。
龍の大きさは既にサラマンダーと互角になっている。
全長30mにもなる火で構成された赤い龍だ。
赤い龍はサラマンダーの身体に巻き付き、その身体を締め上げた。
サラマンダーはそれに対して激しく抵抗し、身体中から高温の炎熱を放ち、龍を焼き切ろうとしている。
だがその攻撃は当然ながら、火で構成された赤い龍には全く通じない。
龍はその身体を七色に変化させながらサラマンダーを締め上げていく。
サラマンダーの身体は徐々に光を失い、その一部が消え去っていくのが見えた。
あの龍はサラマンダーの魔力を吸い上げているの?
『いいえ。魔力を吸い上げているのではなく、サラマンダーの本体を魔素に分解していますね。』
そんな事って出来るの?
唖然としてその様子を見上げているリリスの耳に、ふふふふふと言うリリアの薄ら笑いが聞こえて来た。
笑っているんだわ、この子。
程なくサラマンダーはその身体を消失し、龍は徐々に小さくなりながらリリアの頭上に戻った。
リリアの身体から生えている触手も徐々に消え始め、リリアはふっと気を失って脱力し、うなだれた状態でゆっくりと地面に降りて来た。
まだ残っていた一部の触手はクッションのようにリリアの身体を保護し、彼女を軟着陸させるとその役目を終えたように消えていった。
「「リリア!」」
マーティンとパメラがリリアの身体に駆け寄り、その上半身を起こした。
リリアにはまだ僅かに意識が残っているようだ。
「ああ、気持ち良かった~。」
そう呟くと、リリアは完全に意識を失ってしまった。
魔力の大半を費やし、魔力切れの状態なのだろう。
「兄上、リリアって・・・魔物になってしまったの?」
パメラの言葉にマーティンは首を横に振った。
「違うんだよ、パメラ。あれは特別な火魔法の加護なんだ。『業火の化身』と言うそうだ。」
その禍々しい言葉にパメラは唖然として、リリアの顔をまじまじと覗き込んだ。
リリスはその傍に近付き、パメラに声を掛けようとした。
だがその時、突然上空から光の球がゆっくりと降りて来た。
それはリリス達の目の前に降り立ち、女性の姿になってこちらに目を向けた。
この気配はタミアだ!
女神の様な衣装を着ているので、伝えたい事があるのだろうか。
タミアはゆっくりとリリス達に近付いて来たのだった。
ミラ王国に帰ろうとしていたリリス達だったが、事態は急変し始めた。
突然ゴゴゴゴゴッと地響きが鳴り渡り、スケルトンの現われたワームホールの両脇の地面から、赤々と光る2本の火の帯が飛び出した。
それらは上空で蛇のような形に成り、程なくその姿を明瞭に現わした。
「サラマンダーだ!」
ジークの叫びにリリス達にも緊張が走る。
全長20mほどの2体のサラマンダーが円を描くように回転をし始めた。双方の尻尾を口で噛み、大きな円形を形造るとワームホールの入り口を囲む様に位置し、その場でゆっくりと回転している。
こちらには向かってこないのか?
そう思っていると、サラマンダーに囲まれたワームホールの入り口からぞろぞろと、赤く光る大量の魔物があふれ出て来た。
「ゴーレムだ! だがあいつらはもしかして火の塊で構成されているのか?」
ジークの言葉にリリス達も目を疑った。
だが確かにゴーレムの身体は赤々と燃え、火で構成されているように見える。
そのゴーレムから一斉に大量のファイヤーボールが放たれ、こちらに向かってきた。
「拙い!」
慌ててジークが幾重にもシールドを展開し、防御に魔力を投入し始めた。
そのシールドに10発ほどのファイヤーボールが着弾し、ドドドドドッと爆炎と衝撃音を上げた。
かなりの威力だ。
ゴーレムは身長が2m程で、移動速度はそれほどに早くない。
だが明らかに火魔法に対する耐性を持っているように見える。
マーティンが応戦して、幾つものファイヤーボールを放った。
高温で高速度のファイヤーボールがキーンと金切り音を上げて滑空し、ゴーレムの軍団の中に着弾した。
ドドーンと爆炎を上げ、ゴーレム達はその爆風で吹き飛ばされた。
だが吹き飛ばされたゴーレムは再び立ち上がり、何事も無かったかのようにこちらに向かってきた。
「くそっ! 火魔法が通じないのか?」
吐き捨てるように言い放ったマーティンを横目にしながら、パメラはファイヤートルネードを幾つも放った。
火の竜巻がゴウッと音を立てながらゴーレムの軍団に向かう。
100体以上のゴーレムが竜巻に吹き飛ばされてしまった。
だがそれでもゴーレム達は立ち上がり、こちらに向かって攻撃を始める。
どう見ても火魔法によるダメージを受けていないのは明白だ。
それどころか物理的なダメージすら全く受けていない。
パメラは悔しそうに唇を噛みしめ、ゴーレム達を睨みつけた。
属性から考えると高位の水魔法で対処すべきなのだろう。
リリスはそう考えながらも、次の手を考えていた。
腐食性の毒なら有効かしら?
そう思って解析スキルを発動させたその時、地響きと共にゴーレムが湧き出ているワームホールのある山から、少し離れた山にもう一つのワームホールが現われた。
更にその両脇の地面から、赤々と光る2本の火の帯が飛び出し、これも2体のサラマンダーとなってワームホールの入り口を回転し始めた。
そのワームホールからぞろぞろと飛び出してきたのは、大量のブラックウルフだった。
ブラックウルフはどの個体もワームホールの入り口から飛び出した途端に、回転しているサラマンダーから真っ赤な光を浴び、その頭部が仄かに光っている。
「拙いぞ! ブラックウルフは足が速い。リリス君! 土魔法を駆使して足止めをしてくれ!」
ジークの指示を受け、リリスは前方に駆け出しながら魔力を集中させ、自分達の前方に土魔法で巨大な円弧状の泥沼を造り上げた。
その深さは2mだが左右に50mほどもあり、幅は5mほどに設定されている。
更にその向こう側に幾つもの土壁を入れ子にして三重に造り上げた。
その手際の良さにマーティンもパメラもほうっ!と声をあげた。
リリスの額に汗が滲む。
この作業でリリスは魔力量の20%ほどを消費してしまった。
だがその疲れを他所に、リリスの意識はワームホールの入り口で回転しているサラマンダーに向けられていた。
解析スキルを発動したままだったので、リリスはおもむろに問い掛けた。
あのサラマンダーは何をしているの?
『おそらく火魔法に対する高度な耐性を、各個の魔物に付与しているのでしょう。』
そうするとあのサラマンダーを倒さないと駄目って事ね?
『それ以前に既に耐性を与えられた魔物を駆除しなければなりませんね。』
『当初の予定通り、泥沼に強毒を散布しますか?』
私の考えはお見通しなのね。とりあえず熱耐性があって腐食性の高い強毒を準備して。
『了解しました。直ぐに準備に掛かります。』
解析スキルの返答の直後、リリスの身体の中で疑似毒腺が活性化され、大量の強毒が生成されていく。
その散布の準備に取り掛かろうとしたリリスだが、それを遮るようにうふふふふと言う低い笑い声が背後から聞こえて来た。
誰?
リリスが振り返るとリリアが笑っていた。
だがその表情が普段のリリアと若干違う。
その違和感にリリスは強い疑念を感じた。
顔つきがシャープになっていて、目つきが鋭くなっている。
ほんわかとした普段のリリアのイメージと正反対な表情だ。
その表情を見てマーティンもパメラも違和感を感じ、お互いの顔を見合っていた。
まさかと思うけど、闇落ちの兆しなの?
『いえ、闇落ちの気配は有りませんね。』
それならリリアは今、どう言う状態なの?
『恐らく加護が自律性を持ち始めているのでしょう。それがために疑似人格が生じ、それとリリア本人の人格とが融合している様に感じます。』
それってリリアの精神が加護に乗っ取られてしまわないの?
『そこは微妙ですね。得体の知れない加護ではありますが、あくまでもリリアを主体として存在しようとしているようです。』
う~ん。
良く分からないわね。
首を傾げるリリスに向けて、リリアは口を開いた。
「リリス先輩。その物騒なものを散布する前に、私の本来の火力を試させてくださいね。」
うっ!
毒を散布しようとしているのが何故分かるの?
驚くリリスの目の前で、リリアはすうっと深く息を吸い込んだ。
その動作が少し滑稽だったので、リリス達も油断していた。
瞬時にリリアは周囲から強引に魔力を吸収し、更に大地や大気からまでも魔力を吸引していく。
ジークと周りに居た兵士達は突発的に魔力を吸い上げられてその場に倒れ、マーティンもパメラもうっと呻いてその場に突っ伏した。
恐らく魔力量の半分ほども吸い上げられてしまったのだろう。
リリスは解析スキルが発動されていたおかげで、瞬間的に防御され、魔力量の10%ほどを吸い上げられただけで留まった。
リリアの頭の上に赤い龍が浮かび上がり、その場でぐるぐると回転し始めた。
それと同時にリリアの身体がすっと浮かび上がり、10mほどの高さで停止した。
リリアの身体から大量の触手が周囲に伸び出し、そのすべてが前方に向けられている。
触手の長さは3mほどで、その先端には既に火球が生じていた。
直径30cmほどの小さな火球だが、高温で青白く輝き、その炎熱が地上にまで伝わってくる。
魔力を吸い上げられ、その場に突っ伏していたパメラは、頭を抱えながらなんとか立ち上がった。
そのまま背後に目を向けると、リリアの異様な姿に言葉を失い、立ち尽くしてしまった。
マーティンはふらふらと歩き、リリスの傍に近付くと、心配そうに声を掛けた。
「リリアは・・・リリアは闇落ちしてしまっているのか?」
マーティンの心配は痛いほど良く分かる。
リリスは反射的に首を横に振った。
「いいえ。闇落ちの気配は見られません。どうやら『業火の化身』の疑似人格と融合しているようです。」
「そんな事って・・・・・あるのか?」
そう問われてもリリスには返答の仕様も無い。
リリアは前方の魔物の大群を睨み、大量の青白い火球を一斉に放った。
その数は50以上あるだろう。
大量の青白い火球はゴウッと爆音を立てて滑空し、1秒でその直径が10倍に膨れ上がった。
更に滑空しながらその大きさを拡大していく。
それ故に火球同士が融合してしまい、ゴーレムの近くに到達した時点では、炎の絨毯のようになって着弾した。
まだ青白く輝く分厚い炎の絨毯が、地上を隙間なく埋め尽くす。
ドドドドドッという激しい地響きが鳴り渡った。
その炎熱と爆風で目の前が真っ白になり、リリス達の身体を爆風が駆け抜けていく。
身を屈めてそれを過ぎ越し、リリアを見ると、既にリリアは次の火球をリロードしていた。
再びそれを全弾放つ。
その一連の攻撃を2回繰り返すと、ゴーレムの集団は跡形もなく消え去っていた。
更にリロードして、今度はブラックウルフの群れに向けて放った。
これも広範囲に2回繰り返すと、ゴーレムもブラックウルフも跡形もなく消え去ってしまっていた。
火力で押し切ってしまったのだ。
だがそれでも、二つのワームホールの傍に居た計4体のサラマンダーは生き残っていた。
それらは各々が上空に飛び上がり、お互いの身体を巻き付け融合して、全長30mほどにもなる巨体になってしまった。
そのままサラマンダーがゆっくりとこちらに向かって来る。
これってどうするのよ?
そう案じたリリスの脳裏に解析スキルの言葉が浮かび上がった。
『リリアから、否、業火の化身から依頼が来ています。濃厚な魔力をもう少し分けて欲しいそうです。』
濃厚って言われてもねえ。
力を出し尽くせないの?
『加護自体の機能制限の解除を5分ほど、50%まで引き上げたいそうです。』
5分って事は、5分で片を付けると言う事ね。
良いわよ、少しならあげるわ。
リリスの返答に応じて、リリアは上空からリリスの魔力を吸引した。
即座にリリスは頭痛に襲われた。
ううっ!
少しって言ったじゃないの。
私の魔力の残量の半分も持っていくなんて・・・。
何をするつもりなのかと思いながらリリアを見上げると、リリアの頭上の赤い龍が前方の上空に放たれ、徐々に大きくなりながらサラマンダーに向かって行った。
龍の大きさは既にサラマンダーと互角になっている。
全長30mにもなる火で構成された赤い龍だ。
赤い龍はサラマンダーの身体に巻き付き、その身体を締め上げた。
サラマンダーはそれに対して激しく抵抗し、身体中から高温の炎熱を放ち、龍を焼き切ろうとしている。
だがその攻撃は当然ながら、火で構成された赤い龍には全く通じない。
龍はその身体を七色に変化させながらサラマンダーを締め上げていく。
サラマンダーの身体は徐々に光を失い、その一部が消え去っていくのが見えた。
あの龍はサラマンダーの魔力を吸い上げているの?
『いいえ。魔力を吸い上げているのではなく、サラマンダーの本体を魔素に分解していますね。』
そんな事って出来るの?
唖然としてその様子を見上げているリリスの耳に、ふふふふふと言うリリアの薄ら笑いが聞こえて来た。
笑っているんだわ、この子。
程なくサラマンダーはその身体を消失し、龍は徐々に小さくなりながらリリアの頭上に戻った。
リリアの身体から生えている触手も徐々に消え始め、リリアはふっと気を失って脱力し、うなだれた状態でゆっくりと地面に降りて来た。
まだ残っていた一部の触手はクッションのようにリリアの身体を保護し、彼女を軟着陸させるとその役目を終えたように消えていった。
「「リリア!」」
マーティンとパメラがリリアの身体に駆け寄り、その上半身を起こした。
リリアにはまだ僅かに意識が残っているようだ。
「ああ、気持ち良かった~。」
そう呟くと、リリアは完全に意識を失ってしまった。
魔力の大半を費やし、魔力切れの状態なのだろう。
「兄上、リリアって・・・魔物になってしまったの?」
パメラの言葉にマーティンは首を横に振った。
「違うんだよ、パメラ。あれは特別な火魔法の加護なんだ。『業火の化身』と言うそうだ。」
その禍々しい言葉にパメラは唖然として、リリアの顔をまじまじと覗き込んだ。
リリスはその傍に近付き、パメラに声を掛けようとした。
だがその時、突然上空から光の球がゆっくりと降りて来た。
それはリリス達の目の前に降り立ち、女性の姿になってこちらに目を向けた。
この気配はタミアだ!
女神の様な衣装を着ているので、伝えたい事があるのだろうか。
タミアはゆっくりとリリス達に近付いて来たのだった。
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ファンタジー
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それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
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