落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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魔族の村にて その後の顛末

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レームの街の宿舎。

リリスとリンディは疲れのあまり、ソファにもたれ掛かったまま眠ってしまっていた。

だが深い眠りの中で、リリスの意識は呼び出されてしまったようだ。

毎度の事だが、これが夢なのか否かも分からない。
時空の狭間に迷い込んでいるのだと言う者も居たが、それも真偽不明だ。

壁も床も真っ白な部屋の中。
中央に大きなテーブルがあって、その周りに椅子が配置されている。
そこに座っているのはキングドレイクやシューサック、そして数名の賢者達だ。
その光景をリリスは数mの高所から俯瞰している。
黙って見ていろと言う事なのだろうか?

キングドレイク達と同等に話をする場合もある。
だが今回のように、高所から見ているだけの場合もある。
その違いは何なのだろうか?

何気無く疑問を持ちながらもリリスは賢者達の話に耳を傾けた。



先ず口を開いたのは座長のロスティアだ。

「今回諸君に集まって貰ったのは、リリスの脳内のリミッターの件だ。キングドレイク、現状を説明してくれ。」

名指しされたキングドレイクが頷き、賢者達の顔を見回した。
その仕草に風格が漂っているのは、覇竜の王であったと言う立場の故だろう。

「うむ。簡潔に言うと、リリスの脳内リミッターが外れ易くなっているのだ。」

その言葉を聞いて、シューサックが唐突に口を挟んだ。

「リミッターを外したのはお前ではなかったのか? レームのダンジョンでグリーンドラゴンと威圧のぶつけ合いをした際に、見栄を張ってリリスのスキルをフル稼働させようとしたのが原因なのではないか?」

キングドレイクはシューサックの突っ込みに、うっと唸って迷惑そうな視線を向けた。

「見栄とは何だ! 実力差を見せてやっただけだ。」

憮然とした表情のキングドレイクはプイッと横を向いてしまった。
少しへそを曲げてしまったのか?
その様子にシューサックは呆れてしまい、やれやれと言いながら深くため息をついた。

「まあ、その件は後で話して貰おう。説明を続けてくれ。」

ロスティアの言葉にキングドレイクは気を取り直し、話を再開した。

「そもそも覇竜の加護がリリスの脳内リミッターを制御している筈だった。だが最近になってその制御がかなり不安定になってきているのだ。」

「そんな事があるのか? それは覇竜の加護の不備ではないのか?」

賢者ユーフィリアスの言葉にキングドレイクはピクンと眉を上げた。
参席者の中に一瞬緊張が走る。
だが気を悪くする様子も無く、キングドレイクは冷静に話を続けた。

「覇竜の加護に不備は無い。今でも加護の管轄下でリミッターは制御されている。」

「だが予測を超える力が働き、それがリミッターを加護の管轄下から数分間切り離してしまったのだ。」

キングドレイクはそう言うと腕組みをして考え込む仕草をした。

「その予想を超える力とは何なのだ?」

賢者ドルネアがキングドレイクに尋ねた。
キングドレイクは腕組みを解き、困ったような表情を見せた。
彼には珍しい表情だ。

「原因はリリスの持つ最適化スキルだ。こいつは以前から度々、覇竜の加護に干渉してくる気配があったのだが、特に最近その挙動が不審なのだ。まるで意志を持つようにタイミングを見計らいながら、自分の側に取り込もうとする。」

「それが結果的にはリリスにとって、プラスになる方向に向かおうとしているのはまだ理解出来る。だがその過程がどうしても気に食わんのだよ。」

「確かに最適化スキルは優秀なスキルだ。だが、それにしては予測のつかない動きをし始めているようにも思える。」

キングドレイクは一気に話すとまた腕組みをして黙り込んだ。
その様子を見てシューサックが座長のロスティアに話し掛けた。

「最適化スキルはコピースキルに付随して出現したスキルではなかったのか?」

ロスティアはうむと頷き口を開いた。

「確かにその通りだ。最適化スキルはコピースキルをリリスに授けた際に、その補助的なスキルとして派生したものだ。取り込んだスキルをリリスにとって最善の形に再構成するのがその役割であって、それは現在も変わらない。だが・・・・・」

ロスティアは少し間を置き、再び口を開いた。

「最近になって何者かの関与を感じるような動きをしている事は確かだ。最適化スキルの働きを意図的に活性化させているようにも思えるのだよ。」

「そんな事が有り得るのか? 覇竜の加護をすら凌駕する力を与えている者が居るとでも言うのか?」

賢者ドルネアが少し興奮気味に座長に問い掛けた。
ドルネアの言葉にキングドレイクも目を見開き、座長のロスティアを食い入るように見つめた。
参席者の戸惑いや困惑がその場に漂ってくる。

ロスティアはキングドレイクをちらっと見ながら、ドルネアの問い掛けに応じた。

「それほどの関与をする者が居るとすれば・・・・・超越者や管理者しか居ないだろうな。」

「それはどう言う事だ? そんな事をして何になると言うのだ?」

若干興奮気味に問い掛けたキングドレイク。
傍に居たシューサックが落ち着かせるようにその肩を軽く叩いた。

「これは儂の想像でしかないのだが・・・」

ロスティアは少し間を置いて、ゆっくりと話し始めた。

「最近のリリスのスキルや能力の向上に伴って、何か新たな方向性を与えようとしているのではないか?」

「新たな方向性? 良く分からんな。」

ドルネアの言葉にロスティアは深く頷いた。

「言葉を代えれば・・・人族の枠を超えた別な存在に向かわせようとしていると思えてならない。」

「勿論、今直ぐに人族の枠を超えた別な存在になってしまうのではないが、将来を見据えての干渉ではないだろうか?」

ロスティアの言葉に参席者全員がう~んと唸って黙り込んだ。
しばらく沈黙が続く。

その沈黙を破ったのはシューサックだった。

「まあ、いずれにしても覇竜の加護が万能ではないと言う事だな。せめて最適化スキルの突出した活性化を予測する事は出来ないのか?」

「それは試してみよう。儂もこのままでは合点がいかないからな。」

キングドレイクはそう言うと座長に目で合図をした。
これ以上この件を討論しても仕方が無いと言う意図だろう。

ロスティアはうむと頷き、少し話題を変えた。

「最適化スキルが今も稼働している。それはリリスが取り込んだ魔族の魔力の残滓をスキル化しようとしているからだ。」

ロスティアの言葉にユーフィリアスが問い掛けた。

「魔族の魔力が固着する事ってあるのか?」

「固着と言う表現は的確では無いだろうな。」

そう答えてロスティアは参席者を見回し、再び口を開いた。

「特殊な呪詛と言った方が良いかも知れん。魔族が消滅の危機に瀕して、やけっぱちで放ったのだろう。勿論リリスは呪詛を解呪するスキルも持ち合わせている。だがそのスキルの対応範囲を超えて、たまたま固着してしまったと言う事なのだ。」

「そうなのか。それでそんなものを上手くスキル化出来るのか?」

ユーフィリアスの疑問にロスティアは頷いた。

「まあ、最適化スキルのお手並み拝見と言う事だ。こう言う動きだけ見れば、優秀なスキルなのだが・・・」

「いずれにしても今後の動きを注視していてくれ。」

座長の言葉にキングドレイクは黙って頷いた。

会議の場がお開きになり、参席者が次々に退出していく。

何を見せられているのよ?

賢者達の会議の様子を俯瞰しながら、リリスは深くため息をついた。
そのリリスの視線を横切るように、ふわふわと浮かびながら三毛猫が横切っていく。
猫に擬態しているが、実際には得体の知れない存在だ。
転移時に魂に紐づけされた呪詛のようなものだとは聞いているが・・・。

その三毛猫が通り過ぎながら、ふとリリスの方に顔を向け、ニヤッと笑ったように感じた。

うっ!
こいつの存在を忘れていたわ。
最適化スキルに関与している存在が、超越者や管理者以外に居る事もあり得るかも・・・。

リリスの視界が薄れ、再び深い眠りに陥っていく中で、リリスはその疑惑を拭えぬままに意識を失って行った。





翌朝。

まだ日が出て間もない時刻にリリスはベッドの中で目覚めた。
衣類は着替えていない。
どうやら夜のうちにベッドに移動だけしていたようだ。

まだ眠れるわよね。

そう思って目を瞑った途端に、解析スキルが発動してしまった。

『お目覚めのようですので、お知らせします。』

目覚めたって言ってもまだ眠いんだけど・・・。

『まあ、そう仰らずに。朗報ですよ。最適化スキルが良い仕事をしてくれました。』

う~ん。
最適化スキルかぁ。
このスキルのお陰で若干寝不足なんだけどねえ。

『仰る意味が分かりませんね。』

ああ、気にしないでね。
それでどうなったの?

『固着してしまった魔族の魔力を全て転換させました。ステータスで確認してください。』

解析スキルの念を受けて、リリスは自分のステータスを開いた。



**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル26(+2)

年齢:14(+2.5)

体力:1800(+500)
魔力:4800(+500)

属性:土・火・風

魔法:ファイヤーボール  レベル7+++

   ファイヤーボルト  レベル8+++

   アースウォール   レベル8

   加圧        レベル5+

   アースランス    レベル3

   硬化        レベル5

   エアカッター    レベル4

   エアバースト    レベル4




(秘匿領域)

属性:水・聖・闇(制限付き)

魔法:ウォータースプラッシュ レベル3 

   ウォーターカッター レベル3

   ヒール       レベル2+ (親和性による補正有り)

   液状化       レベル18 (制限付き)  

   黒炎        レベル3  (制限付き)

   黒炎錬成      レベル3  (制限付き)

 → 闇操作       レベル3  (魔力誘導との連携により制限無し)

 → 闇の転移      レベル1  (制限付き)

 
スキル:鑑定 レベル5

    投擲 レベル5

    魔力吸引(P・A) レベル5++

    魔力誘導 レベル5 (獣性要素による高度補正有り)

    探知 レベル5++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒生成 レベル7+ (獣性要素による高度補正有り)

    解毒  レベル7+ (獣性要素による高度補正有り)

    毒耐性 レベル7+ (獣性要素による高度補正有り)

    火力増幅(加護と連携可能)

    火力凝縮(加護と連携可能)

    亜空間シールド(P・A)(加護と連携可能)

    減圧(重力操作)レベル5+

    調合 レベル4

    魔装(P・A) (妖精化)

    魔金属錬成 レベル1++(高度補正有り)

    属性付与  レベル1++(高度補正有り)

    スキル特性付与 レベル1++(高度補正有り)

    呪詛構築 (データ制限有り)

    瞬間移動(発動に制限有り)

    細胞励起(発動に制限有り)

    覇竜の遺志を継ぐ者

    風神集結

    異世界通行手形(調整中につき発動不可)

    世界樹の加護

    解析 

    最適化

**************


何となく全体的にレベルが上がっているわね。
最近毒を創り出す事が多くなって、毒関連のスキルもレベルが上がっているわ。
厄介者の産土神体現スキルは消えちゃっているわね。

それで新しいものは・・・闇操作?

『そうです。聖魔法との相性もあって闇魔法は基本的に制限が掛かってしまいますが、魔力誘導スキルと関連付けることで、その制限を突破してしまいました。これは最適化スキルのお手柄だと思いますよ。』

そうなの?
あまり実感が無いんだけど。

『試してみれば分かります。闇を自在に展開出来ることで、攻撃手段にかなり多様な幅が出来ますからね。』

『闇の転移は制限付きですが、闇の操作と連携させれば対象物を遠くに放逐する事も可能です。』

そうなのね。
まあ、起きてから試してみるわ。
ありがとう。
でももう少し眠らせてよ。

リリスは解析スキルを解除して、再び眠りに就いたのだった。


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