落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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魔族からのギフト3

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これまで何度か訪れているアブリル王国の魔物駆除。

だが今回は少し勝手が違うようだ。

ハービーの群れを駆逐した惨状を前にし、後始末の為の火魔法が発動出来ず焦るリリス。

その脳裏に言葉が浮かんだ。

『焼き払う必要は無い。魔素として回収する。』

余計な事をするなって言うの?
スキルに怒られちゃったわ。
でもどうするって言うのよ。

そう思ったリリスの脳裏に再び言葉が浮かんだ。

『スイーパーによる魔素回収開始』

その言葉と同時にリリスの視界にある闇が全て地上に降り、地表を大きく覆った。
その状態で地面に散乱しているオーガファイターのメタルアーマーや魔剣、切り刻んだハービーの血肉などを闇が吸収し魔素に分解していく。

それらは更に魔力に転換されてリリスの元に流れ込んできた。
だが流れ込んでくる魔力の質は良くない。
邪悪で攻撃的な魔力だ。
その影響で若干頭が痛い。
それに加えて闇魔法の魔力に漂う魔族の気配が、少し強くなってきたように感じられた。

このまま魔族になっちゃうんじゃないでしょうね。

流れ込んでくる魔力に若干の不安を感じていると、リリスの耳にギヤーッ、ギヤーッと言うハービーの金切り声が聞こえて来た。
闇による駆逐を免れた10体ほどのハービーが、散開して多方面からこちらに向かって来ようとしている。
群れていると拙いと理解して、散開したのだろう。
だがそれを闇は見逃さない。
地面を覆っていた闇の一部が幾つにも小さく分離して飛翔し、群れずに逃げるハービーを追うと、捕縛して包み込み容赦なく駆逐した。

「呆れたわね。攻撃力が格段にアップしてるわよ。」

芋虫の言葉にリリスはえへへと照れ笑いをした。

魔物の駆除はこれで終了したようだ。

既にワームホールから魔物が出て来る気配もなく、リリスはほっと安堵のため息をついていた。

だが次の瞬間、リリスは自分の肩に違和感を感じた。
目を向けると芋虫が苦痛で呻いている。

「メル! どうしたの?」

リリスの問い掛けにも芋虫は呻くだけだ。

「喉が・・・苦しい・・・」

「喉が・・・締め付けられる・・・」

メリンダ王女の使い魔の芋虫は、その身体を折り曲げながら更に苦しみ始めた。
当初は魔物から取り込んだ邪悪な魔力の影響かと思ったのだが、喉が締め付けられると言うメリンダ王女の言葉から考えると、邪悪な魔力の影響では無さそうだ。

メルの身に何が起きているの?

突然の事にリリスは戸惑うばかりだった。

その時、闇魔法の憑依状態を通じて、リリスの脳裏に念話が届いた。

(リリス様、リノです!)

(リノ! どうしたの? メルは大丈夫?)

(それが・・・王女様の首に着用されていたチョーカーが、突然赤い光を出して締め付けているのです。緊急事態なので取り急ぎ、使い魔による憑依状態を断ち切りますね。)

リノの念話と共に、リリスの肩に憑依していた芋虫の姿がふっと消えた。
それと同時にギャッと言うメリンダ王女の悲鳴がリリスの脳裏に響いた。
無理矢理使い魔を解除させたので、その衝撃がメリンダ王女の脳内に走った筈だ。
だがそれでも緊急事態となれば止むを得ない。
メリンダ王女の身に危険が及ぶとなれば、リノもそうするしか無いだろう。

そう思って少し油断していたリリスの肩に、ドンと衝撃が伝わった。
芋虫が憑依していた箇所に黒い影が渦巻き、それはそのまま方の中にスッと入っていった。
その途端にリリスは強烈な頭痛を感じた。
それと共に凶悪で邪悪な情念が脳内を駆け巡る。

『制御不能!制御不能!』

闇魔法スキル統合管理者の悲鳴のような言葉が脳裏に浮かぶ。
それと共に再び魔力吸引スキルが発動され、大地や大気から魔力が激しく流れ込んできた。
リリスの身体は熱くなって、魔力の流れの中で激しく震え始めた。

何が起きているの?

立っていられずその場にしゃがみ込んだリリスだが、この時解析スキルが突然発動した。

『闇魔法スキル統合管理者が暴走しています!』

『緊急事態を察知し、覇竜の加護が全ての制御を試みます!』

その言葉と同時にリリスの身体がカッと赤く光り、そのまま赤い光の包まれた。
魔力吸引スキルが解除され、リリスの身体の震えも収まったのだが、立ち上がったリリスの目に異様な光景が映った。

地面を覆い尽くしていた闇がその厚みを増し、生き物のようにドクドクと鼓動を打っている。
リリスに流れ込んできた魔力が全て闇に流れ込み、異様な形状にしてしまったのかも知れない。
その闇は身体を収縮させながら丸くなり、巨大なスライムの様な形状になった。
更にその身体全体が時折火花を散らし、強烈な妖気と瘴気を放ち始めた。

まるで巨大な魔物だ。

その身体から黒い触手を幾つも伸ばし、周囲を探知しているような仕草を見せている。

まさかこちらに向かってこないわよね。
あんなのとどうやって闘うのよ。

そう思ったのはリリスだけでは無かった。
ジークやマーティンもその様子を見ながら身構えている。

だがリリスの不安に反して、巨大な闇は向きを変え、まだ消滅していなかったワームホールの方に向かった。
その速度も速い。
あっという間にワームホールの前まで滑るように進むと、身体を細長く変形させながら、そのままワームホールの中に飛び込んでいった。
その数秒後に、ワームホールは消滅していった。

「何が起きていたんだ?」

ジークがそう呟いたが、リリスも首を捻るばかりだ。

気が付くと解析スキルも覇竜の加護も解除され、身体を包んでいた赤い光も消えていた。
闇魔法スキル統合管理者は反応すら感じられない。
発動不可状態に陥っているのだろう。

「おやっ? 王女様はもうお帰りになったのですか?」

リリスの肩に生えていた芋虫の姿が無い事に気が付いて、マーティンがリリスに問い掛けた。

「ええ、緊急の用事が出来たようです。」

そう答えるしかないリリスである。

「何となく消化不良だが、まあ良いか。リリア君は満足したかね?」

ジークの言葉にリリアはハイと答えて頷いた。

「それなら良い。まあ、とりあえず帰ろうか。」

そう言いながらジークは転移の魔石を取り出し、リリスや警護の兵士達を順次転移させていったのだった。







その日の夜。

翌日の授業の準備を終え、ベッドに入ったリリスの枕元に、小さな白いリスが現われた。

リノの使い魔だ。

(リリス様。突然お邪魔して申し訳ありません。)

白いリスからの念話が届いた。
リリスは反射的にサラの居るベッドに目を向けた。
すやすやと寝息が聞こえる。
既にサラは寝入っているようだ。

リリスはそれを確かめ、手を伸ばして白いリスの頭を軽く撫でた。

(良いのよ、リノ。それでメルの様子は大丈夫なの?)

(ハイ。今は既に落ち着いておられます。外傷もありません。)

リノの念話にリリスはホッと安堵のため息をついた。

(それであのチョーカーは何だったの? 呪いが掛かっていたようには感じられなかったけど・・・)

(あのチョーカーですが、元々は王族の女性の護身用のものだったようです。これはあくまでも類推ですが・・・)

そう答えて白いリスはその小さな手で頭を掻いた。
その仕草が可愛くて、リリスは真剣な話の最中にも拘わらず、思わず笑みを漏らしてしまった。

(開祖の時代は魔族との激しい闘いが頻発していたと聞きます。それであのチョーカーには魔族に対する敵意や情念が込められていたのではないかと思うのです。それがリリス様の闇魔法の魔力に反応して、過剰な反応を起こしたのではないかと。)

(それって私の闇魔法の魔力が引き金になったって言うの?)

リリスの問い掛けに、白いリスはその目でじっとリリスの目を見つめた。

(リリス様。チョーカーが異常な反応を起こす直前に、何かあったのですか? 例えば魔族が出現したとか・・・)

(いいえ、それは無かったわよ。でも・・・特殊なスキルを発動させて、闇魔法の強化を図った事はあったけどね。まさかそれが要因だなんて事は無いわよね。)

そう答えてリリスはふと案じた。
闇魔法スキル統合管理者を発動させてから、自分の闇魔法の魔力に魔族の気配が若干感じられるようになった事は確かだ。
それが使い魔の芋虫を通してメリンダ王女に伝わったのだろうか?

(それであのチョーカーはどうしたの? 壊しちゃったの?)

(いいえ、王女様の使い魔の憑依を強制的に解除させたら、元の状態に戻りました。)

それって何処までも私に原因があるって言いたそうね。

(でも王女様はあのチョーカーを気に入られているので、今度リリス様に見て貰いたいとの仰せです。リリス様は以前に魔剣の修復を何度もなされたと聞きましたが・・・)

(ああ、それは私の実家の領地に特殊な技量を持つ鍛冶職人が居るのよ。それに賢者様になったご先祖も居るので、魔金属の合金に混入する魔力誘導体についても、特殊な素材が比較的に手に入りやすいのよ。)

そう言う事にしているからね。

リリスはそう思いながら白いリスを見つめた。

(そうなんですね。リリス様のご先祖様で賢者様ってユリアス様の事ですね。王女様からも聞いた事があります。)

リリスの発言も全てが嘘ではない。
ユリアスはレミア族の膨大な遺物と研究設備を継承しているので、特殊な素材を手に入れるのも容易だからだ。

(そう。そうなのよ。まあ、あのチョーカーに関しては私も気になる事があるので、一度見させて貰うわね。)

(ハイ、お願いします。)

そう答えて白いリスは消えていった。
わざわざリリスに会いに来たリノの用件が済んだようだ。

やれやれ。
これで眠れるわ。

そう思って眠りに入ったリリスだが、ふと目が覚めると懐かしい情景の中に居た。

何処かのお寺の本堂だ。
広い本堂の縁側に真っ赤な緋毛氈が一直線に敷かれていて、その外に見える広い中庭は様々な色模様の紅葉で埋め尽くされている。

ここって京都の洛北のあのお寺じゃないの?
社会人になって初めての夏の休暇で、一人旅をしたときに訪れた場所だわ。
また私の脳内記憶に無断でアクセスしたのかしら?

そう思って緑色の分厚い座布団に座っていると、本堂の奥から僧侶が現われた。
その顔を見ると・・・・・やはりギグルだった。
僧侶の衣装がやたらに似合う。

しかめっ面のリリスの表情を見て見ぬ振りをしながら、ギグルはリリスの傍に座った。

「お前の脳内記憶の中で良さげな風景を選んだのだがな。」

「そんな余計な事をしなくても良いですよ。」

そう答えてリリスはギグルに向き合った。

「それにしてもここは何なのですか? 夢の中では無さそうだし、時空の狭間でもなさそうだし・・・」

「時空の狭間などと言う言葉は、そこに行った者でなければ使わんよなあ。」

ギグルはそう言うとふふふと笑った。

「ここは儂ら魔族の特定の種族が意識のみで共有するネットワーク空間だ。儂等はこの仮想空間を利用して様々な情報を収集し発信している。その仮想空間の中でもここは儂のプライベート空間で、儂の許可無しには誰もアクセス出来ん。」

「そこまで言えば分かると思うが、ここに居るお前は実体では無く意識のみだ。」

ギグルの説明でリリスは腑に落ちた。
やはり夢の中では無かった。
また、特別な亜空間でもないと言う事だ。
だが意識が覚醒していると言う事は、眠っていないと言う事でもある。
そう考えると明日の朝の寝不足は確定だ。

若干うんざりした表情のリリスに、ギグルは追い打ちを掛けて来た。

「ここにお前を呼び出したのは、お前に対する苦情の故だ。」

苦情?

「それってどう言う事ですか?」

リリスの返答にギグルはう~んと唸った。

「お前は・・・・・自分が引き起こした騒動の自覚がないのか?」

そう言ってギグルは黙り込んでしまったのだった。







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