262 / 369
魔族からのギフト3
しおりを挟む
これまで何度か訪れているアブリル王国の魔物駆除。
だが今回は少し勝手が違うようだ。
ハービーの群れを駆逐した惨状を前にし、後始末の為の火魔法が発動出来ず焦るリリス。
その脳裏に言葉が浮かんだ。
『焼き払う必要は無い。魔素として回収する。』
余計な事をするなって言うの?
スキルに怒られちゃったわ。
でもどうするって言うのよ。
そう思ったリリスの脳裏に再び言葉が浮かんだ。
『スイーパーによる魔素回収開始』
その言葉と同時にリリスの視界にある闇が全て地上に降り、地表を大きく覆った。
その状態で地面に散乱しているオーガファイターのメタルアーマーや魔剣、切り刻んだハービーの血肉などを闇が吸収し魔素に分解していく。
それらは更に魔力に転換されてリリスの元に流れ込んできた。
だが流れ込んでくる魔力の質は良くない。
邪悪で攻撃的な魔力だ。
その影響で若干頭が痛い。
それに加えて闇魔法の魔力に漂う魔族の気配が、少し強くなってきたように感じられた。
このまま魔族になっちゃうんじゃないでしょうね。
流れ込んでくる魔力に若干の不安を感じていると、リリスの耳にギヤーッ、ギヤーッと言うハービーの金切り声が聞こえて来た。
闇による駆逐を免れた10体ほどのハービーが、散開して多方面からこちらに向かって来ようとしている。
群れていると拙いと理解して、散開したのだろう。
だがそれを闇は見逃さない。
地面を覆っていた闇の一部が幾つにも小さく分離して飛翔し、群れずに逃げるハービーを追うと、捕縛して包み込み容赦なく駆逐した。
「呆れたわね。攻撃力が格段にアップしてるわよ。」
芋虫の言葉にリリスはえへへと照れ笑いをした。
魔物の駆除はこれで終了したようだ。
既にワームホールから魔物が出て来る気配もなく、リリスはほっと安堵のため息をついていた。
だが次の瞬間、リリスは自分の肩に違和感を感じた。
目を向けると芋虫が苦痛で呻いている。
「メル! どうしたの?」
リリスの問い掛けにも芋虫は呻くだけだ。
「喉が・・・苦しい・・・」
「喉が・・・締め付けられる・・・」
メリンダ王女の使い魔の芋虫は、その身体を折り曲げながら更に苦しみ始めた。
当初は魔物から取り込んだ邪悪な魔力の影響かと思ったのだが、喉が締め付けられると言うメリンダ王女の言葉から考えると、邪悪な魔力の影響では無さそうだ。
メルの身に何が起きているの?
突然の事にリリスは戸惑うばかりだった。
その時、闇魔法の憑依状態を通じて、リリスの脳裏に念話が届いた。
(リリス様、リノです!)
(リノ! どうしたの? メルは大丈夫?)
(それが・・・王女様の首に着用されていたチョーカーが、突然赤い光を出して締め付けているのです。緊急事態なので取り急ぎ、使い魔による憑依状態を断ち切りますね。)
リノの念話と共に、リリスの肩に憑依していた芋虫の姿がふっと消えた。
それと同時にギャッと言うメリンダ王女の悲鳴がリリスの脳裏に響いた。
無理矢理使い魔を解除させたので、その衝撃がメリンダ王女の脳内に走った筈だ。
だがそれでも緊急事態となれば止むを得ない。
メリンダ王女の身に危険が及ぶとなれば、リノもそうするしか無いだろう。
そう思って少し油断していたリリスの肩に、ドンと衝撃が伝わった。
芋虫が憑依していた箇所に黒い影が渦巻き、それはそのまま方の中にスッと入っていった。
その途端にリリスは強烈な頭痛を感じた。
それと共に凶悪で邪悪な情念が脳内を駆け巡る。
『制御不能!制御不能!』
闇魔法スキル統合管理者の悲鳴のような言葉が脳裏に浮かぶ。
それと共に再び魔力吸引スキルが発動され、大地や大気から魔力が激しく流れ込んできた。
リリスの身体は熱くなって、魔力の流れの中で激しく震え始めた。
何が起きているの?
立っていられずその場にしゃがみ込んだリリスだが、この時解析スキルが突然発動した。
『闇魔法スキル統合管理者が暴走しています!』
『緊急事態を察知し、覇竜の加護が全ての制御を試みます!』
その言葉と同時にリリスの身体がカッと赤く光り、そのまま赤い光の包まれた。
魔力吸引スキルが解除され、リリスの身体の震えも収まったのだが、立ち上がったリリスの目に異様な光景が映った。
地面を覆い尽くしていた闇がその厚みを増し、生き物のようにドクドクと鼓動を打っている。
リリスに流れ込んできた魔力が全て闇に流れ込み、異様な形状にしてしまったのかも知れない。
その闇は身体を収縮させながら丸くなり、巨大なスライムの様な形状になった。
更にその身体全体が時折火花を散らし、強烈な妖気と瘴気を放ち始めた。
まるで巨大な魔物だ。
その身体から黒い触手を幾つも伸ばし、周囲を探知しているような仕草を見せている。
まさかこちらに向かってこないわよね。
あんなのとどうやって闘うのよ。
そう思ったのはリリスだけでは無かった。
ジークやマーティンもその様子を見ながら身構えている。
だがリリスの不安に反して、巨大な闇は向きを変え、まだ消滅していなかったワームホールの方に向かった。
その速度も速い。
あっという間にワームホールの前まで滑るように進むと、身体を細長く変形させながら、そのままワームホールの中に飛び込んでいった。
その数秒後に、ワームホールは消滅していった。
「何が起きていたんだ?」
ジークがそう呟いたが、リリスも首を捻るばかりだ。
気が付くと解析スキルも覇竜の加護も解除され、身体を包んでいた赤い光も消えていた。
闇魔法スキル統合管理者は反応すら感じられない。
発動不可状態に陥っているのだろう。
「おやっ? 王女様はもうお帰りになったのですか?」
リリスの肩に生えていた芋虫の姿が無い事に気が付いて、マーティンがリリスに問い掛けた。
「ええ、緊急の用事が出来たようです。」
そう答えるしかないリリスである。
「何となく消化不良だが、まあ良いか。リリア君は満足したかね?」
ジークの言葉にリリアはハイと答えて頷いた。
「それなら良い。まあ、とりあえず帰ろうか。」
そう言いながらジークは転移の魔石を取り出し、リリスや警護の兵士達を順次転移させていったのだった。
その日の夜。
翌日の授業の準備を終え、ベッドに入ったリリスの枕元に、小さな白いリスが現われた。
リノの使い魔だ。
(リリス様。突然お邪魔して申し訳ありません。)
白いリスからの念話が届いた。
リリスは反射的にサラの居るベッドに目を向けた。
すやすやと寝息が聞こえる。
既にサラは寝入っているようだ。
リリスはそれを確かめ、手を伸ばして白いリスの頭を軽く撫でた。
(良いのよ、リノ。それでメルの様子は大丈夫なの?)
(ハイ。今は既に落ち着いておられます。外傷もありません。)
リノの念話にリリスはホッと安堵のため息をついた。
(それであのチョーカーは何だったの? 呪いが掛かっていたようには感じられなかったけど・・・)
(あのチョーカーですが、元々は王族の女性の護身用のものだったようです。これはあくまでも類推ですが・・・)
そう答えて白いリスはその小さな手で頭を掻いた。
その仕草が可愛くて、リリスは真剣な話の最中にも拘わらず、思わず笑みを漏らしてしまった。
(開祖の時代は魔族との激しい闘いが頻発していたと聞きます。それであのチョーカーには魔族に対する敵意や情念が込められていたのではないかと思うのです。それがリリス様の闇魔法の魔力に反応して、過剰な反応を起こしたのではないかと。)
(それって私の闇魔法の魔力が引き金になったって言うの?)
リリスの問い掛けに、白いリスはその目でじっとリリスの目を見つめた。
(リリス様。チョーカーが異常な反応を起こす直前に、何かあったのですか? 例えば魔族が出現したとか・・・)
(いいえ、それは無かったわよ。でも・・・特殊なスキルを発動させて、闇魔法の強化を図った事はあったけどね。まさかそれが要因だなんて事は無いわよね。)
そう答えてリリスはふと案じた。
闇魔法スキル統合管理者を発動させてから、自分の闇魔法の魔力に魔族の気配が若干感じられるようになった事は確かだ。
それが使い魔の芋虫を通してメリンダ王女に伝わったのだろうか?
(それであのチョーカーはどうしたの? 壊しちゃったの?)
(いいえ、王女様の使い魔の憑依を強制的に解除させたら、元の状態に戻りました。)
それって何処までも私に原因があるって言いたそうね。
(でも王女様はあのチョーカーを気に入られているので、今度リリス様に見て貰いたいとの仰せです。リリス様は以前に魔剣の修復を何度もなされたと聞きましたが・・・)
(ああ、それは私の実家の領地に特殊な技量を持つ鍛冶職人が居るのよ。それに賢者様になったご先祖も居るので、魔金属の合金に混入する魔力誘導体についても、特殊な素材が比較的に手に入りやすいのよ。)
そう言う事にしているからね。
リリスはそう思いながら白いリスを見つめた。
(そうなんですね。リリス様のご先祖様で賢者様ってユリアス様の事ですね。王女様からも聞いた事があります。)
リリスの発言も全てが嘘ではない。
ユリアスはレミア族の膨大な遺物と研究設備を継承しているので、特殊な素材を手に入れるのも容易だからだ。
(そう。そうなのよ。まあ、あのチョーカーに関しては私も気になる事があるので、一度見させて貰うわね。)
(ハイ、お願いします。)
そう答えて白いリスは消えていった。
わざわざリリスに会いに来たリノの用件が済んだようだ。
やれやれ。
これで眠れるわ。
そう思って眠りに入ったリリスだが、ふと目が覚めると懐かしい情景の中に居た。
何処かのお寺の本堂だ。
広い本堂の縁側に真っ赤な緋毛氈が一直線に敷かれていて、その外に見える広い中庭は様々な色模様の紅葉で埋め尽くされている。
ここって京都の洛北のあのお寺じゃないの?
社会人になって初めての夏の休暇で、一人旅をしたときに訪れた場所だわ。
また私の脳内記憶に無断でアクセスしたのかしら?
そう思って緑色の分厚い座布団に座っていると、本堂の奥から僧侶が現われた。
その顔を見ると・・・・・やはりギグルだった。
僧侶の衣装がやたらに似合う。
しかめっ面のリリスの表情を見て見ぬ振りをしながら、ギグルはリリスの傍に座った。
「お前の脳内記憶の中で良さげな風景を選んだのだがな。」
「そんな余計な事をしなくても良いですよ。」
そう答えてリリスはギグルに向き合った。
「それにしてもここは何なのですか? 夢の中では無さそうだし、時空の狭間でもなさそうだし・・・」
「時空の狭間などと言う言葉は、そこに行った者でなければ使わんよなあ。」
ギグルはそう言うとふふふと笑った。
「ここは儂ら魔族の特定の種族が意識のみで共有するネットワーク空間だ。儂等はこの仮想空間を利用して様々な情報を収集し発信している。その仮想空間の中でもここは儂のプライベート空間で、儂の許可無しには誰もアクセス出来ん。」
「そこまで言えば分かると思うが、ここに居るお前は実体では無く意識のみだ。」
ギグルの説明でリリスは腑に落ちた。
やはり夢の中では無かった。
また、特別な亜空間でもないと言う事だ。
だが意識が覚醒していると言う事は、眠っていないと言う事でもある。
そう考えると明日の朝の寝不足は確定だ。
若干うんざりした表情のリリスに、ギグルは追い打ちを掛けて来た。
「ここにお前を呼び出したのは、お前に対する苦情の故だ。」
苦情?
「それってどう言う事ですか?」
リリスの返答にギグルはう~んと唸った。
「お前は・・・・・自分が引き起こした騒動の自覚がないのか?」
そう言ってギグルは黙り込んでしまったのだった。
だが今回は少し勝手が違うようだ。
ハービーの群れを駆逐した惨状を前にし、後始末の為の火魔法が発動出来ず焦るリリス。
その脳裏に言葉が浮かんだ。
『焼き払う必要は無い。魔素として回収する。』
余計な事をするなって言うの?
スキルに怒られちゃったわ。
でもどうするって言うのよ。
そう思ったリリスの脳裏に再び言葉が浮かんだ。
『スイーパーによる魔素回収開始』
その言葉と同時にリリスの視界にある闇が全て地上に降り、地表を大きく覆った。
その状態で地面に散乱しているオーガファイターのメタルアーマーや魔剣、切り刻んだハービーの血肉などを闇が吸収し魔素に分解していく。
それらは更に魔力に転換されてリリスの元に流れ込んできた。
だが流れ込んでくる魔力の質は良くない。
邪悪で攻撃的な魔力だ。
その影響で若干頭が痛い。
それに加えて闇魔法の魔力に漂う魔族の気配が、少し強くなってきたように感じられた。
このまま魔族になっちゃうんじゃないでしょうね。
流れ込んでくる魔力に若干の不安を感じていると、リリスの耳にギヤーッ、ギヤーッと言うハービーの金切り声が聞こえて来た。
闇による駆逐を免れた10体ほどのハービーが、散開して多方面からこちらに向かって来ようとしている。
群れていると拙いと理解して、散開したのだろう。
だがそれを闇は見逃さない。
地面を覆っていた闇の一部が幾つにも小さく分離して飛翔し、群れずに逃げるハービーを追うと、捕縛して包み込み容赦なく駆逐した。
「呆れたわね。攻撃力が格段にアップしてるわよ。」
芋虫の言葉にリリスはえへへと照れ笑いをした。
魔物の駆除はこれで終了したようだ。
既にワームホールから魔物が出て来る気配もなく、リリスはほっと安堵のため息をついていた。
だが次の瞬間、リリスは自分の肩に違和感を感じた。
目を向けると芋虫が苦痛で呻いている。
「メル! どうしたの?」
リリスの問い掛けにも芋虫は呻くだけだ。
「喉が・・・苦しい・・・」
「喉が・・・締め付けられる・・・」
メリンダ王女の使い魔の芋虫は、その身体を折り曲げながら更に苦しみ始めた。
当初は魔物から取り込んだ邪悪な魔力の影響かと思ったのだが、喉が締め付けられると言うメリンダ王女の言葉から考えると、邪悪な魔力の影響では無さそうだ。
メルの身に何が起きているの?
突然の事にリリスは戸惑うばかりだった。
その時、闇魔法の憑依状態を通じて、リリスの脳裏に念話が届いた。
(リリス様、リノです!)
(リノ! どうしたの? メルは大丈夫?)
(それが・・・王女様の首に着用されていたチョーカーが、突然赤い光を出して締め付けているのです。緊急事態なので取り急ぎ、使い魔による憑依状態を断ち切りますね。)
リノの念話と共に、リリスの肩に憑依していた芋虫の姿がふっと消えた。
それと同時にギャッと言うメリンダ王女の悲鳴がリリスの脳裏に響いた。
無理矢理使い魔を解除させたので、その衝撃がメリンダ王女の脳内に走った筈だ。
だがそれでも緊急事態となれば止むを得ない。
メリンダ王女の身に危険が及ぶとなれば、リノもそうするしか無いだろう。
そう思って少し油断していたリリスの肩に、ドンと衝撃が伝わった。
芋虫が憑依していた箇所に黒い影が渦巻き、それはそのまま方の中にスッと入っていった。
その途端にリリスは強烈な頭痛を感じた。
それと共に凶悪で邪悪な情念が脳内を駆け巡る。
『制御不能!制御不能!』
闇魔法スキル統合管理者の悲鳴のような言葉が脳裏に浮かぶ。
それと共に再び魔力吸引スキルが発動され、大地や大気から魔力が激しく流れ込んできた。
リリスの身体は熱くなって、魔力の流れの中で激しく震え始めた。
何が起きているの?
立っていられずその場にしゃがみ込んだリリスだが、この時解析スキルが突然発動した。
『闇魔法スキル統合管理者が暴走しています!』
『緊急事態を察知し、覇竜の加護が全ての制御を試みます!』
その言葉と同時にリリスの身体がカッと赤く光り、そのまま赤い光の包まれた。
魔力吸引スキルが解除され、リリスの身体の震えも収まったのだが、立ち上がったリリスの目に異様な光景が映った。
地面を覆い尽くしていた闇がその厚みを増し、生き物のようにドクドクと鼓動を打っている。
リリスに流れ込んできた魔力が全て闇に流れ込み、異様な形状にしてしまったのかも知れない。
その闇は身体を収縮させながら丸くなり、巨大なスライムの様な形状になった。
更にその身体全体が時折火花を散らし、強烈な妖気と瘴気を放ち始めた。
まるで巨大な魔物だ。
その身体から黒い触手を幾つも伸ばし、周囲を探知しているような仕草を見せている。
まさかこちらに向かってこないわよね。
あんなのとどうやって闘うのよ。
そう思ったのはリリスだけでは無かった。
ジークやマーティンもその様子を見ながら身構えている。
だがリリスの不安に反して、巨大な闇は向きを変え、まだ消滅していなかったワームホールの方に向かった。
その速度も速い。
あっという間にワームホールの前まで滑るように進むと、身体を細長く変形させながら、そのままワームホールの中に飛び込んでいった。
その数秒後に、ワームホールは消滅していった。
「何が起きていたんだ?」
ジークがそう呟いたが、リリスも首を捻るばかりだ。
気が付くと解析スキルも覇竜の加護も解除され、身体を包んでいた赤い光も消えていた。
闇魔法スキル統合管理者は反応すら感じられない。
発動不可状態に陥っているのだろう。
「おやっ? 王女様はもうお帰りになったのですか?」
リリスの肩に生えていた芋虫の姿が無い事に気が付いて、マーティンがリリスに問い掛けた。
「ええ、緊急の用事が出来たようです。」
そう答えるしかないリリスである。
「何となく消化不良だが、まあ良いか。リリア君は満足したかね?」
ジークの言葉にリリアはハイと答えて頷いた。
「それなら良い。まあ、とりあえず帰ろうか。」
そう言いながらジークは転移の魔石を取り出し、リリスや警護の兵士達を順次転移させていったのだった。
その日の夜。
翌日の授業の準備を終え、ベッドに入ったリリスの枕元に、小さな白いリスが現われた。
リノの使い魔だ。
(リリス様。突然お邪魔して申し訳ありません。)
白いリスからの念話が届いた。
リリスは反射的にサラの居るベッドに目を向けた。
すやすやと寝息が聞こえる。
既にサラは寝入っているようだ。
リリスはそれを確かめ、手を伸ばして白いリスの頭を軽く撫でた。
(良いのよ、リノ。それでメルの様子は大丈夫なの?)
(ハイ。今は既に落ち着いておられます。外傷もありません。)
リノの念話にリリスはホッと安堵のため息をついた。
(それであのチョーカーは何だったの? 呪いが掛かっていたようには感じられなかったけど・・・)
(あのチョーカーですが、元々は王族の女性の護身用のものだったようです。これはあくまでも類推ですが・・・)
そう答えて白いリスはその小さな手で頭を掻いた。
その仕草が可愛くて、リリスは真剣な話の最中にも拘わらず、思わず笑みを漏らしてしまった。
(開祖の時代は魔族との激しい闘いが頻発していたと聞きます。それであのチョーカーには魔族に対する敵意や情念が込められていたのではないかと思うのです。それがリリス様の闇魔法の魔力に反応して、過剰な反応を起こしたのではないかと。)
(それって私の闇魔法の魔力が引き金になったって言うの?)
リリスの問い掛けに、白いリスはその目でじっとリリスの目を見つめた。
(リリス様。チョーカーが異常な反応を起こす直前に、何かあったのですか? 例えば魔族が出現したとか・・・)
(いいえ、それは無かったわよ。でも・・・特殊なスキルを発動させて、闇魔法の強化を図った事はあったけどね。まさかそれが要因だなんて事は無いわよね。)
そう答えてリリスはふと案じた。
闇魔法スキル統合管理者を発動させてから、自分の闇魔法の魔力に魔族の気配が若干感じられるようになった事は確かだ。
それが使い魔の芋虫を通してメリンダ王女に伝わったのだろうか?
(それであのチョーカーはどうしたの? 壊しちゃったの?)
(いいえ、王女様の使い魔の憑依を強制的に解除させたら、元の状態に戻りました。)
それって何処までも私に原因があるって言いたそうね。
(でも王女様はあのチョーカーを気に入られているので、今度リリス様に見て貰いたいとの仰せです。リリス様は以前に魔剣の修復を何度もなされたと聞きましたが・・・)
(ああ、それは私の実家の領地に特殊な技量を持つ鍛冶職人が居るのよ。それに賢者様になったご先祖も居るので、魔金属の合金に混入する魔力誘導体についても、特殊な素材が比較的に手に入りやすいのよ。)
そう言う事にしているからね。
リリスはそう思いながら白いリスを見つめた。
(そうなんですね。リリス様のご先祖様で賢者様ってユリアス様の事ですね。王女様からも聞いた事があります。)
リリスの発言も全てが嘘ではない。
ユリアスはレミア族の膨大な遺物と研究設備を継承しているので、特殊な素材を手に入れるのも容易だからだ。
(そう。そうなのよ。まあ、あのチョーカーに関しては私も気になる事があるので、一度見させて貰うわね。)
(ハイ、お願いします。)
そう答えて白いリスは消えていった。
わざわざリリスに会いに来たリノの用件が済んだようだ。
やれやれ。
これで眠れるわ。
そう思って眠りに入ったリリスだが、ふと目が覚めると懐かしい情景の中に居た。
何処かのお寺の本堂だ。
広い本堂の縁側に真っ赤な緋毛氈が一直線に敷かれていて、その外に見える広い中庭は様々な色模様の紅葉で埋め尽くされている。
ここって京都の洛北のあのお寺じゃないの?
社会人になって初めての夏の休暇で、一人旅をしたときに訪れた場所だわ。
また私の脳内記憶に無断でアクセスしたのかしら?
そう思って緑色の分厚い座布団に座っていると、本堂の奥から僧侶が現われた。
その顔を見ると・・・・・やはりギグルだった。
僧侶の衣装がやたらに似合う。
しかめっ面のリリスの表情を見て見ぬ振りをしながら、ギグルはリリスの傍に座った。
「お前の脳内記憶の中で良さげな風景を選んだのだがな。」
「そんな余計な事をしなくても良いですよ。」
そう答えてリリスはギグルに向き合った。
「それにしてもここは何なのですか? 夢の中では無さそうだし、時空の狭間でもなさそうだし・・・」
「時空の狭間などと言う言葉は、そこに行った者でなければ使わんよなあ。」
ギグルはそう言うとふふふと笑った。
「ここは儂ら魔族の特定の種族が意識のみで共有するネットワーク空間だ。儂等はこの仮想空間を利用して様々な情報を収集し発信している。その仮想空間の中でもここは儂のプライベート空間で、儂の許可無しには誰もアクセス出来ん。」
「そこまで言えば分かると思うが、ここに居るお前は実体では無く意識のみだ。」
ギグルの説明でリリスは腑に落ちた。
やはり夢の中では無かった。
また、特別な亜空間でもないと言う事だ。
だが意識が覚醒していると言う事は、眠っていないと言う事でもある。
そう考えると明日の朝の寝不足は確定だ。
若干うんざりした表情のリリスに、ギグルは追い打ちを掛けて来た。
「ここにお前を呼び出したのは、お前に対する苦情の故だ。」
苦情?
「それってどう言う事ですか?」
リリスの返答にギグルはう~んと唸った。
「お前は・・・・・自分が引き起こした騒動の自覚がないのか?」
そう言ってギグルは黙り込んでしまったのだった。
10
あなたにおすすめの小説
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~
けろ
ファンタジー
【完結済み】
仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!?
過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。
救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。
しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。
記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。
偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。
彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。
「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」
強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。
「菌?感染症?何の話だ?」
滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級!
しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。
規格外の弟子と、人外の師匠。
二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。
これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~
存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?!
はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?!
火・金・日、投稿予定
投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる