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魔族からのギフト2
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メリンダ王女から呼び出された数日後。
リリスはジーク率いる10名ほどの部隊に同行し、アブリル王国に転移していた。
その部隊には、レザーアーマーを装着したマーティンとリリアも同行している。
マーティンはリリアが闇落ちしないように、時折アブリル王国の魔物駆除に連れ出してストレスを発散させているそうだ。
リリアの精神状態にはかなり配慮しているのだろう。
広大な草原とそれを取り囲む山並み。
景色だけ見ればハイキングにふさわしい場所だ。
時折吹き抜ける爽やかな風が心地良い。
遠くに見える山々は緑で覆われ、鳥達の鳴き声が聞こえてくる。
その草原を一行は行進していた。
この部隊のリーダーは勿論ジークであるが、今回は特別なゲストが居る事を念頭に置いて行動しているのは当然だ。
そのゲストはリリスの肩に憑依している一つ目の芋虫であり、その召喚主のメリンダ王女である。
「王女様。アブリル王国の魔物駆除は単調な作業ですよ。」
そう言って話を振ってくるジークに、メリンダ王女は惑わされる事なく言葉を返す。
「良いのよ。私は私で試してみたい事があるんだからね。リリア達の邪魔はしないわよ。」
「それにリリスが居るから、どのみち簡単には終わらないわよ。」
リリスの肩の上で芋虫がそう言いながら、身体をくねくねと動かしていた。
「メル。余計な事を期待しないでよね。」
リリスの言葉に芋虫は平然と答える。
「特別な期待をしなくても、ダンジョンメイトのあんたが居れば何か起きるんだから、それだけで充分よ。」
メリンダ王女の言葉にマーティンが続いた。
「そうですよね。僕もリリスが関わる事で、予想を遥かに超える濃密な戦闘になる事を幾度も体験しました。」
そんなところで共感しないでよ。
そう思ってマーティンの傍に居るリリアに視線を向けると、リリアは少し申し訳なさそうな表情を見せた。
「私事に付き合わせてしまったようで、申し訳ありません。」
リリアの表情が硬い。
「ああ、良いのよリリア。さっきも言ったように、私は私で試してみたい事があるからね。あんたは気の済むように暴れまわれば良いのよ。出現してきた魔物を全て燃やし尽くしてしまっても構わないわ。私の出番はその後よ。」
メリンダ王女の言葉にリリアは恐縮し、更に表情が強張っている。
戦闘が始まればその緊張もどこかに消し飛んで行くだろう。
そう思ったリリスの予想は正しかった。
ドドドドドッと言う衝撃音と共に、比較的に近いの山の崖にワームホールが出現した。
そのワームホールから黒い魔物が湧き出るように、次々と飛び出してくる。
どうやらブラックウルフの群れのようだ。
ワームホールから出現してきた数は約50体。
リリアにとっては挨拶程度の魔物の数だ。
「それじゃあリリア君。早速やってみたまえ。王女様も許可して下さっているのだから、遠慮なく焼き尽くして良いぞ。」
ジークの言葉にリリアはハイと答え、素早く前に進み出た。
うんと唸って気合を入れ、身体中に火魔法の魔力を循環させると、リリアの身体が仄かに光り始めた。
その両肩の上にぐるぐると回転しながら出現したのは、リリスが見慣れたファイヤーニードルでは無かった。
少し太めのファイヤーアローが5本づつ、リリアの両肩の上で回転している。
リリアったらアップデートしたの?
リリスの疑問を他所に、リリアの肩の上から次々にファイヤーアローが放たれていった。
キーンと言う金切り音を立てて全弾が飛び出すと、リリアは直ぐに次弾をリロードした。
再度全弾を放ち、またリロードする。
その作業の繰り返しだが、放たれたファイヤーアローは100本にもなった。
それらは一旦上空に舞い上がり、放物線を描いてブラックウルフの群れに襲い掛かる。
投擲スキルで補正されたその軌道は無駄が無い。
駆け抜けるブラックウルフに見事に着弾し、あちらこちらに火柱が立った。
それでも驚異的な身のこなしで、一瞬の時間の中で火矢を回避したブラックウルフも居た。
だが、爆炎の中を擦り抜ける数体のブラックウルフをリリアは見逃していない。
地上すれすれの高さに放たれたファイヤーアローは、そのブラックウルフの背後に回るように滑空し、背後から追い抜くように貫いていく。
それはリリアの探知能力の高さに由来するものだ。
少し見ない間に、戦闘能力が研ぎ澄まされてきたわね。
リリアの潜在能力が徐々に引き出されてきているのだろう。
その成長振りにマーティンやリリスの頬も緩む。
ところがリリアが全てのブラックウルフを仕留めると同時に、ドドドドドッと大地が振動し始めた。
何となく不気味な気配だ。
ブラックウルフの出現したワームホールが消えていくと共に、その横に新たなワームホールが出現した。
その新たなワームホールから、キラキラと光る魔物の群れが飛び出してくる。
良く見ると、メタルアーマーを装着したオーガファイターの群れだ。
それらの手には魔剣や魔弓が握られているのが見える。
その数はやはり50体ほどだ。
ドドドドドッと土埃を上げて疾走してくるオーガファイターの群れ。
それを見て、芋虫が嬉しそうに叫んだ。
「さあ、今度は私の番よ。リリス、準備は良い?」
「ええ、良いわよ。」
リリスの返答と同時に、メリンダ王女は使い魔の憑依状態を強化した。
リリスの魔力がメリンダ王女の管理下に入る。
更にリリスの闇魔法が連携される事で、メリンダ王女の闇魔法が格段に強化された。
「うんうん。パワーアップされているのが分かるわ!」
興奮状態のメリンダ王女である。
「リリス! 黒炎を放つわよ!」
芋虫がそう叫ぶと、リリスの両手が自然に前方に突き出され、2個の黒炎が放たれた。
それは直径が50cmほどだが、高速で滑空しながら徐々に大きくなっていく。
オーガファイターの群れに着弾する時点では、その直径が5mにもなっていた。
黒炎は着弾と共に大地に押しつぶされる様に広がり、その黒い炎に触れた魔物を静かに焼き尽くしていく。
オーガファイターの身体はまるで消し炭のように変わり果て、その端から徐々に消滅していった。
その様子を見て気を良くしたメリンダ王女は、連続的に黒炎を放ち続けた。
幾つもの巨大な黒炎がオーガファイターの群れを覆い尽くすように着弾し、大地に広がって連結され、巨大な黒炎の沼の様な姿になった。その中に巻き込まれたオーガファイターは片っ端から消滅していく。
10分ほどで50体のオーガファイターは全て消え去り、大地にはメタルアーマーや魔剣類が大量に散乱していた。
「これは・・・・・圧巻ですね、王女様。」
ジークの驚きにメリンダ王女も喜びを隠さない。
リリスの肩の上で、芋虫が激しく身体を揺らし喜びを表現している。
「これならずっとリリスに憑依していても良いわね。」
「冗談じゃ無いわよ。私の自由を返してよ。」
リリスの憤りにメリンダ王女はハイハイと言葉を返し、使い魔の憑依状態を弱くした。
やれやれと思ったリリスにメリンダ王女は話を振った。
「そう言えばリリスの闇の操作も見てみたいわね。試してみる機会があれば良いのだけど・・・・・」
メリンダ王女がそう言った矢先、オーガファイターが湧き出してきたワームホールが消え、その隣にまたもワームホールが地鳴りと共に出現してきた。
「あら! まだおかわりがあるわよ。これはリリスの分ね。」
メリンダ王女は自分の出番が終わったと言いたげだ。
「リリス君が同行してくれると、魔物に事欠かないね。」
そう言いながらニヤッと笑うジークに、リリスは内心うんざりした。
それを表情に出さず新たなワームホールを見つめていると、その中からギャーと言う金切り声が幾重にもなって聞こえて来た。
そこから雲霞の如くに飛び出してきたのはハービーの群れだった。
ワームホールのある崖の一帯を埋め尽くすほどの数だ。
恐らく200体を超えているだろう。
だがメリンダ王女は気楽に呟いた。
「黒炎と闇の操作で駆逐すれば良いのよ。」
そうは言われてもリリスの現状の闇魔法のレベルでそれをこなせるのか?
若干不安を感じながらも、リリスは闇魔法の魔力を循環させ、火魔法との連携を確立させた。
その上で黒炎を次々に放ち、更に幾つもの闇を空中に放った。
高速で滑空する黒炎はハービーの群れの中に着弾し、触れたものを全て静かに焼き尽くしていく。
同時に放たれた闇は直径が2m程で、円盤のように滑空し、3~4体のハービーを包み込むと火魔法を発動して激しい炎を上げた。
ギヤーッ、ギヤーッと言う悲鳴が大量に重なって轟き渡る。
それは耳を完全に塞いでいたいほどだ。
ハービーの群れからは魔力を纏った矢が飛んでくるが、それらはジークが何重にも張り巡らせたシールドによって防がれている。
ハービーの約半数は消え去った。
だがリリスもメリンダ王女の憑依状態の強化からここまでの戦闘で、かなりの魔力を費やしていた。
額に若干の冷汗を掻きながら、魔力吸引を発動させようと考えていたその時、メリンダ王女がふと呟いた。
「リリス。ワームホールの様子がおかしいわよ。」
そう言われてワームホールを見ると、その縁が赤く光り始めた。
そのワームホールの中に、残っていたハービー達が吸い込まれる様に入っていく。
何事かと思って見ていると、ハービー達が再び外に出て来た。
だが先ほどと様子が違う。
ハービー達の身体がキラキラと光っている。
良く見るとメタルアーマーを装着しているようだ。
更に自分の周囲をシールドで包み込んでいるのが確認出来た。
うっ!
防御を強化してきたの?
100体ほどのハービーの群れに向けて、リリスは黒炎を数発放った。
それらは高速で滑空し、ハービーの群れに程なく着弾した。
だが黒炎は黒い炎を上げたものの、ハービー達にダメージを与えている様子が見られない。
闇魔法に対する耐性まで強化したのね!
100体の強化されたハービーが、ギヤーッギヤーッギヤーッと金切り声を上げながらこちらに向かって来る。
「リリス。闇魔法をもっと強化出来ないの?」
黒炎に効果の無い事を見て、メリンダ王女が呟いた。
その言葉にふとリリスは思いついた。
そうだ!
新しいスキルを試してみよう。
「メル。闇魔法の強化を試してみるわね。」
「そんなスキルを持っているの?」
芋虫が興味津々で尋ねて来た。
「うん。30分だけの時間限定のスキルなんだけどね。」
「30分もあれば、あんたなら充分よね。試してみて。」
メリンダ王女の言葉に促され、リリスは『闇魔法スキル統合管理者』を発動させた。
その途端に身体が熱くなり、闇魔法の魔力が激しく循環し始めた。
それと同時に闇魔法の魔力に魔族の気配が若干感じられるようになってきた。
これはタレスから貰った、デビア族に伝わる魔道具の影響なのだろうか?
程なくリリスの脳裏には次々と言葉が浮かんできた。
『魔力量補充の為、魔力吸引スキル発動』
『火魔法との連携強化』
『風魔法との連携強化』
『水魔法との連携強化』
『土魔法との連携強化』
『闇魔法の強化 300%完了』
『自動索敵開始』
魔力吸引スキルの発動により、大地や大気から魔力が激しく流れ込んでくる。
リリスの身体が一段と熱くなり、両手が自然に前方に突き出された。
その両手から次々に闇が出現し、円盤のように高速で前方に滑空していく。
その闇はハービー達の群れに近付くと直径が5mほどにもなり、まるで生き物のように360度を自在に動き回り、7~8体のハービーを包み込むと、激しい炎熱を上げた。
その包み込む闇の隙間から、炎熱で溶解したメタルアーマーがボロボロと落ちていく。
ハービー達の纏うシールドも全く効果が無いようだ。
更に水魔法と連携された闇はハービーを包み込むと、その内部でウオーターカッターを大量に発生させ、ハービー達をメタルアーマー諸共に粉みじんに切り刻んでいく。
風魔法と連携された闇はウィンドカッターを内部に発生させ、包み込んだハービー達を切り刻んだ。
そして土魔法と連携された闇は大量のアースランスで、包み込んだハービー達をハチの巣状態にしてしまった。
闇が開くと穴だらけになったハービーがボロボロと地面に落ちていく。
ほんの数分で、辺り一面が切り刻まれた肉片と血で覆い尽くされてしまった。
あまりにも凄惨な情景だ。
その情景にマーティンやリリアもうっと呻いて目を逸らした。
思わず火魔法で焼き払ってしまおうと思ったリリスだが、火魔法が上手く発動出来ない。
これって闇魔法のスキルに制限されているの?
直感的にそう感じて、リリスは何度も火魔法を発動させようとした。
だがそれでも発動出来ず、リリスは不安と焦りで精神的に追い詰められていたのだった。
リリスはジーク率いる10名ほどの部隊に同行し、アブリル王国に転移していた。
その部隊には、レザーアーマーを装着したマーティンとリリアも同行している。
マーティンはリリアが闇落ちしないように、時折アブリル王国の魔物駆除に連れ出してストレスを発散させているそうだ。
リリアの精神状態にはかなり配慮しているのだろう。
広大な草原とそれを取り囲む山並み。
景色だけ見ればハイキングにふさわしい場所だ。
時折吹き抜ける爽やかな風が心地良い。
遠くに見える山々は緑で覆われ、鳥達の鳴き声が聞こえてくる。
その草原を一行は行進していた。
この部隊のリーダーは勿論ジークであるが、今回は特別なゲストが居る事を念頭に置いて行動しているのは当然だ。
そのゲストはリリスの肩に憑依している一つ目の芋虫であり、その召喚主のメリンダ王女である。
「王女様。アブリル王国の魔物駆除は単調な作業ですよ。」
そう言って話を振ってくるジークに、メリンダ王女は惑わされる事なく言葉を返す。
「良いのよ。私は私で試してみたい事があるんだからね。リリア達の邪魔はしないわよ。」
「それにリリスが居るから、どのみち簡単には終わらないわよ。」
リリスの肩の上で芋虫がそう言いながら、身体をくねくねと動かしていた。
「メル。余計な事を期待しないでよね。」
リリスの言葉に芋虫は平然と答える。
「特別な期待をしなくても、ダンジョンメイトのあんたが居れば何か起きるんだから、それだけで充分よ。」
メリンダ王女の言葉にマーティンが続いた。
「そうですよね。僕もリリスが関わる事で、予想を遥かに超える濃密な戦闘になる事を幾度も体験しました。」
そんなところで共感しないでよ。
そう思ってマーティンの傍に居るリリアに視線を向けると、リリアは少し申し訳なさそうな表情を見せた。
「私事に付き合わせてしまったようで、申し訳ありません。」
リリアの表情が硬い。
「ああ、良いのよリリア。さっきも言ったように、私は私で試してみたい事があるからね。あんたは気の済むように暴れまわれば良いのよ。出現してきた魔物を全て燃やし尽くしてしまっても構わないわ。私の出番はその後よ。」
メリンダ王女の言葉にリリアは恐縮し、更に表情が強張っている。
戦闘が始まればその緊張もどこかに消し飛んで行くだろう。
そう思ったリリスの予想は正しかった。
ドドドドドッと言う衝撃音と共に、比較的に近いの山の崖にワームホールが出現した。
そのワームホールから黒い魔物が湧き出るように、次々と飛び出してくる。
どうやらブラックウルフの群れのようだ。
ワームホールから出現してきた数は約50体。
リリアにとっては挨拶程度の魔物の数だ。
「それじゃあリリア君。早速やってみたまえ。王女様も許可して下さっているのだから、遠慮なく焼き尽くして良いぞ。」
ジークの言葉にリリアはハイと答え、素早く前に進み出た。
うんと唸って気合を入れ、身体中に火魔法の魔力を循環させると、リリアの身体が仄かに光り始めた。
その両肩の上にぐるぐると回転しながら出現したのは、リリスが見慣れたファイヤーニードルでは無かった。
少し太めのファイヤーアローが5本づつ、リリアの両肩の上で回転している。
リリアったらアップデートしたの?
リリスの疑問を他所に、リリアの肩の上から次々にファイヤーアローが放たれていった。
キーンと言う金切り音を立てて全弾が飛び出すと、リリアは直ぐに次弾をリロードした。
再度全弾を放ち、またリロードする。
その作業の繰り返しだが、放たれたファイヤーアローは100本にもなった。
それらは一旦上空に舞い上がり、放物線を描いてブラックウルフの群れに襲い掛かる。
投擲スキルで補正されたその軌道は無駄が無い。
駆け抜けるブラックウルフに見事に着弾し、あちらこちらに火柱が立った。
それでも驚異的な身のこなしで、一瞬の時間の中で火矢を回避したブラックウルフも居た。
だが、爆炎の中を擦り抜ける数体のブラックウルフをリリアは見逃していない。
地上すれすれの高さに放たれたファイヤーアローは、そのブラックウルフの背後に回るように滑空し、背後から追い抜くように貫いていく。
それはリリアの探知能力の高さに由来するものだ。
少し見ない間に、戦闘能力が研ぎ澄まされてきたわね。
リリアの潜在能力が徐々に引き出されてきているのだろう。
その成長振りにマーティンやリリスの頬も緩む。
ところがリリアが全てのブラックウルフを仕留めると同時に、ドドドドドッと大地が振動し始めた。
何となく不気味な気配だ。
ブラックウルフの出現したワームホールが消えていくと共に、その横に新たなワームホールが出現した。
その新たなワームホールから、キラキラと光る魔物の群れが飛び出してくる。
良く見ると、メタルアーマーを装着したオーガファイターの群れだ。
それらの手には魔剣や魔弓が握られているのが見える。
その数はやはり50体ほどだ。
ドドドドドッと土埃を上げて疾走してくるオーガファイターの群れ。
それを見て、芋虫が嬉しそうに叫んだ。
「さあ、今度は私の番よ。リリス、準備は良い?」
「ええ、良いわよ。」
リリスの返答と同時に、メリンダ王女は使い魔の憑依状態を強化した。
リリスの魔力がメリンダ王女の管理下に入る。
更にリリスの闇魔法が連携される事で、メリンダ王女の闇魔法が格段に強化された。
「うんうん。パワーアップされているのが分かるわ!」
興奮状態のメリンダ王女である。
「リリス! 黒炎を放つわよ!」
芋虫がそう叫ぶと、リリスの両手が自然に前方に突き出され、2個の黒炎が放たれた。
それは直径が50cmほどだが、高速で滑空しながら徐々に大きくなっていく。
オーガファイターの群れに着弾する時点では、その直径が5mにもなっていた。
黒炎は着弾と共に大地に押しつぶされる様に広がり、その黒い炎に触れた魔物を静かに焼き尽くしていく。
オーガファイターの身体はまるで消し炭のように変わり果て、その端から徐々に消滅していった。
その様子を見て気を良くしたメリンダ王女は、連続的に黒炎を放ち続けた。
幾つもの巨大な黒炎がオーガファイターの群れを覆い尽くすように着弾し、大地に広がって連結され、巨大な黒炎の沼の様な姿になった。その中に巻き込まれたオーガファイターは片っ端から消滅していく。
10分ほどで50体のオーガファイターは全て消え去り、大地にはメタルアーマーや魔剣類が大量に散乱していた。
「これは・・・・・圧巻ですね、王女様。」
ジークの驚きにメリンダ王女も喜びを隠さない。
リリスの肩の上で、芋虫が激しく身体を揺らし喜びを表現している。
「これならずっとリリスに憑依していても良いわね。」
「冗談じゃ無いわよ。私の自由を返してよ。」
リリスの憤りにメリンダ王女はハイハイと言葉を返し、使い魔の憑依状態を弱くした。
やれやれと思ったリリスにメリンダ王女は話を振った。
「そう言えばリリスの闇の操作も見てみたいわね。試してみる機会があれば良いのだけど・・・・・」
メリンダ王女がそう言った矢先、オーガファイターが湧き出してきたワームホールが消え、その隣にまたもワームホールが地鳴りと共に出現してきた。
「あら! まだおかわりがあるわよ。これはリリスの分ね。」
メリンダ王女は自分の出番が終わったと言いたげだ。
「リリス君が同行してくれると、魔物に事欠かないね。」
そう言いながらニヤッと笑うジークに、リリスは内心うんざりした。
それを表情に出さず新たなワームホールを見つめていると、その中からギャーと言う金切り声が幾重にもなって聞こえて来た。
そこから雲霞の如くに飛び出してきたのはハービーの群れだった。
ワームホールのある崖の一帯を埋め尽くすほどの数だ。
恐らく200体を超えているだろう。
だがメリンダ王女は気楽に呟いた。
「黒炎と闇の操作で駆逐すれば良いのよ。」
そうは言われてもリリスの現状の闇魔法のレベルでそれをこなせるのか?
若干不安を感じながらも、リリスは闇魔法の魔力を循環させ、火魔法との連携を確立させた。
その上で黒炎を次々に放ち、更に幾つもの闇を空中に放った。
高速で滑空する黒炎はハービーの群れの中に着弾し、触れたものを全て静かに焼き尽くしていく。
同時に放たれた闇は直径が2m程で、円盤のように滑空し、3~4体のハービーを包み込むと火魔法を発動して激しい炎を上げた。
ギヤーッ、ギヤーッと言う悲鳴が大量に重なって轟き渡る。
それは耳を完全に塞いでいたいほどだ。
ハービーの群れからは魔力を纏った矢が飛んでくるが、それらはジークが何重にも張り巡らせたシールドによって防がれている。
ハービーの約半数は消え去った。
だがリリスもメリンダ王女の憑依状態の強化からここまでの戦闘で、かなりの魔力を費やしていた。
額に若干の冷汗を掻きながら、魔力吸引を発動させようと考えていたその時、メリンダ王女がふと呟いた。
「リリス。ワームホールの様子がおかしいわよ。」
そう言われてワームホールを見ると、その縁が赤く光り始めた。
そのワームホールの中に、残っていたハービー達が吸い込まれる様に入っていく。
何事かと思って見ていると、ハービー達が再び外に出て来た。
だが先ほどと様子が違う。
ハービー達の身体がキラキラと光っている。
良く見るとメタルアーマーを装着しているようだ。
更に自分の周囲をシールドで包み込んでいるのが確認出来た。
うっ!
防御を強化してきたの?
100体ほどのハービーの群れに向けて、リリスは黒炎を数発放った。
それらは高速で滑空し、ハービーの群れに程なく着弾した。
だが黒炎は黒い炎を上げたものの、ハービー達にダメージを与えている様子が見られない。
闇魔法に対する耐性まで強化したのね!
100体の強化されたハービーが、ギヤーッギヤーッギヤーッと金切り声を上げながらこちらに向かって来る。
「リリス。闇魔法をもっと強化出来ないの?」
黒炎に効果の無い事を見て、メリンダ王女が呟いた。
その言葉にふとリリスは思いついた。
そうだ!
新しいスキルを試してみよう。
「メル。闇魔法の強化を試してみるわね。」
「そんなスキルを持っているの?」
芋虫が興味津々で尋ねて来た。
「うん。30分だけの時間限定のスキルなんだけどね。」
「30分もあれば、あんたなら充分よね。試してみて。」
メリンダ王女の言葉に促され、リリスは『闇魔法スキル統合管理者』を発動させた。
その途端に身体が熱くなり、闇魔法の魔力が激しく循環し始めた。
それと同時に闇魔法の魔力に魔族の気配が若干感じられるようになってきた。
これはタレスから貰った、デビア族に伝わる魔道具の影響なのだろうか?
程なくリリスの脳裏には次々と言葉が浮かんできた。
『魔力量補充の為、魔力吸引スキル発動』
『火魔法との連携強化』
『風魔法との連携強化』
『水魔法との連携強化』
『土魔法との連携強化』
『闇魔法の強化 300%完了』
『自動索敵開始』
魔力吸引スキルの発動により、大地や大気から魔力が激しく流れ込んでくる。
リリスの身体が一段と熱くなり、両手が自然に前方に突き出された。
その両手から次々に闇が出現し、円盤のように高速で前方に滑空していく。
その闇はハービー達の群れに近付くと直径が5mほどにもなり、まるで生き物のように360度を自在に動き回り、7~8体のハービーを包み込むと、激しい炎熱を上げた。
その包み込む闇の隙間から、炎熱で溶解したメタルアーマーがボロボロと落ちていく。
ハービー達の纏うシールドも全く効果が無いようだ。
更に水魔法と連携された闇はハービーを包み込むと、その内部でウオーターカッターを大量に発生させ、ハービー達をメタルアーマー諸共に粉みじんに切り刻んでいく。
風魔法と連携された闇はウィンドカッターを内部に発生させ、包み込んだハービー達を切り刻んだ。
そして土魔法と連携された闇は大量のアースランスで、包み込んだハービー達をハチの巣状態にしてしまった。
闇が開くと穴だらけになったハービーがボロボロと地面に落ちていく。
ほんの数分で、辺り一面が切り刻まれた肉片と血で覆い尽くされてしまった。
あまりにも凄惨な情景だ。
その情景にマーティンやリリアもうっと呻いて目を逸らした。
思わず火魔法で焼き払ってしまおうと思ったリリスだが、火魔法が上手く発動出来ない。
これって闇魔法のスキルに制限されているの?
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だがそれでも発動出来ず、リリスは不安と焦りで精神的に追い詰められていたのだった。
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一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
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投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
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