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異形の杖1
しおりを挟むメリンダ王女から手渡された奇妙な棒。
杖のようでもあるが、そこから放たれている気配が怪しい。
怪訝そうにその棒を見つめるリリスに、芋虫はへへへと笑いながら口を開いた。
「それはねえ、宝物庫の奥の隠し扉の中から発見したのよ。」
またか!
王城の宝物庫って厄介な物ばかりあるんじゃないの?
リリスの脳裏に再度不安が過る。
「それは開祖の時代の戦利品らしいのよ。添えられていた文書によると、元の持ち主はドラゴニュートの魔導士だったらしいわ。」
「ドラゴニュートの魔導士って・・・・・。そもそもドラゴニュートの国と戦争なんて無かったでしょ?」
リリスの疑問に小人がうんうんと頷いた。
「ミラ王国の開祖の時代にはあちらこちらで戦争が勃発していた。その際にドラゴニュートの傭兵が活用されていたんだよ。彼等は戦闘能力が高いからね。」
傭兵なら有り得るわね。
確かにあの連中は無駄に戦闘好きだからねえ。
「それで・・・これって何なの?」
「多分、魔導士の使う杖だと思うわよ。私が魔力を流すと、闇魔法の魔力が少し増幅されたからね。」
メリンダ王女は既に試してみたらしい。
「でも戦利品だって事は、その魔導士もそんなに強くなかったのね。」
「その辺りは良く分からないわ。それでね・・・」
そう言いながら芋虫はその大きな単眼でリリスの顔をじっと眺めた。
「あんたって闇魔法の魔力が以前より強化されたわよね。あんたが使えばどうなるのか試してみたいのよ。
う~ん。
何となく気が進まないわね。
そう思いながらもリリスはその杖を握り締め、闇魔法の魔力を発動させた。
その魔力に反応して杖の両端の装飾が仄かに光る。
恐る恐るリリスは杖に魔力を流した。
その途端に杖がピンッと音を立て、一瞬で両端が伸び、長さが1m近くにもなってしまった。
杖の両端の装飾が竜の頭の形に変化し、バチバチと赤い火花を散らしながら、禍々しい妖気まで漂い始めた。
その変化に驚き、リリスは思わず杖を床に投げ出してしまった。
杖はゴトリと音を立てて床に転がり、直ぐに元の長さの小さな杖の姿に戻った。
その様子を見て芋虫が目を見開いた。
「今のは何なのよ? リリスが弄ると何かが起きるわね。」
「メル。私に変な物を持たせないでよね。」
そう言って憤慨するリリスを横目に見ながら、小人は床に転がった杖を拾い上げた。
「使う者によって形態が変わるのかも知れないね。それともこの杖がリリスを気に入ったのかも・・・・・」
「そんな禍々しい杖に気に入られたくないですよ。」
リリスはそう言うと芋虫を軽く睨んだ。
その視線をスルーして、芋虫は身体を上下に動かした。
「まあ、気にしないでよ。添付されていた文書がもう少しあったから、それを解読してこの杖の正体を確認してみるわ。」
そう言って小人と芋虫はゲストルームから姿を消した。
人騒がせなんだから!
リリスは休憩時間の残り時間を確認し、気分を変えてゲストルームを後にした。
その数日後。
リリスは再びメリンダ王女に呼び出された。
しかも学生寮の最上階まで来いと言う。
面と向かって話があるって、厄介事の予感しかないんだけど・・・・・。
そう思いながらリリスは放課後直ぐに学生寮に戻り、自室にカバンを置くと、制服のまま最上階まで階段を昇った。
何時も通りメイド長のセラのチェックを受け、廊下を歩いてメリンダ王女の待つ部屋に向かう。
部屋の扉の前にはメイドが待っていて、リリスの到着を告げながら重い豪華な造りの扉を開けてくれた。
中で待っているのはメリンダ王女とフィリップ王子。
二人共に使い魔では無く実体である。
挨拶を交わしながら、訝し気にソファに座るリリスの前に紅茶が運ばれて来た。
馥郁としたその香りで気分が少し楽になる。
それでもリリスの心中は疑心暗鬼だ。
「ごめんね、リリス。」
開口一番の謝罪にリリスは戸惑うばかりだ。
「どうしたのよ?」
「それがねえ。あの杖の事なんだけど・・・・・」
う~ん。
今度は何だって言うの?
メリンダ王女はリリスの顔色を窺いながらおずおずと口を開いた。
「あの杖って、リリスが魔力を流した際に形が変わったわよね。」
「その際に竜族にしか分からないような信号を発信したようなのよ。」
信号?
「信号って何の信号なの? もしかして救難信号?」
「そうじゃないのよ。むしろ戦闘開始と言うか、全軍進撃の合図だそうよ。」
戦闘開始?
誰と?
「それって誰がそう言っていたの?」
「ノイマンよ。今、ドラゴニュートの使節団がミラ王国に来ているんだけど、通商交渉の最中に突然ドラゴニュート達が暴れまわりそうになって、大変だったそうよ。」
メリンダ王女はそう言うとふうっとため息を吐いた。
「それが・・・あんたがあの杖に魔力を流して形状が変わった時とほぼ同時なのよ。それでドラゴニュート達を何とか落ち着かせてノイマンが問い質したら、頭の中に戦闘命令が流れて来て、闇雲に暴れまわりたくなったって言うの。その思いに抗えなかったって言うのよね。」
「そんな事ってあるの?」
リリスの疑問にフィリップ王子はうんうんと頷いた。
「君の疑問は良く理解出来る。だが事態は思っていたよりも深刻なんだ。あの杖の影響でドラゴニュートの国の内部で、小さな暴動が多発してしまったそうだよ。幸い大きな災厄には至っていないようだが・・・・・」
フィリップ王子の言葉にリリスはう~んと唸って黙り込んでしまった。
沈黙の時間が流れる。
その後、噛み締めるような口調でリリスは口を開いた。
「それで・・・あの杖って何なの?」
リリスの言葉にメリンダ王女は懐から例の杖を取り出した。
それは魔力を寄せ付けないように、特殊な半透明のカプセルに封じ込められていた。
カプセルの中で杖は仄かな光を放っている。
その様相が不気味だ。
「これは元々ドラゴニュートの王家に伝わっていた宝物だそうよ。王が自分の配下の軍を先頭に向かわせるための、指揮の為の杖らしいわ。」
「この杖がそう言う物だと分かった時点でドラゴニュートの国に返せば良いんだけど、彼等の記録や伝承では100人程度のドラゴニュートの魔力を増強する広域魔法の効果があるだけで、彼等を狂乱状態にまで追い込むほどの力は無かったそうよ。」
メリンダ王女はそう言うと、ジトッとした目でリリスを見つめた。
「それってどう言う事なの?」
「つまり・・・・・あんたがあの杖を進化させちゃったかも知れないって事なのよ。」
うっ!
そんな事を言われても・・・。
「面白半分に魔力を流してみろって言ったのはメルだったわよね。」
リリスの言葉にメリンダ王女はうんと答えて下を向いた。
その傍に居たフィリップ王子がメリンダ王女の代わりに口を開いた。
「君も知っての通り、ドラゴニュートの国は王家の正当性を巡って、現在内紛が絶えない状態だ。そこに更にこんなものが現われると混乱に歯止めが利かなくなってしまう。」
「それでどうしろって言うんですか?」
詰問調のリリスにフィリップ王子は申し訳なさそうな表情を見せた。
「杖が本当に進化してしまったのか、確かめて欲しいんだ。これはミラ王国からの依頼だけではなく、ドラゴニュートの国からも要請されているんだよ。ドラゴニュートの賢者のデルフィ殿の元に行って欲しいんだ。」
「ええっ! デルフィ様の元に行くんですか? デルフィ様ってドラゴニュートの国から国外退去させられている身なのに・・・」
リリスの驚くのも無理はない。
国外退去させたデルフィを頼るなんてどう言う了見なのだろうか?
その疑問にメリンダ王女はヒントとなる返答をした。
「我が国としても良く分からないんだけど、ノイマンが面会していた使節団の話では、上の上からの指示だと言っていたわ。」
上の上?
それって・・・もしかしてリンちゃんのさしがねなの?
まあ、ドラゴニュート達が国外退去させたデルフィ様の研究施設に、この杖を持ち込ませるように指示を出す人物と言えば、リンちゃんしか思い付かないわ。
「明日の朝、ノイマンがドラゴニュートの使節団とデルフィ殿の研究施設に行く事になっている。君も彼等と一緒に転移して欲しいんだ。」
唐突なフィリップ王子の言葉にリリスは唖然とした。
「明日の朝って・・・授業がありますよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女は首を横に振った。
「緊急事態なので休日扱いよ。公務だと思ってね。」
うっ!
楽しみにしていた明日の薬学の授業が受けられないのね・・・。
そう思ったリリスだが、王家からの依頼となれば従うしかない。
渋々メリンダ王女からの依頼を受け入れ、リリスは早々にメリンダ王女の部屋を出て、自室に戻ると準備をし始めたのだった。
翌日の朝。
同室のサラに見送られ、リリスは迎えの馬車に乗って王都に向かった。
王都の神殿の前の広場が待ち合わせ場所だ。
この日のリリスは学生服では無く軽装で、動き易い様にスリムなパンツを着用していた。
馬車を降り、神殿の前の広場に向かうと、その中央にノイマンと数人のドラゴニュートの使節が待っていた。
挨拶を交わしたものの、ドラゴニュート達の表情が訝し気だ。
嫌悪しているとまではいかないが、明らかに避けるような素振りも目立つ。
敢えてリリスの傍に近付こうともしない。
暗黒竜の加護の気配を極力消そうとして、リリスは馬車を降りる時から魔装を非表示で発動していた。
魔装によるバリアで多少なりとも気配が軽減されると考えたからだ。
それでもドラゴニュート達は敏感にその気配を感じ取っているのだろう。
その上に今回の杖の事まで重なってしまった。
今回の件で完全に嫌われちゃったのかしらねえ。
まあ、それはそれで良いかと思いながらリリスはノイマンに、この日の行動予定を尋ねた。
「とりあえず我々と一緒にデルフィ殿の研究施設に転移する。その後の事はデルフィ殿に一任されているんだ。私とドラゴニュートの使節は別室で待機するからね。」
「待機って・・・様子を見てそれぞれの国に報告するって事ですか?」
リリスの問い掛けにノイマンはハハハと笑った。
「リリスにしては珍しく心配そうな表情だね。確かに結果を報告するのは当然だが、だからと言って君にその責任が問われるわけではない。杖についても最終的な処分はデルフィ殿に任される事になっているからね。」
ノイマンの言葉に神妙な表情でリリスは頷いた。
その様子を見て失笑しながら、ノイマンは転移の魔石を取り出して発動させ、リリスやドラゴニュート達と共にデルフィの研究施設に転移した。
一瞬視界が暗転し、リリス達は瞬時にデルフィの研究施設に転移させられた。
出迎えたデルフィはメイドを通じてノイマン達をゲストルームに案内させ、つかつかとにじり寄るようにリリスの傍に近付いた。
「お帰り。」
失笑するデルフィの言葉が何気に重い。
「こんなに早くここに再訪するなんて、思ってもみなかったんですけどね。」
リリスもそう答えるしか無かった。
「話は聞いているよ。とりあえず地下の闘技場に来てくれ。」
そう言いながらデルフィは地下の闘技場にリリスを案内したのだった。
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