落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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リリアの暴走2

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ギースのダンジョンの第25階層。

暗黒竜によって喰い荒らされ、虚無の空間の点在する薄暗い場所で、2体の巨大な竜が戦っていた。

1体はリリアに憑依した暗黒竜であり、もう1体は覇竜の加護と暗黒竜の加護が合体し、リリスの意思と魔力をベースにして造り上げた覇竜である。
だがその戦闘力の差は歴然だ。

暗黒竜もリリアの持つ業火の化身をフルに生かして攻撃を仕掛けてくる。
だがそれをいとも簡単に受け止め、覇竜は強烈なブレスを放つ。
爆炎と共に吹き飛ばされる暗黒竜はそれでも何度も起き上がった。
そこに覇竜は追撃を仕掛ける。

暗黒竜の2倍はあるその巨体で高速移動し、暗黒竜に正面からぶつかった。
大きな衝撃音と共に吹き飛ばされる暗黒竜。
その暗黒竜の身体を高速で追跡し、覇竜はその巨大な足の鉤爪で暗黒竜の頭部を掴み、地面に押し付けた。

その態勢のまま暗黒竜の胴体にブレスを放つと、暗黒竜はギエエエエエッと言う瀕死の叫び声をあげた。
暗黒竜の頭部を再度強く掴み、強く地面に押し付けると、暗黒竜は既に戦意を失い抵抗をしなくなっていた。

(リリス、今よ! 呪詛で隷属させるのよ!)

クイーングレイスからの念話を受け、リリスは瞬時に呪詛構築スキルを発動させ、隷属の為の呪詛を創り上げた。更にその呪詛を魔力の触手に絡ませ、暗黒竜の身体に打ち込んでいく。

呪詛を打ち込まれた暗黒竜は身体をブルっと震わせ、その身体から恭順の意を示す波動が伝わってくる。
隷属状態になったようだ。

覇竜がその鉤爪から暗黒竜を解放すると、暗黒竜は地に伏して恭順の意思を覇竜に示した。

(うんうん。上出来よ。)

(ここからは暗黒竜の掛けた禁呪を解いてリリアを分離させるのよ。)

クイーングレイスからの念話に応じて、リリスは解析スキルに指示を出した。

リリアを拘束している禁呪の解析をして!

『了解しました。直ぐに解析します。』

解析スキルの返答と共に、覇竜の身体から魔力の触手が20本ほど伸び出し、暗黒竜の身体全体に打ち込まれた。
その魔力の触手が禁呪を探り出し、すぐさま禁呪の解析を始めた。
だがその解析作業は2分ほどで終わってしまった。

随分早いわね。

『暗黒竜の加護によって、呪詛関係のスキルがかなりアップデートされましたからね。』

それで解呪は出来るの?

『解呪の為の呪詛を構築しています。3分ほど待ってください。』

この解析スキルとのやり取りの間に、クイーングレイスからの念話が入ってきた。

(禁呪の解除なら、私がリリスにあげた呪詛のデータベースを使ったら良いわよ。)

えっ?
それって解析スキルがブラックボックスだって言っていたものよね。
安易に使わない方が良いかも・・・。

(大丈夫。私のスキルでも造れるからね。)

クイーングレイスに念話でそう伝えて、リリスは少しの時間を待った。
ほどなく解呪の呪詛が出来上がり、それを魔力の触手に絡めて、再度暗黒竜の身体に打ち込んでいく。
暗黒竜は何の抵抗も無く、その場に伏していた。

打ち込まれた呪詛が発動し始めると、暗黒竜の身体は大きく光を放った。
その全身から伸び出していた触手が徐々に消えていく。
それは業火の化身が分離されていく事を示す現象なのだろう。

暗黒竜は突然頭を上げ、何かを訴えるような眼を覇竜に向けながら、徐々に小さくなっていった。
その身体が見えなくなったのと同時に、その場所に横たわるリリアの身体が見えてきた。

「リリア!」

リリスは叫びながら、全身傷だらけのリリアの身体を精査した。
意識を失っているが、生命反応に異常はない。
魔力の波動もリリアのもので、何らかの憑依状態ではなさそうだ。

(終わったようだな。ご苦労だった。儂らも加護を解除する。)

キングドレイクの念話と共に、覇竜の身体が魔力と魔素に分解され、リリスの姿がその中から現われた。
リリスはリリアの傍に駆け寄り、その上半身を起こした。

細胞励起を中レベルで発動させ、その波動をリリアの身体に注ぎ込んでいく。
それに応じてリリアの顔にも血色が戻ってきた。

そのリリスの傍にヒックスが近付いてきた。

「リリス。世話を掛けたな。恩に着るぞ。」

ヒックスは深々と頭を下げた。

「ヒックス様。そんなに恐縮して下さらなくても良いですよ。でも・・・ギースのダンジョンの半分近くをダメにしちゃいましたね。」

「ああ、それは今後時間を掛けて修復すれば良いだけだ。それよりもそのリリアの状態が心配だ。最下層に収容しているリリアの兄と共に、ダンジョンの入り口の扉の外に転送してやろう。」

「ありがとうございます。」

リリスの礼の言葉を聞き、ヒックスは笑顔で転移魔法を発動させた。

リリスの視界が暗転し、気が付くとリリスは意識を失っているリリアとマーティンを両側に抱え、ダンジョン入り口の扉の前に座り込んでいた。

「リリス君!無事だったか!」

ジークの声ではっとしたリリスは、リリアとマーティンをジークに任せ、その場で気を失ってしまった。





意識が戻るとリリスはベッドの中に居た。

ベッドの周囲に医療用の機材が置かれているので、どこかの病院の様だ。

「あらっ! 気が付いたのね。」

そう言いながら白衣の女性がリリスの顔を覗き込む。

それは薬学のケイト先生だった。

「ここは・・・何処ですか?」

リリスの言葉にケイトはふふふと笑った。

「リリスさんって健康だから、今までここに来たことが無かったのね。ここは魔法学院の敷地内の病院よ。」

ケイトに言われてリリスは思い出した。
魔法学院の敷地内には病院があったのだ。
貴族の子女が学んでいる学院であるため、万一の事態に備えて病院まで建ててあったのだが、リリスは今までここに来た事が無かったのである。
体調不調などの大概の事なら保健室で用事が済むからだ。

上半身を起こそうとすると軽いめまいを感じて、リリスはポンポンと頭を軽く叩いた。

何故意識を失ってしまったのだろうか?

リリスはおもむろに解析スキルを発動させた。

私の身体に異常は無いの?

『特に異常は在りません。急激な魔力の吸収と消耗によって身体に過度な負担が掛ったようです。それに脳内に設定されていたリミッターまで解除され、脳の休眠細胞まで駆使した結果、脳がヒートアップして意識を失ってしまったのでしょうね。』

そうなのね。
覇竜の加護と暗黒竜の加護が同時に発動していたから、その為に起きる影響も半端じゃなかったと言う事かしら?

『それなのですが、両者の融合が進みまして、それぞれの加護の増幅が予想されます。既に二つの加護の連携が一部で構築されていますので。』

それは良い事じゃないの。
覇竜と暗黒竜の確執を少しでも解消出来れば良いわよね。

『そうですね。結果が現われればまた報告します。』

うん。
よろしくね。

リリスは解析スキルを解除すると、ケイトに向かって口を開いた。

「それで、リリアとマーティンさんは大丈夫ですか?」

リリスの問い掛けにケイトは笑顔で頷いた。

「ええ、二人とも大丈夫よ。この病院施設の別室に収容されているわ。意識を取り戻し、元気に会話も出来る状態よ。」

「ただ・・・リリアさんに若干の後遺症があるそうなんだけど・・・」

ケイトの言葉にリリスはギョッとして目を見開いた。

「後遺症って・・・何ですか? もしかして身体に火傷が残ってしまったとか・・・」

リリスはギースのダンジョンの25階層での戦闘を思い出した。
リリアに憑依していた暗黒竜の頭部を踏みつけながら、ブレスを見舞った事が脳裏に浮かび上がってくる。

やり過ぎちゃったかしら・・・。

リリスの不安満載の表情にケイトは手を横に振って否定した。

「そんなんじゃないのよ。でもその件でリリスさんが目覚めたら、二人が話をしたいって言っていたわね。」

う~ん。
気になるわね。

「今直ぐにリリアの病室に行っていいですか?」

「ええ、リリスさんの体調が大丈夫なら良いわよ。」

ケイトの返事にリリスは礼を言うと、患者用の衣服のまま病室を出た。
ケイトに付き添われて別室に向かい、上級貴族用の病室の中に入ると、リリアがベッドの上で横になり、その傍にマーティンとメリンダ王女が立っていた。マーティンはリリスの顔を見ると深々と頭を下げて礼を言った。
その姿に恐縮しながらもリリスはメリンダ王女に会釈をした。

「リリス。お疲れ様。もう大丈夫なの?」

メリンダ王女の言葉にリリスはうんと答えると、身を屈めてリリアのベッドの傍に近付いた。

「リリア、大丈夫? 今回は災難だったわね。」

リリスの言葉にリリアはうんうんと頷いた。

「リリス先輩のお陰で助かりました。私に憑依していたのは暗黒竜だったんですね。」

「ギースのダンジョンで探索していた際に、突然身体の自由が効かなくなって、気が付くと何か大きな生き物の中に取り込まれていたのです。そのうえ加護までも発動されてしまって、自分の意思とは関係なく暴れ回ってしまいました。」

リリアの言葉にリリスはダンジョン内での様子を思い浮かべた。
暗黒竜に憑依されたリリアが、あのまま直ぐに地上に出ていればどうなっていただろうか?
考えただけでも恐ろしい。

「それで憑依されていた時の記憶ってあるの?」

「いいえ、ほとんどありません。でもリリス先輩にボコボコにされたような気がするんですけど・・・」

うっ!
何を言うのよ。

リリアの言葉にメリンダ王女は怪訝そうな視線をリリスに向けた。

「それって気のせいよ、いやだわねえ。」

リリスはそう言って誤魔化すと直ぐに話題を変えた。

「それでケイト先生から、リリアに後遺症が残っているって聞いたんだけど・・・」

リリスの問い掛けにリリアは真顔になって頷いた。

「そうそう。その件であんたに話があるのよ。」

メリンダ王女はそう言うとリリアに目配せをした。
リリアはそれに応じて前髪を手で上げた。

「これなんですけど・・・」

前髪に隠れていたリリアの額の両側に小さな突起が見える。
その突起の周りには小さな鱗のようなものも見えている。

「これって・・・竜化しているの?」

「多分・・・ね。」

メリンダ王女はリリアを気遣って前髪を直ぐに降ろさせた。

「リリス。あんたがドラゴニュートの国で瀕死の状態になった時に、賢者デルフィ様に助けてもらったわよね。回復の為に竜の血を輸血したけど竜化しなかったって聞いたわ。」

メリンダ王女の言葉で、リリスはエドムとのブレスのぶつけ合いを思い出した。
あの時はドラゴニュートの巫女による秘術を受け、竜の血液の組成を変えて輸血した結果、皮膚の竜化を回避したのだった。

「でも、リリアって暗黒竜の血を受けたんじゃないわよね。それなのにどうして竜化しているの?」

「それが分からないからあんたにお願いしたいのよ。デルフィ様に連絡して、リリアを診て貰えないかしら?」

メリンダ王女の言葉にリリスはうんうんと頷いた。
元を辿ればデルフィの研究施設から逃げ出した暗黒竜の起こした顛末だ。
デルフィも頼めば協力してくれるに違いない。

リリスは連絡用の魔道具を使ってユリアスを呼び出し、デルフィへの取次ぎをお願いした。

その数分後にデルフィからの連絡が届き、デルフィの研究施設にリリアを搬送する事で話は纏まったのだった。








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