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リリアの暴走1
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ギースのダンジョン内に転移されてしまったリリス。
リリスは真っ暗な空間の中に浮かんでいた。
そのリリスの目の前にダンジョンマスターのヒックスが浮かんでいる。
ヒックスはリリスを見つけるとその傍に近付いてきた。
「ああ、リリス。来てくれたのだな。」
「ヒックス様。どうしたんですか? リリアが暴れ回っていると聞きましたが・・・」
リリスの言葉にヒックスはうんうんと頷いた。
「あの業火の化身を持つ少女が兄を連れてダンジョンに来たので、儂は関心を持ってその動向を見ていたのだ。」
「最初は楽しそうに魔物を狩っておったのだよ。だが、第3階層に彼女達が入った時に、突然リリアの身体が大きく変化してしまい、暴れ回って手が付けられない状態になってしまったのだ。その結果がこのありさまだよ。」
そう言うとヒックスはふうっと大きくため息をついた。
「リリス、この真っ暗な空間は何だと思うかね?」
何だと思うかと聞かれてもリリスには分からない。
首を傾げるリリスにヒックスはおずおずと答えた。
「ここは元々は第1階層から第10階層までのあった場所だ。今は焼き払われ、魔素に分解され、喰い尽くされた痕跡だけが残っている虚無の空間だよ。」
ヒックスの言葉にリリスはギョッとして周囲を見回した。
だがリリスの目には何も見えない。
しかも魔素の存在すら感じられない虚無の空間だ。
それにしてもリリアがそこまで暴走しているなんて・・・。
「それでリリアの兄のマーティンはどうなりましたか?」
「うむ。あの男はダンジョン内に取り残されてしまったので、儂が何とか救出した。今はダンジョン最下層で保護している。意識を失っているが生命に別条はないぞ。」
ヒックスの言葉にリリスは少し安堵した。
だがリリアの起こしている惨状は、リリスの想像を遥かに超えてしまっている。
信じられない思いでリリスはヒックスに尋ねた。
「リリアに何か異変が起こる兆候って無かったんですか?」
「それがなあ・・・」
ヒックスは自分の記憶を辿る仕草をした。
「リリアが暴れ回る直前に、ダンジョンの周囲に張り巡らされている多重構造の亜空間シールドに、何らかの異変があった事は確認出来ている。小さな物体がダンジョン内に外部から侵入したようだ。まあこれも普通はあり得ない事なのだがな。」
「その直後にリリアに異変が起きたので、何らかの関連性はあるかも知れん。」
ダンジョン内に、ダンジョンマスターの許可無く外部から侵入するなどと言う事は、ダンジョンの特性からして先ず有り得ない。
それが可能なら、階層を辿って攻略していくと言う、ダンジョンのシステムそのものが崩壊してしまうからだ。
それならば何が侵入したのか?
色々と考えながらもリリスはヒックスにリリアの現状を尋ねた。
「それでリリアって今、どう言う状態になっているんですか?」
「うむ。自分の目で見るのが一番だろう。これを見てくれ。」
ヒックスはそう言うと手を上に突き出した。
その手の先に大きな半透明のパネルが出現し、そこに現在のリリアの姿が映し出された。
その映像を見てリリスはあっ!と叫び、ゴクリと息を呑んだ。
パネルに映し出されたのは異形の竜だった。
真っ黒な竜がブレスを吐いている。
ヒックスの話では全長15mほどだそうだ。
その竜の全身から無数の触手が伸び、その先端から巨大な火球が頻繁に周囲に放たれている。
更に竜の頭頂から伸びる数本の触手からは巨大な黒炎が放たれ、周囲のものを魔素に分解していく。
それを吸収してパワーアップする度に、竜の身体に赤い稲妻が幾本も走り抜けた。
この竜ってまさか・・・暗黒竜なの?
リリスはふと思い立ってヒックスに話し掛けた。
「ヒックス様。私のご先祖で賢者のユリアス様と、魔道具で連絡を取りたいんです。それって可能ですか?」
リリスの突然の依頼にヒックスはゆっくりと頷いた。
「まあ、緊急であれば止むを得まい。特殊な回線を開いてやるからそれを利用しなさい。」
ヒックスはそう言うとリリスが取り出した魔道具を精査し、ダンジョンの内外で通じるように工夫をした。
ヒックスから手渡された魔道具で、リリスは取り急ぎユリアスを呼び出した。
「ユリアス様。先日レミア族の施設で特殊な魔道具を介して回収した、あの小さな暗黒竜に異変は在りませんか?」
リリスの言葉にユリアスの返事が返ってきた。
「それなのだが、あれを預けたデルフィ殿から今朝連絡があって、あの暗黒竜が前触れもなく姿を消したそうだ。それでその所在を特殊な魔道具で追跡したところ、ギースのダンジョン付近に反応が有ると言うのだがなあ。そんな事って有り得るのか?」
うっ!
ビンゴだわ。
「分かりました、ユリアス様。確かにこちらに居ます。あの暗黒竜はギースのダンジョンに潜入したようです。若干手遅れのようですが・・・」
リリスはそう言うとリリアの現状を簡略に説明した。
その言葉にユリアスも魔道具の向こうで驚愕の声を上げていた。
「リリス。これは拙い事態になったな。ダンジョン内の全てのものを喰い尽くすと、奴は反転して地上に向かうだろう。そうなると地上に甚大な被害が生じてしまう。相手が暗黒竜なら、お前の持つ暗黒竜の加護で奴を食い止める方法を見つけられないか?」
「そうですね。試してみます。」
リリスはそう答えて魔道具の接続を切り、ヒックスに話し掛けた。
「ヒックス様。私の持つ暗黒竜の加護を発動してみます。何か解決策があるかも知れません。」
リリスの言葉にヒックスはうむと言って頷いた。
クイーングレイスさんに聞いてみよう。
リリスはおもむろに闇魔法の魔力を身体中に循環させ、暗黒竜の加護を意識して発動を促した。
それに従ってリリスの身体が熱くなってきた。
身体から闇魔法の魔力が渦を巻いて流れ出し、リリスの目の前に球体となって可視化された。
そこに現れたのはクイーングレイスの頭部である。
竜の目が赤く光り、その眼差しでリリスをじっと見つめた。
「リリス。拙いわね。あの少女は禁呪で拘束され、眷属状態になっているわ。早く分離しないと完全に乗っ取られてしまう。」
クイーングレイスは既にリリアの状態を把握しているようだ。
そのクイーングレイスの言葉にリリスは焦る思いで口を開いた。
「あの暗黒竜って乗っ取る依り代を探していたの?」
「そう、結果を見ればその通りよ。おそらく、禁忌で自身の身体を使い魔のような状態にさせ、その内部に本体の意識とスキルを凝縮して内在させたのでしょうね。」
うっ!
禁忌を用いているのね!
「それでどうすればリリアを救い出せるの?」
「それはねえ・・・」
クイーングレイスのは少し考え込むような表情を見せた。
「基本的には力ずくで抑え込み、隷属させた形で禁呪を解呪してリリアを分離する事になるわね。」
「ただ、それは現状では難しいわね。今の私の力は限定的だし・・・」
う~ん。
どうしたら良いの?
悩むリリス。
だがこのタイミングで突然、解析スキルが発動された。
どうしたの?
『緊急事態なので自律的に発動しました。覇竜の加護が発動を促しています。』
覇竜の加護が?
それってキングドレイクさんが手伝ってくれるって事なの?
『簡単に言えばそう言う事です。』
うん、分かったわ。
リリスは魔力を身体中に循環させ、覇竜の加護の発動を促した。
その途端に身体中が熱くなり、魔力が前方に流れ出し球体となって可視化された。
その中に現れたのはキングドレイクの頭部だ。
その目が光り、その視線をクイーングレイスの頭部に向けた。
「緊急事態だ。リリスに課せていたリミッターを解除し、協力して事態の収拾に臨むしかあるまい。」
キングドレイクのこの言葉にクイーングレイスは驚きの声を上げた。
「へえ~! あんたが私と組む事を言ってくるなんてねえ。でもそうでもしないと奴を止められないわね。」
クイーングレイスの言葉にキングドレイクは強く頷いた。
2体の竜の頭部は回転しながら融合し始めた。
それと共にリリスの身体にも変化が生じていく。
『脳内のリミッターが解除されました。脳内の休眠細胞も全て活性化されます。』
『6属性の魔力とスキルが全て覇竜の加護の管轄下に置かれます。』
『暗黒竜の加護がパワーアップされ、一時的に高レベルの空間魔法と高レベルの多重亜空間シールドが展開可能です。』
『疑似的なブレスを瞬時に連続で発動可能です。』
『魔力吸引を覇竜のレベルにアップデートしました。魔力の吸引を開始します。』
解析スキルの説明と共に、リリスの身体に周囲から魔力が吸収され始めた。
それは徐々に大きな奔流となり、リリスの身体に全て吸収されていく。
その膨大な魔力を受け止め蓄えるスキルも、空間魔法で同時に発動している。
そのリリスの姿に驚くヒックスだが、ここはリリスに任せるしかない。
頼むぞと言う視線をヒックスはリリスに向けるだけだ。
リリスの身体を膨大な魔力が覆う。
それは徐々に形状化し、リリスの身体は一時的に巨大な竜の姿に代わってしまった。
全長30mにも及ぶ巨大な覇竜の姿だ。
その頭部に2本の触手が伸び、その一つの先端にはキングドレイクの頭部が、もう一つの先端にはクイーングレイスの頭部が付いている。
これもまた異形の竜の姿である。
「リリス。最初に説明した通りよ。先ずは力ずくで奴を打ちのめして隷属させるのよ。」
クイーングレイスの言葉にリリスはハイと答えた。
既にリリスは戦う決意を固めている。
「儂は拡張したスキルやこの姿の維持に集中する。防御も任せろ。この後は念話で指示する。」
キングドレイクの言葉にリリスはハイと答え、魔力を大きく循環させて戦闘準備を整えた。
リリスの脳裏にダンジョン内の様子が鮮明に浮かび上がる。
拡張された空間魔法によってリリアの位置情報のみならず、その状態までも可視化されてきた。
リリアは今、ダンジョンの25階層を喰い荒らしている。
ギースのダンジョンは50階層まであるので、既に半分は消失してしまったのだ。
早く止めなければ反転して地上に向かってくる。
時間の余裕はない。
リリスは覇竜由来の空間魔法でリリアの所在を確認し、そこに空間魔法で一気に転移した。
リリスの視界が暗転すると、そこは地獄のような光景が広がっていた。
いたるところに巻き上がる巨大な炎。
あらゆるものが焼き尽くされ、魔素に分解され、虚無の穴となって点在している。
その炎の中に暗黒竜となったリリアの姿を確認すると、リリスは大きく咆哮して気合を入れ、そこに向かって突進した。
竜の身体が信じられないほどに一気に加速され、キーンと金切り音を立てて滑空する。
同時に身体中に多重の亜空間シールドが張り巡らされた。
リリスの接近を探知して、暗黒竜は咄嗟にブレスを吐いた。
真っ赤な爆炎がリリスに向かってくる。
その光景に一瞬怯んだリリスの脳裏に、キングドレイクの念話が浮かび上がった。
(案ずるな、リリス。あの程度のブレスは今のお前なら、蚊に刺された程度のダメージに過ぎないはずだ。)
竜も蚊に刺されるの?
そう突っ込みながらもリリスは覚悟を決め、暗黒竜のブレスを正面から受け止めた。
多重亜空間シールドにドンッと言う衝撃があったが、それは耐えられるレベルだ。
爆炎による損傷も無い。
(お返しにブレスを見舞ってやれ!)
キングドレイクの念話と同時に疑似的なブレスの機能とスキルが瞬時に展開され、リリスの口から強力なブレスが放たれた。
それは至近距離で暗黒竜を直撃し、その勢いで暗黒竜は爆炎に包まれながら吹き飛ばされてしまった。
こんな事をして、取り込まれているリリアの身体は大丈夫なの?
(それは今は考えるな! まず打ちのめして隷属させる事が最優先だ。)
キングドレイクの念話にクイーングレイスの念話が続く。
(奴もそれなりのレベルの暗黒竜よ。奴が憑依している限り、依り代の身体にまでは害は及ばないわ。)
そうなのね。
それなら安心して攻撃出来るわ。
リリスは気持ちを再度固めた。
何としてもあの暗黒竜を打ちのめしてリリアを助け出すんだ。
その固い決意を持ち、身体を震わせて大きく咆哮を放ったリリスは、ブレスによって吹き飛ばされた暗黒竜に向かって一気に突撃していったのだった。
リリスは真っ暗な空間の中に浮かんでいた。
そのリリスの目の前にダンジョンマスターのヒックスが浮かんでいる。
ヒックスはリリスを見つけるとその傍に近付いてきた。
「ああ、リリス。来てくれたのだな。」
「ヒックス様。どうしたんですか? リリアが暴れ回っていると聞きましたが・・・」
リリスの言葉にヒックスはうんうんと頷いた。
「あの業火の化身を持つ少女が兄を連れてダンジョンに来たので、儂は関心を持ってその動向を見ていたのだ。」
「最初は楽しそうに魔物を狩っておったのだよ。だが、第3階層に彼女達が入った時に、突然リリアの身体が大きく変化してしまい、暴れ回って手が付けられない状態になってしまったのだ。その結果がこのありさまだよ。」
そう言うとヒックスはふうっと大きくため息をついた。
「リリス、この真っ暗な空間は何だと思うかね?」
何だと思うかと聞かれてもリリスには分からない。
首を傾げるリリスにヒックスはおずおずと答えた。
「ここは元々は第1階層から第10階層までのあった場所だ。今は焼き払われ、魔素に分解され、喰い尽くされた痕跡だけが残っている虚無の空間だよ。」
ヒックスの言葉にリリスはギョッとして周囲を見回した。
だがリリスの目には何も見えない。
しかも魔素の存在すら感じられない虚無の空間だ。
それにしてもリリアがそこまで暴走しているなんて・・・。
「それでリリアの兄のマーティンはどうなりましたか?」
「うむ。あの男はダンジョン内に取り残されてしまったので、儂が何とか救出した。今はダンジョン最下層で保護している。意識を失っているが生命に別条はないぞ。」
ヒックスの言葉にリリスは少し安堵した。
だがリリアの起こしている惨状は、リリスの想像を遥かに超えてしまっている。
信じられない思いでリリスはヒックスに尋ねた。
「リリアに何か異変が起こる兆候って無かったんですか?」
「それがなあ・・・」
ヒックスは自分の記憶を辿る仕草をした。
「リリアが暴れ回る直前に、ダンジョンの周囲に張り巡らされている多重構造の亜空間シールドに、何らかの異変があった事は確認出来ている。小さな物体がダンジョン内に外部から侵入したようだ。まあこれも普通はあり得ない事なのだがな。」
「その直後にリリアに異変が起きたので、何らかの関連性はあるかも知れん。」
ダンジョン内に、ダンジョンマスターの許可無く外部から侵入するなどと言う事は、ダンジョンの特性からして先ず有り得ない。
それが可能なら、階層を辿って攻略していくと言う、ダンジョンのシステムそのものが崩壊してしまうからだ。
それならば何が侵入したのか?
色々と考えながらもリリスはヒックスにリリアの現状を尋ねた。
「それでリリアって今、どう言う状態になっているんですか?」
「うむ。自分の目で見るのが一番だろう。これを見てくれ。」
ヒックスはそう言うと手を上に突き出した。
その手の先に大きな半透明のパネルが出現し、そこに現在のリリアの姿が映し出された。
その映像を見てリリスはあっ!と叫び、ゴクリと息を呑んだ。
パネルに映し出されたのは異形の竜だった。
真っ黒な竜がブレスを吐いている。
ヒックスの話では全長15mほどだそうだ。
その竜の全身から無数の触手が伸び、その先端から巨大な火球が頻繁に周囲に放たれている。
更に竜の頭頂から伸びる数本の触手からは巨大な黒炎が放たれ、周囲のものを魔素に分解していく。
それを吸収してパワーアップする度に、竜の身体に赤い稲妻が幾本も走り抜けた。
この竜ってまさか・・・暗黒竜なの?
リリスはふと思い立ってヒックスに話し掛けた。
「ヒックス様。私のご先祖で賢者のユリアス様と、魔道具で連絡を取りたいんです。それって可能ですか?」
リリスの突然の依頼にヒックスはゆっくりと頷いた。
「まあ、緊急であれば止むを得まい。特殊な回線を開いてやるからそれを利用しなさい。」
ヒックスはそう言うとリリスが取り出した魔道具を精査し、ダンジョンの内外で通じるように工夫をした。
ヒックスから手渡された魔道具で、リリスは取り急ぎユリアスを呼び出した。
「ユリアス様。先日レミア族の施設で特殊な魔道具を介して回収した、あの小さな暗黒竜に異変は在りませんか?」
リリスの言葉にユリアスの返事が返ってきた。
「それなのだが、あれを預けたデルフィ殿から今朝連絡があって、あの暗黒竜が前触れもなく姿を消したそうだ。それでその所在を特殊な魔道具で追跡したところ、ギースのダンジョン付近に反応が有ると言うのだがなあ。そんな事って有り得るのか?」
うっ!
ビンゴだわ。
「分かりました、ユリアス様。確かにこちらに居ます。あの暗黒竜はギースのダンジョンに潜入したようです。若干手遅れのようですが・・・」
リリスはそう言うとリリアの現状を簡略に説明した。
その言葉にユリアスも魔道具の向こうで驚愕の声を上げていた。
「リリス。これは拙い事態になったな。ダンジョン内の全てのものを喰い尽くすと、奴は反転して地上に向かうだろう。そうなると地上に甚大な被害が生じてしまう。相手が暗黒竜なら、お前の持つ暗黒竜の加護で奴を食い止める方法を見つけられないか?」
「そうですね。試してみます。」
リリスはそう答えて魔道具の接続を切り、ヒックスに話し掛けた。
「ヒックス様。私の持つ暗黒竜の加護を発動してみます。何か解決策があるかも知れません。」
リリスの言葉にヒックスはうむと言って頷いた。
クイーングレイスさんに聞いてみよう。
リリスはおもむろに闇魔法の魔力を身体中に循環させ、暗黒竜の加護を意識して発動を促した。
それに従ってリリスの身体が熱くなってきた。
身体から闇魔法の魔力が渦を巻いて流れ出し、リリスの目の前に球体となって可視化された。
そこに現れたのはクイーングレイスの頭部である。
竜の目が赤く光り、その眼差しでリリスをじっと見つめた。
「リリス。拙いわね。あの少女は禁呪で拘束され、眷属状態になっているわ。早く分離しないと完全に乗っ取られてしまう。」
クイーングレイスは既にリリアの状態を把握しているようだ。
そのクイーングレイスの言葉にリリスは焦る思いで口を開いた。
「あの暗黒竜って乗っ取る依り代を探していたの?」
「そう、結果を見ればその通りよ。おそらく、禁忌で自身の身体を使い魔のような状態にさせ、その内部に本体の意識とスキルを凝縮して内在させたのでしょうね。」
うっ!
禁忌を用いているのね!
「それでどうすればリリアを救い出せるの?」
「それはねえ・・・」
クイーングレイスのは少し考え込むような表情を見せた。
「基本的には力ずくで抑え込み、隷属させた形で禁呪を解呪してリリアを分離する事になるわね。」
「ただ、それは現状では難しいわね。今の私の力は限定的だし・・・」
う~ん。
どうしたら良いの?
悩むリリス。
だがこのタイミングで突然、解析スキルが発動された。
どうしたの?
『緊急事態なので自律的に発動しました。覇竜の加護が発動を促しています。』
覇竜の加護が?
それってキングドレイクさんが手伝ってくれるって事なの?
『簡単に言えばそう言う事です。』
うん、分かったわ。
リリスは魔力を身体中に循環させ、覇竜の加護の発動を促した。
その途端に身体中が熱くなり、魔力が前方に流れ出し球体となって可視化された。
その中に現れたのはキングドレイクの頭部だ。
その目が光り、その視線をクイーングレイスの頭部に向けた。
「緊急事態だ。リリスに課せていたリミッターを解除し、協力して事態の収拾に臨むしかあるまい。」
キングドレイクのこの言葉にクイーングレイスは驚きの声を上げた。
「へえ~! あんたが私と組む事を言ってくるなんてねえ。でもそうでもしないと奴を止められないわね。」
クイーングレイスの言葉にキングドレイクは強く頷いた。
2体の竜の頭部は回転しながら融合し始めた。
それと共にリリスの身体にも変化が生じていく。
『脳内のリミッターが解除されました。脳内の休眠細胞も全て活性化されます。』
『6属性の魔力とスキルが全て覇竜の加護の管轄下に置かれます。』
『暗黒竜の加護がパワーアップされ、一時的に高レベルの空間魔法と高レベルの多重亜空間シールドが展開可能です。』
『疑似的なブレスを瞬時に連続で発動可能です。』
『魔力吸引を覇竜のレベルにアップデートしました。魔力の吸引を開始します。』
解析スキルの説明と共に、リリスの身体に周囲から魔力が吸収され始めた。
それは徐々に大きな奔流となり、リリスの身体に全て吸収されていく。
その膨大な魔力を受け止め蓄えるスキルも、空間魔法で同時に発動している。
そのリリスの姿に驚くヒックスだが、ここはリリスに任せるしかない。
頼むぞと言う視線をヒックスはリリスに向けるだけだ。
リリスの身体を膨大な魔力が覆う。
それは徐々に形状化し、リリスの身体は一時的に巨大な竜の姿に代わってしまった。
全長30mにも及ぶ巨大な覇竜の姿だ。
その頭部に2本の触手が伸び、その一つの先端にはキングドレイクの頭部が、もう一つの先端にはクイーングレイスの頭部が付いている。
これもまた異形の竜の姿である。
「リリス。最初に説明した通りよ。先ずは力ずくで奴を打ちのめして隷属させるのよ。」
クイーングレイスの言葉にリリスはハイと答えた。
既にリリスは戦う決意を固めている。
「儂は拡張したスキルやこの姿の維持に集中する。防御も任せろ。この後は念話で指示する。」
キングドレイクの言葉にリリスはハイと答え、魔力を大きく循環させて戦闘準備を整えた。
リリスの脳裏にダンジョン内の様子が鮮明に浮かび上がる。
拡張された空間魔法によってリリアの位置情報のみならず、その状態までも可視化されてきた。
リリアは今、ダンジョンの25階層を喰い荒らしている。
ギースのダンジョンは50階層まであるので、既に半分は消失してしまったのだ。
早く止めなければ反転して地上に向かってくる。
時間の余裕はない。
リリスは覇竜由来の空間魔法でリリアの所在を確認し、そこに空間魔法で一気に転移した。
リリスの視界が暗転すると、そこは地獄のような光景が広がっていた。
いたるところに巻き上がる巨大な炎。
あらゆるものが焼き尽くされ、魔素に分解され、虚無の穴となって点在している。
その炎の中に暗黒竜となったリリアの姿を確認すると、リリスは大きく咆哮して気合を入れ、そこに向かって突進した。
竜の身体が信じられないほどに一気に加速され、キーンと金切り音を立てて滑空する。
同時に身体中に多重の亜空間シールドが張り巡らされた。
リリスの接近を探知して、暗黒竜は咄嗟にブレスを吐いた。
真っ赤な爆炎がリリスに向かってくる。
その光景に一瞬怯んだリリスの脳裏に、キングドレイクの念話が浮かび上がった。
(案ずるな、リリス。あの程度のブレスは今のお前なら、蚊に刺された程度のダメージに過ぎないはずだ。)
竜も蚊に刺されるの?
そう突っ込みながらもリリスは覚悟を決め、暗黒竜のブレスを正面から受け止めた。
多重亜空間シールドにドンッと言う衝撃があったが、それは耐えられるレベルだ。
爆炎による損傷も無い。
(お返しにブレスを見舞ってやれ!)
キングドレイクの念話と同時に疑似的なブレスの機能とスキルが瞬時に展開され、リリスの口から強力なブレスが放たれた。
それは至近距離で暗黒竜を直撃し、その勢いで暗黒竜は爆炎に包まれながら吹き飛ばされてしまった。
こんな事をして、取り込まれているリリアの身体は大丈夫なの?
(それは今は考えるな! まず打ちのめして隷属させる事が最優先だ。)
キングドレイクの念話にクイーングレイスの念話が続く。
(奴もそれなりのレベルの暗黒竜よ。奴が憑依している限り、依り代の身体にまでは害は及ばないわ。)
そうなのね。
それなら安心して攻撃出来るわ。
リリスは気持ちを再度固めた。
何としてもあの暗黒竜を打ちのめしてリリアを助け出すんだ。
その固い決意を持ち、身体を震わせて大きく咆哮を放ったリリスは、ブレスによって吹き飛ばされた暗黒竜に向かって一気に突撃していったのだった。
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ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
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