落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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剣技の末に

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晩さん会場で突然始まった剣技。

特設の剣技場の中央に対峙するマキとジーナは、ケネスの指示によってそれぞれの剣を前に突き出し、お互いの剣身を重ね合わせて剣技を始めた。
その動きは緩やかで優美である。
お互いの剣身を静かに接触させると、キンキンと言う金属音がその周囲に伝わってきた。
間合いを取り、引き下がってまた前進し、その都度剣を合わせる。
これは剣技の始めに行うしきたりで、剣同士の挨拶のようなものだ。

しばらくその所作を続けると、ケネスが頃合いを見計らって新たな指示を出した。
それに応じて二人は対峙しながら後ろに引き下がる。
その距離が5mほどになった時点で、本格的な剣技が始まった。

「参ります!」

ジーナはそう叫ぶと身体中の魔力を激しく巡回させ、強化魔法で身体能力を一気に引き上げた。
ジーナの身体の周囲に溢れる魔力は、そのままシールドのようにジーナの身体を包み込む。

魔剣キングマークスを振りかぶると、ジーナは一気にマキに向かって突進した。

一方、マキはその表情を変える事も無く、聖剣アリアドーネを構えながら少し腰を低くした。
ジーナの一撃を受けるところから始めるつもりなのだろう。

ジーナは一気に駆け寄り、斜め上段から魔剣を振り下ろした。
その剣の動きが速い。
だがそれを見極めているかのように、マキは聖剣を下から斜め上に振り上げ、互いの剣身をぶつけるようにして跳ね上げた。ジーナの一撃を躱したマキは、その振り上げた聖剣を素早く引き下ろしながら、弧を描くように横一文字に一閃する。
その動きに反応し、ジーナは上に跳ね上げられた魔剣を剣技場の床に突き立て、マキの聖剣がぶつかる勢いを利用しながら身体を回転させた。
それは極度に身体強化した獣人ならではの動きだろう。
その回転した反動を利用して、ジーナは魔剣を斜め上空からマキに向けて振り下ろした。
マキはそれを身を低くし、聖剣で受け止めると、身体を一気に起こすようにしてジーナを跳ねのけた。

ガキンッと言う激しい金属音を立てて、魔剣と聖剣がぶつかり、両者はその距離を5mほどに広げた。
その位置から再びジーナがマキに襲い掛かる。
瞬時に距離を詰め、横に構えた魔剣を一閃するジーナ。
その素早い魔剣の動きにもマキは慌てる事も無く対応している。
マキは聖剣を上下逆に構え、振り上げて魔剣を跳ね上げたまま、上段の位置になった聖剣を一気に振り下ろした。
それを魔剣の背の部分で受け止めたジーナは、渾身の力を込めて聖剣を跳ねのけた。
その勢いで少し身体が浮き上がったマキは、そのまま後方の斜め上に身体を回転させながら引き下がる。
その着地する位置をめがけてジーナは魔剣で切り込んだ。
だが、マキはジーナの動きを予見していたかのように、聖剣で剣技場の床を軽く突き、着地点より少し後方に着地した。
そのマキの身体の50cmほど前を、ジーナの魔剣の剣先が一閃した。
この動きを見ても、マキがジーナの魔剣との間合いを見極めているのは間違いない。

二人の動きを見つめる貴族や王族達はオオオオオッと歓声を上げ、立ち上がって熱狂する者すら現われた。

この後幾度か剣を交え、両者が少し距離を取って対峙した時点で、ケネスが立ち上がった。

「そこまで!」

ケネスの指示で両者は剣を収め、互いに礼をしてそれぞれの後方に引き下がる。
剣技を終えた二人を称える歓声が剣技場に木霊した。

身体強化を解いたジーナは肩で息をしているが、マキは平然としたままだ。

歓声を上げる貴族や王族の見守る中、マキとジーナはその剣技の場から退出した。
この場を設営したケネスやグルジアも満足そうな笑顔を見せながら、参列していた貴族や王族達と対応している。
素晴らしいものを見せてもらったと、口々に賛美と称賛の声を上げる参列者達。
その対応に自分も巻き込まれそうになったので、リリスはそそくさとその場を離れた。

だが剣技の場から出ると、リリスは思いがけない光景を目にした。

普段着に着替えたマキと、軍服に着替えたマキがその場に立ち尽くし、二人の前方の床におびただしい金属片が散乱していたのだ。

「二人共どうしたの?」

リリスが話し掛けると、ジーナは情けなさそうな表情でリリスの顔を見た。

「剣技の場から出た途端に、魔剣キングマークスが粉々になってしまったんです。」

「えっ! それじゃあここに散乱している金属片は・・・」

リリスの言葉にジーナは無言で頷いた。

「どうしてこうなったの?」

リリスの問い掛けにマキは申し訳なさそうな表情を見せた。

「私が壊しちゃったのかしら・・・」

「いやいや、そう言う事じゃないと思うよ。アリアに聞いてみたら?」

リリスの言葉を受けて、マキは剣聖アリアと念話でやり取りを始めた。

沈黙の時間が続く。

しばらくしてマキは静かに話し始めた。

「アリアの話では、長年この魔剣に溜まった邪気が原因だそうよ。それが魔剣の金属疲労を引き起こしたらしいわ。」

「そんな事ってあるんですか? この魔剣キングマークスは見映えがするので、代々の国王が儀式や祭典に良く用いていた剣なのですが・・・」

ジーナはそう言って黙り込んだ。
大切な剣を失ってしまった事がかなりのショックなのだろう。

その様子を見かね、マキはアリアを呼び出そうとした。
聖魔法の魔力を大きく循環させると、マキの肩の上に小さな女性の姿が現われた。
その端正な顔立ちはアリアなのだが、白いロングドレスを纏った着せ替え人形のような姿である。

「随分小さな姿で現れたわね。」

リリスの言葉にアリアはふふふと微笑んだ。

「この姿なら実体化しても、マキの魔力あまりを消耗しないからね。」

そう言うとアリアは頭を抱え込んでいるジーナに声を掛けた。

「ジーナ。あまり気にしなくて良いわよ。その魔剣に合金として含まれていた魔力誘導体が駄目になっちゃったのよ。魔力誘導体は剣自体と所有者の魔力を激しく循環させるから、所有者の持つ邪気を蓄積してしまう傾向があるの。」

「おそらくこの魔剣の代々の所有者達は、邪気に満ちた者達だったのでしょうね。」

アリアの言葉にジーナはうつむきながらうんうんと頷いた。

「確かに我が国の代々の国王は暴君が多かったようです。それはそれで仕方が無いのですが、この魔剣を近日中に祭典で使う予定があったので困ってしまって・・・・・」

「王家に纏わる祭典なので、魔剣キングマークスが無ければ体裁が整わないのです。」

ジーナはそう言うと再び頭を抱え込んでしまった。
その様子を見てアリアはリリスの顔を覗き込んだ。

「リリス。あんたならこの魔剣を修復出来るわよね。私の宿る聖剣アリアドーネもあんたが修復したんだから。」

アリアったら、簡単に言わないでよ。

突然話を振られて言葉を詰まらせたリリスに、ジーナがグッとにじり寄った。

「リリス様。リリス様はそんな事まで出来るのですね。それなら是非この魔剣の修復を・・・・・」

ジーナはリリスの両手を包み込むように握り締め、潤んだ目でリリスをじっと見つめた。

困ったわね。
これじゃあ、出来ないなんて言えないじゃないの。

困った表情のリリスに追い打ちを掛ける様にマキが口を開いた。

「リリスちゃん。やってあげてよ。ジーナさんも困っているんだから。」

マキちゃんも簡単に言うわよね。
私の持つスキルを知っているから、そんな風に言うんだろうけどねえ。

ジーナの言うには祭典は二日後だと言う。
二日後の祭典の目玉が無くなったのだから、ジーナが困り果てるのも無理もない。
アブリル王国にはこの魔剣を修復出来るほどの優秀な鍛冶職人も居ないと言うので、リリスは止む無く修復の依頼を承諾した。

事情を聴いて駆けつけてきたケネスとグルジアの指示で、魔剣キングマークスの破片は全て集められ、空いていたゲストルームに運ばれた。
ゲストルームの広いテーブルの上に置かれた破片の山を目の前にして、リリスは先ず解析スキルを発動させた。

魔剣キングマークスの組成が分かる?

『この破片の山で分析すると、ミスリル鋼70%、鋼20%、ヒイロカネ10%ですね。』

『このヒイロカネ自体も竜の鱗をパウダー状にしたものが混入されています。』

魔力誘導体は何?

『パウダー状の竜の鱗とヒイロカネです。このヒイロカネが劣化してしまって、金属としての形状を維持出来ないほどに変質してしまっています。』

そんな事ってあるの?

『アリアの説明のように、長年に渡って強烈な邪気を浴びせられ続けてきたからでしょうね。もちろん魔剣の製作者の技量もあるのですが・・・』

うんうん。
要するに製作者の技量不足も一因と言う事ね。

『それもある・・・と言う事です。』

そうするとヒイロカネとパウダー状の竜の鱗が、新たに必要って事ね?

『そうなります。』



リリスは解析スキルの分析を元に、その場に居るグルジア達にヒイロカネと竜の鱗が必要である事を伝えた。
だがその場の誰もが渋面である。

「そのような特殊な素材は王家の倉庫にも宝物庫にもありません。他の武具を溶かす事でその素材が得られるのかも知れませんが、どの武具がその素材を含んでいるのかも私達には分かりませんので。」

まあ、無理もない話ね。
それに今からそれを分析しながら溶かして集めるのも時間的に無理だわ。

新たに素材を集めるとなると、リリスの知る範囲ではレミア族の遺産遺物を頼るしかない。

「ジーナさん。この場に私の先祖の賢者ユリアス様を呼び寄せても良いですか? 修復に必要な特殊な素材を所有している可能性が高いので、修復のための打ち合わせをしたいのです。」

リリスの提案にジーナ達は強く頷き、躊躇いも無く承諾した。
リリスは連絡用の魔道具を使ってユリアスと連絡を取った。

ほどなくリリスの傍に紫色のガーゴイルが現われた。
ユリアスの使い魔である。
リリスはユリアスに魔剣の修復が急務である事を説明し、ヒイロカネと竜の鱗の在庫を尋ねた。

「ヒイロカネと竜の鱗だな。ラダム殿が在庫の整理をしてくれているので尋ねてみよう。多分あると思うぞ。だがヒイロカネは極めて希少だからな。大量には調達出来んぞ。」

「魔剣の修復に使うだけですから、1kgもあれば十分です。」

「うむ。それなら大丈夫だろう。とりあえず研究施設に戻るとしよう。少し待っておれ。」

紫のガーゴイルはそう言うと、ふっとその場から消えてしまった。

だが数分後、リリスの連絡用の魔道具にユリアスからの連絡が入った。

どうやらその場に居た他の賢者様がこちらに来たいと言っているようだ。
しかも使い魔では無く実体で。

良く分からないままにリリスがジーナにその事を伝えると、ジーナはケネスやグルジアと協議し、直ぐに快諾してくれた。
それをユリアスに伝えると、数分後にゲストルームの端の壁際に数個の光球が現われた。
それは徐々に実体化し、ローブを纏った賢者達の姿になった。

ちょっと待ってよ!
何人来たのよ?

現われたのはユリアスとラダム、その他にドラゴニュートの賢者デルフィと、カラフルな頭巾を被ったゴート族の賢者リクードまで居る。

「どうして4人も来たんですか?」

「いや、リリスが急ぎで魔剣を修復すると聞いて、デルフィ殿達が強く関心を持ってな。是非その様子を自分の目で見たいと言うものだから・・・」

そう言ってばつが悪そうにしているユリアスを押し退ける様に、デルフィが身を乗り出してきた。

「リリス。お前はドラゴニュートの王家に纏わる魔剣を幾つも修復してくれた実績がある。だが儂はそれを直に見たわけでは無いのでな。是非見せて欲しいのだよ。」

デルフィの言葉にラダムもリクードもうんうんと頷いた。

リリスは止む無く、4人の賢者をジーナ達に紹介した。
互いに挨拶を交わすと、ジーナ達は特にリクードに強い関心を示した。

「ゴート族の賢者様ですか! 我々獣人にとっては伝説の人物ではないですか!」

ケネスの言葉にリクードは謙遜しながら、穏やかな笑顔を見せた。
ジーナ達にとってもゴート族はほとんど目にしたことが無いはずだ。

「それにしても、4人もの賢者様が集まるって、どう言う事なんでしょうか?」

呆れ気味にジーナに話し掛けられ、リリスも失笑するだけだ。

ラダムがマジックバッグからヒイロカネとパウダー状の竜の鱗を取り出し、破片が山積みされているテーブルの上に置いた。

秘匿領域のスキルを人前で披露して良いのかしら?
相応強く口止めしておく必要があるわね。

衆人環視の中、リリスはあれこれと思いを巡らせながら、魔剣の修復作業に取り掛かったのだった。









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