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魔剣の修復依頼
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魔剣の修復。
成り行きとは言え、賢者達やケネス達の前で秘匿していたスキルを発動する事になったリリスは、若干後悔しながらも作業を進めていた。
先ずは解析スキルを発動させ、修復の手筈を整える。
この大量の金属片を錬成し直せば良いの?
『錬成する前に劣化したヒイロカネを分別しなければいけませんね。ミスリル鋼と鋼はそのまま使えますので、ヒイロカネを不純物として意識したまま、軽く錬成を掛けて下さい。』
解析スキルの指示に従って、リリスは魔金属錬成スキルを発動させ、劣化したヒイロカネの分別を意識しながら金属片に魔力を注いだ。
その魔力に操られ、金属片が飴のように緩やかに動き、合体しながら薄黄色い金属を排出していく。
これが劣化したヒイロカネなのだろう。
その総量はおそらく1kgほどだと思われる。
リリスは別のスペースにラダムが持ってきた新しいヒイロカネを置き、その上に竜の鱗のパウダーを撒いた。
これを魔金属錬成スキルで混ぜ合わせていく。
魔力の波動で飴の様になったヒイロカネと竜の鱗のパウダーを混ぜ合わせ、再度錬成して一塊りの金属塊にしたものを、ミスリル鋼と鋼の金属塊の上に置き、これを錬成させて合金化させるのだ。
一連の作業を間断なく進めるリリスだが、その為の魔力の消耗はかなり大きい。
額に脂汗を滲ませながら作業する事約20分で、基本となる合金の塊が錬成された。
その作業を見つめながら賢者達は驚きの声を上げていた。
「ミスリル鋼が飴のように変形しているぞ!」
「まるで粘土細工だな。どうしてこんな事が出来るんだ?」
口々に驚きの声を上げているのはケネスやグルジアも同様であった。
リリスは一息入れて、解析スキルに尋ねた。
ここから元の魔剣キングマークスの姿を再現させるには、どうしたら良いの?
『その件に関しては覇竜の加護を発動させてください。鍛冶関係の加護を統括していますので。』
ああ、覇竜の加護がシューサックさんの残留思念を統括しているのね。
リリスはおもむろに覇竜の加護を発動させた。
それと共にリリスの脳裏にシューサックの意思が浮かび上がってきた。
(劣化したヒイロカネの中から魔剣キングマークスの元の形態を抽出するんだ。魔力の触手で元のヒイロカネの中に残された魔力の痕跡を探れば良い。)
うっ!
そんな事って出来るの?
リリスは若干躊躇いながら魔力の触手を伸ばし、抽出した元のヒイロカネの中に打ち込んだ。
魔力の触手の先端の反応を探ると、その中に混入された竜の鱗の粉末に僅かな魔力の痕跡が感じられる。
それを取り込みながら魔金属錬成スキルに連動させると、リリスの脳裏に何故か懐かしいような気持ちが湧き上がってきた。
これは何だろうか?
リリスは違和感を覚えながら、竜の鱗の粉末から魔力の痕跡を全て取り込んだ。
それをスキルを使って脳内で整理すると、魔剣キングマークスの姿が細部までありありと浮かんできた。
驚いたわね。
これって設計図のようなものだわ。
リリスは脳裏に浮かんだ魔剣キングマークスの仕様に基づいて、合金の塊に魔金属錬成スキルを発動させた。
魔力を放ち続ける事約10分。
魔金属の合金の塊は徐々にその姿を変え、長さ2m50cmの長剣の姿になった。
これで良いの?
(いや、まだだ。これは剣の姿をした金属の塊に過ぎん。焼き入れと鍛造を繰り返さなければならない。)
魔剣の修復ってそんなに手間が掛かったっけ?
(一から始めるとこうなると言う事だ。)
(それほど難しい事ではない。焼き入れと鍛造のイメージを描きながらスキルを発動させれば良い。)
リリスはシューサックの指示に従って、脳裏に浮かぶ焼き入れや鍛造のイメージを魔力に乗せながら、魔金属錬成スキルを発動させた。
剣の形となった合金はその魔力を受けて時には赤く光を放ち、時には黒く色彩を変えた。
それを二度繰り返し、更に剣の刃を研ぐ作業もスキルで施して、ようやく魔剣キングマークスは復元された。
だがまだ終わっていないと言う言葉が脳裏に浮かぶ。
(雷属性を付与するんだ。この魔剣は元々は雷撃性の魔剣だからな。)
ええっ?
そうなの?
だって雷属性なんて少しも感じられなかったわよ。
そう言う現象も見えなかったし・・・。
リリスは近くに居たグルジアにその事を尋ねた。
「そうですね。王家に保管されている記録によると、王家の所有になった頃は雷属性を帯びていたと書かれています。数百年の年月が経って、それが消失してしまったのでしょう。」
グルジアの言葉にリリスは頷き、出来上がった魔剣に雷属性を付与させた。
それを示すように魔剣キングマークスは、その剣身の切っ先にパチパチッと小さな稲妻を発生させた。
「一応出来上がりましたが、剣の柄はどうするのですか?」
リリスの問い掛けにグルジアは笑顔で口を開いた。
「それは心配ありません。用途に合わせて取り換える柄が幾つもあるのです。それを装着すれば良いだけです。」
そう言うとグルジアは修復された魔剣の剣身をその指でスーッと軽く撫でた。
その指に小さな稲光がパチパチと生じた。
「リリス様、ありがとうございます。完璧な出来栄えですね。これほどのスキルをお持ちであるとは思いませんでした。」
感心し感謝するグルジアの傍にデルフィがにじり寄ってきた。
デルフィは魔剣を魔力で精査し、ほうっ!と驚きの声を上げた。
「スキルで修復させたとは思えぬほどに剣として完成されておる。これは単に優秀なスキルを持っているだけとは思えぬ。」
「リリス。お前は優秀な鍛冶職人の加護を受けておるのか?」
デルフィの言葉にリリスはビクッとした。
デルフィにはお見通しの様だ。
リリスは無言でうんうんと頷いた。
「やはりな。そうでなければスキルだけで、剣の焼き入れや鍛造の程度やそのタイミングまで実現出来んだろうからな。」
デルフィはそう言うと、近くに居たジーナに言葉を掛けた。
「ジーナ殿。この剣をローラ女王様が祭典で用いるとの事でしたな? それならば簡略的で良いので、この新しく作り直された剣の奉呈式を執り行ってはどうかと思うのですが。」
「奉呈式ですか?」
「うむ。ドラゴニュートの国でも、為政者が用いる新しい剣は奉呈式を執り行う事で、その格式を高める事にしておるのです。それに魔剣であればその所有者を魔剣に認識させる意図もありますからな。」
デルフィの言葉にジーナは半信半疑の表情だ。
「魔剣に所有者を認識させるのですか?」
「左様。魔剣に魔力を流してそれを認識させるのです。魔剣に意思はありませんが、魔力を循環させる際に、主従関係に近い親和性を生み出すと言われております。」
デルフィの言葉にジーナは強く頷き、その言葉をしっかりと受け止めた。
ドラゴニュートの国の王族の一員であるデルフィからの進言なので、その言葉と内容には重みがある。
ジーナ自身も魔剣について感じるところがあったのだろう。
ジーナは即座にローラ女王の側近に連絡を取り、簡略的ながら魔剣キングマークスの奉呈式を王城内の謁見の間で執り行うように、遅滞なく段取りを進めた。
ローラ女王も時間の都合がついたと言うので、リリスとその場に居た全員が王城内の謁見の間に転移で移動し、その場でしばらく待機していた。
その間、数名の執務官達が式典の準備を進め、玉座とその前に重厚なテーブルを設置した。
そのテーブルの上に魔剣キングマークスが置かれ、リリス達は執務官の指示で立ち位置を指示された。
その位置に各自が膝をつき頭を下げた姿勢で待機して数分後、ローラ女王が入室して玉座に座った。
女王の指示で全員が頭を上げ、女王の言葉を待つ。
ローラ女王は参加者全員を一瞥し、先ずデルフィに言葉を掛けた。
「デルフィ殿。この場に参席していただいて感謝いたします。ドラゴニュートの国の王族の方を来賓としてお迎えした事で、この式典が格式高いものになるのですから。」
「恐縮でございます、女王様。」
デルフィはそう言うと恭しく頭を下げた。
ローラ女王は次にリリスに言葉を掛けた。
「リリス様。この度は魔剣キングマークスを修復していただいて、大変感謝しております。お聞きのようにこの魔剣は、我がアブリル王国の王家に代々伝わる王家の象徴なのです。」
「かつては勇者が所持していたとも言われている由緒ある剣なのです。」
ローラ女王はそう言うと、魔剣キングマークスの前に立った。
その表情に緊張が走る。
執務官が両側から魔剣を持ち上げ、ローラ女王に柄の方を向けると、女王はその柄を強く握り締めた。
魔剣キングマークスは重さが15kgほどもある長剣だ。
それ故ローラ女王一人では持てない重さだが、魔剣に魔力を流し魔力を循環させる事によって、魔剣は所持者との親和性を高め、女性一人でも軽く振り回す事が出来る。
「ローラ女王様。魔剣キングマークスに魔力を流してください。女王様が魔剣の真の所持者であると強く念じて魔力を流せば、魔剣もそれを受け入れ、女王様の心強い従者となるでしょう。」
ケネスの言葉にローラ女王は強く頷き、魔剣キングマークスに魔力を流し込んだ。
その途端に魔剣はその剣身を仄かに光らせ、ブーンと鈍い音を立てた。
魔剣を支えていた執務官が両側に退き、ローラ女王は魔剣を片手に持って高く突き上げる。
魔剣はその剣身を再度光らせたかと思うと、その全体から魔力が流れ出し、その魔力は渦巻いて謁見の間を満たしていく。
「何事だ?」
思い掛けない出来事にデルフィも怪訝そうな声を上げた。
だがローラ女王は堂々とその場に立ち尽くしている。
平然と立つローラ女王だが、ほどなくその目から一滴の涙が零れ落ちた。
「女王様! いかがなされました?」
ジーナの言葉にローラ女王は戸惑いながらその口を開いた。
「私にも分からない。なぜか色々な感情が流れ込んでくる。」
「怒りや苦しみ、悲しみや絶望感。更に幸福感や満足感も流れ込んでくる。これはもしかして魔剣が蓄えていたものか?」
そう言いながらローラ女王は魔剣をテーブルに降ろそうとした。
だが再度女王は魔剣を持ち上げた。
「私の脳内に映像が流れてきた。これは何だろうか?」
「私のスキルで仮想空間に展開させ、この場に居る者にもこの映像を見せてやろう。魔剣が皆に見て欲しいと願っているのかも知れない。」
ローラ女王はそう言うと、魔剣を片手で高く突き上げ、もう一方の手で空間魔法を発動させた。
女王の身体が光球で包まれ、それが徐々に拡大して謁見の間を包み込む。
その光球の中は広大な仮想空間となっていて、リリス達はその仮想空間の上空に浮かんでいる。
高度は50mほどで、斜め下方に俯瞰している状態だ。
目の前に広がっているのは一面の草原だ。
その草原の向こう側に大量の黒い塊が動きながら近づいて来る。
それは良く見ると魔族の大軍団だった。
魔剣や魔弓・魔槍を持つ人型の魔族のみならず、従魔と思われる異形の軍団や召喚獣の群れ。
その総数は5000体を超えているだろう。
一方、リリス達の直下に人族や獣人やダークエルフの混成軍が現われた。
こちらも魔剣や魔弓・魔槍を持ち、魔族の大軍団に対峙している。
その混成軍の先頭に、5人の戦士達が並んでいた。
杖を持つ魔導士、大盾とハルバートを持つ重戦士、魔弓を持つダークエルフのアーチャー、法衣を纏ったヒーラー、そしてその中央に立つのは赤いマントを羽織った剣士。
その剣士の手には長剣が輝いている。
あれは魔剣キングマークスだ!
リリスは赤いマントを羽織った剣士が気になった。
もしかしてあれは・・・勇者レッド?
そう思った途端にリリスの目が望遠レンズを覗き込むように、その剣士の顔にフォーカスされた。
おそらくこの時の年齢は20代前半だろう。
見覚えのある顔だ。
リリスの脳裏には中学校入学直前に失踪した幼馴染の顔が浮かんできた。
やはり勇者レッドね。
魔剣キングマークスは勇者レッドが所持していたのね。
リリスは魔剣の修復の際、破片から取り出したヒイロカネの事を思い出した。
ヒイロカネに残されていた魔力の痕跡を取り込む際に感じた、違和感としか言いようのない懐かしさ。
それは勇者レッドの魔力が残されていたからなのだろう。
人族などの混成軍と魔族の大軍団。
対峙する両者だが先手を打ってきたのは魔族の側だった。
リーダーの指示の下、魔族群から大量の火球が放たれた。
およそ1000発もの火球が斜め上空に放たれ、放物線を描いて混成軍に襲い掛かる。
勇者レッドの指示で広域のシールドが何重にも張り巡らされた。
大量の火球はそのシールドに着弾し、爆炎を上げて炎熱を撒き散らす。
そのあまりの物量に耐え切れず、シールドは各所で破壊され、着弾した火球は混成軍の兵士を吹き飛ばした。
その被害に苦渋の表情を浮かべ、勇者レッドは直ぐに反撃に出た。
上空に向けて空間魔法を放ち、巨大な魔法陣を出現させた勇者レッドは、即座に魔剣キングマークスを上空に突き上げて魔力を注いだ。
魔剣の剣身が激しく光り、剣先から上空に巨大なサンダーボルトが放たれる。
そのサンダーボルトは巨大な魔法陣に吸い込まれるように消えていった。
勇者レッドが空間魔法の発動を続けると、魔法陣は回転しながら魔族の軍団の上空に移動し、その魔法陣から無数のサンダーボルトが地上に向けて放たれた。
バリバリバリバリバリッと雷鳴が轟き、大地が激しく揺れるほどだ。
激しい稲光で真っ白になった視界が晴れると、魔族の軍団の前方に居た約200体が黒焦げになって倒れていた。
だがそれでも魔族の軍団は怯まない。
雪崩のように駆け込んでくる魔族の大軍団を迎え撃つべく、勇者レッドは混成軍に総攻撃の号令を発したのだった。
成り行きとは言え、賢者達やケネス達の前で秘匿していたスキルを発動する事になったリリスは、若干後悔しながらも作業を進めていた。
先ずは解析スキルを発動させ、修復の手筈を整える。
この大量の金属片を錬成し直せば良いの?
『錬成する前に劣化したヒイロカネを分別しなければいけませんね。ミスリル鋼と鋼はそのまま使えますので、ヒイロカネを不純物として意識したまま、軽く錬成を掛けて下さい。』
解析スキルの指示に従って、リリスは魔金属錬成スキルを発動させ、劣化したヒイロカネの分別を意識しながら金属片に魔力を注いだ。
その魔力に操られ、金属片が飴のように緩やかに動き、合体しながら薄黄色い金属を排出していく。
これが劣化したヒイロカネなのだろう。
その総量はおそらく1kgほどだと思われる。
リリスは別のスペースにラダムが持ってきた新しいヒイロカネを置き、その上に竜の鱗のパウダーを撒いた。
これを魔金属錬成スキルで混ぜ合わせていく。
魔力の波動で飴の様になったヒイロカネと竜の鱗のパウダーを混ぜ合わせ、再度錬成して一塊りの金属塊にしたものを、ミスリル鋼と鋼の金属塊の上に置き、これを錬成させて合金化させるのだ。
一連の作業を間断なく進めるリリスだが、その為の魔力の消耗はかなり大きい。
額に脂汗を滲ませながら作業する事約20分で、基本となる合金の塊が錬成された。
その作業を見つめながら賢者達は驚きの声を上げていた。
「ミスリル鋼が飴のように変形しているぞ!」
「まるで粘土細工だな。どうしてこんな事が出来るんだ?」
口々に驚きの声を上げているのはケネスやグルジアも同様であった。
リリスは一息入れて、解析スキルに尋ねた。
ここから元の魔剣キングマークスの姿を再現させるには、どうしたら良いの?
『その件に関しては覇竜の加護を発動させてください。鍛冶関係の加護を統括していますので。』
ああ、覇竜の加護がシューサックさんの残留思念を統括しているのね。
リリスはおもむろに覇竜の加護を発動させた。
それと共にリリスの脳裏にシューサックの意思が浮かび上がってきた。
(劣化したヒイロカネの中から魔剣キングマークスの元の形態を抽出するんだ。魔力の触手で元のヒイロカネの中に残された魔力の痕跡を探れば良い。)
うっ!
そんな事って出来るの?
リリスは若干躊躇いながら魔力の触手を伸ばし、抽出した元のヒイロカネの中に打ち込んだ。
魔力の触手の先端の反応を探ると、その中に混入された竜の鱗の粉末に僅かな魔力の痕跡が感じられる。
それを取り込みながら魔金属錬成スキルに連動させると、リリスの脳裏に何故か懐かしいような気持ちが湧き上がってきた。
これは何だろうか?
リリスは違和感を覚えながら、竜の鱗の粉末から魔力の痕跡を全て取り込んだ。
それをスキルを使って脳内で整理すると、魔剣キングマークスの姿が細部までありありと浮かんできた。
驚いたわね。
これって設計図のようなものだわ。
リリスは脳裏に浮かんだ魔剣キングマークスの仕様に基づいて、合金の塊に魔金属錬成スキルを発動させた。
魔力を放ち続ける事約10分。
魔金属の合金の塊は徐々にその姿を変え、長さ2m50cmの長剣の姿になった。
これで良いの?
(いや、まだだ。これは剣の姿をした金属の塊に過ぎん。焼き入れと鍛造を繰り返さなければならない。)
魔剣の修復ってそんなに手間が掛かったっけ?
(一から始めるとこうなると言う事だ。)
(それほど難しい事ではない。焼き入れと鍛造のイメージを描きながらスキルを発動させれば良い。)
リリスはシューサックの指示に従って、脳裏に浮かぶ焼き入れや鍛造のイメージを魔力に乗せながら、魔金属錬成スキルを発動させた。
剣の形となった合金はその魔力を受けて時には赤く光を放ち、時には黒く色彩を変えた。
それを二度繰り返し、更に剣の刃を研ぐ作業もスキルで施して、ようやく魔剣キングマークスは復元された。
だがまだ終わっていないと言う言葉が脳裏に浮かぶ。
(雷属性を付与するんだ。この魔剣は元々は雷撃性の魔剣だからな。)
ええっ?
そうなの?
だって雷属性なんて少しも感じられなかったわよ。
そう言う現象も見えなかったし・・・。
リリスは近くに居たグルジアにその事を尋ねた。
「そうですね。王家に保管されている記録によると、王家の所有になった頃は雷属性を帯びていたと書かれています。数百年の年月が経って、それが消失してしまったのでしょう。」
グルジアの言葉にリリスは頷き、出来上がった魔剣に雷属性を付与させた。
それを示すように魔剣キングマークスは、その剣身の切っ先にパチパチッと小さな稲妻を発生させた。
「一応出来上がりましたが、剣の柄はどうするのですか?」
リリスの問い掛けにグルジアは笑顔で口を開いた。
「それは心配ありません。用途に合わせて取り換える柄が幾つもあるのです。それを装着すれば良いだけです。」
そう言うとグルジアは修復された魔剣の剣身をその指でスーッと軽く撫でた。
その指に小さな稲光がパチパチと生じた。
「リリス様、ありがとうございます。完璧な出来栄えですね。これほどのスキルをお持ちであるとは思いませんでした。」
感心し感謝するグルジアの傍にデルフィがにじり寄ってきた。
デルフィは魔剣を魔力で精査し、ほうっ!と驚きの声を上げた。
「スキルで修復させたとは思えぬほどに剣として完成されておる。これは単に優秀なスキルを持っているだけとは思えぬ。」
「リリス。お前は優秀な鍛冶職人の加護を受けておるのか?」
デルフィの言葉にリリスはビクッとした。
デルフィにはお見通しの様だ。
リリスは無言でうんうんと頷いた。
「やはりな。そうでなければスキルだけで、剣の焼き入れや鍛造の程度やそのタイミングまで実現出来んだろうからな。」
デルフィはそう言うと、近くに居たジーナに言葉を掛けた。
「ジーナ殿。この剣をローラ女王様が祭典で用いるとの事でしたな? それならば簡略的で良いので、この新しく作り直された剣の奉呈式を執り行ってはどうかと思うのですが。」
「奉呈式ですか?」
「うむ。ドラゴニュートの国でも、為政者が用いる新しい剣は奉呈式を執り行う事で、その格式を高める事にしておるのです。それに魔剣であればその所有者を魔剣に認識させる意図もありますからな。」
デルフィの言葉にジーナは半信半疑の表情だ。
「魔剣に所有者を認識させるのですか?」
「左様。魔剣に魔力を流してそれを認識させるのです。魔剣に意思はありませんが、魔力を循環させる際に、主従関係に近い親和性を生み出すと言われております。」
デルフィの言葉にジーナは強く頷き、その言葉をしっかりと受け止めた。
ドラゴニュートの国の王族の一員であるデルフィからの進言なので、その言葉と内容には重みがある。
ジーナ自身も魔剣について感じるところがあったのだろう。
ジーナは即座にローラ女王の側近に連絡を取り、簡略的ながら魔剣キングマークスの奉呈式を王城内の謁見の間で執り行うように、遅滞なく段取りを進めた。
ローラ女王も時間の都合がついたと言うので、リリスとその場に居た全員が王城内の謁見の間に転移で移動し、その場でしばらく待機していた。
その間、数名の執務官達が式典の準備を進め、玉座とその前に重厚なテーブルを設置した。
そのテーブルの上に魔剣キングマークスが置かれ、リリス達は執務官の指示で立ち位置を指示された。
その位置に各自が膝をつき頭を下げた姿勢で待機して数分後、ローラ女王が入室して玉座に座った。
女王の指示で全員が頭を上げ、女王の言葉を待つ。
ローラ女王は参加者全員を一瞥し、先ずデルフィに言葉を掛けた。
「デルフィ殿。この場に参席していただいて感謝いたします。ドラゴニュートの国の王族の方を来賓としてお迎えした事で、この式典が格式高いものになるのですから。」
「恐縮でございます、女王様。」
デルフィはそう言うと恭しく頭を下げた。
ローラ女王は次にリリスに言葉を掛けた。
「リリス様。この度は魔剣キングマークスを修復していただいて、大変感謝しております。お聞きのようにこの魔剣は、我がアブリル王国の王家に代々伝わる王家の象徴なのです。」
「かつては勇者が所持していたとも言われている由緒ある剣なのです。」
ローラ女王はそう言うと、魔剣キングマークスの前に立った。
その表情に緊張が走る。
執務官が両側から魔剣を持ち上げ、ローラ女王に柄の方を向けると、女王はその柄を強く握り締めた。
魔剣キングマークスは重さが15kgほどもある長剣だ。
それ故ローラ女王一人では持てない重さだが、魔剣に魔力を流し魔力を循環させる事によって、魔剣は所持者との親和性を高め、女性一人でも軽く振り回す事が出来る。
「ローラ女王様。魔剣キングマークスに魔力を流してください。女王様が魔剣の真の所持者であると強く念じて魔力を流せば、魔剣もそれを受け入れ、女王様の心強い従者となるでしょう。」
ケネスの言葉にローラ女王は強く頷き、魔剣キングマークスに魔力を流し込んだ。
その途端に魔剣はその剣身を仄かに光らせ、ブーンと鈍い音を立てた。
魔剣を支えていた執務官が両側に退き、ローラ女王は魔剣を片手に持って高く突き上げる。
魔剣はその剣身を再度光らせたかと思うと、その全体から魔力が流れ出し、その魔力は渦巻いて謁見の間を満たしていく。
「何事だ?」
思い掛けない出来事にデルフィも怪訝そうな声を上げた。
だがローラ女王は堂々とその場に立ち尽くしている。
平然と立つローラ女王だが、ほどなくその目から一滴の涙が零れ落ちた。
「女王様! いかがなされました?」
ジーナの言葉にローラ女王は戸惑いながらその口を開いた。
「私にも分からない。なぜか色々な感情が流れ込んでくる。」
「怒りや苦しみ、悲しみや絶望感。更に幸福感や満足感も流れ込んでくる。これはもしかして魔剣が蓄えていたものか?」
そう言いながらローラ女王は魔剣をテーブルに降ろそうとした。
だが再度女王は魔剣を持ち上げた。
「私の脳内に映像が流れてきた。これは何だろうか?」
「私のスキルで仮想空間に展開させ、この場に居る者にもこの映像を見せてやろう。魔剣が皆に見て欲しいと願っているのかも知れない。」
ローラ女王はそう言うと、魔剣を片手で高く突き上げ、もう一方の手で空間魔法を発動させた。
女王の身体が光球で包まれ、それが徐々に拡大して謁見の間を包み込む。
その光球の中は広大な仮想空間となっていて、リリス達はその仮想空間の上空に浮かんでいる。
高度は50mほどで、斜め下方に俯瞰している状態だ。
目の前に広がっているのは一面の草原だ。
その草原の向こう側に大量の黒い塊が動きながら近づいて来る。
それは良く見ると魔族の大軍団だった。
魔剣や魔弓・魔槍を持つ人型の魔族のみならず、従魔と思われる異形の軍団や召喚獣の群れ。
その総数は5000体を超えているだろう。
一方、リリス達の直下に人族や獣人やダークエルフの混成軍が現われた。
こちらも魔剣や魔弓・魔槍を持ち、魔族の大軍団に対峙している。
その混成軍の先頭に、5人の戦士達が並んでいた。
杖を持つ魔導士、大盾とハルバートを持つ重戦士、魔弓を持つダークエルフのアーチャー、法衣を纏ったヒーラー、そしてその中央に立つのは赤いマントを羽織った剣士。
その剣士の手には長剣が輝いている。
あれは魔剣キングマークスだ!
リリスは赤いマントを羽織った剣士が気になった。
もしかしてあれは・・・勇者レッド?
そう思った途端にリリスの目が望遠レンズを覗き込むように、その剣士の顔にフォーカスされた。
おそらくこの時の年齢は20代前半だろう。
見覚えのある顔だ。
リリスの脳裏には中学校入学直前に失踪した幼馴染の顔が浮かんできた。
やはり勇者レッドね。
魔剣キングマークスは勇者レッドが所持していたのね。
リリスは魔剣の修復の際、破片から取り出したヒイロカネの事を思い出した。
ヒイロカネに残されていた魔力の痕跡を取り込む際に感じた、違和感としか言いようのない懐かしさ。
それは勇者レッドの魔力が残されていたからなのだろう。
人族などの混成軍と魔族の大軍団。
対峙する両者だが先手を打ってきたのは魔族の側だった。
リーダーの指示の下、魔族群から大量の火球が放たれた。
およそ1000発もの火球が斜め上空に放たれ、放物線を描いて混成軍に襲い掛かる。
勇者レッドの指示で広域のシールドが何重にも張り巡らされた。
大量の火球はそのシールドに着弾し、爆炎を上げて炎熱を撒き散らす。
そのあまりの物量に耐え切れず、シールドは各所で破壊され、着弾した火球は混成軍の兵士を吹き飛ばした。
その被害に苦渋の表情を浮かべ、勇者レッドは直ぐに反撃に出た。
上空に向けて空間魔法を放ち、巨大な魔法陣を出現させた勇者レッドは、即座に魔剣キングマークスを上空に突き上げて魔力を注いだ。
魔剣の剣身が激しく光り、剣先から上空に巨大なサンダーボルトが放たれる。
そのサンダーボルトは巨大な魔法陣に吸い込まれるように消えていった。
勇者レッドが空間魔法の発動を続けると、魔法陣は回転しながら魔族の軍団の上空に移動し、その魔法陣から無数のサンダーボルトが地上に向けて放たれた。
バリバリバリバリバリッと雷鳴が轟き、大地が激しく揺れるほどだ。
激しい稲光で真っ白になった視界が晴れると、魔族の軍団の前方に居た約200体が黒焦げになって倒れていた。
だがそれでも魔族の軍団は怯まない。
雪崩のように駆け込んでくる魔族の大軍団を迎え撃つべく、勇者レッドは混成軍に総攻撃の号令を発したのだった。
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投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
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