落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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開祖の霊廟再訪2

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ミラ王国の北の山脈のふもとにある開祖の霊廟。

鬱蒼とした森の中の少し開けた場所にそれは建てられていた。
開祖の霊廟と言う重要施設でありながら寂れた場所にあるのは、その位置の特定に長い時間を要したからである。
更にその霊廟を護る墓守の役目を、開祖や王妃と縁のあるドライアドの上位種が自主的に担っており、一般人は安易に近付き難い様相となっている。

それでも墓荒らしが時折現われるので、少し離れた場所に軍の衛兵の詰め所が設置されていた。

リリス達はその詰め所にジーク率いる護衛の兵士達と共に転移した。
詰所に待機していた5名の兵士と合流し、総勢10名の兵士の指揮をジークが執る。

随分大勢の兵士ね。

リリスはこの時点で若干の違和感を感じていた。

そのリリスの肩にはメリンダ王女の使い魔の芋虫が生えている。
ミクルもリリスもレザーアーマーにガントレットを装着し、スリムなロングパンツにレザーブーツと言う軽装で臨んだ。
森の中ではこの方が動きやすいだろう。

詰所から霊廟まで約1kmの距離がある。

小径を歩いて森の中に進むのは、まるでダンジョンの探索の様だ。
実際に魔物もこの近辺には多く出現する。
大きな蜘蛛の魔物やジャイアントエイプも生息し、稀に大きな角を生やしたホーンベアすら現われるそうだ。

森の中を進み始めると、ミクルは亜空間収納から魔弓を取り出し、それに自分の魔力を注ぎ込んだ。
その途端にミクルの表情が引き締まる。
目つきが鋭くなり、狩人の気配がその身体を纏った。

その様子にジークもほうっ!と軽く驚きの声を上げた。

詰所に転移する前、魔法学院の学舎の前で集合した時、ジークはミクルを見て首を傾げたのだった。
噂に反しておとなしそうな少女だったからだ。
その雰囲気からは闘争心も感じられず、ほんわかとしていて口調も柔らかい。

本当にこの子が特待生なのか?

そう思っていたジークの先入観は、ミクルが弓を持った途端に切り替えられた。

ミクルは兵士達の先頭に回り込み、広範囲に探知を掛け、邪魔になる魔物の存在を探り始めた。
兵士達が気付いても居ない魔物を発見し、森の奥へと即座に連弾で矢を放つ。
その矢は時に直進し、時に弧を描き、確実に魔物を狩っていく。
あちらこちらの樹上から気配を隠していたジャイアントエイプが地面に叩きつけられた。
更に大きな毒蜘蛛が仰向けになって落ちてくる。

その手際の良さにジークも感心し、メリンダ王女も使い魔を通して感嘆の声を上げた。

「ミクルって弓を持つとあんなに人が変わるのね。」

芋虫の言葉にリリスはうんうんと頷いた。

「そうなのよ。天性の狩人って感じがするのよね。」

リリスのその表現は間違ってはいない。
ミクルの中身はエルフなのだから。

だが霊廟が近付いて来ると、ミクルが立ち止まり、困惑の表情を見せた。

何があったのかしら?

リリスの疑問はミクルの言葉で更に上塗りされる。
ミクルはジークに向かって問い掛けた。

「どうしてこんなに人が集まっているんですか? 霊廟の近くに20人ほどの人が居ますよ。それに近くの樹上にも数人の人がいるのは何故・・・」

ミクルの言葉にジークはウッと呻いた。

「そうか。こちらの動きを察知したようだな。」

ジークはそう言うと兵士達に戦闘準備を促した。
それと共にミクルに話し掛けた。

「ミクル君。あいつらは墓荒らしの盗賊団だ。樹上に居る斥候と弓手を片付けてくれ。」

ジークの依頼にミクルはハイと返事をし、探知を掛けながら矢を数本手にした。

この時点でリリスは強く違和感を感じた。

ジークの手筈が良過ぎる。
それにミクルの弓の技量を見たいと言いながら、魔法学院の一年生に対人戦闘を指示するなんて・・・。

「メル。これって最初から想定していた事なの?」

リリスの言葉に芋虫は答えなかった。

「お墓参りって事じゃなかったの?」

「もしかして墓荒らしの盗賊団の駆逐が最初からの目的だったの?」

詰問するリリスに芋虫はおずおずと口を開いた。

「まあ、そう言う事もあるわよ。」

「霊廟の周辺の様子が不穏だって事は、詰所の兵士達から聞いていたのよ。盗賊団の討伐に優秀な弓手を欲しいって言っていたから。」

芋虫の言葉にリリスは唖然とした。

「だからって、まだ13歳の少女にその任務を託すなんて・・・」

そう言いながらリリスは肩の芋虫をジッと睨んだ。
だが芋虫は平然とした雰囲気でその身体を揺らした。

「大丈夫よ。彼女ならね。既に戦闘態勢に入っているじゃないの。」

芋虫の言葉が終わらないうちに、ヒュンッ、ヒュンッ、と言う風切り音が複数聞こえ、離れた場所からガサガサッと物が落ちる音がした。

「麻痺毒を塗布した矢ですから、致命傷にはなっていません。捕縛して情報を吐かせる事も出来ますよ。」

ミクルの言葉にジークは嬉しそうに頷いた。
ミクルはリリスの方に顔を向けると、ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

その途端にリリスの脳裏に念話が届いた。

(リリス先輩、念話で会話して良いですか? 先輩の傍に王女様が居ますので。)

リリスはえっ!と軽く驚きの声を上げたが、その様子を芋虫に悟られないようにした。

(どうして私と念話で通信出来るの?)

(リリス先輩って念話で通信し易い体質のようですね。色々な存在との念話での通信履歴があると感じますので。)

まあ、確かにそれはそうなんだけど。

(それにエルフは森の中では念話で情報交換する事が多いんですよ。)

そうなのね。
確かに森の中だと念話で通じ合えば便利よね。

(それで、先ほど王女様と話されていた件ですけど・・・)

ミクルはそこまで念話を送って少し間を置いた。

(盗賊に矢を放つのは止むを得ない事ですよね。)

(それに、私は人族に向けて矢を放つ事には何の抵抗もありませんよ。)

ミクルの念話にリリスはウッと呻いた。

そうよね。
ミクルって人族じゃないのよね。
だからいざとなったら抵抗なく矢を放つって事ね。
でも、それでもミクルを対人戦闘に参加させたジーク先生には腹が立つわねえ。

そう思ってジークを睨みつけようと思ったリリスだが、既にジークは兵士達を引き連れて盗賊団の討伐に向かっていた。

森の奥でキンキンと言う剣と剣のぶつかり合う音がする。
ギャッと言う盗賊達の悲鳴が聞こえ、兵士達を鼓舞するジークの叫び声が聞こえてきた。
その中でミクルは盗賊達の死角に回り込み、兵士達の援護射撃に取り掛かっていた。
ミクルの放った矢を足に受けた盗賊はその動きが鈍り、即座に相対していた兵士に倒された。
ミクルはここでも麻痺毒を塗布した矢を使っているようだ。

(ミクル。塗布用の麻痺毒なんて持っていたの?)

リリスの念話にミクルは即座に返答した。

(はい。麻痺毒の原料は、シトのダンジョンでそれなりの分量を確保しておいたんです。)

(そんなものあったっけ?)

(ええ。リリス先輩も口にしたじゃないですか。)

あっ!
あの赤い実だ!

(ちょっと待ってよ。ミクル。あんたって毒と分かりながら私に食べさせたの?)

(だって、リリス先輩って毒耐性の他にも解毒出来るスキルを持っているじゃないですか。あの程度ならリリス先輩には効かないと分かっていましたからね。)

う~ん。
油断のならない子ね。

(私って毒に関する様々な検知が出来るんです。毒の有無や毒の強弱はもちろん、人や魔物の持つ毒耐性の強弱や毒に関するスキルの有無もある程度分かります。)

(そう言う面で言うとリリス先輩って不思議な方ですね。毒腺のようなものまで持っているように感じるんですけど・・・)

うっ!
そんな事まで検知しないでよ。

(ミクル。それは気のせいよ。)

(そうかなあ。)

緊張感のない念話がミクルから届くのは、盗賊団の討伐がほぼ終了したからなのだろう。

だが次の瞬間に事態は急変した。

大地がゴゴゴゴゴッと激しく振動し、森の木々が左右に揺さぶられた。
霊廟の方向から何かが近付いて来る。
邪悪な気配に満ちた存在がこちらに向かい、それに応じる様に木々の間から大蛇のような蔦が大量に伸び出し、兵士達の身体を攻撃し始めた。
剣で蔦を切り落としても、今度は地面からそれが伸び上がり、再び兵士達を攻撃する。
それに加えて10体以上のトレントが出現し、兵士達への攻撃を開始したのだ。

ミクルは矢に水魔法の魔力を纏わらせ、凍結の矢を放って見える範囲のトレントを駆逐した。
だがそれでもトレントが次々に出現してくる。
凍結して倒れたトレントの身体を踏みつけながら、次のトレントが集団で立ち向かってくるのだ。

ミクルはチッと舌打ちし、凍結の矢を連弾で放った。

バタバタと倒れるトレントの破片が舞い上がり、その冷気が周囲に立ち込める中、その奥の方から緑色の肌を持つ女性が近付いてきた。
ドライアドのレイだ。

「レイさん!」

リリスの呼び掛けに応じて顔を向けたレイの瞳は赤く光っていた。
その身体には邪悪な気配が纏わりつき、リリスの言葉など聞こえている様子も無い。

どうしたの?

首を傾げるリリスの思いとは裏腹に、レイは両手を前に突き出し、大きく魔力を放った。
その途端に地面から無数のアースランスが突き出した。

危ない!

リリスは闇の転移で咄嗟にその場から離れたが、アースランスによって負傷した兵士も多数出てしまった。
ミクルは反射的に大きな樹木の上に飛び上がって難を逃れた。
ジークは前方にシールドを張り、レイの魔力を封じようとしたが、それでもレイは攻撃を止めない。
放たれる魔力によって、再び多数のアースランスが突き出してくる。

リリスをそれを封じるために地面に魔を放ち、それを広く展開させて地面を覆い尽くした。
突き上げてくるアースランスは、濃厚な魔力を纏った闇に遮られ、地上に完全に突き出す事が出来ない。

その状況を維持しつつ、リリスはレイの状態を探った。

当初は闇落ちでもしたのかと思ったが、レイの脳に異質な魔力の波動を感じる。
操られているのか、あるいはテイムされているのか?

その疑念は攻撃を中断したレイの背後から出現した人物によって判明した。

盗賊団の頭目と思われるその人物は、ハハハハハと高笑いをしながらレイの前に出てきた。
その姿にミクルはえっ!と驚き、険しい目でその人物を見つめた。

レザーアーマーを纏ったその人物は・・・エルフの男性だったのだ。
緑掛かった肌の色に長い耳が印象的だが、その容貌は何処までも凶悪な雰囲気で満ちている。

そう言えば・・・・・エルフってトレントやドライアドもテイム出来るのよね。
こいつがレイさんをテイムしちゃったって事なの?

「少し手ごたえのある奴らが来たようだな。」

そう言うとそのエルフは問答無用で複数のファイヤーボールを放ってきた。
ジークはシールドを張ってそれを跳ね除けながら、負傷した兵士達の退避路を確保しようとしていた。
それを嘲笑うかのように頭目のエルフは魔弓を取り出し、複数の矢を連弾で斜め上空に放った。
放たれた矢は弧を描き、ジーク達を頭上から射抜こうとする。

リリスは闇のシールドを展開してそれを防ぎながら、数本のファイヤーボルトを頭目のエルフに向けて放った。
キーンと金切り音を立てて、数本の火矢が頭目のエルフを襲った。
だがその火矢は全て、頭目のエルフの展開した亜空間シールドで跳ね返されてしまった。

「あいつってそれなりの術者のようね。」

芋虫の言葉に頷きながら、リリスはミクルの方に目を向けた。

うん?

リリスの目に映ったミクルの様子にリリスは違和感を覚えた。

ミクルは樹上から頭目のエルフを見下ろしながら、こぶしを握って怒りに震えていたのだ。
顔が紅潮し、身体全体が仄かに光っている。
それと同時にミクルの身体全体から不思議なオーラが放たれ始めた。

ミクルは樹上からゆっくりと地面に降り立ち、頭目のエルフを睨みつけた。

ミクルの周囲の木々が飴細工のように変化し、ジーク達を容易に退避出来るように仕向けると、ミクルはゆっくりと前に歩き始めた。

(ミクル、大丈夫?)

心配するリリスの念話にも返答がない。

「この子供は何だ?」

頭目のエルフはそう呟きながらも、ミクルに向けて数本の矢を連弾で放った。
だがミクルの身体の周りに亜空間シールドが出現して、そのすべての矢を跳ね返した。

頭目のエルフはふんっ!と鼻息を吐き、今度はファイヤーボールを数発放った。
それなりに大きな威力のありそうな火球である。
だがそれらもミクルを取り巻く亜空間シールドによって跳ね返され、業火と爆炎が上がったものの、ミクルは平然としていた。

そのミクルの口が開いた。

「貴様は許さん。甘んじて制裁を受けよ。」

その声は普段のミクルとは全く違った低く太い声だった。

ミクル!
どうしたの?

まるで何かに憑りつかれたようなミクルの様子に、リリスも驚きを隠せない。

そのミクルの目が金色に光り始めた。
ミクルの周囲には激しい風が渦巻き、身体中から火花が飛び散っている。
ミクルが放つ激しい威圧によって大地がゴゴゴゴゴッと震えるとともに、ミクルの身体から強烈な妖気も放たれ始めた。

その威圧と妖気に頭目のエルフもウッと呻いて怯んだ様子だ。

その様子を見ながらミクルはゆっくりと矢を魔弓にセットし、頭目のエルフの方に向けたのだった。



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