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平行世界のリリス6
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賢者ドルネアの研究施設。
馬車を降り施設の中に入ってみると、リリスは強い既視感を感じた。
施設内部の様子が、元居た世界の魔法学院の敷地の地下にある研究施設と全く同じであったからだ。
この施設をそのまま地下に移したのね。
そう思いながら先に進むと、白衣を着た研究者らしき人物が近付いてきた。
「ドルネア様。紗季様をお連れしました。」
ミリアの言葉にリリスはえっ!と驚いた。
ドルネアと呼ばれた男性が、まだ40代半ばの壮年に見えたからである。
研究者と言うよりは冒険家のような雰囲気もある意気軒高そうな人物だ。
だがよく見るとリリスの記憶にある、老人の賢者ドルネアの面影もある。
ドルネア様ってこの時点ではまだ若かったのね。
なかなかのイケオジじゃないの。
そう思ってリリスは紗季と共にドルネアと挨拶を交わした。
ドルネアはピクシーの姿のリリスに若干の疑問を抱いたのだが、紗季を護り、正しい方向にガイドする使命があると説明すると、妙に納得してしまった。
おそらく土の亜神が遣わした存在だとでも思ったのだろう。
「サキ君。この場で試しに君の加護を発動させてくれないか?」
研究施設の中央のホールでドルネアは早速紗季に依頼をした。
紗季はそれを受けて魔力を循環させ始めた。
その様子を見ると、紗季は魔力の扱いにも徐々に慣れてきたように思える。
加護を意識して発動を念ずると、紗季の身体が仄かに光り始めた。
だがその渦中で紗季が突然戸惑いを見せ、おずおずと口を開いた。
「加護が・・・大地の守護者がドルネア様にメッセージを伝えたいそうです。」
突然の紗季の言葉にドルネアはウッと唸り、その表情が一瞬強張った。
「うん? どんなメッセージだ? 構わんぞ。そのメッセージを教えてくれ。」
ドルネアが怪訝そうにそう言うと、紗季の身体から白い光が頭の上に放たれ、そこに大きな半透明のパネルが現われた。
その大きなパネルには大陸の地図が浮かび上がり、六つの光点が点滅している。
「・・・・・地図だ。何を教えようとしているんだ?」
ドルネアは半透明のパネルをじっと見つめた。
「この光の点は・・・・・我々レミア族の住む城壁都市の位置だな。中央がこのガイアで、その西側がリロだ。東側に並んでいるのはルナ、エスラで間違いない。後の二点は南方の開拓地の小規模の都市だ。だが北方の点滅している場所は何だ?」
そう言いながらドルネアはしばらくの間思いを巡らせた。
「もしかしてこの点滅している点の示している場所は古都ウル=ガイアなのか?」
ドルネアの呟きにリリスが反応して口を開いた。
「それってレミア族の都市では無いのですか?」
リリスの言葉にドルネアは腕を組み、遠くを見つめるような仕草をした。
「うむ。ウル=ガイアはかつてはレミア族の都市であったが、魔族との熾烈な戦いで荒廃し、捨てられた都市なのだよ。」
「捨てられてから既に500年ほど経過し、今では遺跡のような状態だ。」
そうなのね。
そんな歴史がレミア族にあったのね。
リリスはそう思って改めて点滅している光点を見つめた。
この光点には何かの意図があるのだろうか?
リリスとドルネアの思いを察したように、紗季が突然口を開いた。
「この点滅している光点の場所に、土の神殿を建てて欲しいと加護が言っています。直ぐに神殿を建てるのが難しいのなら、神殿頭頂部の部分だけでも設置して、その内部に土魔法の魔力を込めた宝玉を置いて欲しいそうです。」
「七つの神殿が揃うと互いに反応を起こし、それによって土の亜神の共鳴が起きる。早急に準備して欲しいと加護が繰り返しています。」
紗季の言葉にドルネアは驚きの表情を見せた。
「亜神の共鳴とは何を意味しているのだ? 亜神の降臨が起きると言う事なのか? まさかと思うが亜神の共鳴が、大災厄を呼び込む切っ掛けになるのではないだろうな?」
ドルネアの困惑はリリスにも良く分かる。
だがそれほど急に大災厄が起きるはずはない。
「ドルネア様。大災厄は全ての亜神本体が降臨した後でなければ起きません。亜神本体の降臨を招くには、キーの役割をする7体の亜神本体のかけらが覚醒していなければならないはずですが・・・」
リリスの言葉にドルネアはう~んと唸った。
「どうしてそんな事を君は知っているのだ? その亜神本体のかけらすら、私は出会った事も無いぞ。」
「まあ、あの連中は気紛れで人前には容易に出て来ませんから。でも・・・・・私が察するにサキの持つ加護が言っている亜神の共鳴は多分、土魔法の亜神本体の何番目かのかけらを覚醒させる事だと思うのですが。」
「うむ、その可能性は高いな。早急に準備してみる価値はありそうだ。」
ドルネアはそう言うと研究施設の部下達に幾つかの指示を出し、警備員らしき屈強な男性二名と女性の職員を連れて紗季とリリスの元に戻ってきた。
「今から直ぐにウル=ガイアの遺跡に向かう。君達も一緒に来てくれ。サキ君には女性職員からレザーアーマーを用意させるので、直ぐに別室で支度をしてくれ。」
「ええっ! 今からですか?」
「ああ、早くしろとサキ君の加護が言うのだから、それに従うだけだよ。」
ドルネアはそう言うと亜空間収納からレザーアーマーを取り出した。
「ウル=ガイアの遺跡には調査発掘用のビーコンが埋められている。それ故に位置座標は分かっているから、私の空間魔法で一気に転移するつもりだ。さあ、全員準備に取り掛かってくれ。」
ドルネアの鼻息が荒い。
彼は即断即決の人物の様だ。
紗季はその女性の職員の案内で施設の奥の部屋に行き、そこでレザーアーマーやショートブーツなどを装着させてもらった。
ドルネアはその場でテキパキとレザーアーマーを装着し、警備員の男性達は簡易型のメタルアーマーやショートソードを亜空間収納から取り出して装着した。
全員の準備が整い集結したところで、ドルネアは空間魔法を発動させ、全員でウル=ガイアの遺跡へと転移した。
転移したリリスの目に映ったのは、荒涼とした半砂漠であった。
これが本当に都市だったの?
埃っぽい風が吹く荒野だ。
ところどころに建物の壁の破片のようなものが半分埋まった状態で見えるのは、失われた都市の名残なのだろう。
だが、とても大きな都市だったとは思えぬような荒廃ぶりだ。
その中をドルネアの指示で歩くと、体長2mほどのサソリが数匹こちらに向かってきた。
毒針を持つ尻尾を立て、躊躇いも無く襲ってくる。
気を付けて!
リリスがそう思った矢先、同行する警備員が即座にアースランスで駆除し、間断なく遺骸を火魔法で焼却してしまった。
その手際の良さには驚くばかりだ。
「この二人は元々軍の精鋭だったからね。魔物の駆除はお手の物なんだよ。」
ドルネアはそう言いながら、警備員の二人の労をねぎらった。
二人はドルネアの言葉に恐縮し、意外にも若干照れている。
見た目は屈強だが心は素朴でピュアなのだろう。
「さあ、向こうだよ。」
ドルネアの指示で10分ほど荒野を歩くと、前方に金色に輝くビーコンが見えてきた。
地上に突き出している部分は高さ1mほどの円錐体で、おそらく下部は地下に数m埋設されているのだろう。
その傍まで近づくと、紗季が急に立ち止まった。
「どうしたの?」
リリスの問い掛けに紗季は大丈夫だと答えながらも、何故か魔力を循環させ始めた。
「加護が急に発動してしまったのよ。それでびっくりしちゃって・・・」
紗季の様子を見てドルネアは問い掛けた。
「君の持つ加護が何か指示を出そうとしているのではないか?」
ドルネアの言葉に紗季はうんうんと無言で頷き、すっと手を前に出して指差した。
「あそこです。あそこに神殿の頭頂部を設置して欲しいと言っています。」
その言葉と共に紗季の手から魔力が流れ出し、前方の地面の一部分が1mほど盛り上がった。
盛り上がった部分は直径3mほどの円形で、まるで台座を造ったような状態である。
「・・・・・勝手に造っちゃったわ。」
どうやらこの台座のような造形は、紗季の意図した事では無さそうだ。
「随分ご丁寧だね、君の加護は。この上に造れって言う事だね。」
ドルネアはそう言うとその台座の傍に立ち、土魔法を発動させて神殿頭頂部を造り始めたのだが、それはリリスも驚くような造り方だった。
4枚の二等辺三角形の形状の土壁が盛り上がり、それぞれが空中に浮かんで四角錐を形成していく。
これは土魔法と空間魔法を連携させているのだろう。
その間に台座の表面部分も同時に大理石状に形成され、その上に四角錐の形状が降りてくる。
その外壁が綺麗に硬化され、その正面にはアーチ状の開口部が造られた。
数分で神殿頭頂部が完成し、その中にドルネアは土魔法の魔力を込めた宝玉を安置した。
「これで良いのかね?」
ドルネアの問い掛けに紗季は無言で頷いた。
だが次の瞬間、紗季の身体が光を放ち始め、それに同期するようにドルネアが設置した神殿頭頂部も大きく光を放ち始めた。
頭頂部の頂点から光が垂直に放たれ、上空に向かって光の筋が伸び上がっていく。
「何事が起きているのだ?」
ドルネアの言葉も紗季には聞こえていない様子だ。
目をつぶり、何事かを呟いている紗季。
リリスの耳には微かに亜神共鳴と聞こえた。
その異様さにリリスは紗季を精査しようとしたが、何かに阻まれて近付く事も出来ない。
何が起きているの?
リリスの見守る中、警備員の一人がドルネアに話し掛けた。
「ドルネア様。今研究施設から連絡が入りました。各都市の神殿が一斉に上空に光を放ち始めたそうです。」
「何! この場所と全ての神殿が同期していると言うのだな。」
ドルネアは驚愕の表情で紗季の姿を見つめた。
ドルネアやリリスが見守る中、紗季の身体が一際輝き始め、その頭上に大きな光の球が現われた。
それは紗季の身体の前方に移動し、徐々に姿を変えていく。
そこに現われたのは、屈強な大男だった。
身長は2mを越えていそうだ。
がっちりとした筋肉質の身体で、顔立ちはきりっとした目鼻が目に付く。
まるで力士を彷彿とさせるような風貌だ。
その郷愁を感じさせる顔立ちに、リリスは学生の頃に美術史の本で見た興福寺の阿修羅像を思い出した。
その男は紗季を見るとニヤッと笑い、声を掛けてきた。
「私を覚醒させたのは君か?」
その野太い声に若干たじろぎながら紗季はおずおずと口を開いた。
「ハイ。紗季と言います。」
「うむ。サキだな。私は土の亜神の本体の一部だ。名をアハズと言う。土の亜神本体の降臨の為の6番目のキーでもある。」
アハズの言葉にリリスは思わず口を開いた。
「6番目と言う事は、亜神本体の降臨は間近いのですね。7番目のキーが覚醒すると亜神本体が降臨されると聞きますが。」
リリスの言葉にアハズはうん?と首を傾げた。
「君は何者だ? 単なる使い魔や魔物や精霊では無さそうだ。実に複雑な魔力の波動を感じる。その魔力の気配には様々な亜神の気配や超越者の気配まで感じるぞ。」
アハズはそう言うとリリスをじっと見つめて精査した。
だが良く分からないと言った風体で再度首を傾げた。
「まあ、超越者に関わる者の使い魔だと思ってください。ここに居る紗季を適切な方向に導く為にここに居ますので。」
「う~む。要するに君の役割はサキの為の守護獣のようなものだな。」
アハズはそう言うと向きを変え、ドルネアの方に目を向けた。
「君はレミア族の賢者だな。私が覚醒したので亜神本体の降臨は間近い。おそらく50年ほどでその日が来るだろう。」
アハズの言葉にドルネアはう~んと唸った。
「私の名はドルネアです。その日が来るのは間違いないのですね。それならその為の準備をしないと・・・・」
「その通りだ。その為に、その事を教える為に私はここで覚醒したのだからな。ちなみに人族と交流出来るのは私が最後だ。」
「7番目のキーであるゲドが覚醒すれば、その後直ちに土の亜神本体が覚醒するのでな。」
アハズはそう言うと、ふっと一息ついた。
「まあ、50年ほどの時間が長いか短いかは君達の捉え方次第だよ。レミア族を種族として存続させる為の手立てと準備を始めるには、決して長くないと思うのだがね。」
「私からも幾つかアドバイスはするつもりだ。用件があればサキを介して私を呼べば良い。」
「・・・とは言っても私にも事情があるので、必ず呼び出せるとは限らないのだがね。」
アハズはそう言うと背を向け、手を振りながらそのままふっと消えてしまった。
「うっ! 消えてしまったぞ。まだ聞きたい事があったのだが・・・」
ドルネアがそう言ってうろたえていると、突然ドルネアの前方にアハズが再度現われた。
「ああ、言い忘れていたのだが・・・」
アハズはドルネアの目をじっと見つめて口を開いた。
「ここに居るサキをレミア族で大事に保護してあげるんだね。彼女は君等の種族の命運を握っていると言っても良い。」
アハズの言葉にドルネアは無言で強く頷いた。
その様子を見てアハズはニヤリと笑い、再度消えていった。
ドルネアはアハズの消えた方向から向きを変え、呆然と立っている紗季におずおずと話し掛けた。
その表情は実に深刻そうだ。
「サキ君。アハズを呼び出す方法はあるのか? いや、絶対にあるんだろうね?」
紗季はドルネアの念を押したような言葉にう~んと唸って首を傾げた。
「多分・・・亜神共鳴を発動させれば呼び出せると思うのですが、やってみないと分かりません。」
紗季の言葉にドルネアはう~んと唸って黙り込んだ。
だが気を取り直した様子でドルネアは、紗季に向かって静かに口を開いた。
「まあ、アハズが君を介して呼び出せと言っていたのだから、そう言う事なのかも知れないね。」
ドルネアはそう言うとため息をつき、アハズの消えた方向に再度目を向けた。
その背中にはレミア族の運命を背負っているかのような重圧が掛かっている。
それを感じ取ったリリスは、ドルネアの胸中を深く案じていたのだった。
馬車を降り施設の中に入ってみると、リリスは強い既視感を感じた。
施設内部の様子が、元居た世界の魔法学院の敷地の地下にある研究施設と全く同じであったからだ。
この施設をそのまま地下に移したのね。
そう思いながら先に進むと、白衣を着た研究者らしき人物が近付いてきた。
「ドルネア様。紗季様をお連れしました。」
ミリアの言葉にリリスはえっ!と驚いた。
ドルネアと呼ばれた男性が、まだ40代半ばの壮年に見えたからである。
研究者と言うよりは冒険家のような雰囲気もある意気軒高そうな人物だ。
だがよく見るとリリスの記憶にある、老人の賢者ドルネアの面影もある。
ドルネア様ってこの時点ではまだ若かったのね。
なかなかのイケオジじゃないの。
そう思ってリリスは紗季と共にドルネアと挨拶を交わした。
ドルネアはピクシーの姿のリリスに若干の疑問を抱いたのだが、紗季を護り、正しい方向にガイドする使命があると説明すると、妙に納得してしまった。
おそらく土の亜神が遣わした存在だとでも思ったのだろう。
「サキ君。この場で試しに君の加護を発動させてくれないか?」
研究施設の中央のホールでドルネアは早速紗季に依頼をした。
紗季はそれを受けて魔力を循環させ始めた。
その様子を見ると、紗季は魔力の扱いにも徐々に慣れてきたように思える。
加護を意識して発動を念ずると、紗季の身体が仄かに光り始めた。
だがその渦中で紗季が突然戸惑いを見せ、おずおずと口を開いた。
「加護が・・・大地の守護者がドルネア様にメッセージを伝えたいそうです。」
突然の紗季の言葉にドルネアはウッと唸り、その表情が一瞬強張った。
「うん? どんなメッセージだ? 構わんぞ。そのメッセージを教えてくれ。」
ドルネアが怪訝そうにそう言うと、紗季の身体から白い光が頭の上に放たれ、そこに大きな半透明のパネルが現われた。
その大きなパネルには大陸の地図が浮かび上がり、六つの光点が点滅している。
「・・・・・地図だ。何を教えようとしているんだ?」
ドルネアは半透明のパネルをじっと見つめた。
「この光の点は・・・・・我々レミア族の住む城壁都市の位置だな。中央がこのガイアで、その西側がリロだ。東側に並んでいるのはルナ、エスラで間違いない。後の二点は南方の開拓地の小規模の都市だ。だが北方の点滅している場所は何だ?」
そう言いながらドルネアはしばらくの間思いを巡らせた。
「もしかしてこの点滅している点の示している場所は古都ウル=ガイアなのか?」
ドルネアの呟きにリリスが反応して口を開いた。
「それってレミア族の都市では無いのですか?」
リリスの言葉にドルネアは腕を組み、遠くを見つめるような仕草をした。
「うむ。ウル=ガイアはかつてはレミア族の都市であったが、魔族との熾烈な戦いで荒廃し、捨てられた都市なのだよ。」
「捨てられてから既に500年ほど経過し、今では遺跡のような状態だ。」
そうなのね。
そんな歴史がレミア族にあったのね。
リリスはそう思って改めて点滅している光点を見つめた。
この光点には何かの意図があるのだろうか?
リリスとドルネアの思いを察したように、紗季が突然口を開いた。
「この点滅している光点の場所に、土の神殿を建てて欲しいと加護が言っています。直ぐに神殿を建てるのが難しいのなら、神殿頭頂部の部分だけでも設置して、その内部に土魔法の魔力を込めた宝玉を置いて欲しいそうです。」
「七つの神殿が揃うと互いに反応を起こし、それによって土の亜神の共鳴が起きる。早急に準備して欲しいと加護が繰り返しています。」
紗季の言葉にドルネアは驚きの表情を見せた。
「亜神の共鳴とは何を意味しているのだ? 亜神の降臨が起きると言う事なのか? まさかと思うが亜神の共鳴が、大災厄を呼び込む切っ掛けになるのではないだろうな?」
ドルネアの困惑はリリスにも良く分かる。
だがそれほど急に大災厄が起きるはずはない。
「ドルネア様。大災厄は全ての亜神本体が降臨した後でなければ起きません。亜神本体の降臨を招くには、キーの役割をする7体の亜神本体のかけらが覚醒していなければならないはずですが・・・」
リリスの言葉にドルネアはう~んと唸った。
「どうしてそんな事を君は知っているのだ? その亜神本体のかけらすら、私は出会った事も無いぞ。」
「まあ、あの連中は気紛れで人前には容易に出て来ませんから。でも・・・・・私が察するにサキの持つ加護が言っている亜神の共鳴は多分、土魔法の亜神本体の何番目かのかけらを覚醒させる事だと思うのですが。」
「うむ、その可能性は高いな。早急に準備してみる価値はありそうだ。」
ドルネアはそう言うと研究施設の部下達に幾つかの指示を出し、警備員らしき屈強な男性二名と女性の職員を連れて紗季とリリスの元に戻ってきた。
「今から直ぐにウル=ガイアの遺跡に向かう。君達も一緒に来てくれ。サキ君には女性職員からレザーアーマーを用意させるので、直ぐに別室で支度をしてくれ。」
「ええっ! 今からですか?」
「ああ、早くしろとサキ君の加護が言うのだから、それに従うだけだよ。」
ドルネアはそう言うと亜空間収納からレザーアーマーを取り出した。
「ウル=ガイアの遺跡には調査発掘用のビーコンが埋められている。それ故に位置座標は分かっているから、私の空間魔法で一気に転移するつもりだ。さあ、全員準備に取り掛かってくれ。」
ドルネアの鼻息が荒い。
彼は即断即決の人物の様だ。
紗季はその女性の職員の案内で施設の奥の部屋に行き、そこでレザーアーマーやショートブーツなどを装着させてもらった。
ドルネアはその場でテキパキとレザーアーマーを装着し、警備員の男性達は簡易型のメタルアーマーやショートソードを亜空間収納から取り出して装着した。
全員の準備が整い集結したところで、ドルネアは空間魔法を発動させ、全員でウル=ガイアの遺跡へと転移した。
転移したリリスの目に映ったのは、荒涼とした半砂漠であった。
これが本当に都市だったの?
埃っぽい風が吹く荒野だ。
ところどころに建物の壁の破片のようなものが半分埋まった状態で見えるのは、失われた都市の名残なのだろう。
だが、とても大きな都市だったとは思えぬような荒廃ぶりだ。
その中をドルネアの指示で歩くと、体長2mほどのサソリが数匹こちらに向かってきた。
毒針を持つ尻尾を立て、躊躇いも無く襲ってくる。
気を付けて!
リリスがそう思った矢先、同行する警備員が即座にアースランスで駆除し、間断なく遺骸を火魔法で焼却してしまった。
その手際の良さには驚くばかりだ。
「この二人は元々軍の精鋭だったからね。魔物の駆除はお手の物なんだよ。」
ドルネアはそう言いながら、警備員の二人の労をねぎらった。
二人はドルネアの言葉に恐縮し、意外にも若干照れている。
見た目は屈強だが心は素朴でピュアなのだろう。
「さあ、向こうだよ。」
ドルネアの指示で10分ほど荒野を歩くと、前方に金色に輝くビーコンが見えてきた。
地上に突き出している部分は高さ1mほどの円錐体で、おそらく下部は地下に数m埋設されているのだろう。
その傍まで近づくと、紗季が急に立ち止まった。
「どうしたの?」
リリスの問い掛けに紗季は大丈夫だと答えながらも、何故か魔力を循環させ始めた。
「加護が急に発動してしまったのよ。それでびっくりしちゃって・・・」
紗季の様子を見てドルネアは問い掛けた。
「君の持つ加護が何か指示を出そうとしているのではないか?」
ドルネアの言葉に紗季はうんうんと無言で頷き、すっと手を前に出して指差した。
「あそこです。あそこに神殿の頭頂部を設置して欲しいと言っています。」
その言葉と共に紗季の手から魔力が流れ出し、前方の地面の一部分が1mほど盛り上がった。
盛り上がった部分は直径3mほどの円形で、まるで台座を造ったような状態である。
「・・・・・勝手に造っちゃったわ。」
どうやらこの台座のような造形は、紗季の意図した事では無さそうだ。
「随分ご丁寧だね、君の加護は。この上に造れって言う事だね。」
ドルネアはそう言うとその台座の傍に立ち、土魔法を発動させて神殿頭頂部を造り始めたのだが、それはリリスも驚くような造り方だった。
4枚の二等辺三角形の形状の土壁が盛り上がり、それぞれが空中に浮かんで四角錐を形成していく。
これは土魔法と空間魔法を連携させているのだろう。
その間に台座の表面部分も同時に大理石状に形成され、その上に四角錐の形状が降りてくる。
その外壁が綺麗に硬化され、その正面にはアーチ状の開口部が造られた。
数分で神殿頭頂部が完成し、その中にドルネアは土魔法の魔力を込めた宝玉を安置した。
「これで良いのかね?」
ドルネアの問い掛けに紗季は無言で頷いた。
だが次の瞬間、紗季の身体が光を放ち始め、それに同期するようにドルネアが設置した神殿頭頂部も大きく光を放ち始めた。
頭頂部の頂点から光が垂直に放たれ、上空に向かって光の筋が伸び上がっていく。
「何事が起きているのだ?」
ドルネアの言葉も紗季には聞こえていない様子だ。
目をつぶり、何事かを呟いている紗季。
リリスの耳には微かに亜神共鳴と聞こえた。
その異様さにリリスは紗季を精査しようとしたが、何かに阻まれて近付く事も出来ない。
何が起きているの?
リリスの見守る中、警備員の一人がドルネアに話し掛けた。
「ドルネア様。今研究施設から連絡が入りました。各都市の神殿が一斉に上空に光を放ち始めたそうです。」
「何! この場所と全ての神殿が同期していると言うのだな。」
ドルネアは驚愕の表情で紗季の姿を見つめた。
ドルネアやリリスが見守る中、紗季の身体が一際輝き始め、その頭上に大きな光の球が現われた。
それは紗季の身体の前方に移動し、徐々に姿を変えていく。
そこに現われたのは、屈強な大男だった。
身長は2mを越えていそうだ。
がっちりとした筋肉質の身体で、顔立ちはきりっとした目鼻が目に付く。
まるで力士を彷彿とさせるような風貌だ。
その郷愁を感じさせる顔立ちに、リリスは学生の頃に美術史の本で見た興福寺の阿修羅像を思い出した。
その男は紗季を見るとニヤッと笑い、声を掛けてきた。
「私を覚醒させたのは君か?」
その野太い声に若干たじろぎながら紗季はおずおずと口を開いた。
「ハイ。紗季と言います。」
「うむ。サキだな。私は土の亜神の本体の一部だ。名をアハズと言う。土の亜神本体の降臨の為の6番目のキーでもある。」
アハズの言葉にリリスは思わず口を開いた。
「6番目と言う事は、亜神本体の降臨は間近いのですね。7番目のキーが覚醒すると亜神本体が降臨されると聞きますが。」
リリスの言葉にアハズはうん?と首を傾げた。
「君は何者だ? 単なる使い魔や魔物や精霊では無さそうだ。実に複雑な魔力の波動を感じる。その魔力の気配には様々な亜神の気配や超越者の気配まで感じるぞ。」
アハズはそう言うとリリスをじっと見つめて精査した。
だが良く分からないと言った風体で再度首を傾げた。
「まあ、超越者に関わる者の使い魔だと思ってください。ここに居る紗季を適切な方向に導く為にここに居ますので。」
「う~む。要するに君の役割はサキの為の守護獣のようなものだな。」
アハズはそう言うと向きを変え、ドルネアの方に目を向けた。
「君はレミア族の賢者だな。私が覚醒したので亜神本体の降臨は間近い。おそらく50年ほどでその日が来るだろう。」
アハズの言葉にドルネアはう~んと唸った。
「私の名はドルネアです。その日が来るのは間違いないのですね。それならその為の準備をしないと・・・・」
「その通りだ。その為に、その事を教える為に私はここで覚醒したのだからな。ちなみに人族と交流出来るのは私が最後だ。」
「7番目のキーであるゲドが覚醒すれば、その後直ちに土の亜神本体が覚醒するのでな。」
アハズはそう言うと、ふっと一息ついた。
「まあ、50年ほどの時間が長いか短いかは君達の捉え方次第だよ。レミア族を種族として存続させる為の手立てと準備を始めるには、決して長くないと思うのだがね。」
「私からも幾つかアドバイスはするつもりだ。用件があればサキを介して私を呼べば良い。」
「・・・とは言っても私にも事情があるので、必ず呼び出せるとは限らないのだがね。」
アハズはそう言うと背を向け、手を振りながらそのままふっと消えてしまった。
「うっ! 消えてしまったぞ。まだ聞きたい事があったのだが・・・」
ドルネアがそう言ってうろたえていると、突然ドルネアの前方にアハズが再度現われた。
「ああ、言い忘れていたのだが・・・」
アハズはドルネアの目をじっと見つめて口を開いた。
「ここに居るサキをレミア族で大事に保護してあげるんだね。彼女は君等の種族の命運を握っていると言っても良い。」
アハズの言葉にドルネアは無言で強く頷いた。
その様子を見てアハズはニヤリと笑い、再度消えていった。
ドルネアはアハズの消えた方向から向きを変え、呆然と立っている紗季におずおずと話し掛けた。
その表情は実に深刻そうだ。
「サキ君。アハズを呼び出す方法はあるのか? いや、絶対にあるんだろうね?」
紗季はドルネアの念を押したような言葉にう~んと唸って首を傾げた。
「多分・・・亜神共鳴を発動させれば呼び出せると思うのですが、やってみないと分かりません。」
紗季の言葉にドルネアはう~んと唸って黙り込んだ。
だが気を取り直した様子でドルネアは、紗季に向かって静かに口を開いた。
「まあ、アハズが君を介して呼び出せと言っていたのだから、そう言う事なのかも知れないね。」
ドルネアはそう言うとため息をつき、アハズの消えた方向に再度目を向けた。
その背中にはレミア族の運命を背負っているかのような重圧が掛かっている。
それを感じ取ったリリスは、ドルネアの胸中を深く案じていたのだった。
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前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
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【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
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