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平行世界のリリス7
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城壁都市ガイアに戻ったドルネアと紗季とリリス。
その後のドルネアを中心とする動きは目まぐるしいものだった。
後50年ほどで訪れるであろう大災厄に向けて、ドルネアは元老院を動かし、レミア族存続の為の様々な準備を始めた。
それと同時に紗季の扱いもまた変わった。
子供の居ない貴族の養女として迎えられ、貴族としての資格を得た紗季は、レミア族から様々な面で優遇されるようになった。
更にドルネアの研究施設で働く事にもなった紗季は、それなりに充実した生活を送り始めたのだ。
この時点でリリスの脳裏にエイヴィスからの最終的な指示が浮かび上がった。
『リリス。君の関与はここまでで充分だ。これ以上干渉すると予測不能な時空の歪を産み出しかねない。撤収だ。』
その言葉と共にエイヴィスの元に呼び戻されたリリスは、後ろ髪を引かれるような気持ちになっていた。
「エイヴィス様。紗季は私が居なくても大丈夫でしょうか?」
リリスの言葉にエイヴィスはケラケラと笑った。
「何を案じておるのだ? 紗季はレミア族の中で充分に独り立ちしているじゃないか。」
「でも私が急に居なくなったら、寂しいだろうなと思って・・・・・」
リリスはそう言いながら視線を落とした。
「多少の寂しさはあるかも知れん。だが紗季はお前が自分と同一人物だとは知らないはずだ。ゲーム序盤のチュートリアルが終わった程度にしか思っておらんよ。」
そうかなあ?
リリスは返す言葉も無く黙ってしまった。
だがふと疑問に思った事をエイヴィスに尋ねてみた。
「エイヴィス様。今私が関与してきたのは平行世界の事ですよね。でも本流の世界では私は、レミア族の滅亡した後の世界に転移しています。平行世界での紗季の存在は本流の世界ではどうなるのですか?」
「うむ。それは難しく考える事ではない。単に紗季の代わりとなる人物がレミア族の中に居たと言う事だ。」
「そうなんですね。分かりました。でもどう足掻いても結局レミア族は滅んでしまったんだと思うと、少し寂しい気持ちになっちゃいますね。」
リリスの言葉にエイヴィスはうんうんと頷いた。
「その気持ちは良く分かる。超越者としての視点から長い歴史を俯瞰して見てみると、そんな事を考えてしまう事も良くあるのだ。だがレミア族は果たして不幸な種族だったのかと考えると、必ずしもそうではないと思うのだよ。」
そう言いながらエイヴィスはパチンと指を鳴らした。
その途端にリリスの目の前に半透明のパネルが浮かび上がった。
「良い機会だから大災厄前後のレミア族について少し教えてあげよう。」
「賢者ドルネアが中心となって、レミア族は着々と大災厄に向けての準備を整えた。彼等は大多数が地下に大規模のシェルターを建設し、そこに退避するように準備をしていたのだ。更にドルネアを含む総数5000名の選抜された者は、長期間を掛けてある異世界に転移し、大災厄を回避しようとした。転移先で大災厄の期間が終焉した事を確認した際に、元の世界に戻る為のセンターとなるのが、君が紛れ込みユリアスが現在管理しているあの魔法学院の地下の研究施設なのだよ。」
そうだったのね。
そんな事までしていたんだ。
「でも総数5000名ものレミア族の転移って簡単じゃないですよね。時空の歪も半端じゃなさそうだし、決まったところに転移するのって・・・転移門でも設置したんですか?」
「その疑問はもっともだ。ドルネアがそれだけ優秀かつ緻密だったと言う事だね。彼は10年掛けて転移を終了させている。その間に生じる時空に歪を回避する手立てもしていたようだ。だがもちろんそれは簡単な事ではない。だが不思議な事に転移の際に生じる誤差がほとんど無いのだ。」
「儂は長年その事を疑問に思っていた。だがある人物との出会いでその謎が解けた。その人物は君も知っている人物なのだがね。」
含みを持たせたものの言い方が気になる。
「それって誰ですか?」
リリスの言葉にエイヴィスはニヤリと笑った。
「アルバだよ。」
「えっ! アルバ様・・・・・と言う事はもしかしてその転移先って・・・・・」
リリスの表情を嘲笑うようにエイヴィスは笑みを浮かべ、半透明のパネルに映像を映し出した。
それは紛れも無く地球の映像だった。
「そんな事って・・・・・」
絶句するリリス。
その様子を見ながらエイヴィスは話を続けた。
「アルバも詳しい事は話さなかった。ただその当時、レミア族を招き入れようとしていた意図はあったと言明している。」
「でもどうして私が元居た世界なんですか? 魔法も魔力も無い世界ですよ。」
「そうだね。君が元々居た世界は200万年ほど前に、魔法の存在しない世界に転換されてしまった。だが魔素は大深度の地下に鉱石化した状態で、ある一定量存在していたのだよ。ドルネアはそれに気付き、それを採掘して活用する方法を見出した。」
そう言うとエイヴィスはパネルの映像を切り替えた。
そこに映っていたのは白銀に輝く大きなピラミッド群だった。
「それってピラミッドですよね? 完成当初はこんな風に表面を化粧板で葺いてあったと学びましたけど・・・」
エイヴィスはリリスの言葉にうんうんと頷いた。
「君がどのように学んできたのかは知らないが、これは紛れも無く魔素の貯蔵庫だよ。これをこの星の至る所に建設し、必要に応じて土魔法の魔力などに変換し活用していたようだ。」
「君の居た当時の文明では化石燃料を採掘して、あらゆるものを作ったり、燃料として活用したりしていたのだろう? それと同じようなものだよ。」
エイヴィスの説明にリリスは困惑した。
魔素が地球に存在していたなんて・・・。
でも・・・・・土魔法でも使わない限り、太古から残されているピラミッドや他の巨石構造物の建設なんて出来ないわよね。
「そうすると今でも地球の地下深くに魔素が存在しているのですか?」
エイヴィスはリリスの言葉を聞き、首を横に振った。
「残念ながらもう存在しない。レミア族が掘り尽くしたのだよ。それと共に彼等の文化も次第に衰退していった。最終的には現地の他種族と同化し、歴史の中に消えていったんだ。」
「そうなんですね。結局は滅んでしまったと言う事なんですね。」
そう言って若干落ち込むリリスを、エイヴィスは慈しむ様に見つめた。
「長い歴史の中では良くある事だ。ちなみにレミア族は鉱石化した魔素を掘り尽くすのに8000年掛かった。ある種族が滅亡の危機を乗り越え、その固有の文化を維持して更に8000年も存続出来たんだ。それでもう十分ではないのか?」
う~ん。
長い目で見ればそれでも幸せだったのか知らねえ。
リリスはそう思いながらもレミア族のその後が気になった。
「レミア族の痕跡って地球には残っているのでしょうか?」
リリスの問い掛けにエイヴィスはうんうんと頷いた。
「ああ、それなりに残っておるぞ。転移先の星で世界中に魔素の保存庫を造ったようだからな。表面の化粧板が剥がれた状態で各地に残っているはずだ。ちなみにその化粧板は魔素の自然分解を抑える為の素材だったのだがね。」
それって現代人が目にするピラミッドの事ね。
「鉱石化した魔素の採掘が途絶え、レミア族としての文化が廃れていった後も、豊かな資材や食材を得て彼等は慎ましく暮らしていたそうだ。」
「アルバから聞いた話では鉱石化した魔素の枯渇後、気候の温暖なこの島に大半のレミア族が棲み付いていたそうだ。自然が豊かで暮らし易かったのだろうな。」
そう言ってエイヴィスがパネルに映し出したのは日本列島だった。
えっ!
これって・・・もしかしてレミア族って縄文人だったの?
でもそう考えれば、黒目黒髪で若干浅黒い肌のレミア族の風貌に、あまり違和感を感じないのも腑に落ちるわね。
色々な事が目の前で展開され、リリスは夢を見せられているような気分になっていた。
そのリリスの様子を見ながら、エイヴィスはゆっくりと呟いた。
「レミア族を招き入れたのは、おそらく元々存在していた黎明期の文明に刺激を与えたかったからなのだろう。だがそれによってアルバの居る世界と儂等の世界との間で、転移現象が起きてしまう確率が高くなった事も事実だ。その影響でこの数万年、アルバの居る世界からの転移者が途絶える事は無かった。そして最後に転移してきたのが君だと言う事だ。」
う~ん。
そう言われるとまるでラスボスみたいね。
「まあ、君が転移してしまったのは大きな誤算だったようだ。向こうの世界の管理者もアルバも、君が転移してしまって大いに焦っていたようだからな。」
「でもそれは解決済みのはずですけど・・・」
「君の遺伝子の奥底に託されていた情報に関してはね。でも今の君は人族のレベルを超えて違った存在になりつつある。それ故に何時でもこちらに戻っておいでと彼等は言っているよ。」
今更そんな事を言われてもねえ。
「私は私、リリスですよ。」
「君にとってそれが良いなら、それが正解だ。」
エイヴィスはそう言うと半透明のパネルを消去した。
「さあ、元の場所に戻してあげよう。君の先祖のユリアスが管理している、レミア族の遺した研究施設だったな。」
エイヴィスの言葉にリリスはふと、ユリアス達の事を思い出した。
「そう言えばユリアス様やリクード様達は無事なんですか? 私のスキルの暴走に巻き込まれたのでは・・・・・」
「ああ、それなら大丈夫だ。リクード殿が全員を救出したからね。彼は実に特異な賢者だよ。掴みどころが無いと言うか、儂でも良く分からん部分がある。獣人の稀有な種族の出身と言う事が、彼の特異性の大きな要素なのだろうがねえ。」
まあ、どの口で言ってるのかしら。
それはエイヴィス様も同じじゃないの。
それでも賢者様達が無事ならそれで良いんだけどね。
エイヴィスの転移魔法によってリリスはレミア族の研究施設に送り届けられた。
そこではユリアス達が待機しており、リリスの帰還を心から喜んでくれた。
リリスに関する事の次第はエイヴィスから一部始終を説明されていたようで、賢者達は一様に『お疲れ様』とリリスの労をねぎらってくれたのだった。
その数日後。
リリスは午前中の授業を終えると、いつも通り図書館に出向き、司書としての仕事を務めていた。
この日はケリー女史が休みだったので、一人で図書館の受付に待機し、図書館を訪れる生徒達の図書検索などの手助けをしていた。先日までの平行世界での出来事がかなり大変だったので、この静かな時間と空間がありがたい。
リリスはそう思いながら淡々と仕事をこなしていた。
しばらくしてリリスの目の前に後輩のリンディが現われた。彼女はリリスの顔を見ると笑顔を向け、リリスの隣の席にちょこんと座った。
「リリス先輩。お疲れさまでした。」
「えっ? 何が?」
首を傾げるリリスにリンディは小声で呟いた。
「エイヴィス様から聞きましたよ。平行世界で六面法被の活躍をされていたそうで。」
「リンディ。あんた、エイヴィス様から何を聞かされたのよ。私はエイヴィス様の画策に巻き込まれただけだからね。」
若干迷惑そうに答えたリリスの表情を見て、リンディはふふふと失笑した。
「エイヴィス様って、他人の事情や状況をほとんど気にしない方ですからね。それでも基本的には安全策を執られる傾向にありますけど。」
「そうかなあ? 私にはそんな風には思えないわ。これって私の誤解なの?」
「まあ、先輩の若干の思い込みじゃないですか? 私は獣人なので獣人同士で通じ合える世界は在りますけど、その範囲外でも人格的な方だと思いますよ。」
「それはエイヴィス様がリンディの師匠だからでしょ?」
「いえいえ。そう言うわけでもありませんよ。師匠だからと言って、ひいき目に見ている事は無いですから。」
不毛なやり取りだ。
リリスはそう思った。
だがそれでも、そんな他愛もない事で平穏な時間を過ごせるのも良い。
それがリリスの本心でもある。
リンディもそんなリリスの思いを感じたようで、終始にこやかに話していた。
その平穏な時間を排除するように、突然リリスのカバンの中からピンピンと警告音が鳴り始めた。
マキとの連絡用の魔道具だ。
だがそれを取り出そうとした矢先、魔道具は警告音を停止した。
変に思ってこちらから連絡しようとしても、マキが応じる気配が無い。
何事だろうか?
おかしいなと思い何度か試してみたが、マキとは一向に繋がらない。
不安を感じて席から立ち上がったその時、目の前のデスクの上に突然小人が現われた。
小人は肩に単眼の芋虫を生やしている。
フィリップ王子とメリンダ王女の使い魔だ。
「メル、どうしたの? こんなところに現われるなんて。」
「どうしたも無いわよ。大変なんだから。」
そう言って芋虫はふうっと大きく溜息をついた。
「マキさんが姿を消したのよ! 神殿で他の祭司達が見ている前で、闇に吸い込まれるように消えたのよ!」
「えっ! マキちゃんが・・・・・」
リリスはメリンダ王女の言葉を聞き、絶句してその場に立ち尽くしていたのだった。
その後のドルネアを中心とする動きは目まぐるしいものだった。
後50年ほどで訪れるであろう大災厄に向けて、ドルネアは元老院を動かし、レミア族存続の為の様々な準備を始めた。
それと同時に紗季の扱いもまた変わった。
子供の居ない貴族の養女として迎えられ、貴族としての資格を得た紗季は、レミア族から様々な面で優遇されるようになった。
更にドルネアの研究施設で働く事にもなった紗季は、それなりに充実した生活を送り始めたのだ。
この時点でリリスの脳裏にエイヴィスからの最終的な指示が浮かび上がった。
『リリス。君の関与はここまでで充分だ。これ以上干渉すると予測不能な時空の歪を産み出しかねない。撤収だ。』
その言葉と共にエイヴィスの元に呼び戻されたリリスは、後ろ髪を引かれるような気持ちになっていた。
「エイヴィス様。紗季は私が居なくても大丈夫でしょうか?」
リリスの言葉にエイヴィスはケラケラと笑った。
「何を案じておるのだ? 紗季はレミア族の中で充分に独り立ちしているじゃないか。」
「でも私が急に居なくなったら、寂しいだろうなと思って・・・・・」
リリスはそう言いながら視線を落とした。
「多少の寂しさはあるかも知れん。だが紗季はお前が自分と同一人物だとは知らないはずだ。ゲーム序盤のチュートリアルが終わった程度にしか思っておらんよ。」
そうかなあ?
リリスは返す言葉も無く黙ってしまった。
だがふと疑問に思った事をエイヴィスに尋ねてみた。
「エイヴィス様。今私が関与してきたのは平行世界の事ですよね。でも本流の世界では私は、レミア族の滅亡した後の世界に転移しています。平行世界での紗季の存在は本流の世界ではどうなるのですか?」
「うむ。それは難しく考える事ではない。単に紗季の代わりとなる人物がレミア族の中に居たと言う事だ。」
「そうなんですね。分かりました。でもどう足掻いても結局レミア族は滅んでしまったんだと思うと、少し寂しい気持ちになっちゃいますね。」
リリスの言葉にエイヴィスはうんうんと頷いた。
「その気持ちは良く分かる。超越者としての視点から長い歴史を俯瞰して見てみると、そんな事を考えてしまう事も良くあるのだ。だがレミア族は果たして不幸な種族だったのかと考えると、必ずしもそうではないと思うのだよ。」
そう言いながらエイヴィスはパチンと指を鳴らした。
その途端にリリスの目の前に半透明のパネルが浮かび上がった。
「良い機会だから大災厄前後のレミア族について少し教えてあげよう。」
「賢者ドルネアが中心となって、レミア族は着々と大災厄に向けての準備を整えた。彼等は大多数が地下に大規模のシェルターを建設し、そこに退避するように準備をしていたのだ。更にドルネアを含む総数5000名の選抜された者は、長期間を掛けてある異世界に転移し、大災厄を回避しようとした。転移先で大災厄の期間が終焉した事を確認した際に、元の世界に戻る為のセンターとなるのが、君が紛れ込みユリアスが現在管理しているあの魔法学院の地下の研究施設なのだよ。」
そうだったのね。
そんな事までしていたんだ。
「でも総数5000名ものレミア族の転移って簡単じゃないですよね。時空の歪も半端じゃなさそうだし、決まったところに転移するのって・・・転移門でも設置したんですか?」
「その疑問はもっともだ。ドルネアがそれだけ優秀かつ緻密だったと言う事だね。彼は10年掛けて転移を終了させている。その間に生じる時空に歪を回避する手立てもしていたようだ。だがもちろんそれは簡単な事ではない。だが不思議な事に転移の際に生じる誤差がほとんど無いのだ。」
「儂は長年その事を疑問に思っていた。だがある人物との出会いでその謎が解けた。その人物は君も知っている人物なのだがね。」
含みを持たせたものの言い方が気になる。
「それって誰ですか?」
リリスの言葉にエイヴィスはニヤリと笑った。
「アルバだよ。」
「えっ! アルバ様・・・・・と言う事はもしかしてその転移先って・・・・・」
リリスの表情を嘲笑うようにエイヴィスは笑みを浮かべ、半透明のパネルに映像を映し出した。
それは紛れも無く地球の映像だった。
「そんな事って・・・・・」
絶句するリリス。
その様子を見ながらエイヴィスは話を続けた。
「アルバも詳しい事は話さなかった。ただその当時、レミア族を招き入れようとしていた意図はあったと言明している。」
「でもどうして私が元居た世界なんですか? 魔法も魔力も無い世界ですよ。」
「そうだね。君が元々居た世界は200万年ほど前に、魔法の存在しない世界に転換されてしまった。だが魔素は大深度の地下に鉱石化した状態で、ある一定量存在していたのだよ。ドルネアはそれに気付き、それを採掘して活用する方法を見出した。」
そう言うとエイヴィスはパネルの映像を切り替えた。
そこに映っていたのは白銀に輝く大きなピラミッド群だった。
「それってピラミッドですよね? 完成当初はこんな風に表面を化粧板で葺いてあったと学びましたけど・・・」
エイヴィスはリリスの言葉にうんうんと頷いた。
「君がどのように学んできたのかは知らないが、これは紛れも無く魔素の貯蔵庫だよ。これをこの星の至る所に建設し、必要に応じて土魔法の魔力などに変換し活用していたようだ。」
「君の居た当時の文明では化石燃料を採掘して、あらゆるものを作ったり、燃料として活用したりしていたのだろう? それと同じようなものだよ。」
エイヴィスの説明にリリスは困惑した。
魔素が地球に存在していたなんて・・・。
でも・・・・・土魔法でも使わない限り、太古から残されているピラミッドや他の巨石構造物の建設なんて出来ないわよね。
「そうすると今でも地球の地下深くに魔素が存在しているのですか?」
エイヴィスはリリスの言葉を聞き、首を横に振った。
「残念ながらもう存在しない。レミア族が掘り尽くしたのだよ。それと共に彼等の文化も次第に衰退していった。最終的には現地の他種族と同化し、歴史の中に消えていったんだ。」
「そうなんですね。結局は滅んでしまったと言う事なんですね。」
そう言って若干落ち込むリリスを、エイヴィスは慈しむ様に見つめた。
「長い歴史の中では良くある事だ。ちなみにレミア族は鉱石化した魔素を掘り尽くすのに8000年掛かった。ある種族が滅亡の危機を乗り越え、その固有の文化を維持して更に8000年も存続出来たんだ。それでもう十分ではないのか?」
う~ん。
長い目で見ればそれでも幸せだったのか知らねえ。
リリスはそう思いながらもレミア族のその後が気になった。
「レミア族の痕跡って地球には残っているのでしょうか?」
リリスの問い掛けにエイヴィスはうんうんと頷いた。
「ああ、それなりに残っておるぞ。転移先の星で世界中に魔素の保存庫を造ったようだからな。表面の化粧板が剥がれた状態で各地に残っているはずだ。ちなみにその化粧板は魔素の自然分解を抑える為の素材だったのだがね。」
それって現代人が目にするピラミッドの事ね。
「鉱石化した魔素の採掘が途絶え、レミア族としての文化が廃れていった後も、豊かな資材や食材を得て彼等は慎ましく暮らしていたそうだ。」
「アルバから聞いた話では鉱石化した魔素の枯渇後、気候の温暖なこの島に大半のレミア族が棲み付いていたそうだ。自然が豊かで暮らし易かったのだろうな。」
そう言ってエイヴィスがパネルに映し出したのは日本列島だった。
えっ!
これって・・・もしかしてレミア族って縄文人だったの?
でもそう考えれば、黒目黒髪で若干浅黒い肌のレミア族の風貌に、あまり違和感を感じないのも腑に落ちるわね。
色々な事が目の前で展開され、リリスは夢を見せられているような気分になっていた。
そのリリスの様子を見ながら、エイヴィスはゆっくりと呟いた。
「レミア族を招き入れたのは、おそらく元々存在していた黎明期の文明に刺激を与えたかったからなのだろう。だがそれによってアルバの居る世界と儂等の世界との間で、転移現象が起きてしまう確率が高くなった事も事実だ。その影響でこの数万年、アルバの居る世界からの転移者が途絶える事は無かった。そして最後に転移してきたのが君だと言う事だ。」
う~ん。
そう言われるとまるでラスボスみたいね。
「まあ、君が転移してしまったのは大きな誤算だったようだ。向こうの世界の管理者もアルバも、君が転移してしまって大いに焦っていたようだからな。」
「でもそれは解決済みのはずですけど・・・」
「君の遺伝子の奥底に託されていた情報に関してはね。でも今の君は人族のレベルを超えて違った存在になりつつある。それ故に何時でもこちらに戻っておいでと彼等は言っているよ。」
今更そんな事を言われてもねえ。
「私は私、リリスですよ。」
「君にとってそれが良いなら、それが正解だ。」
エイヴィスはそう言うと半透明のパネルを消去した。
「さあ、元の場所に戻してあげよう。君の先祖のユリアスが管理している、レミア族の遺した研究施設だったな。」
エイヴィスの言葉にリリスはふと、ユリアス達の事を思い出した。
「そう言えばユリアス様やリクード様達は無事なんですか? 私のスキルの暴走に巻き込まれたのでは・・・・・」
「ああ、それなら大丈夫だ。リクード殿が全員を救出したからね。彼は実に特異な賢者だよ。掴みどころが無いと言うか、儂でも良く分からん部分がある。獣人の稀有な種族の出身と言う事が、彼の特異性の大きな要素なのだろうがねえ。」
まあ、どの口で言ってるのかしら。
それはエイヴィス様も同じじゃないの。
それでも賢者様達が無事ならそれで良いんだけどね。
エイヴィスの転移魔法によってリリスはレミア族の研究施設に送り届けられた。
そこではユリアス達が待機しており、リリスの帰還を心から喜んでくれた。
リリスに関する事の次第はエイヴィスから一部始終を説明されていたようで、賢者達は一様に『お疲れ様』とリリスの労をねぎらってくれたのだった。
その数日後。
リリスは午前中の授業を終えると、いつも通り図書館に出向き、司書としての仕事を務めていた。
この日はケリー女史が休みだったので、一人で図書館の受付に待機し、図書館を訪れる生徒達の図書検索などの手助けをしていた。先日までの平行世界での出来事がかなり大変だったので、この静かな時間と空間がありがたい。
リリスはそう思いながら淡々と仕事をこなしていた。
しばらくしてリリスの目の前に後輩のリンディが現われた。彼女はリリスの顔を見ると笑顔を向け、リリスの隣の席にちょこんと座った。
「リリス先輩。お疲れさまでした。」
「えっ? 何が?」
首を傾げるリリスにリンディは小声で呟いた。
「エイヴィス様から聞きましたよ。平行世界で六面法被の活躍をされていたそうで。」
「リンディ。あんた、エイヴィス様から何を聞かされたのよ。私はエイヴィス様の画策に巻き込まれただけだからね。」
若干迷惑そうに答えたリリスの表情を見て、リンディはふふふと失笑した。
「エイヴィス様って、他人の事情や状況をほとんど気にしない方ですからね。それでも基本的には安全策を執られる傾向にありますけど。」
「そうかなあ? 私にはそんな風には思えないわ。これって私の誤解なの?」
「まあ、先輩の若干の思い込みじゃないですか? 私は獣人なので獣人同士で通じ合える世界は在りますけど、その範囲外でも人格的な方だと思いますよ。」
「それはエイヴィス様がリンディの師匠だからでしょ?」
「いえいえ。そう言うわけでもありませんよ。師匠だからと言って、ひいき目に見ている事は無いですから。」
不毛なやり取りだ。
リリスはそう思った。
だがそれでも、そんな他愛もない事で平穏な時間を過ごせるのも良い。
それがリリスの本心でもある。
リンディもそんなリリスの思いを感じたようで、終始にこやかに話していた。
その平穏な時間を排除するように、突然リリスのカバンの中からピンピンと警告音が鳴り始めた。
マキとの連絡用の魔道具だ。
だがそれを取り出そうとした矢先、魔道具は警告音を停止した。
変に思ってこちらから連絡しようとしても、マキが応じる気配が無い。
何事だろうか?
おかしいなと思い何度か試してみたが、マキとは一向に繋がらない。
不安を感じて席から立ち上がったその時、目の前のデスクの上に突然小人が現われた。
小人は肩に単眼の芋虫を生やしている。
フィリップ王子とメリンダ王女の使い魔だ。
「メル、どうしたの? こんなところに現われるなんて。」
「どうしたも無いわよ。大変なんだから。」
そう言って芋虫はふうっと大きく溜息をついた。
「マキさんが姿を消したのよ! 神殿で他の祭司達が見ている前で、闇に吸い込まれるように消えたのよ!」
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リリスはメリンダ王女の言葉を聞き、絶句してその場に立ち尽くしていたのだった。
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