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平行世界のリリス5
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城壁都市に来て2日目の朝。
紗季は他の難民達と共に朝食を摂り、ヘレナの案内で難民の管理棟から出て、約10分ほど街路を歩かされた。
街路の両側の建物が徐々に減り、目の前に広い空き地が見えてきた。
その一角に小さな畑があるので、ここが開墾地なのだろう。
城壁都市の中にそれなりの耕作地を確保し、この都市内だけで食料をある程度確保しようとしているようだ。
荒れ地と言ってもところどころに建物を構成していた石材が転がっていて、元は建物が立ち並んでいた場所なのかも知れない。
「ここ区画は都市内の区画整理で元の建物を取り壊し、耕作地にする事になっているのよ。」
ヘレナはそう言うと近くにある作業小屋を指差した。
「あの小屋の中に鍬やツルハシやスコップがあるわ。適当に選んで開墾に取り組んでね。土魔法を使える者はそれを駆使しても構わないけど、マナポーションの供給は無いので、魔力切れを起こさないように注意しなさい。」
ヘレナの言葉に従って、難民は全員が作業小屋から鍬等を持ち出し、さっそく作業に取り掛かった。
土魔法を使える難民は紗季の他に2名居た。
二人共土魔法を発動させて開墾に取り組んだが、早々に魔力を消耗し、その場で少し休む事になった。
その二人での作業によって、20m四方の荒れ地が耕作地のような見た目になったのだが、リリスが精査するとその出来が雑で農具を使った結果と変わらない。
これでは土魔法を使う意味があまり無いとリリスは感じた。
その事を紗季に伝えると、紗季はう~んと唸って首を傾げた。
「あれでも良いと思うんだけどねえ。」
「まあ、見た目はね、あれでも良さそうなんだけど、土質の改良が為されていないのよ。それにある程度の深さには保水性の高い地層も必要だからね。」
リリスの言葉に紗季は再度う~んと唸った。
「そこまで必要なの?」
「うん。必要よ。この世界では飢饉の起きる頻度が少なくないからね。効率良く耕作をしないといけないのよ。」
確かにそれは必要なのかも・・・。
紗季はそう思ってとりあえず土魔法の魔力を循環させ始めた。
その紗季に向かってリリスが指示を出していく。
「先ずこの土地の土質を精査するのよ。」
リリスの指示に合わせて紗季は精査を始めた。
その結果が脳裏に浮かび上がる。
「地下20mほどまでは粘土を多く含む土質ね。穀物の栽培にとっては水はけが悪いかも・・・」
「それが分かれば地表から2m程度まで、水はけのよい土質に変えれば良いのよ。そう言う土質をイメージして魔力を放てば良いからね。」
リリスの指示に従って、紗季は魔力を放ち始めた。
脳裏に浮かべたイメージは、元の世界でマンションのベランダに置いていたナスやトマトの栽培用のプランターだ。
ホームセンターで良く買っていた野菜の栽培用の土が思い浮かぶ。
紗季の放つ魔力で、目の前の地面が細かく振動し始めた。
荒れ地が水はけの良さそうな土質の地表に変わっていく。
その際に地表に取り残されていた建物の壁の残骸は土に分解され、目に見える地表のみならず、地下2mにまでその土質の改良が展開された。
「耕作地だから畝があった方が良いわね。」
リリスの言葉を受け、紗季は30cmほどの畝をイメージし、それを土質改良した耕作地に展開した。
紗季が造り上げた目の前の耕作地の地表が、まるで生き物のように蠢いていく。
瞬く間に高さ30cmほどの畝が耕作地全体に出現した。
その様子を見て、ヘレナは唖然として言葉を失っていた。
これだけの作業を僅かな時間で済ますなんて考えられないわ。
しかもサキは魔力を消耗している様子も無い。
ヘレナは紗季が造り上げた耕作地を精査した。
地下2mまで土質の改良が為されている。
荒れ地として残されていた500m四方の区画が、10分ほどで全て耕作地になってしまったのだ。
だがリリスの指示はまだ終わっていない。
「この耕作地って農道で分割した方が良いわね。4分割しようか。」
「農道ってどうやって造るの?」
「それは単に固い土質に変えるだけよ。荷車が行き交う幅があれば良いわ。農道の交差する地点に少しスペースを造って、農具の置き場や井戸を造れば終了よ。」
リリスの指示に従って、紗季は再び土魔法の魔力を循環させ始めた。
魔力を放ち、土質を固いものに変化させながら耕作地を分割するように農道を走らせた。
幅は3mほどだ。
その農道の交差点に直径10mほどの円形のスペースを造り上げ、土壁を使って小屋を造り、その表面を硬化させて頑丈な作業具置き場とした。それと同時に小屋の脇に直径1mほどの井戸のスペースを確保した。そのスペースをリリスの指示に従って円形に土壁で取り巻き、硬化させてレンガのような風合いに変えてしまった。井戸の壁からは上に突き出しを4本立ち上げ、それを上で交差させて屋根を葺く台座を造り上げた。
「この井戸って職人が掘るの?」
「何を言ってるのよ。あんたが掘るのよ。」
「えっ? 私が掘るの?」
驚く紗季にリリスは、土魔法で井戸を掘る要領を教えた。
水脈を探知し、そこまでの土を分解し、その穴の表面を硬化させる。
「ある程度水が湧き上がってくれば、後は魔道具で地上に汲み出す事が出来るのよ。」
「ふうん。そんな魔道具があるのね。」
「そう。例えて見ればポンプのユニットのようなものよ。」
リリスの例えを聞き、紗季は納得しながら作業を進めた。
水脈は地下約100mに走っている。
そこまでの土を分解し、壁を軽く硬化させていると、さすがに紗季の魔力が消耗してきた。
額に脂汗が滲み、肩で息をしている状態だ。
始めて体験する魔力不足の症状に、紗季は戸惑って作業の手を止めた。
「紗季、こんな時こそ魔力吸引を発動させるのよ。」
紗季は黙って頷き、魔力吸引を発動させた。
だがその効果は驚くべきものであった。
紗季の周囲の大気や大地から、魔力が渦のようになって流れ込んでくる。
そのゴウッと言う音までが聞こえてきた。
あれっ?
レベル3の魔力吸引にしては随分強力ね。
何かが増幅しているようにも感じるわ。
もしかして加護の影響なのかな?
リリスの懸念を嘲笑うかのように、紗季は余裕のある笑顔を見せ、流れ込む魔力によって紗季の身体が仄かに光り始めた。
その手から放たれる土魔法の魔力が地下にまで潤沢に投入されていく。
井戸は思っていたよりも早く掘り上がり、湧き上がってきた水面は地下5mほどの位置になった。
「開墾作業を終わらせちゃったわ。」
紗季の一連の作業を見ていたヘレナは、驚愕の表情でその場に立ち尽くして呟いていた。
正気を取り戻したようにヘレナはポンポンと頭を叩き、紗季の傍に駆け寄ってきた。
「サキ。あなたは何者なの?」
ヘレナの言葉に紗季は答えようも無く黙っている。
その様子を見てヘレナはう~んと唸り、少しの間黙り込み、何かを思いついたように口を開いた。
「サキ。あなたには大祭司様に面接してもらいますからね。」
そう言うとヘレナは他の難民達を集合させ、紗季と共に帰路に就いた。
紗季が開墾を全て終わらせてしまったからである。
作業が早々と終わってしまったので、他の難民達は単純に喜んでいた。
それと対象的に、ヘレナは終始むすっとした表情で、何かを考え込んでいるような様子だ。
難民の管理棟から土の神殿に案内された紗季は、生活魔法で身体を清潔にし、ゲストルームで祭司達が纏う白い法衣に着替えさせられた。
そのままゲストルームで待機していると、ヘレナと共に白髪の大祭司が入ってきた。
恰幅の良い初老の大祭司はエバンスと名乗り、神殿の奥にある聖域に入るので、ついて来るように指示された。
ゲストルームから出て長い通路を歩くと、紗季は低いフェンスに囲まれた塑像の前に到着した。
その塑像は高さが3mほどで、筋骨たくましい男性の塑像だ。
片手に宝玉を持ち、片手には巻物のようなものを持っている。
これってもしかして土の亜神の塑像なのかしら?
リリスの予想は正しく、エバンスは塑像を手のひらで示して説明した。
「これは土の亜神エターナル=ゲド=ガイア様の塑像だ。この塑像が振り下ろしている手に宝玉があるだろう?」
エバンスの言葉に紗季は無言で頷いた。
「その塑像の前に進み出て、宝玉に手を置き、君の魔力を流してくれ。」
「君が予言に示されている人物であれば、宝玉がそれに相応しい反応をするはずだ。」
そう言われても紗季には何の事か分からない。
「言われるままにやってみたら?」
リリスの言葉に後押しされ、紗季は塑像の前に進み出て、宝玉に手を置き魔力を流してみた。
その途端に宝玉が光り、塑像から光の筋が様々な方向に、まるでレーザービームのように打ち出された。
それに伴って神殿の床面が細かく振動し、床面から何かが浮かび上がってくる。
それは良く見ると半透明のホログラムの様だ。
ホログラムは空中でパッと拡散し、神殿の白い大理石の壁に様々な映像を映し出した。
緑の草原のような光景の中に花々が咲き誇り、樹木が緑の葉を纏いながらぐんぐんと伸び上がっていく。
その中をカラフルな鳥達が舞い、青空へと上がっていった。
草原の中に鹿などの獣が現われ、田畑を耕作する人の姿も映し出されている。
「これは・・・・・何事だ?」
驚くエバンスの傍に、男性の祭司が駆けつけて来た。
「エバンス様。神殿の上に金色の巨大なリングが出現しました。そのリングから四方八方に光が放たれています。」
それを聞いてエバンスは紗季の姿をまじまじと見つめた。
「この方はやはり土の亜神の使いのようだ。」
土の亜神の使い?
そんな伝承がレミア族にあるの?
リリスはそう思いながらも紗季の顔を見た。
紗季は目を細め、うっとりとした表情をしている。
「紗季! 大丈夫?」
リリスの言葉に紗季はうんうんと頷いた。
「私なら大丈夫よ。このイベントはもうすぐ終わるわ。」
イベントですって?
紗季の言葉にリリスは疑問を持った。
誰がそんな事を教えたのだろうか?
それと同時に、何かが、何者かが紗季の脳裏に語り掛けているような気配がする。
リリスの懸念の中、宝玉はその光を放つのを止め、神殿内の様子は元の状態に戻った。
紗季の傍に駆け寄ったエバンスは、じっと紗季の身体を精査し始めた。
だがその表情に戸惑いが見える。
「サキ。君のステータスを見ても、土の亜神の使いを示す加護が見当たらない。秘匿領域があるのか?」
エバンスの言葉に紗季はうんうんと頷いた。
「そうか。それならその中に隠されている加護を私に教えてくれないか?」
「はい。『大地の守護者』とあります。」
紗季の言葉を聞いてエバンスはう~んと唸り、しばらく考え込んだ。
エバンスは熟考の後に口を開いた。
「君の加護については、この城壁都市ガイアの元老院に報告しなければならんようだ。」
「少し説明しておくと、この城壁都市ガイアには王は居ない。評議員と呼ばれる住民の代表達で構成される評議会と、貴族階級で構成される元老院によって、共和制の施政を行っているのだ。」
「事の重要性から考えれば元老院が精査を求めてくるだろうな。」
エバンスはそう言うと、紗季にゲストルームで待機しているように指示をした。
祭司に案内されてゲストルームに戻り待つ事30分。
ゲストルームに再びエバンスが訪れた。
「元老院とは連絡が付いた。それで元老院の特別顧問の賢者ドルネア様が君をお呼びになっている。早急にと言う事なので、今からドルネア様の研究施設に出向いて欲しい。神殿の外に馬車を手配したので、女性の祭司と共に向かってくれ。」
エバンスは傍に居た女性の祭司に指示を出し、紗季とリリスを神殿の外に案内した。
この女性祭司はミリアと言い、馬車に乗り込む際に大きなバスケットを持ち込んできた。
「これは昼食です。慌ただしくて、まだお昼を食べていないでしょうからね。」
素朴な風貌のミリアの笑顔に紗季は心底癒された。
「そう言えばお昼御飯がまだだったわよね。」
リリスの言葉に紗季はうんうんと頷き、ミリアが用意してくれたサンドイッチと紅茶を堪能した。
この世界に来てようやく、食事で寛ぐ時間を持てたような気がした紗季である。
「サキさんは異国から来たのですよね。でも何だかとても親しみやすく感じます。」
ミリアの言葉に紗季は嬉しそうに頷いた。
紗季もまたレミア族の質素な風貌に、何処か日本人的な雰囲気を感じて親近感を持っていたのだった。
ミリアからレミア族の暮らしぶりや生活習慣などを聞き、紗季は異世界転生物のラノベそのものだと感じた。
だがそれと共に、数十年前の山奥の農村の生活等とシンクロして、何処かにアジア的な雰囲気も感じられる。
ガタガタと揺れる馬車の窓から眺める景色から、紗季は何となく東南アジアの雰囲気をも感じていた。
それはやはりレミア族が、浅黒い肌と黒目黒髪の持ち主である事も関係しているのだろう。
電化製品も無くスマホもネットも無い。
だがこの世界には魔法がある。
その事が何より紗季にとって重要であると思われた。
馬車はしばらく街路を進み、街外れの大きな建物に入っていった。
ここが賢者ドルネアの研究施設だそうだ。
ここで紗季がドルネア様と会えるのね。
これでエイヴィス様からのクエストを達成出来るわ。
リリスはそう思って興奮気味に研究施設に入っていったのだった。
紗季は他の難民達と共に朝食を摂り、ヘレナの案内で難民の管理棟から出て、約10分ほど街路を歩かされた。
街路の両側の建物が徐々に減り、目の前に広い空き地が見えてきた。
その一角に小さな畑があるので、ここが開墾地なのだろう。
城壁都市の中にそれなりの耕作地を確保し、この都市内だけで食料をある程度確保しようとしているようだ。
荒れ地と言ってもところどころに建物を構成していた石材が転がっていて、元は建物が立ち並んでいた場所なのかも知れない。
「ここ区画は都市内の区画整理で元の建物を取り壊し、耕作地にする事になっているのよ。」
ヘレナはそう言うと近くにある作業小屋を指差した。
「あの小屋の中に鍬やツルハシやスコップがあるわ。適当に選んで開墾に取り組んでね。土魔法を使える者はそれを駆使しても構わないけど、マナポーションの供給は無いので、魔力切れを起こさないように注意しなさい。」
ヘレナの言葉に従って、難民は全員が作業小屋から鍬等を持ち出し、さっそく作業に取り掛かった。
土魔法を使える難民は紗季の他に2名居た。
二人共土魔法を発動させて開墾に取り組んだが、早々に魔力を消耗し、その場で少し休む事になった。
その二人での作業によって、20m四方の荒れ地が耕作地のような見た目になったのだが、リリスが精査するとその出来が雑で農具を使った結果と変わらない。
これでは土魔法を使う意味があまり無いとリリスは感じた。
その事を紗季に伝えると、紗季はう~んと唸って首を傾げた。
「あれでも良いと思うんだけどねえ。」
「まあ、見た目はね、あれでも良さそうなんだけど、土質の改良が為されていないのよ。それにある程度の深さには保水性の高い地層も必要だからね。」
リリスの言葉に紗季は再度う~んと唸った。
「そこまで必要なの?」
「うん。必要よ。この世界では飢饉の起きる頻度が少なくないからね。効率良く耕作をしないといけないのよ。」
確かにそれは必要なのかも・・・。
紗季はそう思ってとりあえず土魔法の魔力を循環させ始めた。
その紗季に向かってリリスが指示を出していく。
「先ずこの土地の土質を精査するのよ。」
リリスの指示に合わせて紗季は精査を始めた。
その結果が脳裏に浮かび上がる。
「地下20mほどまでは粘土を多く含む土質ね。穀物の栽培にとっては水はけが悪いかも・・・」
「それが分かれば地表から2m程度まで、水はけのよい土質に変えれば良いのよ。そう言う土質をイメージして魔力を放てば良いからね。」
リリスの指示に従って、紗季は魔力を放ち始めた。
脳裏に浮かべたイメージは、元の世界でマンションのベランダに置いていたナスやトマトの栽培用のプランターだ。
ホームセンターで良く買っていた野菜の栽培用の土が思い浮かぶ。
紗季の放つ魔力で、目の前の地面が細かく振動し始めた。
荒れ地が水はけの良さそうな土質の地表に変わっていく。
その際に地表に取り残されていた建物の壁の残骸は土に分解され、目に見える地表のみならず、地下2mにまでその土質の改良が展開された。
「耕作地だから畝があった方が良いわね。」
リリスの言葉を受け、紗季は30cmほどの畝をイメージし、それを土質改良した耕作地に展開した。
紗季が造り上げた目の前の耕作地の地表が、まるで生き物のように蠢いていく。
瞬く間に高さ30cmほどの畝が耕作地全体に出現した。
その様子を見て、ヘレナは唖然として言葉を失っていた。
これだけの作業を僅かな時間で済ますなんて考えられないわ。
しかもサキは魔力を消耗している様子も無い。
ヘレナは紗季が造り上げた耕作地を精査した。
地下2mまで土質の改良が為されている。
荒れ地として残されていた500m四方の区画が、10分ほどで全て耕作地になってしまったのだ。
だがリリスの指示はまだ終わっていない。
「この耕作地って農道で分割した方が良いわね。4分割しようか。」
「農道ってどうやって造るの?」
「それは単に固い土質に変えるだけよ。荷車が行き交う幅があれば良いわ。農道の交差する地点に少しスペースを造って、農具の置き場や井戸を造れば終了よ。」
リリスの指示に従って、紗季は再び土魔法の魔力を循環させ始めた。
魔力を放ち、土質を固いものに変化させながら耕作地を分割するように農道を走らせた。
幅は3mほどだ。
その農道の交差点に直径10mほどの円形のスペースを造り上げ、土壁を使って小屋を造り、その表面を硬化させて頑丈な作業具置き場とした。それと同時に小屋の脇に直径1mほどの井戸のスペースを確保した。そのスペースをリリスの指示に従って円形に土壁で取り巻き、硬化させてレンガのような風合いに変えてしまった。井戸の壁からは上に突き出しを4本立ち上げ、それを上で交差させて屋根を葺く台座を造り上げた。
「この井戸って職人が掘るの?」
「何を言ってるのよ。あんたが掘るのよ。」
「えっ? 私が掘るの?」
驚く紗季にリリスは、土魔法で井戸を掘る要領を教えた。
水脈を探知し、そこまでの土を分解し、その穴の表面を硬化させる。
「ある程度水が湧き上がってくれば、後は魔道具で地上に汲み出す事が出来るのよ。」
「ふうん。そんな魔道具があるのね。」
「そう。例えて見ればポンプのユニットのようなものよ。」
リリスの例えを聞き、紗季は納得しながら作業を進めた。
水脈は地下約100mに走っている。
そこまでの土を分解し、壁を軽く硬化させていると、さすがに紗季の魔力が消耗してきた。
額に脂汗が滲み、肩で息をしている状態だ。
始めて体験する魔力不足の症状に、紗季は戸惑って作業の手を止めた。
「紗季、こんな時こそ魔力吸引を発動させるのよ。」
紗季は黙って頷き、魔力吸引を発動させた。
だがその効果は驚くべきものであった。
紗季の周囲の大気や大地から、魔力が渦のようになって流れ込んでくる。
そのゴウッと言う音までが聞こえてきた。
あれっ?
レベル3の魔力吸引にしては随分強力ね。
何かが増幅しているようにも感じるわ。
もしかして加護の影響なのかな?
リリスの懸念を嘲笑うかのように、紗季は余裕のある笑顔を見せ、流れ込む魔力によって紗季の身体が仄かに光り始めた。
その手から放たれる土魔法の魔力が地下にまで潤沢に投入されていく。
井戸は思っていたよりも早く掘り上がり、湧き上がってきた水面は地下5mほどの位置になった。
「開墾作業を終わらせちゃったわ。」
紗季の一連の作業を見ていたヘレナは、驚愕の表情でその場に立ち尽くして呟いていた。
正気を取り戻したようにヘレナはポンポンと頭を叩き、紗季の傍に駆け寄ってきた。
「サキ。あなたは何者なの?」
ヘレナの言葉に紗季は答えようも無く黙っている。
その様子を見てヘレナはう~んと唸り、少しの間黙り込み、何かを思いついたように口を開いた。
「サキ。あなたには大祭司様に面接してもらいますからね。」
そう言うとヘレナは他の難民達を集合させ、紗季と共に帰路に就いた。
紗季が開墾を全て終わらせてしまったからである。
作業が早々と終わってしまったので、他の難民達は単純に喜んでいた。
それと対象的に、ヘレナは終始むすっとした表情で、何かを考え込んでいるような様子だ。
難民の管理棟から土の神殿に案内された紗季は、生活魔法で身体を清潔にし、ゲストルームで祭司達が纏う白い法衣に着替えさせられた。
そのままゲストルームで待機していると、ヘレナと共に白髪の大祭司が入ってきた。
恰幅の良い初老の大祭司はエバンスと名乗り、神殿の奥にある聖域に入るので、ついて来るように指示された。
ゲストルームから出て長い通路を歩くと、紗季は低いフェンスに囲まれた塑像の前に到着した。
その塑像は高さが3mほどで、筋骨たくましい男性の塑像だ。
片手に宝玉を持ち、片手には巻物のようなものを持っている。
これってもしかして土の亜神の塑像なのかしら?
リリスの予想は正しく、エバンスは塑像を手のひらで示して説明した。
「これは土の亜神エターナル=ゲド=ガイア様の塑像だ。この塑像が振り下ろしている手に宝玉があるだろう?」
エバンスの言葉に紗季は無言で頷いた。
「その塑像の前に進み出て、宝玉に手を置き、君の魔力を流してくれ。」
「君が予言に示されている人物であれば、宝玉がそれに相応しい反応をするはずだ。」
そう言われても紗季には何の事か分からない。
「言われるままにやってみたら?」
リリスの言葉に後押しされ、紗季は塑像の前に進み出て、宝玉に手を置き魔力を流してみた。
その途端に宝玉が光り、塑像から光の筋が様々な方向に、まるでレーザービームのように打ち出された。
それに伴って神殿の床面が細かく振動し、床面から何かが浮かび上がってくる。
それは良く見ると半透明のホログラムの様だ。
ホログラムは空中でパッと拡散し、神殿の白い大理石の壁に様々な映像を映し出した。
緑の草原のような光景の中に花々が咲き誇り、樹木が緑の葉を纏いながらぐんぐんと伸び上がっていく。
その中をカラフルな鳥達が舞い、青空へと上がっていった。
草原の中に鹿などの獣が現われ、田畑を耕作する人の姿も映し出されている。
「これは・・・・・何事だ?」
驚くエバンスの傍に、男性の祭司が駆けつけて来た。
「エバンス様。神殿の上に金色の巨大なリングが出現しました。そのリングから四方八方に光が放たれています。」
それを聞いてエバンスは紗季の姿をまじまじと見つめた。
「この方はやはり土の亜神の使いのようだ。」
土の亜神の使い?
そんな伝承がレミア族にあるの?
リリスはそう思いながらも紗季の顔を見た。
紗季は目を細め、うっとりとした表情をしている。
「紗季! 大丈夫?」
リリスの言葉に紗季はうんうんと頷いた。
「私なら大丈夫よ。このイベントはもうすぐ終わるわ。」
イベントですって?
紗季の言葉にリリスは疑問を持った。
誰がそんな事を教えたのだろうか?
それと同時に、何かが、何者かが紗季の脳裏に語り掛けているような気配がする。
リリスの懸念の中、宝玉はその光を放つのを止め、神殿内の様子は元の状態に戻った。
紗季の傍に駆け寄ったエバンスは、じっと紗季の身体を精査し始めた。
だがその表情に戸惑いが見える。
「サキ。君のステータスを見ても、土の亜神の使いを示す加護が見当たらない。秘匿領域があるのか?」
エバンスの言葉に紗季はうんうんと頷いた。
「そうか。それならその中に隠されている加護を私に教えてくれないか?」
「はい。『大地の守護者』とあります。」
紗季の言葉を聞いてエバンスはう~んと唸り、しばらく考え込んだ。
エバンスは熟考の後に口を開いた。
「君の加護については、この城壁都市ガイアの元老院に報告しなければならんようだ。」
「少し説明しておくと、この城壁都市ガイアには王は居ない。評議員と呼ばれる住民の代表達で構成される評議会と、貴族階級で構成される元老院によって、共和制の施政を行っているのだ。」
「事の重要性から考えれば元老院が精査を求めてくるだろうな。」
エバンスはそう言うと、紗季にゲストルームで待機しているように指示をした。
祭司に案内されてゲストルームに戻り待つ事30分。
ゲストルームに再びエバンスが訪れた。
「元老院とは連絡が付いた。それで元老院の特別顧問の賢者ドルネア様が君をお呼びになっている。早急にと言う事なので、今からドルネア様の研究施設に出向いて欲しい。神殿の外に馬車を手配したので、女性の祭司と共に向かってくれ。」
エバンスは傍に居た女性の祭司に指示を出し、紗季とリリスを神殿の外に案内した。
この女性祭司はミリアと言い、馬車に乗り込む際に大きなバスケットを持ち込んできた。
「これは昼食です。慌ただしくて、まだお昼を食べていないでしょうからね。」
素朴な風貌のミリアの笑顔に紗季は心底癒された。
「そう言えばお昼御飯がまだだったわよね。」
リリスの言葉に紗季はうんうんと頷き、ミリアが用意してくれたサンドイッチと紅茶を堪能した。
この世界に来てようやく、食事で寛ぐ時間を持てたような気がした紗季である。
「サキさんは異国から来たのですよね。でも何だかとても親しみやすく感じます。」
ミリアの言葉に紗季は嬉しそうに頷いた。
紗季もまたレミア族の質素な風貌に、何処か日本人的な雰囲気を感じて親近感を持っていたのだった。
ミリアからレミア族の暮らしぶりや生活習慣などを聞き、紗季は異世界転生物のラノベそのものだと感じた。
だがそれと共に、数十年前の山奥の農村の生活等とシンクロして、何処かにアジア的な雰囲気も感じられる。
ガタガタと揺れる馬車の窓から眺める景色から、紗季は何となく東南アジアの雰囲気をも感じていた。
それはやはりレミア族が、浅黒い肌と黒目黒髪の持ち主である事も関係しているのだろう。
電化製品も無くスマホもネットも無い。
だがこの世界には魔法がある。
その事が何より紗季にとって重要であると思われた。
馬車はしばらく街路を進み、街外れの大きな建物に入っていった。
ここが賢者ドルネアの研究施設だそうだ。
ここで紗季がドルネア様と会えるのね。
これでエイヴィス様からのクエストを達成出来るわ。
リリスはそう思って興奮気味に研究施設に入っていったのだった。
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