ひだまりを求めて

空野セピ

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第一章 穏やかな日常

すれ違い

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「マッド、まだ食べ終わってないの?」

「胃痙攣起こすっての」

「……どうして朝ご飯食べに来なかったの?」

 ティミーはオムライスをすくい口に含むと、マッドの答えを待った。
 朝昼晩と、マッドはご飯を村長の家で食べる事が多い。 
 ティミーが毎回誘う事が多いが、今朝みたいに行かない時もあったりと、日によりバラつきがあるようだ。 
 大抵は決まった時間にティミーが呼びに行くのだが、時間帯によっては家や村に居ない日も少なくなかった。 
 マッドは水を一気に飲み干すと、お腹をさすりながら深く溜め息をつく。

「腹減って無かったんだよ。だから、散歩に出てたんだ」

「それ、嘘でしょ?」

「本当だっての」

「うむ、嘘はいかんぞ、マッドよ」

 不機嫌に答えると、後ろから声が聞こえた。 
 振り返ると、長いローブと帽子、顎に白いヒゲを生やした老人の男性が立っていた。 
 マッドは若干嫌そうな顔をすると、小さく息を吐き窓の外に視線を逸らす。

「何だよじじい。本当の事だろ」

「村長であるワシにじじいとは何様じゃお前は。お前さんが溜め息をつきながら視線を逸らすのは、嘘を付いている時じゃ。長年お前さんを見てきたワシをなめるでない」

 ヒゲを触りながら、老人は軽くマッドの頭を小突いた。
 そう、この老人はこの家の持ち主であり、ルグート村の村長であるロダン・マルデスだ。
 威厳ある村長の言葉に、ティミーはムッとした表情でマッドを睨みつける。

「やっぱり嘘付いてた! どうして朝ご飯食べに来なかったの?」
 ティミーに問われたが、マッドは窓を見つめたまま口を開こうとせず、その様子に村長は顔をしかめた。

「お主は独り身じゃ。何も遠慮なんかいらんのだぞ?」

「そうだよ。マッド料理の腕は致命的なんだから」

「致命的言うな! 迷惑かけたくないだけだっての」 

 マッドの言葉に、ティミーは苛つきを見せた表情をした。 
 
「何で今更迷惑だなんて思うのよ! 小さい頃から一緒にご飯食べたり、遊んだりしたじゃない!」

「遊びと飯は別だ! 毎日毎日世話掛けちまったら、迷惑だろ! 食費だってそれなりに掛かるだろうが!」

「掛からないよ! 畑で取れた野菜しか使ってないもの!」

「そう言う問題じゃねぇんだよ! もういい、帰る! ごちそうさま!」

 マッドは乱暴に席を立つと、足早に入り口へと向かい、出て行ってしまった。 
 マッドから明らかな苛立ちを感じたのか、ティミーと村長は気まずそうに顔を合わせ、マッドが出て行った入り口を見詰める。 

「……マッド、最近いつもあんな感じなんです。遠慮気味になってきたというか」

「マッドも頑固者よのう。気を遣わせまいとと考えているのじゃろう。まあ、暫くしたらまた声をかけてあげなさい」

「……はい」

 息苦しさを感じながら、ティミーはマッドが残したシチューを下げ、厨房へと歩いて行った。 
 


「……ったく、あいつ等は」

 村長の家を飛び出し、行く宛も無く、気が付けば一旦自分の家に戻り、森の中にいた。
 腰には、先ほどまで身につけていなかった剣が身に付けられている。
 村長やティミーには、逃げ出してしまったと思われているだろう。 
 しかし、マッドはそう思われていようが気に止める事は無かった。 
 自分を気遣ってくれるティミーや他の村人達に、マッドはいつも後ろめたい気持ちを持っていた。 

 ──今から十二年前、マッドが五歳の時に両親は病で他界し、それ以来マッドは独りで暮らしている。
 両親が他界した直後、暫くの間村長を初めとする村人達が度々マッドの家に来ては「大丈夫か」「ご飯はちゃんと食べているか」と訪ねて来た。
 その時の親切感をマッドは今でも覚えているが、同時に罪悪感、偽善感も感じていた。 
 それは、今も昔も変わらないままなのだ。

「……何で、なんだろうな。村の奴等がこんなに接してくれるなんて」

 ふと、マッドは空を見上げた。 
 木の葉で太陽の光が所々から溢れ、眩しさにマッドは眼をしかめる。
 すると突如、背後から殺気を感じた。

「やべっ、魔物か!」

 振り返ると、全長二メートル以上はある大きな熊が牙を向けながら鋭い爪を振り上げていた。 
 マッドは剣を抜き、素早く熊の懐に入り込むと一太刀を浴びせ、斬り込んだ所を思いきり蹴り付けた。 
 熊は赤くなった腹を押さえながらも再び牙を向け、今にも飛び掛かろうとしている。
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