ひだまりを求めて

空野セピ

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第一章 穏やかな日常

狩りを終えて

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「ちっ、まだやるのかよ」

 マッドは再び剣を構え熊の腹を斬り付けると、熊の体はグラリと横に倒れた。 
 剣で熊の体をつついてみるが反応は無く、マッドは剣を軽く振り、付着したものを綺麗に振り落とした。 

「よっしゃ、剣の腕も鈍ってねぇな」

「たまたま急所に当たったんじゃないのか?」

 ふいに背後から声が聞こえ、振り返ると水色の髪を風に靡かせている、マッドと同い年位の青年が立っていた。
 右手には縄が握られていて、その後ろには白い体にピンク色の斑が所々にある牛が黙々と草を食べている。 
 ルグート村周辺にしか生息しないルグート牛という、珍しい牛だった。 
 マッドは青年を軽く睨みつけ、小さく息を吐く。

「お前こそ、何でルグート牛なんか連れてるんだよ」

「家の牧場から逃げ出しちゃって、連れ戻しに来たんだよ」

「成程な。牧場の仕事も大変だな、フィル」

 フィルと呼ばれた青年はマッドとティミーの幼馴染で、小さい頃からずっと一緒に過ごしている青年だ。
 フィルは苦笑すると、木漏れ日が差し込む木の葉を見上げる。 

「暖かいからのんびり昼寝しようと思ってたのになぁ。これからミルク搾らないといけないし」

「やる事有るだけ良いじゃねぇか。寧ろこっちは何かやりたい位だぜ」

「……またティミーと喧嘩したの?」

 フィルは呆れた表情でマッドを見ると、マッドは顔をしかめながら溜め息を吐いた。

「喧嘩もなにも、お節介な事言われただけだ」

「ああ、いつもの喧嘩ね」

「……何で村の連中はやたらとお節介なんだか」

 マッドはぼんやり奥地を眺めながらぼそりと言葉を吐いた。 
 風が強く吹き、辺りは木と草花の香りで包まれていく。 
 どこか面倒くさそうなマッドの顔を、フィルは横目で見ていた。

「そりゃあ、両親の件があるからじゃないのか?」

「それは分かってるんだよ。でもな……」

 マッドは空に向かって伸びる木を見上げながら続きの言葉を言おうとしたが、軽く首を振り、倒れている熊の足元にしゃがみ、剣で肉を捌き始めた。 
 フィルは小さく息を吐くと、ルグート牛を撫で、肉を捌くマッドを見ながら苦笑する。 

「まあ、みんなマッドには茸の仕分けや用心棒でお世話になっているから、何かしらお礼がしたいんじゃないか?」

「それも有るんだろうけどな。よし、数日分の肉確保! そろそろ布団込まないといけねえし、俺は帰るぜ」

 これ以上話しても無駄だろうとマッドは察し、捌いた肉を布地の袋に入れると、ゆっくりと立ち上がった。
 フィルも、これ以上は首を突っ込んではいけないと察し、小さく息を吐く。  
「俺も帰るよ。帰ったら乳搾りがあるからね」 

 フィルはルグート牛を繋いでいる縄を引き、それを確認するとマッドはフィルと共に村の方へと歩き出した。
 村と森の境界線となっている柵を跨ぎ別れ道の所まで歩くと、フィルはマッドの方に体を向けた。 
「じゃあ、俺は牧場の仕事が有るから」

「あぁ。今度暇な時剣の鍛錬に付き合ってくれ」

「そっちこそ、早くティミーと仲直りしろよ」

 フィルの言葉に、マッドは眉を引き吊らせた。 
「別に喧嘩してねえっての」

「言い争った事には違い無いんだろ。早く謝れよ? じゃあな」

 ふてくされるマッドに満遍の笑みを浮かべると、フィルは親指を立て、背を向けて歩き出した。 
 一人残されたマッド。 
 疲れ故か、深い溜め息を大げさに吐き、頭をガシガシと掻いた。 

(まあ、ここにいてもしょうがねえ。家に戻って夕方位に村長の所に行くか)

 熊の肉が入った袋を持ち直し、フィルが歩いて行った方向とは別の道を、マッドは歩いて行った。 

 途中、八百屋のおじさんや雑貨屋のおばさんに声をかけられ、挨拶をしながら暫く歩いて行くと、木で建てられた家の前に着いた。
 そう、ここはマッドの家の前。 
 帰りたい時に帰り、疲れた体を癒す場所。 
 そして、マッドが産まれた場所だ。 
 両親が他界してからは一人で暮らしているが、時たま村の子供達が泊まりに来たりする事も有った。
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