ひだまりを求めて

空野セピ

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第一章 穏やかな日常

恥ずかしさと、寂しさと

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「おやおやティミー、悪い事をしてしまったね」

「な、何がですか、おばあちゃん……」

 レミーはマッドが出て行った扉を見ながら、ティミーの背中を軽く叩いた。 

「マッド坊やと一緒にご飯を食べたかったのだろう? 無理に呼び出してしまって悪かったわねえ」

「なっ……ち、違います! あれは……」

 レミーの言葉にティミーは何故か赤くなりながら、あわあわと首を左右に振った。 
 村人達も、どこか引っ掛かる笑みを浮かべながら、ティミーを見ている。 

「はっは~ん、ティミーちゃん、さてはマッドの事……」

「もう、黙って下さい!」

 中年の男性の言葉とティミーの反応に、周囲からは笑いが飛び交い、ティミーは更に顔を赤くさせた。

「ハックション! ……風邪引いたか?」

 家に戻る最中、噂をされたマッドは何度かくしゃみをしていた。 
 暗い道をランプの光を頼りに黙々と歩き、家に辿り着くと直ぐに風呂の準備を始めた。 
 天然の温泉が近くに有る為、暖かいお湯を常に出せる状態なので、マッドは湯船にお湯を流し込み、お湯がいっぱいになるまでの間に、歯磨きや明日の準備を進めていく。 
 そう、明日の朝は薬草摘みと、お昼過ぎからのティータイムの為に、紅茶の葉っぱを積みにいくのだ。

 小さな布の袋と残り僅かな薬草を袋に入れると、着替えを持ち風呂場へと向かった。 
 今日一日の疲れをお湯と共に綺麗に流すこの時間を、マッドは存分に味わった。 
 暫くして風呂から上がり、着替えて濡れた髪を拭きながら出てくると、マッドは直ぐに二階へ上がって行った。 

 自分の部屋のドアを開け、思い切りベッドにダイブすると、重さを受け止めたベッドが鈍い音を立ててマッドを受け入れた。
 昼間干した布団や毛布からは柑橘系の匂い、更に髪からも柑橘系の匂いが漂い、マッドは瞳を細めた。 
 そう、頭を洗うシャンプーもスー特製のもので、更に髪がサラサラになる効果もあった。 
 髪から垂れてくる滴がうざったくなったのか、マッドは乱暴にタオルで髪を拭くと、また乱暴に机の上にそのタオルを置いた。 
 それと同時に、一枚の写真が視界に入り、マッドはその写真を手に取り、小さく微笑みを浮かべる。 
 写真には、オレンジ色の瞳を細めクリーム色の美しい髪を流した女性と、マッドと同様の銀髪に、空色の瞳を細めた男性が、オレンジ色の瞳に銀髪の小さな少年を優しく見ている姿が映されていた。 
 その写真を見て、マッドは窓越しから星空を見上げる。

「父さんと母さんは、どうして……」

 ポツリと呟いた言葉は、誰も居ない部屋に小さく響き、マッドは再び写真に視線を戻した。 
 そう、この写真は、マッドの母親フラム・クラーデンと父親バルベス・クラーデン、真ん中に居るのは幼き日のマッドだった。 
 家族三人が一番笑っている写真で、マッドが一番大事にしている宝物でもあった。 
 両親が亡くなってから、マッドは一人で生活していた。 
 村人達が気遣ってくれたりはしたが、マッドはそれを素直に受け取められずにいた。
 しかし、それも自然と徐々に受け入れるようになってしまった。
 だが、最近になり受け入れるのに抵抗を感じてしまうようになり、マッドは小さく溜め息を付く。 

「俺は何も出来ねえ。恩返しもできねえ。それでも、素直に受け止めて良いのかな……父さん、母さん」

 写真を見ながら、どこか切なそうに呟くと、眠気が襲って来たのか、マッドは瞼が重くなるのを感じた。 
 昼寝をしたとは言え、眠った時間が浅かったのだろうか、マッドは写真を机の上に戻すと、ベッドに横になり、毛布を被った。 
 ランプの炎を少しだけ弱め、部屋の中が薄明るい事を確認すると、マッドは大きな欠伸をしながらぼんやりと瞳を開いた。 
 正直に思うと、心の中で明日が来るのが楽しみだった。 
 ティミーやアクス達と騒ぐ事は嫌いでは無く、寧ろ楽しいと感じていた。 

(結局は、寂しいんかな。……駄目だ眠い。明日は朝早いし、もう寝るとするか) 

 早朝に薬草を摘みに行く為に、マッドは布団からほのかに香る柑橘系の匂いと眠気に身を任せながら、静かに瞳を閉じ、眠りについた。
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