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第六章 国家軍組織ベルトア
すれ違う過去
しおりを挟む時は少しだけ遡り一時間程前──。
マッド達が本部の敷地内に入り込み、その中でウォックが背負っている少年の様な人物の顔を見た瞬間、思考が凍りついた。
黒髪でセミロング程の髪の長さの小柄な少年。
フードを外し、グッタリとした姿だったが、見間違える筈もない。
ようやく、会えた。
ベルスはウォックから奪い取る様にヴェノルを担ぎ、そのまま急いで病室へと運んだ。
「ベルス中将、急患でしょうか?」
周りにいた他の看護医達が集まろうとすると、ベルスは鋭い表情で睨み、その場にいた全員の表情が凍りついた。
「良いかてめぇら、ぜってぇ処置室に入るんじゃねぇぞ。入ったらぶっ殺すからな!」
「えっ......あの、はい......」
殺気立ったベルスの言葉に、周りにいた看護医達は呆然とし、誰一人動く事が出来なかった。
暴言がいつも酷いとは言え、今日は特に殺気立っていた様で、看護医達は思わず顔を見合わせる。
「あんなに殺気立っているベルス中将、見た事ないな」
「いつもの事でしょう? またヴェイト大佐と喧嘩でもしたんじゃ無いですか?」
「どの道、今日は関わらない方が良いな......」
今のベルスに関わってはいけない。
そう直感した看護医達は、其々の持ち場へ戻っていった。
「顔が真っ赤だな。とりあえず上着脱がせて寝かせるか」
扉を閉めると、ベルスは急いでヴェノルを診察台へ寝かし、上着を脱がせると体温計を口に突っ込ませ氷枕の準備を始めた。
氷と水を入れ氷枕が完成したと同時に、体温計が鳴りその数字を見て顔をしかめる。
「39.5度......体温が調節出来てねぇのか」
体内に熱が篭り、高熱になっていると判断したベルスは、小さめの氷枕をいくつか作り、脇や足首を冷やす様に身体の間に挟めた。
暫くすると呼吸も落ち着いて来た様で、その間に採血して幾つかの試験管にヴェノルの血を入れ、成分を調べる機械に入れるとヴェノルの元へ行き、眠るヴェノルの顔をジッと見詰めた。
(もし、この瞳が開いてエメラルドグリーンの瞳だったら、コイツは間違いなく......)
小さな寝息を立てているヴェノルの頬を軽く撫でると、機械から警告音が鳴り響き、ベルスは目を細めてゆっくりと機械の元へ歩いて行く。
機械の音は、エラーの音だったようで、ベルスは小さく息を吐いた。
「......やっぱりな」
採血した血をそのまま別の場所に保管すると、ヴェノルは小さな唸り声を発しながら寝返りを打った。
そして、ゆっくりとその瞳が開かれる。
薄く開いたエメラルドグリーンの瞳が朦朧としながら辺りを見回す。
「やっぱり、お前は」
ベルスがヴェノルの顔を覗き込み、ヴェノルは意識が段々と覚醒したのか、ぼんやりと辺りを見回した。
「あれ? ここ......」
「気が付いたか」
落ち着け。冷静でいろ。
ベルスは自身の心臓が速く動き出す感触に息を飲み、再びヴェノルの頬を優しく撫でる。
状況が飲み込めないヴェノルは、キョトンとベルスを見上げ、不思議そうに首を傾げた。
「お兄さん、誰?」
ヴェノルの言葉に、ベルスは全身の力が抜けた感覚がした。
赤い瞳が揺れ、思わずヴェノルの両肩を乱暴に掴む。
「お前、俺の事覚えてねぇのか⁉︎」
ベルスは思わず声を上げ、ヴェノルを睨みつけるように見詰める。
その表情は何処か焦っているようにも見え、ぼんやりする頭を抑えつつ、ヴェノルは更に不思議そうな表情をした。
「分かんない......会った事、あったっけ......?」
気の抜けた声で問い掛けるヴェノルにベルスはヴェノルの両肩から手を離し、呆然とヴェノルを見詰める。
(まさか、記憶が無いのか?)
ベルスは信じられない、と言った表情をしつつ、歯を喰いしばった。
ヴェノルの様子からして、自分を覚えていないのは事実だろう。
(あんな目に遭ったのに、コイツは全部忘れちまったのか?)
ベルスは胃の中から込み上げてくるモノを無理矢理押し殺し、拳を握り締める。
そんなベルスを横目に、ヴェノルはゆっくりと起き上がり、辺りを見回した。
「あれ? マッド達はどこ?」
「......お前はっ!」
起き上がったヴェノルの両肩を再び掴み、ベルスはヴェノルの顔を睨み付けるように見詰めた。
突然の事にヴェノルはキョトンとベルスを見上げ、首を傾げる。
「なぁに? 君は誰?」
「......俺か。今はな、ベルスって名前だ」
「ベルス? 俺と、会ったこと有るの? 俺、マッド達と出会う前の記憶が無いんだぁ」
「......記憶喪失、か」
マッド達と出会う前の記憶が無い。
マッド達がどれ位旅をしているのかは知る由も無いが、ウォックが訪ねて来たという事は、そこまで日は深く無いだろうと直感する。
ヴェノルはソワソワと部屋の中を見回し、何処か落ち着きの無い様子だ。
「ねぇねぇ、マッド達は? ウォックに会いたい!」
「お前は病人だから寝てろ。それとあまり動くんじゃねぇ」
「何でさ! もう元気だよー! ほらほら!!」
ヴェノルはその場でクルクルと回って見せて、嬉しそうにはしゃぎ始めた。
その様子に、ベルスは目を見開き、俯きながら歯を喰いしばる。
溢れ出る感情を押さえつつ、ベルスはヴェノルを抱き寄せ、背中に腕を回した。
「......良かった。生きていてくれて」
「ベルス? あっ! 抱っこ? 抱っこしてくれるの? やったー! 早く早く!」
「馬鹿かテメェ! 感動の再会に水差してんじゃねぇ!」
「感動の、再会?」
「......そうだ。あの日、どれだけ俺が......」
ベルスはそのままヴェノルを抱きしめ、ヴェノルの存在を再確認するかのように腕に力を込める。
状況を飲み込めていないヴェノルは、そのままベルスの背中に手を回し肩に顔を埋める。
「へへ......でもどうしてだろう。なんか、落ち着く」
「......そうかよ」
嬉しそうなヴェノルに微かに微笑み、腕を離すとそのままヴェノルの頬に両手を添えた。
「......それでも、本当に忘れちまったんだな。あの日の事さえも、お前は」
「あの日?」
「いや、忘れてくれ。それで、ウォックはお前の事、分かってるんだろう?」
「ウォック? 何が?」
「何がって、お前の力の事だよ」
ベルスの言葉に、ヴェノルは顔をキョトンとさせ、首を傾けた。
「力って、何? ウォックはいつも美味しいご飯作ってくれて、つまみ食いするといつも怒るんだ」
「いや、そうじゃなくてお前自身の事だよ」
「何言ってるのさ! 言ってる事が分からないよ。だって出会ってから力とか、そんな話一度もしてないもん。記憶が無い、くらいしか」
ヴェノルは頬を膨らませながら話すと、ベルスは目を見開き、言葉を詰まらせた。
「......成る程。アイツ自身も、気付いていないって訳か」
「ベルス? ふわぁ⁉︎」
戸惑うヴェノルを抱き上げ再度ベッドに寝かせ、布団を被せるとベルスは扉に手をかけ、ヴェノルの方へ振り返った。
「俺が戻ってくるまで絶対寝てろよ。直ぐ戻るから」
「え? ちょ、待って」
(これは、思っていたよりも厄介なことになりそうだ)
ベルスは慌ただしく部屋を出て、即座にヴェイトの私室へ向かった。
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