ひだまりを求めて

空野セピ

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第六章 国家軍組織ベルトア

待たされる二人

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 マッドとティミーは、部屋に入ってきたベルスを見るなり顔を引きつらせる。

「げっ、不良軍医だ!」
「あぁ!? 誰が不良軍医だって?」

 暴言を吐きつつもベルスはウォックの姿を見付けると、そのままウォックの元へ行き、物凄い勢いでウォックの肩を掴んだ。

「ど、どうしたベルス。一体何が」
「良いから、黙ってついて来い。それと、あのガキ二人は絶対この部屋から出すな」

 ベルスは小声で耳打ちすると、そのままウォックを連れ出し、部屋の外へ出ようとした。
 彼のただならぬ雰囲気に、ウォックは振り返り、マッドとティミーに強い視線を向ける。

「悪いが呼び出された。二人はここで待っていてくれるか? ヴェイト大佐も戻ってくるかもしれない」
「えぇっ、俺達二人だけかよ」
「何が有ったの?」

 不安そうに聞くマッドとティミーに対して、ベルスは冷ややかな視線を送り、何処か苛ついた態度で壁を殴り小さく舌打ちをした。

「ガキは大人しくしてろ。着いて来たらブッ殺すからな」
「なっ、そんな言い方ねぇだろ!」

 ベルスの言葉に思わずカッとなり、マッドは剣を抜こうとするが、すかさずウォックに止められ、抜刀する事は叶わなかった。
 マッドはウォックを睨みつけるも、逆に睨み返されてしまい、言葉を詰まらせる。

「何だよウォック」
「マッド、落ち着け。相手は軍医だ。ベルスはそれなりに地位も高い。ここでもし戦いになって傷でも付けたら、下手したら処刑されるぞ」
「なっ、処刑って」
「ここは軍だ。有事でも無いのに地位の高い者を傷付けるとそれ相応の処罰を受ける事になる。それに、ヴェイト大佐が戻ってきて誰も居なかったら困るだろう」
「そりゃ、そうだけどよ......」

 何処か納得がいかないマッドに、ティミーは優しくマッドの肩に手を添えた。

「マッド、待ってようよ。きっとヴェノルの容体も安定していると思うし」
「あー、あのガキならもう元気だぜ。ウォック、早く来い」
「良かった、ヴェノルは無事なんだな。じゃあ二人共、行ってくるから待っていてくれ」
「分かった。いってらっしゃい」
「早く帰って来いよな」

 ベルスに急かされ、ウォックはベルスと共に部屋を出ると、静寂が流れた。
 広い部屋にマッドとティミーが残され、二人は顔を見合わせる。

「あの人、ベルスさん、だっけ? ウォックに何の用が有ったんだろうね?」
「知るかよ、あんな不良軍医。本当にヴェノルは大丈夫なんだろうな」
「う、腕はヴェイトさんと同じ位って言っていたけど......あんな感じの人だからちょっと心配だよね」

 大丈夫、とは言っていたが、あの口の悪さと態度にかなり不安は残る。
 気分を変えようとティミーは部屋を見回した。
 
「うわぁ、本が沢山有るね」
「本当だな。医学書とかだろきっと。医者なんだろうしな」
「そうだね。どれも分厚い本だなぁ」

 部屋には複数の本棚があり、ティミーは興味深そうに適当な本棚から本を取り、表紙を見る。
 薬の調合書だろうか、表紙を捲っても何が書いてあるのかさっぱりで、首を傾げた。

「難しくて良く分からないなぁ」
「医学に関しては俺もなぁ。キノコ図鑑とかねぇの?」
「う、う~ん、ありそうで無さそうだよ」

 ティミーは探してみるも、どれも医学書や調合書ばかりでマッドのお目当のキノコ図鑑は見当たらない様だ。
 マッドも適当に本を取り出しペラペラと捲り、つまらなさそうに眺めていると、ふとあるページで手が止まった。
 目を見開き、いつの間にか呼吸を止めていた様で深く息を吐く。
 しかし、その呼吸は何処か途切れ途切れになり、額に汗が滲み出た。

「この、花は......」

 開いたページには、赤い花が描かれていたが、マッドは自分の呼吸が少し乱れていくのを感じた。
 若干、過呼吸気味になっている。
 早く本を閉じて戻せば良いのに、身体が思うように動かない。

(早く、早く戻さねぇと。思い出したくねぇ。嫌だ、嫌だ......早く、元の場所に)

 一度落ち着こうと深呼吸しようとした瞬間、ドアが開かれ、その音でマッドは思わず本を落としてしまった。

「すまない、待たせたな」

 部屋に入って来たのはヴェイトの様で、ティミーは安心したと同時に、彼の服装が先程と変わっていて驚いた。
 
「ヴェイトさん、おかえりなさい。あれ、服装が」
「あぁ。これは軍服だ。大総統に会う時には軍服を着ないといけなくてね。交渉は成立したから、これから準備して大総統の所に......」

 途中まで話して、ヴェイトはその口を止めた。
 本棚に向かって呆然と突っ立っているマッドが視界に入り、不思議そうに首を傾げながらマッドに近付き、肩を叩く。

「おい、何してるんだ?」
「えっ、あっ」

 ヴェイトはマッドの足元に落ちていた本を拾うと、一瞬表紙を見て直ぐに本に付いたホコリを払い、元の位置に戻した。
 呆然とするマッドに、ヴェイトは軽く頬を両手で叩く。
 パチン、と良い音が鳴り響いた。

「いってぇ! いきなり何すんだよ!」
「そんな青白い顔してどうしたんだよ。調合書に載っていた魔物の内臓でも見て気持ち悪くなったか?」

 ヴェイトは少し心配そうにマッドの顔を覗き込むが、マッドは慌てて首を振り、大袈裟に息を吐いた。

「ちげーよ! そんなんで俺がビビるかよ! 寧ろ何書いてあるか分からなかったぜ」
「ま、素人には分からないだろうな。それより、大総統がお前達に会いたいと言っている。準備が出来次第、大総統の所に行くが、ウォックはどうした?」
「ウォックなら、ベルスさんに呼ばれて出て行きましたよ。ベルスさん、何か凄い気迫でしたけど」

 ティミーは少し不安そうに話すと、ヴェイトは小さく溜息を吐きながら頭を押さえた。

「全くアイツは......。すまないな、愛想の無い奴で」
「い、いえ、ま、まぁ......はい」
「あのベルスって奴、大丈夫なのかよ。本当に医者なんだろうな?」

 マッドが疑わしそうに問いかけると、ヴェイトは苦笑いしながら口を開いた。

「口は悪いが、アイツは立派な軍医だよ。ここにある医学書、調合書と俺の医学の全てを叩き込ませた。頭も良いし腕も確かだし、国家特別指定軍医でもあるんだぞ」
「こ、ここにある本全部!?」

 マッドは部屋を見回し、唖然とする。
 千冊以上は有りそうな本の量に、頭がクラクラする感覚がした。

「人は見かけによらないって事ですね......」
「ま、性格に難有り、だけどな。それなら、ウォックが来るまで待つとしようか。少し、話もしたいし」

 ヴェイトは自分の椅子に座ると、マッドとティミーに席に座る様に促した。

「少し聞かせてくれないか。君達の今までの経緯を」
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