ひだまりを求めて

空野セピ

文字の大きさ
68 / 108
第六章 国家軍組織ベルトア

交渉

しおりを挟む
 ヴェイトに案内され、先程までいた敷地内から少し離れた場所に、大きな建物がそびえ立つ。
 ベルトア軍の敷地内にある軍病院で、軍人以外にも一般人の外来も受け付けているようで、それなりに人がいるようだ。
 入口に入り暫く奥へ進み、ある部屋の前に止まり扉を開けると、ヴェイトはマッド達を招き入れる。
 どうやらヴェイトの私室の様で、立派な机とソファー、そして大量の本が収納された本棚が視界に入った。

「どうぞ。ここが俺の私室だ」
「はぁ~、すげぇ、本がいっぱいだな」

 その本の多さにマッドは思わずポツリと呟き、その横でティミーがマッドの脇腹に軽く肘で突いた。

「マッド、失礼でしょ」
「わ、わりぃ」
「はは、構わないよ。殆どが医学書や調合書だ」

 ヴェイトは苦笑いしながら話すと、マッド達にソファーに座る様に促した。
 マッド達が座ったのを確認すると、ヴェイトも椅子に座り、軽く息を吐く。

「改めて自己紹介だな。俺の名前はヴェイト・アリュウ。ベルトア軍本部所属医療班の隊長だ。地位は大佐。それなりに権力も持っている。ウォックとは昔からの知り合いなんだ」
「あっ、と。俺はマッド・クラーデン。ルグート村から来たぜ」
「私はティミー・マルデスと申します。マッドと同じく、ルグート村から来ました」

 マッドとティミーが自己紹介をすると、ヴェイトは二人の顔をマジマジと見ながら沈黙した。
 その様子に、マッドは少し不信感を覚える。

「おい、何だよ人の事ジロジロ見て」
「あぁ、すまない。ルグート村出身、か。確かルグート村は、少し前に水害にあったと聞いていたが」


 ヴェイトの言葉に、マッドとティミーは何とも言えない表情になり、軽く拳を握った。

「その通りだよ。俺達の村は水害に襲われた。レンって奴の仕業でな」
「レン?」
「待てマッド。ここから先は俺が話す」

 村で起こった出来事を話そうとしたが、ウォックに止められ、マッドは大人しく言うことを聞き、背中に体重をかけソファーに身を沈めた。

「先程マッドも話していましたが、ルグート村で水害が発生したようです。その数日後に、ルネスでも水害が発生しています。ルネスに関しては、町がほぼ壊滅的な状態です」
「ほう、立て続けに水害が起こっていると。それで、それとベルトアに来た理由は関係あるのか?」

 ヴェイトが問いかけると、ウォックは真面目な表情でヴェイトを見据えた。

「ここ数年で、異常現象や異常気象が少なからず発生しているのはご存知ですよね? 万が一の事を考え、ガーネの様子を見に行きたいのですが」

 ガーネ、と言う言葉に、ヴェイトはピクリと眉を動かした。
 一瞬空気が凍りついた様な、そんな雰囲気にマッドとティミーは無意識に表情を強張らせる。

「ガーネ、か。またどうしていきなりそんな」
「村を壊滅、半壊させる程の水害が発生するのは、どう考えても可笑しい。昔、ガーネが暴走を起こした時にも似たような事が起きていたと父さん達から聞いた事が有ります。直感でしか無いですが、もしかしたらガーネに再び何か異常が発生したのでは無いかと予想して」

 ウォックが話すと、ヴェイトは何とも言えない表情をした。
 ウォックは表情を変えずに、ただジッとヴェイトを見詰める。

「現在、ガーネが封印されている海底都市を管理しているのばベルトア軍。その場所に行くにもベルトア軍の許可が降りないと入る事すら許されません。どうか、許可を頂けないでしょうか」

 ウォックの言葉に、ヴェイトは瞳を閉じ小さく息を吐く。

「直感で不安だからと、そんな理由だけで海底都市に行かせるわけにはいかないな。あの周辺は魔物の巣窟にもなっている。それに、万が一封印が解けたらどうするつもりだ? ガーネはこの星の核とも言われているんだぞ」
「核? なんだそれ」

 マッドが話を割って問いかけると、ヴェイトは難しい表情をしながら口を開いた。

「ガーネについては、そこまで詳しい事が解明されていないんだ。だが、フォルンが誕生した時に出来たと言われている。我々は、星の核と呼んでいるが、詳しい事は本当に分からないんだ。しかし、最近海底都市周辺で何かしらの異常が発生しているとの報告も受けている。少なからず、無関係、と言う訳では無さそうだが」
「だったら! その海底都市って所に行かせてくれよ! 俺達の村だって水害の被害にあってんだぞ! また水害が発生したらどうすんだよ!」

 思わずマッドは立ち上がり食いかかってしまうも、ウォックに止められ、再びソファーに座った。
 しかし、不安そうな表情はティミーもしていて、胸に手を当てながらヴェイトを見詰め、口を開いた。

「ヴェイトさん、お願いします。私も原因を突き止めたいんです。私も、これ以上村や、他の町があんな状態になるのを見たくないです」

 ティミーが泣きそうになりながら言葉を発する姿を見ると、ヴェイトは俯き、小さく唇を噛んだ。

「......。俺だけの判断で海底都市に行かせる許可は出せない。この案件は、大総統に話を通して許可が降りないと駄目だ」
「大総統?」
「ベルトア軍の最高司令官にあたる人だ。大総統に話を持ちかけてみるから、暫く待っていてくれないか」
「って事は、行かせてくれるって事か?」

 マッドが食い入る様な表情で問いかけると、ヴェイトは少し困った様な表情をしてマッドを落ち着かせる様に促しながら口を開いた。

「まだ何とも言えないな。海底都市はベルトア軍の管轄する場所だ。そのような所に、一般人が入れるかどうかまでは何とも言えない。交渉はしてみるが、少し時間を貰えるか」
「分かりました。宜しくお願いします」

 ヴェイトの言葉にウォックは素直に御礼を言うと、奥の部屋に向かい、ドアノブに手を掛けた。

「早速準備してくるから、暫くの間、ここで待っていてくれるか? もしかしたらベルスから何か連絡が来るかもしれないから、その時はウォック、上手くやってくれ」
「はい。其方も、宜しくお願いします」

 ヴェイトは奥の部屋へ入ると、マッドとティミーは力を抜き、ソファーに身を沈めた。
 少し張り詰めた空気から解放され、深く深呼吸を繰り返す。

「はぁ~。何か空気が重苦しかったぜ」
「何だったんだろうね? 海底都市、っていう所がそんなに危ない所なのかな?」

 原因は良く分からないが、重苦しい空気が無くなり、マッドとティミーの表情も明るくなる。
 ウォックは小さく息を吐き窓の外を見ようと立ち上がった瞬間、物凄い勢いでドアが開かれた。
 いや、蹴破られ、と言った方が良い。

「おい、ウォックはいるか?」

 ドアが開かれたと同時にズカズカと部屋に入り込んで来た人物に、マッドとティミーは再び表情を強張らせた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...