ひだまりを求めて

空野セピ

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第七章 届かない声

それぞれの準備

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 プリムの緊急要請を受け、ベルトア軍大総統ラーバの命令により、マッド達は隣町であるサーヴァという町に向かう為、ヴェイトが武器の準備に取り掛かる間に、それぞれ急いで持ち物や武器をチェックしていた。
 隣町とは言え、またあの砂漠を越えていくのかと思うと、マッドは急に気が重くなるのを感じた。

「はぁ~。ベルトアって本当暑いよな。町に着く前に暑さでやられそうだぜ」
「砂漠地帯だし、仕方ないよ。それに、急がないと町の人達が魔物に襲われちゃうし、早く行かなきゃ」

 顔をしかめながら剣を念入りにチェックしているマッドの横で、ティミーは薬草をまとめつつ軽くマッドの腕を肘で突いた。
 決して嫌がっている訳では無いのは分かるが、確かにあの砂漠を越えるのはかなり酷だ。
 その横で、ヴェノルはのんびりとソファーに座り、マッド達の様子をジッと見詰めていた。

「ねぇねぇ、これから隣町に行くんだよね? 美味しい食べ物あるかなぁ?」
「お前、大総統の話聞いてたか? これから魔物の討伐に行くんだよ俺達は!」
「魔物? 食べられるのかな? 猪の魔物は食べられたよね!」
「何でもかんでも食い物だと認識するんじゃねぇよお前は! 良いから剣の手入れでもしろ!」

 呑気に寛ぐヴェノルにマッドは苛立ちを感じるも、ティミーは不安そうにヴェノルに視線を向けた。

「ヴェノル、本当に大丈夫? 倒れたばかりなんだから無理は駄目だよ?」
「大丈夫だって~! ほら、こんなにピンピンしてるよ!」

 そう言うとヴェノルはソファーで飛び跳ね、その勢いでウォックに飛び掛かった。
 ヌンチャクの手入れをしていたウォックはそのままヴェノルに飛び掛かられ、床に思い切り身体を打ち付けてしまう。
 その様子を見ていたマッドとティミーは、一気にヴェノルとウォックから距離を取った。

「へへ、ベルスとウォックのお陰で元気になったんだもん~! 恩返ししなきゃ!」
「恩返しの前に、てめぇはさっさと自分の準備を済ませろ!」

 ウォックは怒鳴ると、手入れ仕立てのヌンチャクで思い切りヴェノルの頭を殴りつける。
 鈍い音と同時に、ヴェノルは吹っ飛ばされて再びソファーに沈み込んだ。

「いったぁぁあ~い! ウォックの意地悪!」
「意地悪もクソもあるかこの童顔大食い野郎が!」

 涙目で睨み付けるヴェノルと不機嫌そうに立ち上がり服に着いた埃を払い落とすウォックに、マッドとティミーは何処となく、少し前にも似たような事があった様な......と思い返していた。

「こらこら、出発前に怪我人を出してどうする」

 四人が準備のやりとりしていると、ドアが開かれ、軍服と大型銃を装備したヴェイトが呆れた表情をしながら部屋の中に入って来た。
 先程も軍服ではあったが、白衣の姿とは違い、当たり前だが更に軍人らしい身なりのヴェイトを見るなり、マッドは自然と深い溜息が出た。

「は~。本当にあんた軍人なんだな」
「本当にとは何だ、失礼な奴だな」
「でも、お医者さんなんですよね? こういった戦いにも参加されるんですか?」

 ティミーが尋ねると、ヴェイトは窓の外を見て小さく息を吐いた。

「軍医であると同時に、軍人でもある。軍の命令は絶対だからな」
「そうなんですね。でも、何だかちょっと雰囲気変わりますね。白衣と軍服とだと、こんなに違うものなんですね」

 ティミーはマジマジとヴェイトに視線を向けていると、不意にマッドに腕を掴まれてそのままマッドの方へと引っ張られた。

「取り敢えず! 俺達は大体準備出来た。いつでも行けるぜ」
「わ、私も大丈夫です! 精一杯頑張ります」

 マッドとティミーの返事に満足したのか、ヴェイトはヴェノルとウォックに視線を向ける。

「で、仲の良いお前達は?」
「ヴェイト大佐。いい加減な事は言わないで頂けますか」
「何だ、実質保護者だろうソイツの」

 ヴェイトは苦笑いしながらヴェノルを見ると、ヴェノルはキョトンとした表情で首を傾げた。

「保護者って、なぁに?」
「子守役みたいなものだよ。ヴェノル、お前は病み上がりなんだから無理はしなくても良いんだそ?」
「ぶー! 嫌だ! 俺はベルスとウォックに恩返しするんだから!」
「はいはい、分かった分かった」

 もう何を言っても無駄だと察したウォックはヴェノルの返事を受け流し、ヌンチャクを足のベルトに装着させるとヴェイトに視線を向けた。

「俺達は準備万全です。急いでサーヴァの町へ向かいましょう」
「そうだな。着いて来い。プリムが描いてくれた移動陽術の式陣がある」

 ヴェイトはマッド達を引き連れ、本部の中央部へ向かった。



 暫く歩いていると、長い廊下の先に一つの部屋があり、ヴェイトに導かれるままにその部屋へ入った。

「皆さん! お待ちしてました!」

 部屋に入るとプリムが立っていて、ヴェイトに向かって何処か安心した表情を見せる。
 その部屋はいくつもの魔法陣があり、赤く光っていたり黄色く光っていたり、様々な色を放ちながら淡く光っている。
 マッドとティミー、ヴェノルは興味津々になりながらその魔法陣を食いつく様に見詰めた。

「うわっ!? 何だここ!」
「凄い、魔法陣がいっぱいある」

 初めて見るものに目をキラキラさせていると、ヴェノルが勢いよくマッドとティミーの間を走り抜け、一つの魔法陣目掛けて飛び掛かろうとした。

「あー! 待て待てストップ!」
「うぎゃ!」

 ヴェイトにフードを掴まれて慌てて止められ、ヴェノルは首根っこを掴まれた猫の如くプラプラしていた。
 ヴェイトは大きく溜息を吐き、ヴェノルはウォックに思い切り頬を叩かれていた。

「お前はいつもいつもそうやって!!」
「何だよー! キラキラしてて綺麗だったんだもん!」
「綺麗だったとかじゃない! 良いか、これは移動陽術の式陣だ。迂闊に足を入れれば別の場所に飛ばされるぞ」

 ウォックの説明に、マッドとティミーは首を傾げた。

「移動陽術? 式陣? 何だそれ?」
「簡単に言うと、この魔法陣の先に町があるんんです。一つ一つの魔法陣が別の場所に繋がっていて、この魔法陣を用いて隣町サーヴァに行けるんですよ」
 
 空かさずプリムが説明すると、マッドとティミーの表情は明るくなった。

「え! じゃあ、砂漠を歩かなくても行けるんですか?」
「そうです。辿り着くまでにクタクタになったりしません。便利でしょう?」
「はいっ! 本当、もう暑かったんですよ砂漠地帯」

 ティミーはプリムの手を握り、ブンブンと握手をする。
 ユーラス大陸の人間には、この砂漠の暑さはかなり堪えるようだ。

「あの白く光る魔法陣に乗れば、隣町サーヴァに行けます。ベルス中将は先に行かれました。急ぎましょう!」

 そう言うとプリムはヴェイトに敬礼して、先に魔法陣の中に入り込む。
 すると身体がみるみる消え、一瞬にしてプリムの姿は消えてしまった。

「消えたぞ!?」
「もう隣町サーヴァに着いている状態だ。俺達も行くぞ。この魔法陣に体全体を入れれば良い。怖がらなくて大丈夫だ。直ぐに着く」
「わ、分かった......緊張するな」
 
 ヴェイトに言われるがままに、マッド達は恐る恐る魔法陣の上に乗る。
 すると身体が透けていくのが分かり、光と同時に気が遠くなるような感覚が身体を包み込んだ。
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