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第七章 届かない声
賑やかな軍人達
しおりを挟むマッド達とは別に、ベルス側に向かうヴェノルとプリム。
ヴェノルはプリムの手を掴み物凄いスピードで町中を走り抜けていく。
しかし、あまりのスピードにプリムは思わず足を止めようとするも、ヴェノルはそれすらも許してくれず、更に速度を上げていった。
「ちょ、ヴェノルさんっ! 速すぎますよっ!」
「おねーさんが遅いんだよ! えーっと、名前なんだっけ?」
「プリム・ミルゾンです! あぁぁぁあ待って下さい! 足がっ、疲れて!」
「駄目だよベルスが遠くに行っちゃう!」
あまりのヴェノルの速さに町の人は思わずヴェノル達を二度見した。
こんなに早く走れる子供がいるのだろうか。
そんな関心の目を向けられている事を気にも止めず、ヴェノルは更にスピードを上げていく。
すると、遠くに青緑の髪の軍人が走って行く姿を見つけ、ヴェノルは急に方向転換をした。
遠心力に耐えきれずプリムは吹っ飛ばされそうになりつつも、何とか踏ん張り、思わずヴェノルを睨みつけた。
「ヴェノルさんっ! さっきから行動が激しすぎって、あぁぁぁぁあ~!! 待って、そんな急に走らないで下さ」
「いた~! ベルスー!!」
「あ?」
ベルスの姿を見つけたヴェノルは凄まじい勢いで、プリムの手を掴んだまま飛び上がり、ベルスの背中に向かって飛び掛かった。
プリムは身体が浮いた感覚に、一瞬何が起こったのか理解出来ず、頭が真っ白になる。
「えっ!? ちょっ、待っ、あぁぁあベルス中将! 避けてっ!」
「うぉぁあっ!?」
ドシン! と、物凄い音を立てて、ベルスは振り返った瞬間にヴェノルとプリムに押しつぶされてしまった。
ヴェノルはそのまま、ベルスの背中に顔を埋めて猫のようにスリスリと頭を擦り付ける。
「ベルス~! やったやった~! 追いついた~!」
「何なんだよテメェらは! 普通に来られねぇのか! 良いから退きやがれ!」
「あ、あの、ごめんなさいベルス中将。ほら、ヴェノルさんも早く退いて下さい」
「やーだー! 折角会えたのに~!」
プリムは何とかヴェノルの下から脱出するも、ヴェノルはベルスの背中に引っ付いたまま退こうとせず、そのままベルスにしがみつくように引っ付いた。
あまりのウザさに、ベルスは思い切り立ち上がり無理矢理ヴェノルを剥がそうとするも、そのまま背中にぶら下がるように張り付き、大きな子供をおんぶしている状態となってしまった。
「ぷっ......」
その様子に、プリムは思わず吹き出してしまい、慌てて口元を隠して視線を逸らす。
しかしその様子をベルスは見逃す筈も無く、そのままの状態でプリムに思い切り拳骨を喰らわせた。
「いったぁぁぁい!! 何するんですかベルス中将!」
「テメェ、今笑っただろ?」
「わ、笑ってませんよ」
「ベルス~! へへ、会えて良かったぁ~! あのねあのね! 髪の長いお兄さんがね! ベルスの所に行けって言っていたから来たの!」
「あぁ? ヴェイトにか。大方サソリの化け物を二手に分かれて潰せって事だろ?」
「す、凄い、よく分りましたね」
ベルスはヴェノルを無理矢理引き剥がし、軍服に付いた砂を払いながら答える。
ヴェイトの考えている事は大体把握していたのか、ニヤリと笑って北の方角を見据えた。
「サソリの化け物は北の大通り地点に向かっているとの情報を得た。ここから行けば五分もかからねぇで辿り着く。急ぐぞ、これ以上怪我人が増えて俺の仕事が増えるのはゴメンだからな」
「軍医なんですからそんな事言わないで下さい!」
「へっ、人間を助けるよりも暴れている方が気が楽だぜ。行くぞ、すぐ近くまで来ている」
軍医らしく無い言葉を吐きつつも、ベルスは北の方角に向かって走り出した。
ヴェノルとプリムもベルスに着いていき、三人は走るスピードを上げていく。
プリムは少し息を上げているが、ヴェノルは元気一杯に走り、まるでベルスと競争するかのように競り合った。
「ベルスも足速い~! ねぇねぇ、どっちが先に辿り着けるか競争しようよ!」
「馬鹿かテメェ! 遊びに来てるんじゃねぇんだよ! さっさとサソリの化け物を倒したら帰るんだっつーの!」
「ちょ、二人共、速い......」
ベルスとヴェノルは物凄いスピードで走り、プリムは遅れつつも何とか二人に追いつこうと全力を出そうとする。
しかしその瞬間、目の前で大きな爆発音と同時に粉塵が巻き上がり、プリムは慌てて立ち止まった。
「なっ、何っ!?」
プリムが見上げると、目の前には巨大なサソリが鋏を大きく振り上げながら此方に襲い掛かろうとしていた。
急に現れた巨大サソリに、プリムは思わず腰を抜かしてしまう。
(駄目っ、やられるっ──)
プリムが目を瞑ると同時に突風が吹き荒れ、辺りの粉塵が上空に吹き上げられた。
目を開くとベルスが目の前に立っていて、サソリに向けて手をかざしている光景が飛び込んだ。
「プリム、テメェ軍人ならもっとしっかり気を保て! こんな雑魚に腰抜かしてんじゃねぇよ!」
「ご、ごめんなさい、ベルス中将」
「テメェはこのまま結界でも張って大人しく見てな! コイツは俺一人で充分......」
ベルスが風の陽術を放とうとした瞬間、凄まじい勢いでサソリの身体を斬り付ける人物が視界に入り、ベルスは思わず顔を上げた。
「コイツ、固いなぁ!」
素早い動きで斬り付けていたのはヴェノルで、身軽い動きでベルスの横に飛び降りた。
ヴェノルの表情を見ると、先程までふざけていた表情とは一変し、真面目に敵を見据えている。
「お前、さっきまでのふざけた態度はどうした?」
「何それ? それより今はこのサソリを倒さないとでしょ!」
余りの変わりっぷりにベルスもプリムも唖然とするも、ヴェノルは気にも止めずに足元に魔法陣を描き、光属性の陽術を唱え始めた。
「デルタレイン!」
ヴェノルが叫ぶと、白い光の光線がサソリの尻尾に直撃し、尻尾はそのまま焼け飛び、サソリは大きな呻き声を出した。
耳を塞ぐような鳴き声にヴェノルとベルスは顔をしかめつつも、ベルスも負けじと詠唱する。
ベルスの足元に緑の魔法陣が浮かび上がり、辺りの風がベルスの身体に纏うように吹き荒れる。
「良い攻撃するじゃねぇか。俺も負けてられねぇな!」
ベルスはニヤリと笑うと、辺りを纏っていた風が鋭い刃となり、そのままサソリに向けて風の刃を放った。
「ガスティ・ロア!」
ベルスが叫ぶと、風の刃はサソリの身体を切り刻み、あっという間にバラバラになった。
紫色の液体が飛び散り、それを見たプリムは手をかざし、ベルスとヴェノルに向けて結界を貼り、二人に毒が降り注が無いように援護する。
結界にサソリの毒が当たると蒸発するかのように毒は消滅し、プリムは小さく息を吐いた。
「か、勝てた......」
「まー、楽勝だったなこんな雑魚。全然手応えねぇじゃん」
「やったぁ~! 勝利勝利~!」
手応えを感じられなかったベルスは不満そうに溜息を吐く横でヴェノルはぴょんぴょんと跳ね、ベルスに再び飛び付こうとするも流石に二度目は嫌だと感じたベルスによって思い切り地面に顔を打ち付けられた。
「いったぁぁぁあ~い!! 何するんだよベルス!」
ヴェノルは涙目になりながらもベルスを見上げ、頬をぷっくりと膨らまして抗議を訴える。
しかしベルスは鬱陶しそうに見下ろし、プリムに視線を送るとポイッと小型の銃を投げ渡した。
「二手に別れたって事は、倒したら合図を出すんだろ? さっさとそれを上空に撃て。直ぐあっちに合流するぞ」
「は、はい! 凄い、これならヴェイト大佐達が戦っているサソリも一撃ですね!」
「へっ、俺達が着いてる頃にはみんなやられてるかもしれねぇけどな」
ベルスはニヤッと笑いつつ、東の方角を見る。
ヴェイトとウォックがいるなら大丈夫だろうと確信しているが、皮肉を吐かずにはいられない性分だ。
プリムが合図を撃ったと同時に、ベルス達は東側へ向かった。
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