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序章
芸術家より憲兵団様へ
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憲兵団の全面捜査にも関わらず芸術家はその尻尾すら掴ませなかった。
ご丁寧に毎回各新聞社に対し、犯行予告を送り、
時には広場のど真ん中に作品を置いた。
そうして起こった事件は既に6件を超え、王都に恐怖を蔓延させた。
「実情、我々は常に芸術家の後手に回っている。」
赤特上騎士、特別強襲部副隊長のドレイク・モーガンはゆっくりと話し始める。
「奴の目撃情報も状況証拠も少ない。
これでは犯人を推定するのは無理だ。」
青特上騎士、参謀責任者ヴァイス・アードラーはクマのできた目を眠たげに擦った。
「だがこの前の事件など犯人が使ったティーカップが発見されたそうじゃないか、証拠は十分にあると思うのだが。」
赤特上騎士、重要人護衛部隊長アドラ・リモンは皮肉げにそう呟く。
「おおよそ証拠と呼べるものではない。
事実これまでの現場では10人以上の指紋が発見されたが、
そのどれもが1連の事件とは未関係であることが分かっている。」
と青特上騎士、情報統括長官グレイ・マクガフィンは眼鏡を磨きながら反論する。
「落ち着け落ち着け。我々は責任を押し付け合う為に特上騎士会議を開いている訳ではないだろう。」
赤特上騎士、特別強襲部隊長ヨシフ・スターリンは場を収めようとするが、
グレイとアドラはバチバチと火花を散らしているようだ。
「随分とお喋りだな。俺たちは芸術家について何も掴めてないと言うのに。」
青特上騎士、隠密作戦部長飯塚盈延の言葉を聞き、会議室にしばし沈黙が訪れた。
「ともかくだ、我々は方針をもう一度練り直さなくてはならない。」
最高司令官ドワイトは忙しなく手を組み直しながら言う。
「しかしこれでは時間が過ぎるだけです。」
ヴァイスは手元の資料に目を落とした。
「魔法を使った形跡もなく、指紋などの状況証拠は全てデタラメでした。
3日前に殺害されたテレシアン・マーミー夫人に至っては家の中で犯行が起こったのにも関わらず誰1人怪しい人物を目撃していないそうです。」
「俺のとこの諜報部にも何も情報はない。組織的な犯行の線は薄いだろう。」
盈延は茶を啜る。彼の濁った目は天井をぼうっと眺めている。
「、、、6件も起これば何かしら手掛かりが得られると思ったのだが。」
「得られたのは無残な芸術と奴の予告状兼近況報告だけでしたな」
とグレイをアドラが茶化すが彼の顔は少しも笑ってはいなかった。実際のところ焦っていたのである。殺人鬼の予告が届くたびに彼等は余裕とプライドを少しずつ、削ぎ落とされていくのだ。
「会議中失礼致します。新聞社にて彫刻家の新しい犯罪予告状が掲載されました。」
途端会議室内は殺気で包まれる。
怯える連絡員から写しを受け取るとドワイトが読む。
「新聞各社様
やあ芸術家だよ。私と同じ世界にいた人ならジャックザリッパーの方が分かりやすいかもしれないね。知っているかどうかはさておいて。
いつも通り私が思っていることを書いていくことにするよ。
まず私にとって死とは自己の喪失だ。
そもそもとしてこの世界自体が幻のようなものだ。過去に我々が存在したという明確な根拠は存在しない。我々の記憶も血も肉さえも他人によって作られたものかもしれない、私が生まれたのはほんのついさっきで、存在しない記憶が植え付けられているのかもしれない。この世界が時計のように規則正しく動いているとは限らない。つまり自己を否定した瞬間に自分を肯定するものが存在しなくなり我々は既に1個体として死んでいると言える。しかし我々の世界には様々な禁忌が存在しそれによって死なざるを得ない人間は少なくないだろう。私の芸術は自己の象徴であり、自由の渇望であり、抑圧からの脱却の意思でもある。全ての人間に平等を。それがなる日まで私は社会に反抗するのみである。私の殺しはまだまだ終わらない。
と、主張はここ迄にして近況報告といこうか。この前の芸術は如何だったかな?あれは自分自身中々良い出来だと思ってね。何しろ召使にもマクロン・マーミーにも彼の子供達にもそして殺したマーミー夫人にすら少しも感づかれることなくやってのけたからね。実際少し焦っていたよ。いつ召使がやって来るか本当にわからなかったからね。今回は自然体がテーマだったんだ。彼女が息絶えたときのあのポージングから着想を得てね。まさかソファーに座り込むとは。その場の着想だったから設計図がぐちゃぐちゃしているけども気にしないでくれ。あの作品は私が元いた世界の象徴だよ。金持ちが他人の血肉を踏んで贅沢をする。(今回は彼女自身の血肉だけどね。)全くヘドの出るような、それでも愛すべき世界だ。では次の芸術も楽しんでくれたまえ。早いうちに計画を練っておくよ。
親愛なる芸術家或いはジャックザリッパー」
「王都の警備兵を倍、いや三倍に増やせ!外回りの連中もだ!」
グレイの声を皮切りに特上級騎士達はマントを翻した。
次の芸術が始まる。
ご丁寧に毎回各新聞社に対し、犯行予告を送り、
時には広場のど真ん中に作品を置いた。
そうして起こった事件は既に6件を超え、王都に恐怖を蔓延させた。
「実情、我々は常に芸術家の後手に回っている。」
赤特上騎士、特別強襲部副隊長のドレイク・モーガンはゆっくりと話し始める。
「奴の目撃情報も状況証拠も少ない。
これでは犯人を推定するのは無理だ。」
青特上騎士、参謀責任者ヴァイス・アードラーはクマのできた目を眠たげに擦った。
「だがこの前の事件など犯人が使ったティーカップが発見されたそうじゃないか、証拠は十分にあると思うのだが。」
赤特上騎士、重要人護衛部隊長アドラ・リモンは皮肉げにそう呟く。
「おおよそ証拠と呼べるものではない。
事実これまでの現場では10人以上の指紋が発見されたが、
そのどれもが1連の事件とは未関係であることが分かっている。」
と青特上騎士、情報統括長官グレイ・マクガフィンは眼鏡を磨きながら反論する。
「落ち着け落ち着け。我々は責任を押し付け合う為に特上騎士会議を開いている訳ではないだろう。」
赤特上騎士、特別強襲部隊長ヨシフ・スターリンは場を収めようとするが、
グレイとアドラはバチバチと火花を散らしているようだ。
「随分とお喋りだな。俺たちは芸術家について何も掴めてないと言うのに。」
青特上騎士、隠密作戦部長飯塚盈延の言葉を聞き、会議室にしばし沈黙が訪れた。
「ともかくだ、我々は方針をもう一度練り直さなくてはならない。」
最高司令官ドワイトは忙しなく手を組み直しながら言う。
「しかしこれでは時間が過ぎるだけです。」
ヴァイスは手元の資料に目を落とした。
「魔法を使った形跡もなく、指紋などの状況証拠は全てデタラメでした。
3日前に殺害されたテレシアン・マーミー夫人に至っては家の中で犯行が起こったのにも関わらず誰1人怪しい人物を目撃していないそうです。」
「俺のとこの諜報部にも何も情報はない。組織的な犯行の線は薄いだろう。」
盈延は茶を啜る。彼の濁った目は天井をぼうっと眺めている。
「、、、6件も起これば何かしら手掛かりが得られると思ったのだが。」
「得られたのは無残な芸術と奴の予告状兼近況報告だけでしたな」
とグレイをアドラが茶化すが彼の顔は少しも笑ってはいなかった。実際のところ焦っていたのである。殺人鬼の予告が届くたびに彼等は余裕とプライドを少しずつ、削ぎ落とされていくのだ。
「会議中失礼致します。新聞社にて彫刻家の新しい犯罪予告状が掲載されました。」
途端会議室内は殺気で包まれる。
怯える連絡員から写しを受け取るとドワイトが読む。
「新聞各社様
やあ芸術家だよ。私と同じ世界にいた人ならジャックザリッパーの方が分かりやすいかもしれないね。知っているかどうかはさておいて。
いつも通り私が思っていることを書いていくことにするよ。
まず私にとって死とは自己の喪失だ。
そもそもとしてこの世界自体が幻のようなものだ。過去に我々が存在したという明確な根拠は存在しない。我々の記憶も血も肉さえも他人によって作られたものかもしれない、私が生まれたのはほんのついさっきで、存在しない記憶が植え付けられているのかもしれない。この世界が時計のように規則正しく動いているとは限らない。つまり自己を否定した瞬間に自分を肯定するものが存在しなくなり我々は既に1個体として死んでいると言える。しかし我々の世界には様々な禁忌が存在しそれによって死なざるを得ない人間は少なくないだろう。私の芸術は自己の象徴であり、自由の渇望であり、抑圧からの脱却の意思でもある。全ての人間に平等を。それがなる日まで私は社会に反抗するのみである。私の殺しはまだまだ終わらない。
と、主張はここ迄にして近況報告といこうか。この前の芸術は如何だったかな?あれは自分自身中々良い出来だと思ってね。何しろ召使にもマクロン・マーミーにも彼の子供達にもそして殺したマーミー夫人にすら少しも感づかれることなくやってのけたからね。実際少し焦っていたよ。いつ召使がやって来るか本当にわからなかったからね。今回は自然体がテーマだったんだ。彼女が息絶えたときのあのポージングから着想を得てね。まさかソファーに座り込むとは。その場の着想だったから設計図がぐちゃぐちゃしているけども気にしないでくれ。あの作品は私が元いた世界の象徴だよ。金持ちが他人の血肉を踏んで贅沢をする。(今回は彼女自身の血肉だけどね。)全くヘドの出るような、それでも愛すべき世界だ。では次の芸術も楽しんでくれたまえ。早いうちに計画を練っておくよ。
親愛なる芸術家或いはジャックザリッパー」
「王都の警備兵を倍、いや三倍に増やせ!外回りの連中もだ!」
グレイの声を皮切りに特上級騎士達はマントを翻した。
次の芸術が始まる。
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