私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき

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6 アラン視点

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 領地の屋敷に呼び戻され、そこで聞かされた話は、驚天動地の衝撃をアランに与えた。父の前だというのに言葉も表情も普段のようにうまく繕うことができず、狼狽をあらわにしてしまった。信じられなかった。まさか、メアリとの婚約が純粋に政略的なものだったなんて。メアリの望みではなかったなんて。

──アランはずっと、メアリが自分との婚約を望んだという、その事実を心の支えにしていたというのに。

 当時12歳のメアリに初めて会った時、滑らかな栗色の髪と、同色の潤んだ瞳に一瞬で目を奪われた。
 自分より2歳年下のとても可愛らしい少女。彼女は人見知りなのか挨拶もおぼつかず顔を真っ赤にして固まっていたが、アレンが彼女に庭を案内したり、色々と話したりしているうちに段々と緊張を解いてくれた。どうやらアランの容姿は女性に好かれるものらしく、こうした反応は珍しいものではなかったし、対応にも慣れていた。
 庭の薔薇を眺めながら二人でお茶をした。アランが言った軽い冗談にメアリがにこっと笑う。ふと、彼女の茶色の瞳は髪色よりもほんの少しだけ色素が薄いこと、光が差すと金色に輝くことに気づく。
 その瞬間、アランは恋というものを唐突に理解した。
 アランは彼女に心を囚われてしまった。

 けれども、アランは恋に溺れるわけにはいかない。その時すでに、伯爵家の経済事情が芳しくないことは両親や屋敷の様子から察していた。息子である自分が愚かな行動で伯爵家に損害を与えるわけにはいかなかった。
 メアリは危険だと思った。一緒にいると、自分が自分でなくなりそうになる。彼女のためならなんだってする、馬鹿な男に成り下がってしまいそうな、そんな気がするのだ。
 だからアランは、どれだけメアリの笑顔が可愛かろうと、夢中になりすぎないようにと壁を作り、必死に自分を律していた。この婚約が伯爵領の支援を盾にして叶えられた彼女のわがままであったと父に聞いてからは、精神的に彼女に屈服するのは危険だという確信がさらに強くなった。
 婚約者として誠実であろうとしていたし、贈り物をしたり、失礼ではない程度に交流を図ってはいたが、「仲の良い婚約者」とは言い難い関係であったと自覚はしている。
 途中までは、それでうまくやれていた。
 けれどメアリが学園に入学してからアランの苦悩が始まったのだ。

 メアリの魅力は多くの人間を惹きつけた。当然ながら、彼女に引き寄せられた人間の中には男子生徒も含まれる。
 学園での彼女は、アランという婚約者がありながら多くの男子生徒に囲まれて悪びれもせず、それどころかアランの前では見せたことのない無防備な笑みを浮かべて楽しそうにしていた。アランがどんな気持ちでその光景を眺めているかなど、きっと気にもかけていないのだろう。彼女を他の男から引き剥がしたいという衝動を歯を食いしばって抑えていることなど、知りもしないのだろう。

 それでも。どれだけ彼女が美しく人の心を惑わしても、信奉者を抱えていても、婚姻を望んだのは自分とだと思っていた。「彼女が自分を望んだ」と、そう思うことで自分を保つことができた。堂々と彼女の婚約者として立っていられた。
 けれど結局それは自分の勘違いで、しかも彼女を貶していたところを聞かれてしまった。誠実な婚約者であろうと努めていたつもりだし、彼女を悪く言ったことはそれまで一度としてなかった。なのに、よりによってつい友人に愚痴をこぼしたその瞬間に、ちょうど彼女が居合わせていただなんて。
 メアリに好かれてもなかった上に、これまで義務的な関わりしかもたずろくに関係性も築いてこなかった。
 自分は彼女を引き止めるものなど何も持たない。

 婚約解消になる覚悟はしておくように、と父には言われた。伯爵家としては、領地の経営状態が持ち直した今、婚約が解消になること自体は特に問題ではないのかもしれない。 
 こんなことになるならもっと彼女を見つめて、言葉を交わして、多くの時間を共に過ごせばよかった。何を頑なになっていたのだろうか。こんな風に後悔するくらいなら恋に溺れて醜態をさらしたとしてもそちらの方がよほどよかった。
 もう、彼女と自分の人生が交わることは二度とないのだろうか。
 久々に帰ってきた伯爵家の自室で、アランは一人ぼんやりと部屋の壁を見つめていた。
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