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その日寮に帰ってから、メアリは父に向けて手紙を書いた。もちろん聞いた話を全て正直に書いたりはせず、婚約が結ばれた経緯について何か誤解がありそうだということをやんわり知らせる内容にとどめた。
けれど、一週間後にきた父からの返答は、私が書かなかった事情まで見通したかのようなものだった。
まず、父が伯爵家に確認したところによると、アランの誤解の原因は伯爵家当主、つまりアランの父にあったらしい。
伯爵はアランの婚約を整えた後、当人にそのことを伝えたそうだ。するとアランはこの婚約にはどういう意図があるのかと尋ねた。きっと賢いアランのことだから、当時ぼけーっと生きていたメアリと違って、家の利益や自分の立ち位置などをすでに意識しており、しっかり把握しようとしていたのだろう。
そこで、伯爵は考えたそうだ。婚約の理由は伯爵家の財政難ではあるものの、それを正直に伝えて「家のために売られた」と悲しむことになってはあまりに不憫だ。自分の立場に引け目を感じて欲しくはない。それゆえに、こう伝えてしまった。「婚約は、相手の令嬢の強い希望によって結ばれたものだ」と。のちに本当のことを伝えたものの、なぜか領地の支援を盾に婚約を強いられたかのように曲解されて受け取られてしまっていた。
ここまで読んだだけでも父の静かな怒りが伝わってきた。父と伯爵とは学生時代の友人で、爵位は違えど気の置けない仲であるらしいが、伯爵の嘘によって娘がまるで悪役のごとく扱われたことは腹に据えかねたのだろう。
そして、父は手紙の最後にこのように書いていた。
伯爵家の立て直しは既にすんでいる。また、伯爵家と男爵家とのビジネス面での提携については今後も継続していくことで話がついており、婚約を解消することによる男爵家へのデメリットはほぼないと言っていい。仮に婚約を解消したとしても好条件の男を次の相手として見つけてくるので、その点についても心配しなくていい。婚約者との今の婚約を継続したいかどうか自分で考えて決めるように、と。
「なんてこと……」
手紙を読み終えて、暫し呆然とした。
まさか婚約解消にまで話が発展するとは思わなかったのだ。父は婚約者がメアリの愚痴を言っていたことは知らないはずだ。書いていないのだから。しかしメアリの手紙から伝わってくるニュアンスや伯爵に聞いた話から、何があったのか大体察してしまったのだろう。そしてすごく怒っている。こんなつもりではなかった。
そして、この事態にとんでもなく動揺している自分自身に困惑した。今まで義務的な関わりしかなかった婚約者だ。それに最近知ったことだが、向こうは自分のことを嫌っている。それなのに、婚約解消の話を出された瞬間、こんなに焦りを覚えるなんて。
けれど……考えたこともなかったのだ。アラン以外と夫婦になる未来など。
自分で自分の気持ちがわからなかった。
──私は、アラン様との婚約を解消したいのだろうか?
けれど、一週間後にきた父からの返答は、私が書かなかった事情まで見通したかのようなものだった。
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そこで、伯爵は考えたそうだ。婚約の理由は伯爵家の財政難ではあるものの、それを正直に伝えて「家のために売られた」と悲しむことになってはあまりに不憫だ。自分の立場に引け目を感じて欲しくはない。それゆえに、こう伝えてしまった。「婚約は、相手の令嬢の強い希望によって結ばれたものだ」と。のちに本当のことを伝えたものの、なぜか領地の支援を盾に婚約を強いられたかのように曲解されて受け取られてしまっていた。
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そして、父は手紙の最後にこのように書いていた。
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