7 / 9
七話
しおりを挟む
目を開けると、白い天井が視界に入った。私の家ではない。
──私、死んでない? それに、ここは一体。
混乱してベッドの中で辺りを見回す私の視界に入ったのは、よく見知った顔。
「……ハドリー?」
私の顔を心配そうに覗き込むその人は、意識を失うほんの直前まで頭に思い浮かべていた、私の恋人だった。
驚いて起きあがろうとする私を、ハドリーはベッドにやんわりと押し戻した。
「まだ寝ていたほうがいい」
「えっと、わかった。でも、どういう状況……? ここ、どこ?」
わかった、と言いながらも完全に横になったままでは話しづらいため、ゆっくりと起き上がってベッドの背に体を預ける形で彼と向かい合った。
さっぱり現状が把握できていない私に、彼はここに至るまでの経緯を説明してくれた。
「君が町を出てしばらくしてから、馬で追いかけたんだ。といってもどこに向かったのかがわからなくて探し回っていたから、もう少しで手遅れになるところだった」
私たちがいる場所は、隣町の宿屋だったらしい。彼が意識を失っている私を見つけ、ここまで運んできたのだという。
彼が私が町を追われることを知っていて、その上で助けないことを選んだのだと思っていたが、聞けばどうやらそうではなかったらしい。ドラゴン討伐に共に向かった彼の仲間たちが、私の状況を彼に伝わらないようにしていたらしいのだ。
どうやら彼は彼の仲間に対してかなり怒っている様子だった。普段温厚な彼にしては珍しいことだった。
「僕は君のもとに帰ってこれたことに浮かれて、周囲の雰囲気に気づけてなかった。あいつらは僕より冷静だったから君に向けられた視線が不穏なことに気づいていたけど、君を庇えば僕も攻撃されると思って騒ぎから引き離したらしい」
「なるほどね……。でもきっと、それが彼らなりの最善だったんだろうね」
別に彼らをかばうつもりもなかったけれど、その行動は理解できるような気がした。
それに私に対する態度から考えれば、仮に彼も「化け物の味方」として排斥の対象になっていた場合、町を出る際の準備の時間を与えられたかどうかも怪しい。彼は最低限の準備は整えられたようだし馬もあったが、私と一緒に追い出されていたとしたら最悪二人でのたれ死んでいたのではないか。
もちろん彼らはそこまで考えていたわけではなく、単に自分たちの仲間を守ろうとしただけだろうが。
「僕はそんなことは頼んでいない。君を一人で死なせるくらいなら、一緒に追い出された方がマシだ」
「ハドリー……」
もしそうなっていたら、きっと二人がここで生きていることはなかっただろう。彼もそれをわかっているだろうに、それでも私と一緒に来ることを選びたかったと言ってくれる、彼の気持ちが嬉しかった。
彼は、真剣な面持ちで続ける。
「君を失うかもしれないと思いながら必死に探している間、怖くて仕方なかった。……もう君を、一瞬たりとも離したくないんだ。君の事を愛している。どうか、これからの人生を共に歩んでいってくれないか」
自分の顔がじわじわと熱を持っていくのを感じながら、じっと彼の目を見つめた。
「それって……プロポーズ?」
「うん」
そう短く答え、どこか不安そうにこちらの表情をうかがう彼。そんな顔しなくても、私の答えなんて最初から決まっているのに。
「私も、あなたと一緒に生きていきたい。結婚しましょう、ハドリー」
その瞬間、ベッドまで乗り上げてきた私はハドリーに抱きしめられた。急なことで驚いたけれど、やはり彼の体温は暖かくて心地よかった。体調のことを気遣ってか体重をかけないようにしてくれていることもわかって、なんだかくすぐったいような気持ちで腕を彼の背中に回した。
──私、死んでない? それに、ここは一体。
混乱してベッドの中で辺りを見回す私の視界に入ったのは、よく見知った顔。
「……ハドリー?」
私の顔を心配そうに覗き込むその人は、意識を失うほんの直前まで頭に思い浮かべていた、私の恋人だった。
驚いて起きあがろうとする私を、ハドリーはベッドにやんわりと押し戻した。
「まだ寝ていたほうがいい」
「えっと、わかった。でも、どういう状況……? ここ、どこ?」
わかった、と言いながらも完全に横になったままでは話しづらいため、ゆっくりと起き上がってベッドの背に体を預ける形で彼と向かい合った。
さっぱり現状が把握できていない私に、彼はここに至るまでの経緯を説明してくれた。
「君が町を出てしばらくしてから、馬で追いかけたんだ。といってもどこに向かったのかがわからなくて探し回っていたから、もう少しで手遅れになるところだった」
私たちがいる場所は、隣町の宿屋だったらしい。彼が意識を失っている私を見つけ、ここまで運んできたのだという。
彼が私が町を追われることを知っていて、その上で助けないことを選んだのだと思っていたが、聞けばどうやらそうではなかったらしい。ドラゴン討伐に共に向かった彼の仲間たちが、私の状況を彼に伝わらないようにしていたらしいのだ。
どうやら彼は彼の仲間に対してかなり怒っている様子だった。普段温厚な彼にしては珍しいことだった。
「僕は君のもとに帰ってこれたことに浮かれて、周囲の雰囲気に気づけてなかった。あいつらは僕より冷静だったから君に向けられた視線が不穏なことに気づいていたけど、君を庇えば僕も攻撃されると思って騒ぎから引き離したらしい」
「なるほどね……。でもきっと、それが彼らなりの最善だったんだろうね」
別に彼らをかばうつもりもなかったけれど、その行動は理解できるような気がした。
それに私に対する態度から考えれば、仮に彼も「化け物の味方」として排斥の対象になっていた場合、町を出る際の準備の時間を与えられたかどうかも怪しい。彼は最低限の準備は整えられたようだし馬もあったが、私と一緒に追い出されていたとしたら最悪二人でのたれ死んでいたのではないか。
もちろん彼らはそこまで考えていたわけではなく、単に自分たちの仲間を守ろうとしただけだろうが。
「僕はそんなことは頼んでいない。君を一人で死なせるくらいなら、一緒に追い出された方がマシだ」
「ハドリー……」
もしそうなっていたら、きっと二人がここで生きていることはなかっただろう。彼もそれをわかっているだろうに、それでも私と一緒に来ることを選びたかったと言ってくれる、彼の気持ちが嬉しかった。
彼は、真剣な面持ちで続ける。
「君を失うかもしれないと思いながら必死に探している間、怖くて仕方なかった。……もう君を、一瞬たりとも離したくないんだ。君の事を愛している。どうか、これからの人生を共に歩んでいってくれないか」
自分の顔がじわじわと熱を持っていくのを感じながら、じっと彼の目を見つめた。
「それって……プロポーズ?」
「うん」
そう短く答え、どこか不安そうにこちらの表情をうかがう彼。そんな顔しなくても、私の答えなんて最初から決まっているのに。
「私も、あなたと一緒に生きていきたい。結婚しましょう、ハドリー」
その瞬間、ベッドまで乗り上げてきた私はハドリーに抱きしめられた。急なことで驚いたけれど、やはり彼の体温は暖かくて心地よかった。体調のことを気遣ってか体重をかけないようにしてくれていることもわかって、なんだかくすぐったいような気持ちで腕を彼の背中に回した。
140
あなたにおすすめの小説
王都を追放された私は、実は幸運の女神だったみたいです。
冬吹せいら
恋愛
ライロット・メンゼムは、令嬢に難癖をつけられ、王都を追放されることになった。
しかし、ライロットは、自分でも気が付いていなかったが、幸運の女神だった。
追放された先の島に、幸運をもたらし始める。
一方、ライロットを追放した王都には、何やら不穏な空気が漂い始めていた。
姉の代わりになど嫁ぎません!私は殿方との縁がなく地味で可哀相な女ではないのだから─。
coco
恋愛
殿方との縁がなく地味で可哀相な女。
お姉様は私の事をそう言うけど…あの、何か勘違いしてません?
私は、あなたの代わりになど嫁ぎませんので─。
弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!
冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。
しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。
話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。
スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。
そこから、話しは急展開を迎える……。
家族から見放されましたが、王家が救ってくれました!
マルローネ
恋愛
「お前は私に相応しくない。婚約を破棄する」
花嫁修業中の伯爵令嬢のユリアは突然、相応しくないとして婚約者の侯爵令息であるレイモンドに捨てられた。それを聞いた彼女の父親も家族もユリアを必要なしとして捨て去る。
途方に暮れたユリアだったが彼女にはとても大きな味方がおり……。
なんでも私のせいにする姉に婚約者を奪われました。分かり合えることはなさそうなので、姉妹の関係を終わらせようと思います。
冬吹せいら
恋愛
侯爵家令嬢のミゼス・ワグナーは、何かあるとすぐに妹のリズのせいにして八つ当たりをした。
ある日ミゼスは、リズの態度に腹を立て、婚約者を奪おうとする。
リズはこれまで黙って耐えていた分、全てやり返すことにした……。
「華がない」と婚約破棄された私が、王家主催の舞踏会で人気です。
百谷シカ
恋愛
「君には『華』というものがない。そんな妻は必要ない」
いるんだかいないんだかわからない、存在感のない私。
ニネヴィー伯爵令嬢ローズマリー・ボイスは婚約を破棄された。
「無難な妻を選んだつもりが、こうも無能な娘を生むとは」
父も私を見放し、母は意気消沈。
唯一の望みは、年末に控えた王家主催の舞踏会。
第1王子フランシス殿下と第2王子ピーター殿下の花嫁選びが行われる。
高望みはしない。
でも多くの貴族が集う舞踏会にはチャンスがある……はず。
「これで結果を出せなければお前を修道院に入れて離婚する」
父は無慈悲で母は絶望。
そんな私の推薦人となったのは、ゼント伯爵ジョシュア・ロス卿だった。
「ローズマリー、君は可愛い。君は君であれば完璧なんだ」
メルー侯爵令息でもありピーター殿下の親友でもあるゼント伯爵。
彼は私に勇気をくれた。希望をくれた。
初めて私自身を見て、褒めてくれる人だった。
3ヶ月の準備期間を経て迎える王家主催の舞踏会。
華がないという理由で婚約破棄された私は、私のままだった。
でも最有力候補と噂されたレーテルカルノ伯爵令嬢と共に注目の的。
そして親友が推薦した花嫁候補にピーター殿下はとても好意的だった。
でも、私の心は……
===================
(他「エブリスタ」様に投稿)
妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?
百谷シカ
恋愛
「お姉様はバカよ! 女なら愛される努力をしなくちゃ♪」
妹のアラベラが私を高らかに嘲笑った。
私はカーニー伯爵令嬢ヒラリー・コンシダイン。
「殿方に口答えするなんて言語道断! ただ可愛く笑っていればいいの!!」
ぶりっ子の妹は、実はこんな女。
私は口答えを理由に婚約を破棄されて、妹が私の元婚約者と結婚する。
「本当は悔しいくせに! 素直に泣いたらぁ~?」
「いえ。そんなくだらない理由で乗り換える殿方なんて願い下げよ」
「はあっ!? そういうところが淑女失格なのよ? バーカ」
淑女失格の烙印を捺された私は、寄宿学校へとぶち込まれた。
そこで出会った哲学の教授アルジャノン・クロフト氏。
彼は婚約者に裏切られ学問一筋の人生を選んだドウェイン伯爵その人だった。
「ヒラリー……君こそが人生の答えだ!!」
「えっ?」
で、惚れられてしまったのですが。
その頃、既に転落し始めていた妹の噂が届く。
あー、ほら。言わんこっちゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる