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八話
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あれから数年後、私たちは王都で生活を送っていた。
しばらくはハドリーが運んでくれた宿屋のある町で部屋を借りて暮らしていた。けれど私がハドリーの傷を治したあの力が「魔法」として都会では希少で有益なスキルとして扱われていることを王都からの旅行者の情報で知り、それをきっかけとして移住することを決めたのだ。
私の故郷の田舎町では「魔法」というのは都市伝説レベルの怪しい情報でしかなかったものの、都会ではきちんと認められているスキルだったらしい。特に私が使った「治癒魔法」はあの町では「化け物」とまで言われ恐れられたが、魔法の中でも使える人がかなり少なく、さらにそのスキルがあるだけで十分食べていけるほどに重宝されているのだという。
そういうわけで私は「治癒魔法士」として王都で開業し、忙しくも充実した生活を送っていた。治癒魔法師というのは外傷を治すことができる魔法で、病気などは基本的に治せない。けれど怪我が一瞬で治るというのはやはり便利なようで、治癒を頼んできた人たちはとても感謝してくれる。
一時は石を投げられるほどに疎まれたこの力が人の助けになって感謝されているということが、とても嬉しい。やりがいを感じる仕事だ。
今や夫になったハドリーは以前と変わらず魔物ハンターとして活動しており、最近は結構有名らしい。彼はもともとあの町の出身というわけではなく各地を転々としていたらしいので引越し慣れしていて、移住の際は頼りっぱなしだった。
「よし、と。依頼者もいなくなったし、今日はここら辺で締めようかな」
時間ももうそろそろ遅いし、待っていた依頼者の怪我には全て治癒魔法をかけることができた。そろそろ診療は終わりにしてもいいだろう。
そう考えた私は『本日の受付は終了しました』という札を扉にかけ、仕事場とつながっている家に戻った。
夕飯を作ってソファーでくつろいでいると、鍵を開ける音が聞こえてきたので嬉しくなって玄関に駆け寄る。
「おかえり、ハドリー!」
「ただいま、ジョアン」
「えへへ、ご飯出来てるよ」
しばらく玄関で抱き合っていたが、どちらからともなく照れたように笑いあって、やっとリビングまで移動した。そして、二人で夕食を食べ始める。
「美味しいよ」と言いながら、言葉だけでなく本当に美味しそうな表情で料理を食べてくれるハドリー。私は彼の、私の料理を食べている時の表情がとても好きだ。自分が作ったものをそんな風に喜んで食べてくれる姿を見ていると、こちらもとても幸せな気持ちになるのだ。
父と母が同時に死んでしまってから、食事は自分で作るようになった。包丁なんて握ったことすらほとんどないような段階から始めて、せっかく上手に作れるようになったのに、食べてくれる人はいない。自分一人だけの食事は、どうしようもなく孤独だった。
ハドリーが私の作った料理を食べてくれること、一緒に生きていってくれることがどれほど私の心を満たすのか、きっと彼にはわからないだろう。
不意に、涙がポロリと一筋こぼれ落ちた。
「ハドリー……。私、本当に今、とても幸せ」
突然泣き出した私に彼は少し驚いたようだったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべ、
「僕もだよ。僕も君と一緒にいる今が、人生で一番幸せだ」
「うん……」
きっと彼を困らせてしまうと思って泣き止もうとするのに、どうにもうまくいかな位。
ハドリーはそんな私のそばにしゃがんで、涙をそっと指で拭ってくれた。愛しいものを見るように、目を細めて。
「君は、しっかりしているのに意外と泣き虫だよね」
「う……」
「愛してるよ、ジョアン」
「私も……」
彼とこれからの人生を歩んでいけるという幸福に、目眩がしそうになる。彼には言わないけれど、時々、これは私の都合のいい夢なんじゃないかと本気で不安になる程だ。
だけどこれは現実で、私の隣ではいつも愛しい人が微笑んでくれている。
願わくば、こんな日々がずっと続きますように。
しばらくはハドリーが運んでくれた宿屋のある町で部屋を借りて暮らしていた。けれど私がハドリーの傷を治したあの力が「魔法」として都会では希少で有益なスキルとして扱われていることを王都からの旅行者の情報で知り、それをきっかけとして移住することを決めたのだ。
私の故郷の田舎町では「魔法」というのは都市伝説レベルの怪しい情報でしかなかったものの、都会ではきちんと認められているスキルだったらしい。特に私が使った「治癒魔法」はあの町では「化け物」とまで言われ恐れられたが、魔法の中でも使える人がかなり少なく、さらにそのスキルがあるだけで十分食べていけるほどに重宝されているのだという。
そういうわけで私は「治癒魔法士」として王都で開業し、忙しくも充実した生活を送っていた。治癒魔法師というのは外傷を治すことができる魔法で、病気などは基本的に治せない。けれど怪我が一瞬で治るというのはやはり便利なようで、治癒を頼んできた人たちはとても感謝してくれる。
一時は石を投げられるほどに疎まれたこの力が人の助けになって感謝されているということが、とても嬉しい。やりがいを感じる仕事だ。
今や夫になったハドリーは以前と変わらず魔物ハンターとして活動しており、最近は結構有名らしい。彼はもともとあの町の出身というわけではなく各地を転々としていたらしいので引越し慣れしていて、移住の際は頼りっぱなしだった。
「よし、と。依頼者もいなくなったし、今日はここら辺で締めようかな」
時間ももうそろそろ遅いし、待っていた依頼者の怪我には全て治癒魔法をかけることができた。そろそろ診療は終わりにしてもいいだろう。
そう考えた私は『本日の受付は終了しました』という札を扉にかけ、仕事場とつながっている家に戻った。
夕飯を作ってソファーでくつろいでいると、鍵を開ける音が聞こえてきたので嬉しくなって玄関に駆け寄る。
「おかえり、ハドリー!」
「ただいま、ジョアン」
「えへへ、ご飯出来てるよ」
しばらく玄関で抱き合っていたが、どちらからともなく照れたように笑いあって、やっとリビングまで移動した。そして、二人で夕食を食べ始める。
「美味しいよ」と言いながら、言葉だけでなく本当に美味しそうな表情で料理を食べてくれるハドリー。私は彼の、私の料理を食べている時の表情がとても好きだ。自分が作ったものをそんな風に喜んで食べてくれる姿を見ていると、こちらもとても幸せな気持ちになるのだ。
父と母が同時に死んでしまってから、食事は自分で作るようになった。包丁なんて握ったことすらほとんどないような段階から始めて、せっかく上手に作れるようになったのに、食べてくれる人はいない。自分一人だけの食事は、どうしようもなく孤独だった。
ハドリーが私の作った料理を食べてくれること、一緒に生きていってくれることがどれほど私の心を満たすのか、きっと彼にはわからないだろう。
不意に、涙がポロリと一筋こぼれ落ちた。
「ハドリー……。私、本当に今、とても幸せ」
突然泣き出した私に彼は少し驚いたようだったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべ、
「僕もだよ。僕も君と一緒にいる今が、人生で一番幸せだ」
「うん……」
きっと彼を困らせてしまうと思って泣き止もうとするのに、どうにもうまくいかな位。
ハドリーはそんな私のそばにしゃがんで、涙をそっと指で拭ってくれた。愛しいものを見るように、目を細めて。
「君は、しっかりしているのに意外と泣き虫だよね」
「う……」
「愛してるよ、ジョアン」
「私も……」
彼とこれからの人生を歩んでいけるという幸福に、目眩がしそうになる。彼には言わないけれど、時々、これは私の都合のいい夢なんじゃないかと本気で不安になる程だ。
だけどこれは現実で、私の隣ではいつも愛しい人が微笑んでくれている。
願わくば、こんな日々がずっと続きますように。
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