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「おにいちゃん、と、友達、を家に泊めたい。いい?」
食卓で向かい合った兄、晃に七海は言った。
ともだち、と口に出すのはこそばゆくて、どもってしまった。
照れ隠しに夕飯のカレーを大きくすくって口に突っ込む。
隠し味などの一切入らない、ルーの箱の説明のとおりに作ったカレーである。
これが一番間違いない。
「ふぁ、友達? えっ誰?」
缶ビールから口を離した晃が目を丸くする。
高校を卒業し引きこもって、早3年。
七海から友達という言葉が出たのは初めてだった。
高校も不登校になりながらなんとか卒業した。
5つ年上の兄は父亡き後七海の保護者だ。
不登校からの引きこもりで、ずいぶんと迷惑をかけている自覚がある七海を放り出さないでいてくれている。
「ネットで、し、知り合った人。千葉県からきてくれるって」
「はぁ? ネットって、変なヤローじゃねーの」
「お、女の子だし! だ、だめなら私が、向こうに行ってきてもいい?」
「そのほうが心配! どうしたんだよななみ、いや、外に出る気になったのはよかったけど」
言いながら首にかけたタオルで頬を流れる汗を拭う。
晃は風呂上がりなのだ。
パンツ一丁である。上になにか着て欲しい。
『コメントありがとうございます。この子がみえるんですか。』
考えた時間の割にはひどい文面のDMに返事が来たのはすでに布団に潜り込んでいた夜中だった。
『ふつうは見えない子なのね。わからなかったわ。7さんも見える人なのね』
7というのはアカウント名だ。
見える人。
うみちゃんが見えることを肯定してくれた初めての言葉に、七海は胸がぎゅっとして息が詰まった。
『この子はゆうれいなんですか? 私にしか見えなくて、頭がおかしいと思われてて、でも、大切な子だから見えないふりしたくなくて、知りたいです』
枕を抱えて急いで返信を打ち込む。
相手、KEIさんからもすぐに返信が来た。
『幽霊なのかしら、よくわからないわ。私はずっと見えないふりをしてきたわ。見ないふりしないなんて、7さんは強いのね』
画面がぼやける。涙がぶわりと溢れ、七海の頬を伝った。
悲しいわけじゃない。たぶん嬉しいのだ。悲喜こもごも入り混じった感情がぐるぐる渦巻いて、涙になった。
流れる涙をそのままに文を何度も見返しているうちに寝落ちしてしまった。
『おはようございます。すごくうれしいです』
翌朝返信したら、また返事が来て。
数日DMでやりとりをして、会って話したい気持ちが大きくなって、『会ってみたい』と勇気を出して送ったところ、うみちゃんを見たいしそちらに行ってもいいかと返事が来たのだ。
嬉しくて楽しみで、家主の兄に話をしている。
「ななみがそんなこと言うの珍しいし、いいけどさあ。連休明けたら稚貝出しだぞ。俺忙しいし外うるさくなるぞー」
稚貝出しとはこの町の一大イベントである。
町の漁師総出で、ホタテの稚貝……赤ちゃんを漁場に撒くのだ。
町の外からも手伝いの人がたくさんやってきて、トラックが行き交い、港にほど近い倉本家の周りは常より騒がしくなる。
本業は別にある晃も毎年手伝っている。
晃曰くめちゃくちゃ大変らしい。
「……だいじょうぶか、き、聞いてみる。おにいちゃんはともだち、が、来たら、ちゃんと服着てよね」
「えっ風呂上がりも? あ、ななみ、ビールもう一本ちょーだい」
「ん」
夕食後、すぐにKEIさんにDMを送った。
『来月は町内が一番忙しいかもしれない時期です。めちゃくちゃうるさいかもですが大丈夫ですか?』
『7さんも忙しいんじゃない? 大丈夫なの? 私は仕事の関係で、できれば来週が都合いいんだけど、急すぎ?』
4月の半ば、港は賑わい勤め人なら歓迎会やら移動やら落ち着かない時期だろうが、七海はいつでも大丈夫だ。
なんたって兄の事業の経理とちょっとした内職が仕事の引きこもりである!
そんなわけで来月どころか来週KEIさんが来てくれることになった。
明日は朝から大掃除しよう、と決意し、七海は眠りについた。
食卓で向かい合った兄、晃に七海は言った。
ともだち、と口に出すのはこそばゆくて、どもってしまった。
照れ隠しに夕飯のカレーを大きくすくって口に突っ込む。
隠し味などの一切入らない、ルーの箱の説明のとおりに作ったカレーである。
これが一番間違いない。
「ふぁ、友達? えっ誰?」
缶ビールから口を離した晃が目を丸くする。
高校を卒業し引きこもって、早3年。
七海から友達という言葉が出たのは初めてだった。
高校も不登校になりながらなんとか卒業した。
5つ年上の兄は父亡き後七海の保護者だ。
不登校からの引きこもりで、ずいぶんと迷惑をかけている自覚がある七海を放り出さないでいてくれている。
「ネットで、し、知り合った人。千葉県からきてくれるって」
「はぁ? ネットって、変なヤローじゃねーの」
「お、女の子だし! だ、だめなら私が、向こうに行ってきてもいい?」
「そのほうが心配! どうしたんだよななみ、いや、外に出る気になったのはよかったけど」
言いながら首にかけたタオルで頬を流れる汗を拭う。
晃は風呂上がりなのだ。
パンツ一丁である。上になにか着て欲しい。
『コメントありがとうございます。この子がみえるんですか。』
考えた時間の割にはひどい文面のDMに返事が来たのはすでに布団に潜り込んでいた夜中だった。
『ふつうは見えない子なのね。わからなかったわ。7さんも見える人なのね』
7というのはアカウント名だ。
見える人。
うみちゃんが見えることを肯定してくれた初めての言葉に、七海は胸がぎゅっとして息が詰まった。
『この子はゆうれいなんですか? 私にしか見えなくて、頭がおかしいと思われてて、でも、大切な子だから見えないふりしたくなくて、知りたいです』
枕を抱えて急いで返信を打ち込む。
相手、KEIさんからもすぐに返信が来た。
『幽霊なのかしら、よくわからないわ。私はずっと見えないふりをしてきたわ。見ないふりしないなんて、7さんは強いのね』
画面がぼやける。涙がぶわりと溢れ、七海の頬を伝った。
悲しいわけじゃない。たぶん嬉しいのだ。悲喜こもごも入り混じった感情がぐるぐる渦巻いて、涙になった。
流れる涙をそのままに文を何度も見返しているうちに寝落ちしてしまった。
『おはようございます。すごくうれしいです』
翌朝返信したら、また返事が来て。
数日DMでやりとりをして、会って話したい気持ちが大きくなって、『会ってみたい』と勇気を出して送ったところ、うみちゃんを見たいしそちらに行ってもいいかと返事が来たのだ。
嬉しくて楽しみで、家主の兄に話をしている。
「ななみがそんなこと言うの珍しいし、いいけどさあ。連休明けたら稚貝出しだぞ。俺忙しいし外うるさくなるぞー」
稚貝出しとはこの町の一大イベントである。
町の漁師総出で、ホタテの稚貝……赤ちゃんを漁場に撒くのだ。
町の外からも手伝いの人がたくさんやってきて、トラックが行き交い、港にほど近い倉本家の周りは常より騒がしくなる。
本業は別にある晃も毎年手伝っている。
晃曰くめちゃくちゃ大変らしい。
「……だいじょうぶか、き、聞いてみる。おにいちゃんはともだち、が、来たら、ちゃんと服着てよね」
「えっ風呂上がりも? あ、ななみ、ビールもう一本ちょーだい」
「ん」
夕食後、すぐにKEIさんにDMを送った。
『来月は町内が一番忙しいかもしれない時期です。めちゃくちゃうるさいかもですが大丈夫ですか?』
『7さんも忙しいんじゃない? 大丈夫なの? 私は仕事の関係で、できれば来週が都合いいんだけど、急すぎ?』
4月の半ば、港は賑わい勤め人なら歓迎会やら移動やら落ち着かない時期だろうが、七海はいつでも大丈夫だ。
なんたって兄の事業の経理とちょっとした内職が仕事の引きこもりである!
そんなわけで来月どころか来週KEIさんが来てくれることになった。
明日は朝から大掃除しよう、と決意し、七海は眠りについた。
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