けいちゃんと私、ときどきうみちゃん

里見しおん

文字の大きさ
5 / 18

しおりを挟む
「改めまして、わたしがKEIよ」


 差し向かいに座った美しい男が、両手の指を揃えて差し出してきた名刺を受け取る。
 サングラスを外した瞳は淡いグレーだが、光の加減で緑に見え、神秘的だ。
 ざっくりとした黒いカーディガンの長めの袖から覗く指は白く細いが節が目立ち、男らしい。




「しらいし、けい、さん……」


 上質な紙に、シンプルに『KEI SIRAISHI』という名前と携帯番号だけが書かれていた。


「そう、白石慶よ。白い石に、弁慶の慶よ! わたしはどっちかっていうと牛若丸ってかんじだけどね、ほほほ! けいちゃんって呼んでいいのよ」

「けいちゃん……す、すてき、で、びっくりした、じゃない、しました」

 一言も女性だとは言わなかった。
 しかし女性だと信じて疑わなかった。やりとりした文面が女性の言葉だったし、アイコンが美しくネイルアートを施した女性の手だったのだ。
 ご本人の手だと思っていたが、違ったようだ。

「あらいやぁね、わたしなんてふつうよぉ。でもありがとうね7さん、あなたもとってもカワイイわよ。あっ言葉も気にしないでね。崩していいのよ」

 ハスキーな声で楽しそうに話すKEI……慶に、七海は圧倒されていた。


 こんなにきれいな男の人も、オネエさんも初めて見たのだ。
 美人もオネエさんも千葉県では普通なのか、千葉県すごい。


「あの、わ、私、は七海です。倉本、七海、です」

 引きこもりの七海に名刺などない。
 代わりに財布から運転免許証を取り出し差し出した。

「あなたね、個人情報出し過ぎよぉ。ほら、しまってしまって。あらやっぱり若いのねぇ。ハタチ?」


 免許証を押し返ししまえと言いながらしっかり生年月日をチェックしたようだ。

「21さい、です」

 答えて一旦口をつぐむ。
 注文したものが席に届けられたのだ。

 七海はハンバーガーとポテトとバニラシェイク、慶はホットコーヒーと小さなチーズケーキをオーダーした。


「ありがとうございまぁす。いただきましょ! あーカップがあったかいわぁ。このカーディガン風通してスースーよ。飛行機の中は暑くて汗かいちゃったし! 冷えたわぁ! 寒いとは聞いていたけどここまでとは思わなかったわぁ。ダウンが正解だったのね」


 店員に気軽に笑いかけ、慶は両手で白いカップを包み、ほうっと息を吐いた。


「わ、わたしはただ、あんまり、服を持ってなくて。あったかくしてるだけ」









 美しいオネエさんにがくがくとゆさぶられ意識を取り戻した七海は、「おなかがすいて、気が遠くなった」と言い訳した。
 後部座席にキャリーバッグを積み、助手席に慶を座らせ、少し遠いがハンバーガーショップにやってきた。
 七海の住む町にはジャンクフード店はない。ここは引きこもりながらも存在は知っていて一度来てみたかったお店である。



 太いポテトをつまんで口に運ぶ。
 あつあつのほくほくだ!


「うまっ」


 瞳を輝かせてポテトを次々食べる七海に、慶はくすくすと笑った。

「そんなにおなかを空かせてたのね。わたしを迎えに来てくれたせいで食事する時間がなかったのかしら、ごめんなさいね」

「いえ、あの、あ、朝からピザを焼いてたくさん食べました」

「えっ? あらまぁ痩せているのにたくさん食べられるのね。うらやましいわぁ。わたしすぐ太っちゃうのよぉ」

 七海は太っては居ないが痩せているわけでもない。
 そして大食いでもない。


「そ、そんなことは、あの、普段私が食事を作っているので、お店のものってすっごくおいしく感じて」


 もじもじしながらガサガサと包み紙を開き、ハンバーガーにがぶっとかじりつく。

「う、うま!」


 ケチャップじゃなくてミートソースだ! ハンバーグもジューシー! 勇気出して、もっと早く来てみればよかった!


「わかるわぁ、そうよねぇ自分の作った料理って味がわかりきってるっていうか進まないのよねぇ。新鮮味って大切よね。7さん、ねぇななみちゃんって呼んでいいかしら?」

 休まずハンバーガーを咀嚼しながらこくこくと頷く。

「ななみちゃんは自炊なのね、えらいわねぇ。わたしがそのくらいの頃は外食ばっかりだったわぁ。わたしは26になるんだけど、昨年あたりから美容のために自炊するようになったのよ」


「あ、お兄ちゃんと、同じ年、です。わ、私お兄ちゃんと2人で住んでて」


「あらぁ、お兄ちゃん? イケメンかしらぁ」

「いえ、まったく」


 慶はとても話しやすく、人と話すことが苦手で吃りがちな七海の話も急かさずゆっくりと聞いてくれた。


 食事を終えても時間を忘れて話し込んでしまい、日が暮れ始めたことに気づき慌てて店を出た。


 車中でも慶は七海の話を引き出してくれ、飽きることなくおしゃべりして。
 家に着く頃には七海はすっかりオネエさんを姉のように慕っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

【百合】Liebe

南條 綾
キャラ文芸
人と一線引いた少女のお話 あの時あなたを助けた時から気になった。 あなたにあって私の景色が色が付いた

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

幽縁ノ季楼守

儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」 幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。 迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。 ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。 これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。 しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。 奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。 現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。 異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー 様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。 その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。 幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。 それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

処理中です...