6 / 18
5
しおりを挟む「おにいちゃんただいま。お、ともだちの、けいちゃんです。けいちゃん、お兄ちゃんの、晃、です」
「はじめまして、ななみちゃんとお友達になりました、白石慶でぇす。お兄さんもけいちゃんって呼んでね」
倉本晃は眼球が飛び出さんばかりに目を見開いて固まった。
晃は仕事から帰宅して風呂に入り、パンツ一丁で居間のソファに寝そべり缶ビールを飲みほてった体を冷ましていた。
ついいつものように寛いでいたが、玄関から物音と話し声がして、そうだった、七海の友達が来るんだった、と慌てて身を起こした。
急いで部屋に駆け込み、ベッドの上に脱ぎ捨ててあった寝巻きにしているTシャツとハーフパンツを身につけた。
そして何食わぬ顔で居間に戻ったところで引き戸が重い音をたてて開いた。
いつものダウンを着た七海に続いて居間に入ってきたのは、女の子ではなく金髪の背の高いオシャレイケメンであった。
(やっぱり男じゃねーか)
田舎娘がインターネットで都会の男に騙されるのはよくある話だ。
引きこもりの七海が突然SNSで友達だなんて、怪しんでいたがやはりだ。
兄の住む家にのこのこやってくるなんてどういう魂胆か知らないが、七海を誑かす男に容赦はしない。
晃は釣り船を出す仕事をする傍ら、客のいない日には町の漁師の手伝いをしている。
肉体労働で鍛えた本物の筋肉と、荒れていた時期に身につけた喧嘩の腕。そして妹の保護者であるという自負。
都会のイケメンなどに負けやしない。
眉根を寄せ、男の美しい顔を凶悪に睨みあげ……ようとしたところで冒頭の自己紹介である。
晃は睨むはずの目をカッと見開き、白石慶と名乗った男をまじまじと見た。
「やだぁ、すてきなお兄さんじゃなぁい。ななみちゃんたら、イケメンじゃないなんて嘘じゃなぁい」
「イケメンじゃない。けいちゃんのがイケメン」
「えーそうお? わたしは好きよぉ、おにいさんみたいなタイプ! マッチョでワルそうで、ほら、格闘家みたいよぉ」
頬に手を当てくねくねと動く自分より背の高い男に親しげな笑顔を向ける妹に、晃は吠えた。
「ななみぃぃぃぃぃ! やっぱり変な野郎じゃねーか!!!」
「や、野郎かもしれないけど、けいちゃんはへんじゃ、ない! お、お兄ちゃん、おなかすいたでしょ、ごはんにしよう。遅くなってごめんね」
「あぁ? うん腹は減った」
「晩ごはんなぁに? わたしも手伝うわぁ」
「ありがとう、でも昨日カレー作っておいたから、あたためるだけだよ。あ、荷物ここに置いていいよ!」
「はぁい。ななみちゃん手を洗わせてぇ」
「洗面所こっち」
洗面所はキッチンの奥、風呂場と併設だ。
ふたりがばたばたと居間を通り過ぎる。気を削がれた晃はソファに座り、ローテーブルに置いてあった缶ビールを手に取る。
「いや、変な野郎、だよな?」
晃はキッチンから聞こえる楽しげな話し声に聞き耳を立てながら、ちびちびと少しぬるくなったビールを飲んだ。
慶に色の含んだ雰囲気も騙すような不審さもかけらも感じられず、まぁ悪いやつではなさそうだな、と思い始めた頃、七海に呼ばれた晃は、立ち上がり空き缶を片手に食卓へ向かった。
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
幽縁ノ季楼守
儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」
幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。
迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。
ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。
これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。
しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。
奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。
現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。
異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー
様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。
その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。
幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。
それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる