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しおりを挟む「おにいちゃんただいま。お、ともだちの、けいちゃんです。けいちゃん、お兄ちゃんの、晃、です」
「はじめまして、ななみちゃんとお友達になりました、白石慶でぇす。お兄さんもけいちゃんって呼んでね」
倉本晃は眼球が飛び出さんばかりに目を見開いて固まった。
晃は仕事から帰宅して風呂に入り、パンツ一丁で居間のソファに寝そべり缶ビールを飲みほてった体を冷ましていた。
ついいつものように寛いでいたが、玄関から物音と話し声がして、そうだった、七海の友達が来るんだった、と慌てて身を起こした。
急いで部屋に駆け込み、ベッドの上に脱ぎ捨ててあった寝巻きにしているTシャツとハーフパンツを身につけた。
そして何食わぬ顔で居間に戻ったところで引き戸が重い音をたてて開いた。
いつものダウンを着た七海に続いて居間に入ってきたのは、女の子ではなく金髪の背の高いオシャレイケメンであった。
(やっぱり男じゃねーか)
田舎娘がインターネットで都会の男に騙されるのはよくある話だ。
引きこもりの七海が突然SNSで友達だなんて、怪しんでいたがやはりだ。
兄の住む家にのこのこやってくるなんてどういう魂胆か知らないが、七海を誑かす男に容赦はしない。
晃は釣り船を出す仕事をする傍ら、客のいない日には町の漁師の手伝いをしている。
肉体労働で鍛えた本物の筋肉と、荒れていた時期に身につけた喧嘩の腕。そして妹の保護者であるという自負。
都会のイケメンなどに負けやしない。
眉根を寄せ、男の美しい顔を凶悪に睨みあげ……ようとしたところで冒頭の自己紹介である。
晃は睨むはずの目をカッと見開き、白石慶と名乗った男をまじまじと見た。
「やだぁ、すてきなお兄さんじゃなぁい。ななみちゃんたら、イケメンじゃないなんて嘘じゃなぁい」
「イケメンじゃない。けいちゃんのがイケメン」
「えーそうお? わたしは好きよぉ、おにいさんみたいなタイプ! マッチョでワルそうで、ほら、格闘家みたいよぉ」
頬に手を当てくねくねと動く自分より背の高い男に親しげな笑顔を向ける妹に、晃は吠えた。
「ななみぃぃぃぃぃ! やっぱり変な野郎じゃねーか!!!」
「や、野郎かもしれないけど、けいちゃんはへんじゃ、ない! お、お兄ちゃん、おなかすいたでしょ、ごはんにしよう。遅くなってごめんね」
「あぁ? うん腹は減った」
「晩ごはんなぁに? わたしも手伝うわぁ」
「ありがとう、でも昨日カレー作っておいたから、あたためるだけだよ。あ、荷物ここに置いていいよ!」
「はぁい。ななみちゃん手を洗わせてぇ」
「洗面所こっち」
洗面所はキッチンの奥、風呂場と併設だ。
ふたりがばたばたと居間を通り過ぎる。気を削がれた晃はソファに座り、ローテーブルに置いてあった缶ビールを手に取る。
「いや、変な野郎、だよな?」
晃はキッチンから聞こえる楽しげな話し声に聞き耳を立てながら、ちびちびと少しぬるくなったビールを飲んだ。
慶に色の含んだ雰囲気も騙すような不審さもかけらも感じられず、まぁ悪いやつではなさそうだな、と思い始めた頃、七海に呼ばれた晃は、立ち上がり空き缶を片手に食卓へ向かった。
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