【R18】蜜を求める牢獄

ロマネスコ葵

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第ニ章 もう一人のヒーロー。

26 裏切り(ルーツ視点)

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***ルーツ視点***


「――くそっ!! 何にも言うことを聞いちゃくれない」
「っひ……!!」
「あ……」

 僕とした事が。
 下女の前で石壁に打ち当たるなんて失態を……。
 振り向くと、石壁には予想以上の窪みが出来上がってしまった。

「申し訳ない。僕とした事が……」

 自分の胸に手を当てて、もう片方の手は腰に回してから頭を下げてみる。
 ――どう、宥めてやるか。


「い、いえ……構いませんわ! 何か、ございましたの……? 私でよろしければ、お話を聞かせて頂けますか?」
「……実は」

 言いかけたが、ハッと我に返る。
 そんな素直に下女の前で、他の女の話をしたらまた厄介になる。

「いえ、何でもありません。貴女の顔が見れただけでも少し気が楽になりました」

 彼女の柔らかい金に帯びた髪を撫でながらそう告げる。予想通りに、従順な下女は頬を赤らめて笑顔を見せてきた。

「大臣が勝手な事をするから、きっとルーツ兵長に負担がいってるのではないかと思いまして」
「……ははっ! 流石。僕の事を何でもお見通しなんですね」

 とりあえず相槌を打っておく。大臣が勝手な事を? ――ああ、今はローズの領土である元グロキシニアの植民地を強奪する話の事か? いや……僕はそんな事で悩んでいるわけではない。

 あいつのせいだ。あいつが僕の言うことを聞かないから!!
 キラ・ステラ……絶対に許さない。
 
 あいつの特殊能力は麻薬そのもの。だが、あいつの中には大魔導師の力が必ず眠っているはず。それをあの馬鹿は使い道が分からないのか魔力を封印し続けている。――なんて勿体無い話なんだろう。
 思わず怒りを覚える程だ。ならばこの僕が彼女の骨の髄まで吸い尽くしてから、盛大にヤリ捨ててやろうってのに……!! こういう時に限って、毎回といっていいほど兄さんが先に手を出してやがるんだ。
 ――けれど兄さんの事を警戒しててよかったよ。結果的には彼女の捕紋をいじくり回して漸く兄さんから引き離し、彼女を僕の所有地にまで這いずり回す事ができたのだから。
 とはいえ……キラの心はもう確実に兄さんの手の平で転がされている。だから僕はどんなに彼女の前で物惜しせず下手に出ようと全てが跳ね返される。

 くそっ……!! 舐め腐った態度を取りやがって……! でも本当は兄さんさえこの世にいなければ……!!

「……ルーツ……?」
「チッ、ルーツ様だろ?」
「えっ」
「――あっ……!! いや、これは……」

 駄目だ。今までのように感情さえも上手くコントロールできないくらいに末期だ。――なんで僕がこんな下女の為に手こずってなんかいるんだ。……えーと……? 彼女には僕のことを呼び捨てでいいと言ったか? くそ……記憶さえも曖昧になってくる。

「……申し訳ありません。やはり、まだ体調が優れないみたいで」

 手を顎に添えて、物怖じするように答える。
 すると下女は眉を寄せて瞳を潤ませながら僕を抱きしめた。

「無理なさらないでください、ね? 私もそう思っていましたの。最近の大臣やら上官は貴方に無理ばかりさせて……本当に、見ていて心苦しくなるばかりですわ」
「ご心配をおかけ致しました……。君にこんな姿を見せてしまうなんて、お恥ずかしい限りです……」

 ぐす、ぐすっ……涙を溢してみせる僕の背中を彼女は、より強く抱きしめてくれた。
 
 涙の演技もお手の物。覚えてろよ……今日こそキラに分からせてやる。

 今度はどんな映像を創造して、キラに見せてやる? これ以上なんて、あるか?
 兄さんと過去の女リベラが一番精神的にダメージを与えられると思ったが……下級の割に思念深く傲慢な奴だ。僕に寝返るかと思えば、信じないとまで喚き散らしやがって。

 ――と、その時、廊下を横切る上官と目があった。

「――上官」
「きゃっ!? 上官様……!」

 僕から離れ、下女は両手を膝に押し付けて何度も頭を下げている。そして僕を盾にでもするかのように、後ろに回った。

 上官はというと、相も変わらず背が僕より半分以上低く、それに反すように真っ白な長い髭を床に垂れ流している。後は……ただの脂肪の塊だ。

「こんなところで仕事をサボってちゃいけないねぇ。ルーツ?」
「も、申し訳ありません……。どうか彼女だけは」
「っあ……違いますの! 私が悪いんですの」

 クックック……と、ねっとりした声と一緒に、上官は僕達を見逃すように横切った。

 誠意を込めての一礼をする。下女は僕の横で「ごめんなさい、ごめんなさい」と小声で僕に言う。

「このままだと僕らの関係が公に出てしまうかもしれない。君も職を失いたくないでしょう? ここは僕が上官を宥めるから、君は仕事に戻ってくれないかい?」
「いえ……そんな。私は公に出ようと構いませんわ」

 引き下がらない下女に笑みを贈ると、暫くしてから漸く彼女は「――また、会ってくれるますよね?」と切り替えした。

「勿論です」

 彼女はその言葉を聞き漸く引き下がり、僕に一礼をする。彼女は背を向けて、駆け足で上官の逆の方向へと走って行った。
 
「――ふぅ」

 彼女の背を見送った後、僕は上官を追いかける。
 別に走らず普通に歩いていても、あのチビ如きなら余裕で追いつくか……。
 
 そして漸く辿り着くと、

「君も大変だねぇ~」

 ひゃひゃひゃ、と下衆に笑い出す上官。
 そんな上官を見て、僕は安堵した。



「――を、お見せしてしまいました」


 隅に置けないなぁ、と上官はその言葉を最後に。何故だか上機嫌な上官は謳うように、ローズ王国との強奪戦についての語り始めた。

 こいつもいつか絶対に殺してやる……。僕の邪魔をする奴は全員排除してみせる!!
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