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第ニ章 もう一人のヒーロー。
27 動揺。(ルーツ視点)
しおりを挟む上官が語っている中で、どうしたらキラの拒絶反応を回復できるか悩み考えていた。トラウマを植え付けたのは正真正銘、僕の所為ではあるんだが……。
……ふん、どうするべきか…………。
「それでだ、ルーツ。明日から頼んだぞ~」
「……仰せのままに」
上官は何かを僕に頼んでいたようだが、今はそれどころじゃなかった。どうせ業務外の話だろうというのは大体予想はつく。上官はいつもそうだ。僕はあくまで牢獄を監視管理する立場なのに別の仕事まで押し付けてくるのだから。
――まぁ、それで僕の株が上がるのなら良いんだけど。
上官と別れ、日が暮れてしまったが今日は初めて彼女と出会う。いじくり回した捕紋のおかげで、いつでも彼女の居場所は突き止められる。一日あけて、一人にさせてはいたが今のところ抜け出そうなんて真似はしていなさそうだった。
――部屋にいるはずだ。一刻も早く彼女の姿を見に廊下を走った。
***
扉の前で立ち止まる。開けるか、開けないか……。
なんだ? 急な胸騒ぎが走る。
いや、先程移動中に捕紋も確認した。絶対に部屋にいるはずなんだ。
――もう一度、ここで確認しておくか?
手のひらを寝かせると、映像が浮かび上がる。自分は赤い点で表示され、キラは黄色い点で表示される。
うん……キラは居る。問題ない。
ごくり。
いざ、開けようとしたその途端に――
「きゃっ!?」
ドアノブに手を差し伸べた瞬間に、扉が奥へと引き寄せられる。勝手に開けられたのだ。
そして子犬のような声をあげたのは、正しくあの彼女だった。
「あっ……ルーツ……! 違うんです、これは……。私は決して抜け出そうなんて」
「どういうつもりだい?」
彼女を見下ろしながら圧をかけると、キラは両手で自分の胸をぎゅっと押さえていた。挙動不審に左右を見渡しながらも、最終的には僕に潤んだ目を向ける。
髪色と同じ、桜色のネグリジェを身に纏った彼女が抜け出そうとするなんて、他の男が絡んできたら一体どうするつもりだったのか。上官が選び抜いた兵士しかウロウロしてないんだ。僕以外ロクな奴はこの世に存在しないであろう。
「……ごめんなさい。昨日の、あの映像を見て、この目で確かめたくなったのです。それに……ルーツも知っているでしょう? ベルさんはもう私の体液無しじゃ生きていけない。狂い死んでしまうかもしれない」
今にもベルの為に涙が溢れそうになっているキラ。ぷっくりとした艶のある唇の隙間から美味しそうな舌が見える。
ったく、兄ばっかり……。
「僕もそれは同じなんだけど? 僕は死んでいいの? ねえ」
「そ、それは! それは、分かってます……」
えっと、ええっと……どうしよう? と、キラは小声で呟く。言葉に詰まっている様子。その度に美味しそうな唇がふるふると動いている。
「ルーツ? んっ……うっ……!?」
廊下と部屋の境目で、僕は我慢の限界に達した。キラを抱き寄せ、愛らしい唇を塞ぎ、舌を差し込む。
「んっ……ここ、じゃ、んっ……駄目っ……!!」
確かに、誰かが通りかかるかもしれない場所にいる。でも、キラの抵抗は何故か弱い。突き放せばいいのに、突き放そうとせず僕の背中に両手を添えている。
こんな僕でさえ、狂い死ぬ事には抵抗があるのか。だからこうしてキスを許してくれているのか?
甘い蜜が口いっぱいに広がる。体中に染み渡って行くようだ。
びく、びく、とキラの腰が小刻みに弾んでるのが伝わってくる。
「る……つ?」
唇が離れると、頬を真っ赤に染めた彼女の表情が目に映る。キラを見ているだけで、何故か鼓動がバクンバクンと高鳴る。
これが、やっぱりキラの特殊能力の仕業なのか……。
扉を閉めて、赤いベッドのソファまで向かいキラを押し倒す。
「何故さっきから抵抗しない? 魔力は使ってないのに」
率直な疑問を口にすると、キラは呼吸を整えながらこう答えた。
「……貴方にも、死んでもらいたくないから」
「ふぅん……自分は人殺しになんてなりたくない。そんなところかな?」
「ベルさんの唯一の弟ですし……それに……未だに信じられませんが、ルーツは私の事……愛おしく思ってるんですよね?」
「っは……!?」
それは嘘だった――――いや、嘘だ!
違う違う違う。こんな奴、好きになるわけがない。僕が欲しいのは彼女の魔力だ。魔力の為に僕は彼女に好意を寄せているように演じてる。それだけだ。
「は……? とは?」
「いや……なんでもない……」
「嘘だったらいいんです。そのほうがやりやすいので」
「は!?」
「その……お願いがあるんです」
さっきからキラに振り回されてばかりだ。今の僕は動揺しきっている……落ち着け……自分を取り戻さなきゃ。
嘘だったらいい、その方がやりやすいって一体どういうつもりなんだ……? この僕に愛されないほうが良いと?
二言目にはお願いがあるって、ふざけているのか。
駄目だ駄目だ、落ち着いて……平常心。平常心……。
なんだかコイツは仕事よりもやりにくい……。
「お願いって……?」
「どうか、私の体液を貴方にも譲る代わりに、ベルさんにも体液を与える機会をください……!!」
「なっ……!! 嫌だ。そんなの割に合わない」
咄嗟に出たのがその言葉だった。
「割に合わないって……どこが!? 貴方はこれからベルさんをも使ってローズ王国とやり合う予定なのでしょう? だったら生かしておかないと貴方の為にもならないのでは……!?」
「っ……それは……そうだけど……!!」
「お願いします、お願いします! 私、ルーツの言うことはちゃんと聞きますから……お願いします……!!」
必死に願うキラに対し反発してやりたいところだったが、確かに僕にとっても今、兄さんを餓死させるわけにはいかなかった。
けれど彼女の意のままに行動するのも何だか腑に落ちない。何かもう一声、こっちの希望を伝えても今の彼女なら呑んでくれそうだ。
――何か、ないか……。
「――君の気持ちは分かった。ならば、こうしようよ?」
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