【R18】蜜を求める人魚姫

ロマネスコ葵

文字の大きさ
8 / 8

8 決意。

しおりを挟む


 呪いが抜けないリリアをそっと貝がらのベッドに寝かせた後、
 あたしはずっと陽が暮れるのを、海の赴くままに流されながら見つめていた。
 
 静かな波の音、途中で視界がくすんだ時、そっと目を閉じたら自然と夢の中へと沈んで行った。

 両親の夢を見た。
 ママはあたしと全くと言っていいほど顔が違った。本当にあたしのママなの? というくらいに。あたしが理想とする美貌を手に入れたママは、パパに会うために地上へと向かっていく。
 そして小さかったあたしは、召使いに甘やかされながらママの帰りをずっと待っていた。
 
 パパは黒髪で、少し焼けた肌の色は人の姿を想像させた。

 そこであたしは目が覚めた。

「わぁぁ!!」

 海に揺られるように仰向けになっていたから、目が覚めたら宙に返るように頭から潜り込んでしまった。
 お魚びっくり。クラーケンもびっくり。海の魔獣まで起きちゃうんじゃないかしら?
 
 ――なんて、こんな浅い場所では誰にも出会うことはない。

 すっかりと陽が暮れてしまった。というか、もう真っ暗だ。
 急がなきゃ……もういなかったりして。

 海の流れに逆らうように、尾びれを羽ばたかせるようにあたしは砂浜へと向かった。





「やっぱり……もう、いないわ……」

 遅かった。

 陽が暮れるのは思った以上に早いんだなぁと痛感する。
 いや、あたしが悪かった。あたしが転寝うたたねなんてするから。

 折角、貰えると思ってたのに……こういう時に限って馬鹿なことしちゃう……。

 砂浜に寝そべって、心の奥底で後悔をした。


***



「よっ」
「んぅ……?? ふあっ!?」

 後ろにゴロンと振り返れば、そこにはしゃがみ込んでいるベルの姿があった。
 膝を支えに腕を組んでいるせいか口元は見上げる限り見えないけれど、眉を顰めてムスッとした表情をしているなとは大体分かる。 

「遅い~……待ちくたびれた」

 甘ったるい、子供が愚図ったような言い方。

「あっ…えっ……!?」

 あたしは起き上がり、未だに驚きを隠せずにいた。一匹狼風のベルからそんな甘えたような口調で言ってくるなんて思いもしなかったから。
 し、心臓に悪いわ……あたし、このまま心臓が止まっちゃうんじゃないかしら……。

「ご、ごめんなさい。夢を見ていたら遅れちゃったの……」
「夢?」
「そう」
「俺とキスする夢でも見た?」
「っ……えっ……!? な、何言ってるのよ……!!」

 さっきから何なの? つい数時間前くらいは、お堅いキャラ貫いてたくせに……!! といっても最初もそんな煽り方されたかな……? もうどっちが正解なのよ。
 鼓動が暴れてる。止まらない……何故、何故?

「や、やっとその気になったのね! こ、こここ、これだけお願いすれば、流石に観念した……かし、ら?」

 震えが治まらず、声も動揺としてしまう。

「観念もするさ。つか、弟と知らない女がいるところで、ムードの欠片もない事したらお前に失礼かなとも思ったから、こうして呼んだんだ」
「そ、そん、な……そこまで、考えてくれなくたって。あたしはただ精をくれればそれでいいのよ……」



「…………」

 複雑そうなベルの表情。
 しゃがんでいたベルが足を崩して左脚を伸ばし、右脚は伸ばさずに膝に肘を添えて頬杖をする。
 
 その表情と沈黙に、あたしの心を一瞬にして止めるようだった。

「…………は」
「え?」
「親は」
「親……??」
「親は心配しないのか? もしアンタが人間になって、ずっと帰ってこなくなったら」

 ――ああ、複雑そうな顔をしていたのはそういう事ね。
 瞬く間に気持ちが冷めていく。
 
「心配なんて、ないわ。親もあたしを置いて地上へ出て行ってしまったんだもの」
「えっ……」
「あたしもそれに仲間入りするってわけ」
「じゃあ心配する人達は?」

 人っつうか、人魚。ベルは小声で言い直す。
 心配する人かぁ。頭に浮かんだのはリリアくらいだった。
 後は、よく挨拶してくれた男ぐらいかなぁ。
 召使いもちょくちょく交代されちゃうし、思い入れのある人達って、浮かばないなぁ。

 改めてそう考え直すと、今までずーっと薄い歴史を作り上げてきたなと思う。 

「リリア、ぐらいかしら」
「誰? 赤髪の?」
「そう」
「他には」
「あたしを気に入ってくれた男達、とか?」


 あ。
 今、時が止まったような感じ。
 素直にボロボロと吐くもんじゃないなと、ベルが目を細めて睨み出したからそう思った。
 膝に腕を回して、頬を膝に乗せる。

「ごめ……今のは忘れて」

 そう告げた後、なんだか鼻がツンときちゃって目元から何か込み上げて来る。

「……あたし、両親の事も、ぼや~っとしか覚えてないのよね。でも、ママが地上の話を沢山してくれたのは覚えてる。……そこに、パパもいたかも? 多分ね……なんとなく顔だけは覚えてるけど。どんどん綺麗に、自信を持ち始めるママが輝いて見えた。…………はぁ。パパとママに、会いたいな――」

 そう呟いてから束の間。
 柔らかい感触があたしの唇を塞いだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...