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8 決意。
しおりを挟む呪いが抜けないリリアをそっと貝がらのベッドに寝かせた後、
あたしはずっと陽が暮れるのを、海の赴くままに流されながら見つめていた。
静かな波の音、途中で視界がくすんだ時、そっと目を閉じたら自然と夢の中へと沈んで行った。
両親の夢を見た。
ママはあたしと全くと言っていいほど顔が違った。本当にあたしのママなの? というくらいに。あたしが理想とする美貌を手に入れたママは、パパに会うために地上へと向かっていく。
そして小さかったあたしは、召使いに甘やかされながらママの帰りをずっと待っていた。
パパは黒髪で、少し焼けた肌の色は人の姿を想像させた。
そこであたしは目が覚めた。
「わぁぁ!!」
海に揺られるように仰向けになっていたから、目が覚めたら宙に返るように頭から潜り込んでしまった。
お魚びっくり。クラーケンもびっくり。海の魔獣まで起きちゃうんじゃないかしら?
――なんて、こんな浅い場所では誰にも出会うことはない。
すっかりと陽が暮れてしまった。というか、もう真っ暗だ。
急がなきゃ……もういなかったりして。
海の流れに逆らうように、尾びれを羽ばたかせるようにあたしは砂浜へと向かった。
「やっぱり……もう、いないわ……」
遅かった。
陽が暮れるのは思った以上に早いんだなぁと痛感する。
いや、あたしが悪かった。あたしが転寝なんてするから。
折角、貰えると思ってたのに……こういう時に限って馬鹿なことしちゃう……。
砂浜に寝そべって、心の奥底で後悔をした。
***
「よっ」
「んぅ……?? ふあっ!?」
後ろにゴロンと振り返れば、そこにはしゃがみ込んでいるベルの姿があった。
膝を支えに腕を組んでいるせいか口元は見上げる限り見えないけれど、眉を顰めてムスッとした表情をしているなとは大体分かる。
「遅い~……待ちくたびれた」
甘ったるい、子供が愚図ったような言い方。
「あっ…えっ……!?」
あたしは起き上がり、未だに驚きを隠せずにいた。一匹狼風のベルからそんな甘えたような口調で言ってくるなんて思いもしなかったから。
し、心臓に悪いわ……あたし、このまま心臓が止まっちゃうんじゃないかしら……。
「ご、ごめんなさい。夢を見ていたら遅れちゃったの……」
「夢?」
「そう」
「俺とキスする夢でも見た?」
「っ……えっ……!? な、何言ってるのよ……!!」
さっきから何なの? つい数時間前くらいは、お堅いキャラ貫いてたくせに……!! といっても最初もそんな煽り方されたかな……? もうどっちが正解なのよ。
鼓動が暴れてる。止まらない……何故、何故?
「や、やっとその気になったのね! こ、こここ、これだけお願いすれば、流石に観念した……かし、ら?」
震えが治まらず、声も動揺としてしまう。
「観念もするさ。つか、弟と知らない女がいるところで、ムードの欠片もない事したらお前に失礼かなとも思ったから、こうして呼んだんだ」
「そ、そん、な……そこまで、考えてくれなくたって。あたしはただ精をくれればそれでいいのよ……」
「…………」
複雑そうなベルの表情。
しゃがんでいたベルが足を崩して左脚を伸ばし、右脚は伸ばさずに膝に肘を添えて頬杖をする。
その表情と沈黙に、あたしの心を一瞬にして止めるようだった。
「…………は」
「え?」
「親は」
「親……??」
「親は心配しないのか? もしアンタが人間になって、ずっと帰ってこなくなったら」
――ああ、複雑そうな顔をしていたのはそういう事ね。
瞬く間に気持ちが冷めていく。
「心配なんて、ないわ。親もあたしを置いて地上へ出て行ってしまったんだもの」
「えっ……」
「あたしもそれに仲間入りするってわけ」
「じゃあ心配する人達は?」
人っつうか、人魚。ベルは小声で言い直す。
心配する人かぁ。頭に浮かんだのはリリアくらいだった。
後は、よく挨拶してくれた男ぐらいかなぁ。
召使いもちょくちょく交代されちゃうし、思い入れのある人達って、浮かばないなぁ。
改めてそう考え直すと、今までずーっと薄い歴史を作り上げてきたなと思う。
「リリア、ぐらいかしら」
「誰? 赤髪の?」
「そう」
「他には」
「あたしを気に入ってくれた男達、とか?」
あ。
今、時が止まったような感じ。
素直にボロボロと吐くもんじゃないなと、ベルが目を細めて睨み出したからそう思った。
膝に腕を回して、頬を膝に乗せる。
「ごめ……今のは忘れて」
そう告げた後、なんだか鼻がツンときちゃって目元から何か込み上げて来る。
「……あたし、両親の事も、ぼや~っとしか覚えてないのよね。でも、ママが地上の話を沢山してくれたのは覚えてる。……そこに、パパもいたかも? 多分ね……なんとなく顔だけは覚えてるけど。どんどん綺麗に、自信を持ち始めるママが輝いて見えた。…………はぁ。パパとママに、会いたいな――」
そう呟いてから束の間。
柔らかい感触があたしの唇を塞いだ。
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