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7 交渉成立?
しおりを挟む予想外の事にあたしとリリアは互いに見合わせた。
リリアだけはゴクリと喉を鳴らす。
「ルーツ! お前、余計な事をするな」
「僕は人助けをしているだけだよ兄さん?? ねえ、兄さんが好きなのはどっち? 茶髪のポニーテールのほう? そしたら僕は真ん丸の赤髪ちゃんを頂こうかなぁ」
おいで? と両手を広げるルーツリア。すると、リリアがそーっとルーツの胸の中へと向かっていく。
「ちょっ……?? リリア? 本気なの?」
「い、いえ、リリアは……あれ? なんで? なんでリリアは勝手にこの人に近づこうと……??」
まさか無自覚なの?
そんな馬鹿な。あたしがリリアの手を取っても、リリアはするすると抜け出すようにあたしの傍から離れていく。
「なんで? なんで?? リベラ様!? リリアは、リリアは……」
「――痛っ!」
ベルがルーツの手首を掴み、引き上げる。それに反応するルーツに、リリアがビクッと肩を弾ませた。
「ほわっ……戻りました! リリア戻りましたよ!!」
リリアは我にかえったのか、自由に身動きがとれることに喜びを感じているようでクルクルと回って小躍りする。
今、ベルがルーツを止めたおかげかしら……?
「ねえ、なんなの? その、呪いみたいなやつ……」
思った事を口にすると、ベルは快く答えてくれた。
「大山猫の血を引いた俺達は、人でも何でも一時的に操る事ができるんだ。コイツはそれを悪用して女を誑かしてる」
「誑かしてるなんて、失礼な……」
ベルの説明に対し、ルーツは納得がいかなそうな表情で小さく反発している。
「――それと今、無理矢理呪いを止めたから、呪いが抜け切らない状態になることもある。あんな風にな」
ベルが顎で指差すようにリリアに向けているのが分かる。
そんな事もあるの? そしたら、どうなっちゃうの?
恐る恐る、横にいるリリアにあたしも顔を向けると……、
「ルーツ様ルーツ様ルーツ様……」
リリアが何度も「ルーツ様」と頭を抱えながら唱えていた……。
「……ホントに治るのよね?」
「一時的なもんだから暫くすれば治る」
「ならいいんだけど……」
淡々していたベルもついに本気を出したかのように、「ほら帰るぞ!」とルーツの腕を強く引っ張り上げた。
「痛い痛い……もう、乱暴はよしてほしいよ」
「お前が悪い」
ベルがルーツに釘をさした後、二人はあたし達の前を立ち去ろうとする。
「お、お待ちくださいませルーツ様っ!!」
「こら、リリアの馬鹿っ!!」
リリアは未だに変な呪いが残ったまま。あたしはリリアを後ろから抱きしめるように、彼女の脇の下に両手を滑り込ませて引き止める。
「というか! ちょ、ちょっと!? 誰が帰っていいって言ったのよ! 取引はまだ終わってな――」
「そんなくだらない取引に誰が乗るか! 出直してくるんだな、お嬢さん」
「待って! お願い」
リリアをこのまま手離すわけにもいかず、片腕だけでもベルの左足をぎゅっと両手で囲んでみせた。女に掴まれた以上、ベルだって流石に抵抗はできないはず……!!
「っおい……?! 離せ」
案の定、ベルは口で抵抗するだけで身動きはとらない。
「本気なんだから! ね、何でもするから!!」
「ぐ……懲りない奴だ!」
「――そんなに駄目なら、アンタの弟から貰うわよ……!!」
「なっ」
勿論いいわよね? と圧をかけるようにルーツに睨みつける。ルーツは未だベルに手を取られたままで、あたしを見てきょとんとしているけれど……。
「僕は構わないけど?」
ほら来た……! ルーツは本当に話が早くていい!
「呪いなりなんなり好きに使ってくれていーわよ? 使う必要もないと思うけど」
「ふ~ん……」思い悩む瞳から、人を見下すような悪しき瞳に切り替わり黒い笑みを浮かべる。「言うねぇ」
「交渉成立ね?」
「勿論だよ」
ルーツは快く受け入れてくれて、目を細めてニコッと微笑みかけられる。これで交渉成――――
「っ……!! 待て」
「……?? 何か問題でもあるのかしら?」
ベルがあたしを引き止めてから暫く間が空いたけれど……。
「正直……気に入らないが、だからといってルーツに差し出すのはもっと気に入らない」
ベルは目を閉じたままそう言い終えると、真剣な眼差しで見開いた。
「それってどういう……」
あたしが言いかけたその時、ベルが近づいてきて、彼の生暖かい息が耳元に吹きかかる。
「陽が落ちる頃にまたここに来れるか?」
耳打ち。何も考える間もなく、あたしはコクリと頷いてしまった。
ついにこの時が……!! 心の中でガッツポーズを決める。
「おいルーツ行くぞ。こんな奴らに構ってる暇なんてないんだからな」
「……あれ、兄さん結局断ったの?」
「当たり前だろ! 今日中に納品しなきゃいけない依頼が溜まってんだ」
「ふ~ん。つまんないな。また会おうね、赤髪ちゃん」
ルーツはベルに手を引っ張られながら、リリアに対する爽やかな笑顔とウィンクを最後に、あたし達はお開きになった。
ベルったら、そんな嘘までついて。
という事は夜は二人きりって事になるのかしら……。でも、リリアも折角ここまで来てくれたんだしリリアも呼ぶべきよね。
と、見送りながら考えていると、リリアは急に魚のように口をパクパクさせていた。
「……おーい、リリア?」
「ルーツ様ルーツ様ルーツ様……」
「はぁ。これ何時になったら治んのよ……」
呪われてしまったリリアを、あたしもベルと同じように手を掴みながら一旦故郷へと戻ることにした。
にしても、上手くいってよかった。ほんとはそんなつもりなかったんだけど、弟を使って煽ったら意図も簡単に話を呑んでくれたわ……!!
これで、初めて好きな人から性を受けて、人間になれる……!!
――そう、最初は思っていた。
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