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6 彼の弟。
しおりを挟む「いいこと思いついたって……??? 何だかとっても心配なリリアです」
「人間界には、訪問者用の役割があるじゃない? 役割をこなせば、報酬が貰える。つまり、あたし達も交渉するのよ。あたし達も役割を貰って、報酬に精子を頂くの」
「……上手くいくとは思わないリリアです」
急に冷静な態度を取るリリアに、あたしとしてもムッとしてしまう。
「む! ならあたし一人でやり遂げてみせるわ。リリアは一生海中で幸せに暮らしてればいいのよ!」
「ふえ!? ず、ずるいですそんな言い方ー!! はう! リリアも行きます! リリアも行きますから~!!」
捨て台詞を吐きながらリリアを置いていこうとすると、リリアは慌てふためきながら一緒に地上の方へと向かって行った。
***
「へっへっへ、いいねえ。いい話じゃない! 気に入ったぜお嬢ちゃんたち~」
にしても、可愛い可愛いとよく愛でられるのは、人魚界の男には不評なリリアのほうだった。
そんな事より、あれから数日が経つも今日のあたし達は不幸な事に、ベルに出会うどころかまたしても例の三人組に出会ってしまった事だ。
「じゃ、俺は赤髪のほうの~」
「赤っつうより、ピンクだろ。ピンクは俺のだ」
「お前はこっちの茶色でいいだろ! ピンクは俺の!」
役割よりも先に品定めし始める三人組達。いいのよ……あたしだって今はこうでも、こいつらから精子を貰えれば少しでも生まれ変われるはずなんだから。今は我慢時!!
「……リリア、やっぱり怖いです」
「怖がらなくていいんだぜ~お嬢ちゃん! こんなもっちもちな丸顔、舐め回したくなっちまう」
「はうっ……こいつら、クサいし気持ち悪いと思っているリリアです……!!」
砂浜に手がつくくらいに寄ってきてはいたけれど、リリアは徐々に後ろへと下がっていっている。リリアの気持ちは分からないでもないけれど、自分自身は選択肢などないくらいに切羽詰まっている状況だった。
「よしよし、どうするかな。海中にあるお宝やらでも取りに行ってもらうか。そんぐらいしてもらわないと、割に合わねえもんなぁ~けへへ」
「流石兄貴! そうっすよ。精は子供を授ける為の大事な材料っすもん。そんぐらいしてもらわないと割に合わないっすよね~」
「お宝……ね。深海でしか見つけることができない宝石とかかしら……?」
言ってみたものの、正直、手に入れられるか自信は無い。
だってそんなもの……おとぎ話では聞いたことがあっても、実際に見たことは無いもの。自分で自分のハードルを上げ過ぎたわ……。
「いいねぇ!! それにしよう!!」
「これで暫くは生活に支障もな――ヴッ!?!?」
三人のうち、端にいた一人の男の頬が誰かの足裏によって押しつぶされる。
鼻から血が漏れ歯も折れて大惨事!
「ひ、ひやぁぁぁーー!! 血がっ! 血がーー!!」
大袈裟に、狂ったかのように悲鳴を上げるのは三人組ならぬリリアだった。
あまりにも悲鳴を上げるのであたしの悲鳴はかき消すどころか喉からカスりも出なかった。
「うるさいなぁ……」
その声は。
――いや、違う。ベルじゃない。なんだか雰囲気は似てるようにも感じたけれど。
その蹴り上げた足から流れるように見上げると、そこにはベルともう一人の青年がいた。
蒼髪で、前髪で右目を隠した男。ベルとは違い、色白で少しタレ目な青年は三人組に銃口を向けていた。
三人組は「ひっヒィィ……!!」と言葉にならない嘆きと共に、走り去っていく。ベルに蹴られた一人は、遅れながらも逃げ出した二人を追うように砂を蹴りながら走り出して行った。
素早い三人組の声も瞬く間に消えていくが、ベルのもう一人の青年が三人組が森の方へと消えていったのと同時に二、三発、素早く撃ちだした。
「……当たったか?」
「んー、外してないと思うんだけどねぇ……」
ベルが目を左方向に、青年を睨みつけながら結果を問う。それを青年が曖昧ながらも自信有り気に答えた。
「思うじゃ駄目だ。貸せ」
「あっ……」
青年はベルに自分の銃を奪われ、「乱暴だなぁ」と呟きながら腕を組んだ。
そうしてベルが一……、二……と、青年とは違い、より正確に撃とうとしたのか、少し間をあけてから二発撃ち込んだ。
青年が撃ったときから何も悲鳴は聞こえてこなかったけれど、勘違いかもしれないが「くっ……!!」と最後の声を振り絞ったような声が森の方から聞こえてきたような気がした。
「ほら、まだ意識があったじゃねえか」
「ちぇっ。はいはい。僕が下手くそでしたよ~っと」
やれやれ、と青年は両方の手のひらを軽く上にあげていた。
さっきから……なんだろう? この二人のやり取りは。仲間か、何か……??
数十秒ほどの沈黙の後に、ベルがあたしに目を向けた。
「…………それよりも、おい。リベラ。どういうつもりだ?」
ベルは怒涛の表情であたしを見下ろしている。
納得がいかないあたしは、
「何って。あたしはただ人間様と取引をしてたところよ。それをアンタに邪魔されたの」
と、煽るように言い返してやった。だって、ベルに怒られる筋合いなんて無いもの。
「あのくだらない理由の為か。いい加減にしろ。やるとしても、もっと人を選ぶべきだろう」
「選んだら、アンタは断わったじゃない!」
ゔっ……と言葉に詰まってそうなベル。そりゃそうよね、としか言いようがない。けれど隣の青年が、急に笑いかけて来て、
「ごめんね。兄さんは自分に対しては甘いのに他人には厳しいんだ。なんなら僕が話を聞いてあげるけど?」
と、爽やかな表情で手を差し伸べてきた。
「ほわぁ……リリア、この男の人からとても危険なニオイがプンプン漂っているように感じます」
この男の人、というのは恐らくこの青年の事。
確かに、胡散臭いなとは思うけれど……。言うのはタダだし、一度聞いてみようかと思う。
「あたしはリベラ。人間になりたくて、人間の精を誰かに譲ってもらえないか交渉してるの。貴方の名前は?」
「僕の名前はルーツリア・アイビー。これの弟。ルーツでいいよ? んーと……つまり人魚が人間になる為には、その精とやらが必要なの?」
まさか兄を指差してこれ呼ばわりするとは……。
あたし以上――いや、リリア以上に彼はぶっ飛んでいるような気がする。
でも、話が早くて良い。
「そういう事。あたしは人間として人生を歩んで行きたいの。人魚界に思い入れなんて無いわ。だから、どうかあたしの為に精をちょーだいっ?」
リリアはあたしの背に問いかけるように、小声で「リベラ様、リベラ様……!!」と引き留めようとしている。ベルはというと、ルーツの後ろで警戒の眼差しをルーツに向けていた。
「そういう事か。いいよ、召し上がれ?」
「えっ」
ルーツはあっさりと自分のチャックを下に引き、今にも例の物を出そうとしている。
え、タダでいいの……!? あれ? 今までの苦労は? というように、ついあたしも声を洩らしてしまった。
「ちゃんと、あーんして口いっぱいに頬張ってね?」
「おいおいおい待て!!」
「ん? 何だよ兄さん。彼女が欲しがってるんだから答えてあげないと」
チャックに手を添えた弟ルーツの手を奪い取るように握りしめたのは、兄のベルだった。
「ひゃぁっ……!! このルーツって人、凄くエッチなのです……!!」
「な、なんて、兄とは大違いなの……!?」
良いんだか悪いんだか……弟のおかげで話は上手いこと進みそうだった。
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