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ラグエリア大陸編~生動の章~

第7話『新居』

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 海岸に行き、砂集めをする。
 ついでに海の幸もいただいていく。

 次に山の麓に行き、粘土層から粘土を集める。

「アカリ。結構集めたな」
「はい。新しい調味料の種子や野草やキノコなどもこの通りですマスター」
「こりゃ、畑仕事も楽しみだな」
「ですね」

 アカリから預かりアイテムボックスに入れる。
 とりあえずは家造りを優先する。

 粘土や砂を錬成させて『レンガ』や『ガラス』を作ってアイテムボックスに入れる。
 木を錬成で木材に変えていく。
 これで、家を建てる材料は集まった。

「あとはこの材料を使ってイメージ魔法で家を建てれば良いわけだ」
「どんな家にするのですか?」
「基盤となるのはレンガだな。支柱となる場所には大木の大黒柱で地震にも強い造りにするつもりだよ」

 こじんまりとした家も良いが、異世界で建てるんだし思い切って広い家を建てよう。
 嫌味にならない感じの屋敷っぽい家。
 
「イメージは明確にしっかりと……『建造呪文ビルド』」

 アイテムボックスから取り出した材料が組み合わさっていく。
 あっという間に3階建てのU字の家が建つ。

「でっかいです。高級宿屋に匹敵する広さです」
「ははは。思いっきり趣味に走ってしまった」

 1階は広いロビーとリビング、キッチンや食堂、応接室や書斎、浴室にサウナや温水プールを完備。
 2階や3階は個室で作られている。
 個室と言っても1つの部屋は12畳ほどの広さがある。

 トイレは洋式便座をすべての階に6つずつ、地下室も作り倉庫とした。
 外観には『腐敗防止』『汚れ防止』『魔法・物理攻撃反射』を施す。

「あとは内装だな」
「買い置きしてある物では心もとないですね」
「食器や家具、ベッド周りは良いけど、やっぱなんだかんだ足りない物があるな」

 ある程度の家具は家を建てる時に一緒に造った。
 だが、本やテーブルクロスのような家具に付随する物までは当然作れるはずもないわけで……。
 とはいえ、こんな辺境の地では町であってもそうそう揃う物など多くはない。

「そのうち、いろんな町にも行ってみないとなぁ……」
「1番は王都に行くことなんでしょうね」
「王都か……。そっちの方が手っ取り早いか」

 だが、ここから王都となると3ヶ月はかかる距離だ。
 おいそれと出かけられる距離ではない。

「何とか短時間で王都に行けたらなぁ……」
「それこそ魔法ですね」
「魔法かぁ……」

 普通に考えれば『転移系魔法』は一度でも訪れていない場所には転移できない。
 となると、『飛行魔法』で飛んでいくと言う方法しかないな。
 しかし、闇雲に飛んで行っても目的地に着くのは時間がかかる。
 いくら『全知全能』の能力があっても魔法を発動しながら能力を使うというのは無茶だろう。

「それにしても広すぎて落ち着きませんね?」
「確かになぁ。家族がいれば喜んでくれただろうに」
「向こうの世界の家族ですね。いきなり消息不明なって心配しているでしょうね?」
「連絡だけでもできればなぁ……」

 思い出したかのようにアイテムボックスから『スマホ』を取り出す。

「……やっぱ使えないよな」
「向こうの世界の物ですね。さすがに『そのまま』では使えないでしょうね」
「どういう事だ?こっちでも使える方法があるのか?」
「元のままとはいきませんが、それを『魔道具化』すればある程度の機能は使えるようになると思います」
「なるほど『魔道具化』か……」

 つまり電池ではなく、『魔力』で使えるようにすれば良いってことだな。

 俺は錬成呪文をスマホにかけてみる。
 もちろん、スマホを魔力で動くようにイメージしてだ。
 こればかりは初めての試みなので上手くいくかは賭けでもあった。

「……お。真っ暗だった画面が戻った」
「どうやら、成功したようですね」
「……確かに地球に居た時と機能は同じだな」

 入れておいたアプリは全部使える。
 ゲームなんかも普通にやれるな。

「……あれ?」

 ゲーム画面を見ているとある事に気がついた。

「なんで、新規イベントがアップロードされているんだ?」

 アプリゲーの新規イベントのアップロードのお知らせメールを見たのは俺がこっちの世界に来る少し前。
 つまり、俺は新規イベントのアップロードをしていないのだ。
 なのに、アップロードされているということは……俺の故郷とネット回線が繋がっていることを意味するわけで……。

「もしかして、電話回線も繋がったんじゃ……」

 俺は逸る気持ちを抑えて妹に電話してみる。

 プルルル…プルルル…。

「はは。呼び出し音が鳴ってるよ」
「別世界なのに電波が通じるとは驚きですね」
「だよなー」

 数回のコール音ののちに繋がる。

『もしもし、お兄ちゃん!お兄ちゃんだよね!』
「おう。 祢音ねおんか。まあ、落ち着け」
『落ち着いていられるわけないでしょ!急に居なくなって心配したんだよ!』
「まあ、そういう反応になるか。その辺りは悪いと思うが普通なら連絡が出来ないはずだったからな……」
『それってどういうこと?お兄ちゃん、今どこにいるの?』
「信じてもらえないと思うが、俺は今別の世界にいるんだよ」
『……おにいちゃん。とっくに中二病は終わったと思ったのに……』
「まあ、そういう反応になるよな。だけど嘘じゃないんだなこれが」
『だったら証拠を見せてみてよ』
「んー……じゃあ、こっちの写メを送るから確認してみろよ」

 俺はいったん電話を切り、周りの風景を写して妹にメールする。
 特に村に建っている家を写したものを中心にだ。

『なんかやたら古びた家ばっかりだね』
「まあ、都会から1番遠い場所にある村だからな」
『確認してなんだけど、どうして別世界に?』
「なんかこことは別世界の『勇者召喚』に巻き込まれたらしいんだよな」
『……それで、帰ってこれるの?』
「それは無理だな。出来るならとっくにやってるよ」
『だよね』

 イメージ魔法が使えても異世界転移は出来ないことは俺の中の『全知全能』が教えてくれている。
 ……まあ、向こうからこっちに呼ぶことは可能みたいだが……。

「こっちでの暮らしが落ちついたら改めて連絡するからオヤジやオフクロに上手く伝えといてくれ」
『分かった。でも、メールくらいは1日に1回は頂戴ね』
「了解。じゃあ、またな」

 俺は電話を切り、今の出来事を振り返る。
 今しがたまで妹と会話していたというのに、どこか信じられないと感じたのは『全知全能』の知識でも『不可能』とまではいかないまでも『可能』にできるかは『限りなく低い』という『答え』があったからだ。

 なまじ『全知全能』の知識があるおかげで自分の中の『常識』が邪魔となってしまったというわけだ。

「それにしても、何でもありって感じになったなぁ……」
「出来ないことは出来ないんですけどね」
「逆に言えばちょっとでも可能性があればできちゃうってことだよな」
「それを可能にするだけの発想力をマスターはお持ちですから」
「発想力ねぇ……」

 その言葉で『ある事』ができるんじゃないかという考えが浮かぶ。

 スマホには地図機能がある。
 それを利用して、この世界の地理を組み込めないかと考えたのだ。

「……『魔法付与エンチャント』、『ミスティリア地理』」

 地図機能にミスティリアの世界地図が記憶される。
 どういう仕掛けか分からないが、地球のグーグルマップさながらにミスティリアのリアルタイム映像も見ることができる。
 人工衛星があるわけでも無いのに……。
 これも『魔法』の成せる技なのだろうか?

「と言うか別世界にいるのに、地球のグーグルマップも見れるのか」
「マスターをサポートする私でさえ理解が追い付かないですね」
「イメージ魔法の範囲って結構広いってことなんだろうな」
「そのうえ、『全知全能』の知識もありますからね」

 つまり神々がくれた恩恵ギフトが思った以上に強大な恩恵ギフトだったということなのだろうか?

「これは改めて恩恵ギフトの能力を再検証するべきかもな」

 せっかくの田舎暮らしがスタート出j来たと思った矢先にこれである。
 中々世の中上手くいかないもんだと思う俺だった。
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