平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

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本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

53.運命の人

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「私には『運命の人』は現れ無さそうだな」

 七海はポツリと呟いた。

「この人!って出会った時に分かるって言うじゃない?唯も本田君に会った時すぐに分かったの?」

 七海にとっては本田と唯はまさに理想の『運命の恋人』同士だった。小学校で出会い、お互いだけをずっと見つめて、多少波風が立ってもしっかりと信じあって乗り越えている。そしてこのまま結婚して、温かな家庭を築くのだろう。
 二人を隣で見ていると、その安定感が羨ましくもあり、暗闇の中の灯台のような指針にも思えた。

 こんな関係って素敵だな、そう素直に思えるのだ。

 カウンターの横で唯はフフフ……と笑い、一口ワインを含んだ。
 そして七海を振り返り、悪戯っぽく笑ったのだった。

「ううん、全然?」

 しかし予想に反して返って来たのは、否定の言葉だった。

「良い人だなぁとは思っていたよ?声の大きい人に何を言われてもニコニコしていて。最初虐められているのかと思ったくらい」
「え……ええ?」
「でもねぇ、付き合っていくうちに『この人って、スゴイ人だな!』って打ちのめされる事が何度もあって、いつの間にか好きになっちゃってたの!」
「そうなんだ……」

 七海のイメージでは、例えば出会った瞬間にお互い一目惚れした……とか、とにかく運命的な出会いをした最初から決まりきった組み合わせのように見えていた。

(だって、二人ってピッタリと嵌ったついのように見えるんだもの)

 不思議そうな顔で唯を見つめる七海に、唯はニコリと微笑んだ。

「私ね、『運命の相手』っていないと思ってるの」

 七海は首を捻った。

「私にとっては唯と本田君って、『運命の恋人同士』そのもの!ってイメージなんだけど」

 唯はニンマリと笑って言った。

「それは私が努力して『運命』に近付くように頑張っているからなの」

 ますます分からなかった。
 『運命』は空から降って来るようなもので、そこに『努力して近づく』なんて言う人はいない。少なくとも……七海がこれまで出会った人の中にそんな風に言う人はいなかった。

「ポンちゃんってさ―――全然『恋愛脳』じゃないんだよね。だから浮気とかの心配は無いんだけど―――たまに私の事も置いてけぼりにしちゃうの。進路の事にしてもそうだよね?私はずっとポンちゃんに付いて行くつもりだったのに、ポンちゃんは当り前のように遠い学校に行く事を相談も無しに決めちゃったでしょ?付き合う時もそう。私がガンガンアタックしなかったら、きっと私達今頃付き合ってなかったと思う」

 本田の唯への溺愛振りを見ていたら―――決して一方通行の好意では無いと傍から見る七海には分かるのだが……。しかし七海は口を挟まずに唯の次の言葉を待った。

「でも私、ポンちゃんの事好きになっちゃったから、ポンちゃんと一緒にいれるよう頑張るって決めてるの。それでいつか―――あと五十年くらい経ってもポンちゃんの傍にいられたら―――初めてその時、私達は『運命の相手』って言えるんだと思う」
「唯……」

 ニコリと笑う癒し系の笑顔は、ほにゃりと柔らかくて。
 そんな強い意志を秘めているようには、まるで見えない。

 けれども唯の強い意志が、二人の絆をより特別なものにしているのだと言う事が―――七海の中にストンと落ちて来た。

「―――七海にも『運命』にしたい相手はいるのかな?」
「『運命』に―――したい相手?」
「うん」

 唯は大きく頷いた。

「それがのぶ君だったら良いのにね?」
「……」
「あっでも、信君の事『運命の相手』にしたい女の人って他にも一杯いそうだね―――」

 と其処まで言ってから唯は口を覆った。

「あっゴメン……」
「……」

 七海と唯は真顔で視線を交わし、そしてプッと噴き出した。

「アハハ……私と同じ考え方の人、結構いるね!私も両想いじゃ無かったら『ストーカー』認定されてたかも!」
「ゆ、唯が『ストーカー』……うっ、ククク……!ほ、本田君がすっごく喜びそうなんですけどっ……」

 そうして二人は平日なのにガンガン飲んで、デロデロに酔っぱらったのだった。
 次の日の朝、痛む頭を抱えて七海は気付いた。



「全然、信さんの事……決められなかった……」



 今日は火曜日。

 『返事は急がない』と言われたものの―――一体どんな顔をして信に会ったら良いのだろう……と七海はまた頭を抱えたのだった。

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