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後日談 黛先生の婚約者
(23)プレ夫婦会議 その2
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(22)話の後のお話です。
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シャワーを浴びて身支度を整え、ホテル最上階のビュッフェに黛と七海はやって来た。
東京タワーが見える見通しの良い席で、それぞれ選んだ朝食を並べて食べ始める。
七海はふわふわのスクランブルエッグにトーストとヨーグルト。英国御用達のジャムは十二種類あって選び放題。彼女は定番の苺とマーマレードを選んだ。スモークサーモンはノーマルと柚子、両方を選びサラダを添える。
黛は日頃不摂生な食生活になる事が多い為、和食を選択した。ご飯に納豆、焼き魚に出し巻き卵に海苔……と言う日本の朝の定番メニューである。
「黛君の朝ごはん、私の普段の朝食とそっくり。いつもそんな感じだから、ホテルではパンを選んじゃうな」
「俺は出勤途中のコンビニでパンと珈琲を買うか、カフェのテイクアウトだから逆に出掛けてまでパンはちょっと……。七海んちの朝ごはんって誰が作ってるんだ?」
「今はお祖母ちゃんが作ってるよ。だから余計に『日本の和食!』って感じなの」
「へーいいな。俺も本当は和食がいいんだよな。でも不規則だし時間無いからやっぱ楽なパンになっちまうんだよな」
黛は羨ましそうに言った。
七海は少し考える素振りで視線を上げて、そしてポツリと呟いた。
「……結婚したら朝ごはん、和食が良い?」
「……え?!……」
ピタリと箸を止めて黛が、目を丸くした。
「もしかして……朝ごはん、作ってくれるのか?!」
「えっ……」
今度は七海が目を丸くした。
「そりゃ、作るよ。一緒に住むんだもん、自分の分だけ作る訳ないじゃん。黛君とお義父さんの分も作るよ」
「へぇー……うわー……本当に?」
心底驚いた様子の黛を目にして、七海は首を傾げた。
「そんな驚く事?当り前だと思ってたけど」
「俺、家で玲子に朝食作って貰った事ほとんど無い」
「ええ!玲子さん、昔は一緒に暮らしていたんでしょ?その時は?それにお義父さんは全くやらない人なの?」
確かに黛家のガランとした冷蔵庫を見ると、男二人が全く料理しないと言う事は何となく分かってしまうが―――三人で暮らしていた時からそうだとまで七海は考えていなかった。
「ああ、玲子はやりたがった時期もあったらしいが―――恐ろしく不器用で、料理の最中軽い怪我をした事があって、親父から包丁を持つ事を禁止されたんだ。小さい頃はシリアルかパンだったかな?その内皆外で食べるようになった」
「そっか、ピアニストだもんね。お父さんも全然しないの?」
「聞いた事無いな。親父も手を使う仕事だから、気を付けてるんだと思うけど。うっかり怪我でもしたら、予定している手術に影響があるかもしれないからな」
「へー、そっか。黛君もそれで料理しないの?」
黛は七海の素朴な質問にフフッと笑った。
「俺は単にやらないだけ。つーか学校の授業以外で料理ってした事無いし。研修医一年目は足持ちか鉤引きばかりでメスは殆ど握らせて貰えないから、親父みたいに気を遣う必要無いな」
「『足持ち』って足を持つの?『鉤引き』って何?」
「言葉のまんまだ。手術の時足を持って―――って、俺は平気だけどお前飯食べられなくなるぞ。手術の話はもう止めようぜ」
「あっ……そうだね」
どんな話をしようとしたのか―――と一瞬だけ想像して、七海は話題自体頭から追いやった。せっかくの美味しそうな朝ごはんを不意にするのは御免だった。慌てて話題を戻す。
「話を戻すけど―――朝ごはん、食べてくれるんなら作るよ。和食が好き?お義父さんもかな?」
「何でもいいよ。作って貰えるなんて思って無かったから。―――でもいつもパンが多いから―――和食がいいかな」
黛が嬉しそうにニンマリ笑うのを見て、七海も口元を綻ばせた。
しかしハードルが高くなっては困ると、慌てて補足の台詞を述べる。
「でも期待されるほど凝った物作れないけど……ガッカリしないでね」
家事手伝いも長い事こなして来た七海は、一通り何でも卒無く作る事ができる。年の離れた弟の翔太も含め、七海がご飯を作った日は家族は皆「美味しい」と言ってペロリと平らげてくれた。少し謙遜も含めて言ったつもりだった が、黛の返事に浮かれた新婚気分が冷えるのを感じた。
「大丈夫。俺好き嫌い無いから。丸焦げじゃ無ければ何でも食べれる」
「……ハードル低っ!」
どうやら、新妻として気負う必要はほとんど無さそうだ。
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整形外科手術では、研修医は主に足を持つのが仕事だそうです。『鉤引き』はメスを入れた部分を器具で開いて中身を見えるようにする作業で、どちらも力仕事。朝ごはんの話題としては不適当なので割愛しました。ミスター『デリカシー無男』の黛も少しだけ気を使えるようになりました。
お読みいただき、有難うございました。
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シャワーを浴びて身支度を整え、ホテル最上階のビュッフェに黛と七海はやって来た。
東京タワーが見える見通しの良い席で、それぞれ選んだ朝食を並べて食べ始める。
七海はふわふわのスクランブルエッグにトーストとヨーグルト。英国御用達のジャムは十二種類あって選び放題。彼女は定番の苺とマーマレードを選んだ。スモークサーモンはノーマルと柚子、両方を選びサラダを添える。
黛は日頃不摂生な食生活になる事が多い為、和食を選択した。ご飯に納豆、焼き魚に出し巻き卵に海苔……と言う日本の朝の定番メニューである。
「黛君の朝ごはん、私の普段の朝食とそっくり。いつもそんな感じだから、ホテルではパンを選んじゃうな」
「俺は出勤途中のコンビニでパンと珈琲を買うか、カフェのテイクアウトだから逆に出掛けてまでパンはちょっと……。七海んちの朝ごはんって誰が作ってるんだ?」
「今はお祖母ちゃんが作ってるよ。だから余計に『日本の和食!』って感じなの」
「へーいいな。俺も本当は和食がいいんだよな。でも不規則だし時間無いからやっぱ楽なパンになっちまうんだよな」
黛は羨ましそうに言った。
七海は少し考える素振りで視線を上げて、そしてポツリと呟いた。
「……結婚したら朝ごはん、和食が良い?」
「……え?!……」
ピタリと箸を止めて黛が、目を丸くした。
「もしかして……朝ごはん、作ってくれるのか?!」
「えっ……」
今度は七海が目を丸くした。
「そりゃ、作るよ。一緒に住むんだもん、自分の分だけ作る訳ないじゃん。黛君とお義父さんの分も作るよ」
「へぇー……うわー……本当に?」
心底驚いた様子の黛を目にして、七海は首を傾げた。
「そんな驚く事?当り前だと思ってたけど」
「俺、家で玲子に朝食作って貰った事ほとんど無い」
「ええ!玲子さん、昔は一緒に暮らしていたんでしょ?その時は?それにお義父さんは全くやらない人なの?」
確かに黛家のガランとした冷蔵庫を見ると、男二人が全く料理しないと言う事は何となく分かってしまうが―――三人で暮らしていた時からそうだとまで七海は考えていなかった。
「ああ、玲子はやりたがった時期もあったらしいが―――恐ろしく不器用で、料理の最中軽い怪我をした事があって、親父から包丁を持つ事を禁止されたんだ。小さい頃はシリアルかパンだったかな?その内皆外で食べるようになった」
「そっか、ピアニストだもんね。お父さんも全然しないの?」
「聞いた事無いな。親父も手を使う仕事だから、気を付けてるんだと思うけど。うっかり怪我でもしたら、予定している手術に影響があるかもしれないからな」
「へー、そっか。黛君もそれで料理しないの?」
黛は七海の素朴な質問にフフッと笑った。
「俺は単にやらないだけ。つーか学校の授業以外で料理ってした事無いし。研修医一年目は足持ちか鉤引きばかりでメスは殆ど握らせて貰えないから、親父みたいに気を遣う必要無いな」
「『足持ち』って足を持つの?『鉤引き』って何?」
「言葉のまんまだ。手術の時足を持って―――って、俺は平気だけどお前飯食べられなくなるぞ。手術の話はもう止めようぜ」
「あっ……そうだね」
どんな話をしようとしたのか―――と一瞬だけ想像して、七海は話題自体頭から追いやった。せっかくの美味しそうな朝ごはんを不意にするのは御免だった。慌てて話題を戻す。
「話を戻すけど―――朝ごはん、食べてくれるんなら作るよ。和食が好き?お義父さんもかな?」
「何でもいいよ。作って貰えるなんて思って無かったから。―――でもいつもパンが多いから―――和食がいいかな」
黛が嬉しそうにニンマリ笑うのを見て、七海も口元を綻ばせた。
しかしハードルが高くなっては困ると、慌てて補足の台詞を述べる。
「でも期待されるほど凝った物作れないけど……ガッカリしないでね」
家事手伝いも長い事こなして来た七海は、一通り何でも卒無く作る事ができる。年の離れた弟の翔太も含め、七海がご飯を作った日は家族は皆「美味しい」と言ってペロリと平らげてくれた。少し謙遜も含めて言ったつもりだった が、黛の返事に浮かれた新婚気分が冷えるのを感じた。
「大丈夫。俺好き嫌い無いから。丸焦げじゃ無ければ何でも食べれる」
「……ハードル低っ!」
どうやら、新妻として気負う必要はほとんど無さそうだ。
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整形外科手術では、研修医は主に足を持つのが仕事だそうです。『鉤引き』はメスを入れた部分を器具で開いて中身を見えるようにする作業で、どちらも力仕事。朝ごはんの話題としては不適当なので割愛しました。ミスター『デリカシー無男』の黛も少しだけ気を使えるようになりました。
お読みいただき、有難うございました。
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