244 / 363
後日談 黛家の妊婦さん1
(133)二人でお散歩
しおりを挟む
(132)話の続き、再び黛夫妻の会話です。
オチ無しの設定説明のようなお話。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お腹が膨らんで来るといつも来ている服が段々着られなくなって来る。
けれども七海は特別マタニティウエアを購入せず、産後も着れるようなストンとしたワンピースやチュニックを着てしのいでいた。しかし流石に普段履くようなデニムやパンツなどは苦しくて履けない。その点新しく購入したマタニティ用のレギンスはお腹部分がゆったりと作られていて、履いていてとても楽なので最近こればかり愛用している。
今日の七海はギンガムチェックのぶかぶかなビックシャツにマタニティレギンス。ちょっと見、妊婦には見えないだろう。黛と日程の合った貴重な休日、散歩がてら二人そろってショッピングセンターまで歩いて行こうと七海は夫を誘ったのだ。
妊婦検診で体重管理も大事だと指導を受けて以来、こまめに歩くよう心掛けている。
手を繋いで、のんびりと川沿いを歩く。七海は川の水面にキラキラと光が反射するのを眺めながら、ふと呟いた。
「翔太と一緒に水切りしたの、思い出すね」
「翔太、元気かな?」
「うん、この間会ったら元気だったよ。小学校でもお友達たくさん出来たみたい」
緊急医療センターに配属された黛の休みは不規則だ。黛不在の休みの日、七海は唯とランチに出掛けたり、電車で三十分ほど離れている実家に泊まったりしている。そして実家に泊まる時はだいたい、戻る前に七海がかつてバイトをしていた古谷大福堂に顔を出す。
マトリョーシカに似た小柄なおかみさんの顔を見るのが第一の目的だが、夫の好物であるヨモギ大福をお土産にするのも大事な目的だ。多忙な夫が甘い餡子を頬張って目を細めるのを見ると、ちょっとでも癒しに貢献出来たような気がして嬉しくなる。
「翔太に会いたいなー」
「寂しい?」
溜息を吐くように気持ちを吐露する黛を見て、七海はクスリと笑って言った。
「と言うか……あの訳の分からない陽性のエネルギーを充電したい」
疲れているのかな?と七海は思う。傍から見ても新しい職場はかなり大変そうに見えた。
「確かにそう言うの、あるよね。……でもたくさんこっちのエネルギーも吸い取られるけどね。遊び終わったらいっつもヘトヘトになるもの」
育ちざかりの男の子はまさにエネルギーの塊で、お腹が膨らみつつある七海が相手をするのはかなり重労働だ。
「夏休みになったら、また泊まりに来させようか?」
「でも呼んでおいて結局仕事で会えないってパターンもありそうだな~」
「まあその時はその時。私も翔太と遊びたいし」
黛の為と言うより、七海も会いたいと言うのが本当の所だ。会うたびヘトヘトになるのだけれども喉元過ぎればナントカ―――また可愛い弟と遊びたくて堪らなくなって来るのだからおかしなものだ。
「それにお義父さんも相手してくれるかも。翔太スッゴく懐いてたもんね」
防音室で二人が重なるように眠っている所は、胸が温かくなるような光景だった。
「意外だけど、親父は子供の扱い上手いよな」
「そうだよね、それにオムレツも上手だし」
龍一は一度フライパンを握って見せた後、時折七海の代わりに朝食を作ってくれるようになった。七海は「んー」と唸った後、首を傾げた。
「お義父さんって……何者?」
「『何者』って……普通の一般人。ちょっと手先は器用だけどな」
「ちょっとってレベルじゃ無いよね?」
何せ整形外科の分野ではかなり有名なお医者様だと聞いた。七海は直接その技術を目にした事も、職場の龍一も目にした事は無いが―――ただならぬ雰囲気は感じている。何よりあの、玲子が首ったけに惚れている人物なのだ。その事実だけでも、決して『普通の一般人』とは言えないと思った。
「親父ってあまり自分の事話さないんだよな。つーかあんまり話自体しないけど。」
「なんかお義父さんに出来ない事って何も無いんじゃないかって……思う時があるんだよね」
「それは俺も思う。同じ分野で働いてから特に感じるよ、いつまで経っても親父に追いつける気がしないって」
いつも自信一杯の黛の完敗宣言がストンと胸に落ちて来る。黛は自信過剰な訳では無い。自分の力量を正しく測れて偽らずに口にするだけなのだ。
「……黛君は黛君で……イイとこあるよ?」
龍一をほめ過ぎたような気がして、七海は夫をフォローする言葉を口にした。
すると見当違いな方向から黛が返事を返して来た。
「俺に親父よりイイ所があるとすれば―――良い嫁を貰った事ぐらいだな」
「……」
ニンマリとドヤ顔で言われてしまった。不意打ちに思わず動揺してしまう。七海は頬を染めて俯き、プッと膨れて夫に軽く体当たりした。
「……私の夫は口が上手いなぁ」
「正直に言ってるだけだけどな」
悪びれない夫の台詞に、七海はますます朱くなってソッポを向くのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただき、誠に有難うございました!
オチ無しの設定説明のようなお話。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お腹が膨らんで来るといつも来ている服が段々着られなくなって来る。
けれども七海は特別マタニティウエアを購入せず、産後も着れるようなストンとしたワンピースやチュニックを着てしのいでいた。しかし流石に普段履くようなデニムやパンツなどは苦しくて履けない。その点新しく購入したマタニティ用のレギンスはお腹部分がゆったりと作られていて、履いていてとても楽なので最近こればかり愛用している。
今日の七海はギンガムチェックのぶかぶかなビックシャツにマタニティレギンス。ちょっと見、妊婦には見えないだろう。黛と日程の合った貴重な休日、散歩がてら二人そろってショッピングセンターまで歩いて行こうと七海は夫を誘ったのだ。
妊婦検診で体重管理も大事だと指導を受けて以来、こまめに歩くよう心掛けている。
手を繋いで、のんびりと川沿いを歩く。七海は川の水面にキラキラと光が反射するのを眺めながら、ふと呟いた。
「翔太と一緒に水切りしたの、思い出すね」
「翔太、元気かな?」
「うん、この間会ったら元気だったよ。小学校でもお友達たくさん出来たみたい」
緊急医療センターに配属された黛の休みは不規則だ。黛不在の休みの日、七海は唯とランチに出掛けたり、電車で三十分ほど離れている実家に泊まったりしている。そして実家に泊まる時はだいたい、戻る前に七海がかつてバイトをしていた古谷大福堂に顔を出す。
マトリョーシカに似た小柄なおかみさんの顔を見るのが第一の目的だが、夫の好物であるヨモギ大福をお土産にするのも大事な目的だ。多忙な夫が甘い餡子を頬張って目を細めるのを見ると、ちょっとでも癒しに貢献出来たような気がして嬉しくなる。
「翔太に会いたいなー」
「寂しい?」
溜息を吐くように気持ちを吐露する黛を見て、七海はクスリと笑って言った。
「と言うか……あの訳の分からない陽性のエネルギーを充電したい」
疲れているのかな?と七海は思う。傍から見ても新しい職場はかなり大変そうに見えた。
「確かにそう言うの、あるよね。……でもたくさんこっちのエネルギーも吸い取られるけどね。遊び終わったらいっつもヘトヘトになるもの」
育ちざかりの男の子はまさにエネルギーの塊で、お腹が膨らみつつある七海が相手をするのはかなり重労働だ。
「夏休みになったら、また泊まりに来させようか?」
「でも呼んでおいて結局仕事で会えないってパターンもありそうだな~」
「まあその時はその時。私も翔太と遊びたいし」
黛の為と言うより、七海も会いたいと言うのが本当の所だ。会うたびヘトヘトになるのだけれども喉元過ぎればナントカ―――また可愛い弟と遊びたくて堪らなくなって来るのだからおかしなものだ。
「それにお義父さんも相手してくれるかも。翔太スッゴく懐いてたもんね」
防音室で二人が重なるように眠っている所は、胸が温かくなるような光景だった。
「意外だけど、親父は子供の扱い上手いよな」
「そうだよね、それにオムレツも上手だし」
龍一は一度フライパンを握って見せた後、時折七海の代わりに朝食を作ってくれるようになった。七海は「んー」と唸った後、首を傾げた。
「お義父さんって……何者?」
「『何者』って……普通の一般人。ちょっと手先は器用だけどな」
「ちょっとってレベルじゃ無いよね?」
何せ整形外科の分野ではかなり有名なお医者様だと聞いた。七海は直接その技術を目にした事も、職場の龍一も目にした事は無いが―――ただならぬ雰囲気は感じている。何よりあの、玲子が首ったけに惚れている人物なのだ。その事実だけでも、決して『普通の一般人』とは言えないと思った。
「親父ってあまり自分の事話さないんだよな。つーかあんまり話自体しないけど。」
「なんかお義父さんに出来ない事って何も無いんじゃないかって……思う時があるんだよね」
「それは俺も思う。同じ分野で働いてから特に感じるよ、いつまで経っても親父に追いつける気がしないって」
いつも自信一杯の黛の完敗宣言がストンと胸に落ちて来る。黛は自信過剰な訳では無い。自分の力量を正しく測れて偽らずに口にするだけなのだ。
「……黛君は黛君で……イイとこあるよ?」
龍一をほめ過ぎたような気がして、七海は夫をフォローする言葉を口にした。
すると見当違いな方向から黛が返事を返して来た。
「俺に親父よりイイ所があるとすれば―――良い嫁を貰った事ぐらいだな」
「……」
ニンマリとドヤ顔で言われてしまった。不意打ちに思わず動揺してしまう。七海は頬を染めて俯き、プッと膨れて夫に軽く体当たりした。
「……私の夫は口が上手いなぁ」
「正直に言ってるだけだけどな」
悪びれない夫の台詞に、七海はますます朱くなってソッポを向くのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただき、誠に有難うございました!
41
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる