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・番外編・お兄ちゃんは過保護【別視点】
10.勇気(2)
しおりを挟む角を曲がってすぐに気が付いた。
俺の家の前で、華奢な人影が心細げに門柱に背を預けている。
心臓がキュウッと鷲掴みにされたように縮まって、次にはドクンと大量の血液を体中に送り出す。
たった数日……1週間に満たない時間、距離を取っただけだった。
なのにどうしようもなく……彼女を見ただけで細胞が泡立つように感じるほど、俺の体は酷く干上がってしまっているようだった。
だけど同時に湧き上がる気まずさが、駆け寄りたい衝動を抑え込む。
俺は内心引き裂かれるような気持ちを味わいながらも、努めて何でもないような風を装って、ゆっくりと彼女に歩み寄った。
正面にピタリと立ち止まる。
逃げ出したいような気もしたが―――それだけは何とか意地で堪えた。
俯きがちな顔を上げ、俺を見上げる真剣な表情が……。
さっきから全く、心臓に悪いったら無い。
久し振りに真正面から見てしまった。いつの間にこんなに大人びた表情をするようになったのだろう?
「勇気、何で無視するの」
コイツは俺を萌え殺すつもりなのか……?
睨みつける視線が―――俺をザクリと突き刺す凶器のように思えた。
「……遊びに来ないし」
辛そうな声の重みに、一瞬飛んでいた意識が引き戻される。
「ゴメン」
「お兄ちゃんがあんなこと言ったから怒ってるの?」
「それは―――違う」
俺は思わず気まずさに目を伏せて首を振った。
俺が怒る道理が無い。
だけど気の毒に凛は、そう受け取ってしまったのだ。
散々甘やかして俺無しじゃいられないように育てたくせに―――ちょっと邪な思いを見抜かれたぐらいで、自分を守るために俺が彼女を放り出してしまったから。
「じゃあ何で……?私と遊ぶのつまらなくなった?お兄ちゃんに何を怒られているか分からない子供だから?他の子とは笑って話すくせに、私のことは避けて無視して―――っ」
ポロリと―――見下ろす大きな形の良い瞳から涙の粒が零れて頬を伝った。
「凛……」
気丈にもそれ以上決壊させまいと堪える凛の矜持に、胸を打たれた。
直ぐに俯き、ポケットからティッシュを出して鼻を抑えている。
凛は泣くといつも涙より先に鼻水が出てしまうとボヤいていた。何せ漫画に感情移入し過ぎて、毎週何かしら泣いてしまうのだから凛の泣き顔には俺は慣れっこになっていた筈だ。
だけど今日の涙は―――俺の深い所を揺さぶった。
あんな辛そうな涙はもう、流させたくない。
それなのに……同時に、モヤモヤと胸に蟠っていた物がスッキリと流されるような気分の良さを感じてしまう自分にも戸惑ってしまう。
俺の不在に涙を流して悲しむ凛がいると言う事実に―――今俺は……強い充足を感じている。
可哀想な凛。
コイツはすっかり俺の思惑通り―――俺に懐いてしまっている。
そう、凛は全然悪く無い―――悪いのは……
「お前は何にも悪く無い」
「……」
「図星を差されて動揺したんだ―――蓮さんの言う通りだったから」
「ずっ……どう言うこと?」
知らず知らずに頬が綻んでしまう。
訳が分からずキョトンとする表情に、つい気の毒になって彼女の頭を撫でた。
ゴメンな。お前に選択肢を与えてやれなくて。
そう心で詫びて―――そのまま胸に仕舞い込んだ。
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